フライドチキンを見た瞬間、ステア王女の鼻がヒクヒクと動いた。
スパイシーなハーブの香りと、揚げたての鶏肉の芳醇な脂の匂いが食堂中を支配する。
「これはフライドチキンっていう鶏料理です。さあ、熱いうちにどうぞ」
「いただきますわ!!」
ステア王女は慣れた手つきでナイフとフォークを使い、フライドチキンを捌いていく。さすが王女様だな、いちいち所作が決まっている。
だが一口食べた瞬間、彼女の動きが止まった。
パリィッ……!
小気味よい音が響くいたあと。
「――――――っ!?」
「ひ、姫様!?」
メイドのリリィさんが心配そうに声をかけるが、王女は構わず二口目を頬張った。
「――――――むふっ!?」
そして彼女は迷うことなくナイフとフォークを置き、その白い素手で直接チキンを掴んだ。
―――がぶり!
「姫様! なんてはしたない食べ方を!」
「うるさいですわ、リリィ! これは……これは、こうして食べるのが正解なんですのよ! な、なんかすごいものが、お口の中で爆発しますわぁあああ!」
王女はもう止まらなかった。
上品なカーテシーを見せた美少女はどこへやら、口の周りに衣の粉をつけながら夢中でチキンをほおばっている。
「……あ、リリィさんの分も用意してありますよ」
「そ、そんな主人の食事中にメイドが同伴など……」
モジモジするリリィさん。
まあ、俺はそこら辺のことは良く分からんから任せるわ。
我慢できればの話だけどね。ムフフ。
「ついでに、ミーシャ、じいさん。俺たちも昼飯にしてしまおう」
「わぁあ~~い! 待ってましたぁ~~先輩!」
「ほっ、ほっ……(じいさんの髭ピクピク)」
俺もブライドチキンを自分の分を手に取って―――ガブリ!
おお! これやん!!
久しぶりだな、フライドチキン。
十数種類のスパイスが効いた衣のザクザク感と、中のジューシーな鶏肉。このジャンクな味がたまらんな。身体中にこの背徳的なまでの美味さが染み渡る。
「この黄色いお芋も、外はカリッとしてるのに中は魔法みたいにホクホクですわ!」
「それはフライドポテトです。太めのカットが最高なんですよ」
「こっちの野菜の和え物……コールスローでしたかしら。これがお肉の脂をスッキリ流してくれて、無限に食べられますわ……タケオさん、これ凄すぎますわ! モグモグ、パクパク!」
王女の食べっぷりを見て、メイドのリリィも我慢の限界だったようだ。
「ああぁあ! もうぅ、私も頂きます!」
リリィさんが丁寧に、一口チキンにかじりついた。 「うっ……!」という声とともに、リリィさんの背筋がピンと伸びる。ハフハフとひとつのチキンを平らげた後……彼女もまた無言で二本目のチキンに手を伸ばした。
うむうむ、いかに王族の侍女さまといえどこいつのジャンク性には勝てまい。
「たまりませんわ~~♪ 王都の最高級宮廷料理も素晴らしいですが、このフライドチキン! 手が止まらなくなるなんて……こんなお食事ははじめてですわ~~♪」
よしよし、王女様も気に入ってくれたみたいだな。
さて、最後はこれだ。
俺はまだ温かいビスケットを手に取った。 そこに付属のメープルシロップをたっぷりと、これでもかというほどかける。
「このビスケットに、こうしてメープルシロップをかけて食べるんです」
「……めいぷる? デザートかしら……ぱくり」
ステア王女が、大きく口を開けてビスケットに食らいついた。
サクッとした食感の後に、メープルシロップの甘みが口いっぱいに広がる。
「な、な、な、なんですの、これぇぇえ~~!? お肉の後の、この甘い暴力……!! 幸せすぎて、意識が飛びそうですわぁ!」
王女は頬を押さえて、その場に崩れ落ちそうになっていた。
その顔には一点の曇りもない幸福な笑みが浮かんでいる。
ふむ……。
正直なところ、交流会の開催地が決まったと知らされてから俺のテンションは下がりっぱなしだった。 ぶっちゃけ無理やり自分を奮い立たせてはいたが、どこかで「なんで俺がこんな目に」という思いが消えなかった。
