衝撃の幹部会議を終えた俺は、重い足取りで食堂へと戻った。
時刻は既に昼食のピークを過ぎている。食堂内ではミーシャがテーブルを拭き、じいさんが奥で鍋を磨く音が響くいつもの穏やかな午後。ついさっきまで俺もうんうん平和だななんて思っていた日常の風景だ。
「あ、先輩おかえりなさ~い~って、なんですかその顔。真っ白ですよ? 朝のツヤツヤどこったんですか!? また団長や剣姫さまと怪しいことでもして、腰でも抜かしたんですかぁ?」
俺の顔を見るなり、ミーシャがニヤニヤしながらそんな軽口を叩いてきた。
だが、今の俺には彼女の冗談をまともに返す気力もなかった。
「…………ハァ」
「なんででっかいため息なんですか……いつもの先輩ならバカ言え!とか言ってグイグイくるのに。今日はノってこない日なんですか? なんか普通に心配になってきましたよぉ~」
まぁいいですけど、とりあえず会議の報告事項があるなら教えてくださいね♪と言いつつ、ミーシャがペンと手帳を構える。
「王国騎士団交流会の件だが……」
「あ、やっぱりその話ですね! そろそろ時期ですもんね。今回は私も同行できるのかな~、王都の美味しいスイーツ店とかオシャレなブティックとか行けるのかな~♪ ワクワクしちゃいます!」
「うむ……王都ではやらん」
「てことは、第二都市のセジアールかな、それとも港町のルーアル! 水着買わなきゃ、キャッ♪」
メガネを激しく上下させてワクワクの詰まった表情をふりまくミーシャ。
すまんがお洒落なブテックも無ければ、青い空のもとの砂浜もない。
「……ここでやることになった」
「ここですか~~それも楽しみですねぇ~~……って、え?
――――――ここ!? ここって、ここですか!? このグルト辺境騎士団なんですかぁぁあ!?」
ミーシャの叫び声が、ガランとした食堂に響き渡った。あまりの衝撃に奥で鍋を磨いていたじいさんの手が止まり、ピンと跳ねた髭がさらに反り返っている。
「そう、王家直々の命令だ。しかも、本番は10日後だ」
「とぉ、10日後!? 先輩、一体なにしたんですかぁ! 本部の偉い人を牛丼で買収したんですか? それとも、国王陛下にワサビでも突っ込んだんですか!?」
「俺はなんもしとらん! フルノラ団長が王印の入った書面を出してきたんだ。とにかく、四の五の言わんと準備だ。……グルト辺境三等騎士団始まって以来の、とんでもなく忙しい日々になるぞ」
◇◇◇
俺はカウンターに座り、ミーシャとじいさんを前に現在の状況を整理し始めた。はじめはパニックになっていたミーシャも、仕事の話となると真剣な顔でメモを取り始める。
この子のいいところではある。おふざけも仕事も全力で楽しむことができるってのは、できそうでできないことだからな。
「まず日程のおさらいだ。今日は9月20日、そして各騎士団の代表者がここに到着するのが10月1日だ」
工程をざっとまとめてみる。
10月1日、全騎士団の到着。午後に全体会議。
10月2日、各騎士団代表による交流試合など(ようは運動会)、そして夜は宴会。
10月3日、解散。
「うわぁ~~本当にあと10日しかないじゃないですか……。到着後の案内とか、馬の世話とかはどうするんです?」
「そこは騎士隊長のスレイ殿や剣姫たちの受け持ちだ。宿泊場所はこの騎士団施設だけじゃ完全にパンクするから、グルトの街の宿屋を総動員するらしい」
それでも足りない分は、演習場や町周辺にに天幕を張って野営するとのこと。今回は直前の決定ってことで、本部もそこらへんは配慮をしてくれるらしい。まあ、この辺境騎士団に求めすぎてもなってかんじだろう。
なら、なんでここにしたんだよって話なんだが。まあ今更言ってもはじまらん。
「到着日1日の食事はどうするんですか?」
ミーシャの言う通り、まずはそこだよな。
「到着日の歓迎会としての食事は、グルトの領主と街の住民が総出で料理を振る舞うことになっている。街を挙げてのお祭り騒ぎにするつもりらしい。よって1日の到着日に俺たちが動くのは、午後の全体会議だ。そこでの飲み物と茶菓子の用意が必要だな」