だが、目の前で美味しい! と笑って、夢中で食べている少女を見ていると。
「……まあ、いいか」
美味いもんを食って、みんなで笑う。
それができるなら、準備も当日の苦労も少しくらいは報われるってもんだ。
「よっしゃ……いっちょ、食堂課の真価を見せつけてやるか」
俺の中に小さな火が灯ったのを感じた。
どうせならみんなに美味いもん食わせてやる。
そう思いながらビスケットをかじっていたのだが……あ、そうだ。
「しかし王女殿下。疑問なのですが、なぜ今年の交流会はこんな辺境で開催することになったんでしょうかね。殿下もここまで来るのは大変だったでしょうに」
何気なく、俺は食事の合間に問いかけた。
開催地の決定には、複雑な政治的意図があるのだろうか。例えば、辺境の防衛力強化をアピールするとか、派閥争いの調整とか……。
だがステア王女は口の端にメープルシロップをつけたまま、あっけらかんと答えた。
「え? ああ、それでしたら。わたくしがお父様にお願いして、ここを開催地にしてもらったんですのよ♪」
「…………はい?」
俺の手から、ビスケットがポロッと落ちた。
「だって、シュトリアーナからタケオさんの噂を聞いて、ど~~しても会いたかったんですもの! でも騎士団長に就任した時にはすでに本部にいらっしゃらないじゃないですか! だから、交流会としてわたくしから来ましたの♪」
来ましたの、じゃねぇ……
なんてこったい。おまえかい……すべての原因は!!
「……先輩。やっぱり食いしん坊の力は偉大ですねぇ」
ミーシャが遠い目をしている。
「……マジかよ」
「楽しみにしてますわね、タケオさん! 交流試合の時のお弁当も、夜の晩餐会も! わたくしの期待を裏切らないでくださいましね♡」
満面の笑みで、フライドチキンの最後の一欠片を放り込む王女様。
こりゃやるしかないな。
ま、姫さんのわがままは横に置いといても、交流会が開催されるってことはマイナスな事ばかりでもない。
というかぶっちゃけ名誉なことだし、まあこの町で一生に一回のお祭りだと思えばいいか。
俺は残ったコールスローを一気に飲み込み、不敵に笑った。
ついでに俺も食べまくってやるかな。
そう思えば、なんか楽しくなってきたぞ。
スパイシーなハーブの香りと、揚げたての鶏肉の芳醇な脂の匂いが食堂中を支配する。
「これはフライドチキンっていう鶏料理です。さあ、熱いうちにどうぞ」
「いただきますわ!!」
ステア王女は慣れた手つきでナイフとフォークを使い、フライドチキンを捌いていく。さすが王女様だな、いちいち所作が決まっている。
だが一口食べた瞬間、彼女の動きが止まった。
パリィッ……!
小気味よい音が響くいたあと。
「――――――っ!?」
「ひ、姫様!?」
メイドのリリィさんが心配そうに声をかけるが、王女は構わず二口目を頬張った。
「――――――むふっ!?」
そして彼女は迷うことなくナイフとフォークを置き、その白い素手で直接チキンを掴んだ。
―――がぶり!
「姫様! なんてはしたない食べ方を!」
「うるさいですわ、リリィ! これは……これは、こうして食べるのが正解なんですのよ! な、なんかすごいものが、お口の中で爆発しますわぁあああ!」
王女はもう止まらなかった。
上品なカーテシーを見せた美少女はどこへやら、口の周りに衣の粉をつけながら夢中でチキンをほおばっている。
「……あ、リリィさんの分も用意してありますよ」
「そ、そんな主人の食事中にメイドが同伴など……」
モジモジするリリィさん。
まあ、俺はそこら辺のことは良く分からんから任せるわ。
我慢できればの話だけどね。ムフフ。
「ついでに、ミーシャ、じいさん。俺たちも昼飯にしてしまおう」
「わぁあ~~い! 待ってましたぁ~~先輩!」
「ほっ、ほっ……(じいさんの髭ピクピク)」
俺もブライドチキンを自分の分を手に取って―――ガブリ!
おお! これやん!!
久しぶりだな、フライドチキン。
十数種類のスパイスが効いた衣のザクザク感と、中のジューシーな鶏肉。このジャンクな味がたまらんな。身体中にこの背徳的なまでの美味さが染み渡る。
「この黄色いお芋も、外はカリッとしてるのに中は魔法みたいにホクホクですわ!」
「それはフライドポテトです。太めのカットが最高なんですよ」
「こっちの野菜の和え物……コールスローでしたかしら。これがお肉の脂をスッキリ流してくれて、無限に食べられますわ……タケオさん、これ凄すぎますわ! モグモグ、パクパク!」
王女の食べっぷりを見て、メイドのリリィも我慢の限界だったようだ。
「ああぁあ! もうぅ、私も頂きます!」
リリィさんが丁寧に、一口チキンにかじりついた。 「うっ……!」という声とともに、リリィさんの背筋がピンと伸びる。ハフハフとひとつのチキンを平らげた後……彼女もまた無言で二本目のチキンに手を伸ばした。
うむうむ、いかに王族の侍女さまといえどこいつのジャンク性には勝てまい。
「たまりませんわ~~♪ 王都の最高級宮廷料理も素晴らしいですが、このフライドチキン! 手が止まらなくなるなんて……こんなお食事ははじめてですわ~~♪」
よしよし、王女様も気に入ってくれたみたいだな。
さて、最後はこれだ。
俺はまだ温かいビスケットを手に取った。 そこに付属のメープルシロップをたっぷりと、これでもかというほどかける。
「このビスケットに、こうしてメープルシロップをかけて食べるんです」
「……めいぷる? デザートかしら……ぱくり」
ステア王女が、大きく口を開けてビスケットに食らいついた。
サクッとした食感の後に、メープルシロップの甘みが口いっぱいに広がる。
「な、な、な、なんですの、これぇぇえ~~!? お肉の後の、この甘い暴力……!! 幸せすぎて、意識が飛びそうですわぁ!」
王女は頬を押さえて、その場に崩れ落ちそうになっていた。
その顔には一点の曇りもない幸福な笑みが浮かんでいる。
ふむ……。
正直なところ、交流会の開催地が決まったと知らされてから俺のテンションは下がりっぱなしだった。 ぶっちゃけ無理やり自分を奮い立たせてはいたが、どこかで「なんで俺がこんな目に」という思いが消えなかった。
だが、目の前で美味しい! と笑って、夢中で食べている少女を見ていると。
「……まあ、いいか」
美味いもんを食って、みんなで笑う。
それができるなら、準備も当日の苦労も少しくらいは報われるってもんだ。
「よっしゃ……いっちょ、食堂課の真価を見せつけてやるか」
俺の中に小さな火が灯ったのを感じた。
どうせならみんなに美味いもん食わせてやる。
そう思いながらビスケットをかじっていたのだが……あ、そうだ。
「しかし王女殿下。疑問なのですが、なぜ今年の交流会はこんな辺境で開催することになったんでしょうかね。殿下もここまで来るのは大変だったでしょうに」
何気なく、俺は食事の合間に問いかけた。
開催地の決定には、複雑な政治的意図があるのだろうか。例えば、辺境の防衛力強化をアピールするとか、派閥争いの調整とか……。
だがステア王女は口の端にメープルシロップをつけたまま、あっけらかんと答えた。
「え? ああ、それでしたら。わたくしがお父様にお願いして、ここを開催地にしてもらったんですのよ♪」
「…………はい?」
俺の手から、ビスケットがポロッと落ちた。
「だって、シュトリアーナからタケオさんの噂を聞いて、ど~~しても会いたかったんですもの! でも騎士団長に就任した時にはすでに本部にいらっしゃらないじゃないですか! だから、交流会としてわたくしから来ましたの♪」
来ましたの、じゃねぇ……
なんてこったい。おまえかい……すべての原因は!!
「……先輩。やっぱり食いしん坊の力は偉大ですねぇ」
ミーシャが遠い目をしている。
「……マジかよ」
「楽しみにしてますわね、タケオさん! 交流試合の時のお弁当も、夜の晩餐会も! わたくしの期待を裏切らないでくださいましね♡」
満面の笑みで、フライドチキンの最後の一欠片を放り込む王女様。
こりゃやるしかないな。
ま、姫さんのわがままは横に置いといても、交流会が開催されるってことはマイナスな事ばかりでもない。
というかぶっちゃけ名誉なことだし、まあこの町で一生に一回のお祭りだと思えばいいか。
俺は残ったコールスローを一気に飲み込み、不敵に笑った。
ついでに俺も食べまくってやるかな。
そう思えば、なんか楽しくなってきたぞ。