「それだけなら、なんとかなるかも……?」
「甘いぞ。問題はその翌日10月2日が本番だ。朝から交流会……という名の大運動会が始まる。ここで俺たちの受け持ちは全騎士の昼飯と、夜の大夕食会だ」
「…………」
ミーシャのペンが止まった。
千人以上の騎士の胃袋。しかも、本部や一等騎士たちといったエリート様たちも来る。適当なものは出せないし、量が足りないなんて事態になればグルト騎士団の恥として末代まで語り継がれるだろう。
「10月3日には各員解散。そこまで乗り切れば、ようやく終了だ」
「……先輩、これ、死ぬ気でやらないと無理なやつですよ」
「分かってる。だが、嘆いてばかりいてもしょうがないだろ。ここは三等騎士団食堂課の腕の見せ所だ」
「ですよね! はぁ~~い。にしてもとんでもないことになったなぁ。そもそもなんで王命なんて出たんですかね。辺境の三等騎士団で開催なんて、本当になにがあったんだろ」
ミーシャが首を傾げる。それは至極まっとうな疑問で、俺だって知りたい。
王家とパイプがありそうなのは、元剣聖のフルノラ団長か、あるいは王国騎士団の象徴でもある剣姫シュトリアーナぐらいだが。あの二人がわざわざこんな面倒なホスト役を自ら買って出るとは思えない。
ま、そんな雲の上の方々の思考を一般人の俺が考えても、答えが出るわけもない。
「さぁて、どんな食事を出すかな……まずは冷めても美味い昼弁当の構成と、夕食会のメインディッシュを……」
じいさんとミーシャを交えて、あーでもないこーでもないと打ち合わせを始めた、その時だった。
バァ~~ん!!
爆発でも起きたかのような勢いで、食堂のドアが跳ね上がった。
え? なに?
「ああ~~! あなたがタケオさまですわねぇ~~♪」
突然の、甘くそれでいて通りが良い声。
そして視界に飛び込んできたのは、ひらひらと舞う鮮やかな桃色のドレス。それが一直線に俺を目がけて飛んできた。
……アカン、これは身の危険を感じるタイプの突進だ!
俺の生存本能が警報を鳴らす。俺は反射的に身体をひねり、その桃色ドレスの弾丸アタックをギリギリで回避した。
「きゃっ!」
可愛い悲鳴を発した桃色ドレスは、狙いを外してそのまま床にバウンド。
そして、俺の後ろでポカンと口を開けていたミーシャの正面に勢いよくダイブした。
ばふん! ポヨン!
「な、な、な、なんですかこのデカいのはっ!? ぶふぉっ!?」
デカいってなんだ?
俺が振り向くと、そこにはカオスな光景が広がっていた。 ミーシャの顔面が桃色ドレスの少女が持つ極めて豊かな二つの膨らみの間に、すっぽりと完璧に隙間なく埋もれていたのだ。
「ちょっ……! 離れてください、この無駄乳おんなぁっ!」
「やんっ! 暴れないでくださいまし、めがねさん!」
「あああ! 私のメガネがぁ~~谷間の深淵にもってかれるぅぅ~~そして顔もぉ~~窒息するぅ~!」
よくわからん寸劇が始まったので、俺は慌てて二人の間に割って入り無理やり引き離した。
「ふぅ助かりました……死ぬかと思いましたよ先輩。で……なんなんですか、この人は!」
ミーシャがズレたメガネを直し、肩で息をしながら叫ぶ。
そしてもう一方の桃色ドレスの少女は、床に座り込んだまま潤んだ瞳でじっと俺を見上げていた。
さらりと流れる金糸のような髪に抜けるように白い肌。そしてお淑やかな桃色ドレスからはみ出さんばかりの破壊的なまでのプロポーション。よく見れば、この世のものとは思えないほどの超絶美少女だった。
そこへ、再び食堂の扉がスッと開いた。今度は音も立てず、影のようにこちらへ近づいてくる女性。
桃色ドレスの少女とは対照的な、非の打ち所がない丁寧な所作で歩を進めるメイド服の女性だ。
「……姫様。なぜ勝手に行かれたのですか。警護の者が慌てふためいております」
「ええぇ~だってぇ~リリィ。わたくし、一刻も早くタケオさんにお会いしたかったんですもの!」
少女が鈴を転がすような声で答える。
それに対してリリィと呼ばれたメイドさんが、もう少し自覚をお持ちください! けっこうガチめに怒られている。
ていうか……
姫様だと?
いかん、いやな予感しかしない……
時刻は既に昼食のピークを過ぎている。食堂内ではミーシャがテーブルを拭き、じいさんが奥で鍋を磨く音が響くいつもの穏やかな午後。ついさっきまで俺もうんうん平和だななんて思っていた日常の風景だ。
「あ、先輩おかえりなさ~い~って、なんですかその顔。真っ白ですよ? 朝のツヤツヤどこったんですか!? また団長や剣姫さまと怪しいことでもして、腰でも抜かしたんですかぁ?」
俺の顔を見るなり、ミーシャがニヤニヤしながらそんな軽口を叩いてきた。
だが、今の俺には彼女の冗談をまともに返す気力もなかった。
「…………ハァ」
「なんででっかいため息なんですか……いつもの先輩ならバカ言え!とか言ってグイグイくるのに。今日はノってこない日なんですか? なんか普通に心配になってきましたよぉ~」
まぁいいですけど、とりあえず会議の報告事項があるなら教えてくださいね♪と言いつつ、ミーシャがペンと手帳を構える。
「王国騎士団交流会の件だが……」
「あ、やっぱりその話ですね! そろそろ時期ですもんね。今回は私も同行できるのかな~、王都の美味しいスイーツ店とかオシャレなブティックとか行けるのかな~♪ ワクワクしちゃいます!」
「うむ……王都ではやらん」
「てことは、第二都市のセジアールかな、それとも港町のルーアル! 水着買わなきゃ、キャッ♪」
メガネを激しく上下させてワクワクの詰まった表情をふりまくミーシャ。
すまんがお洒落なブテックも無ければ、青い空のもとの砂浜もない。
「……ここでやることになった」
「ここですか~~それも楽しみですねぇ~~……って、え?
――――――ここ!? ここって、ここですか!? このグルト辺境騎士団なんですかぁぁあ!?」
ミーシャの叫び声が、ガランとした食堂に響き渡った。あまりの衝撃に奥で鍋を磨いていたじいさんの手が止まり、ピンと跳ねた髭がさらに反り返っている。
「そう、王家直々の命令だ。しかも、本番は10日後だ」
「とぉ、10日後!? 先輩、一体なにしたんですかぁ! 本部の偉い人を牛丼で買収したんですか? それとも、国王陛下にワサビでも突っ込んだんですか!?」
「俺はなんもしとらん! フルノラ団長が王印の入った書面を出してきたんだ。とにかく、四の五の言わんと準備だ。……グルト辺境三等騎士団始まって以来の、とんでもなく忙しい日々になるぞ」
◇◇◇
俺はカウンターに座り、ミーシャとじいさんを前に現在の状況を整理し始めた。はじめはパニックになっていたミーシャも、仕事の話となると真剣な顔でメモを取り始める。
この子のいいところではある。おふざけも仕事も全力で楽しむことができるってのは、できそうでできないことだからな。
「まず日程のおさらいだ。今日は9月20日、そして各騎士団の代表者がここに到着するのが10月1日だ」
工程をざっとまとめてみる。
10月1日、全騎士団の到着。午後に全体会議。
10月2日、各騎士団代表による交流試合など(ようは運動会)、そして夜は宴会。
10月3日、解散。
「うわぁ~~本当にあと10日しかないじゃないですか……。到着後の案内とか、馬の世話とかはどうするんです?」
「そこは騎士隊長のスレイ殿や剣姫たちの受け持ちだ。宿泊場所はこの騎士団施設だけじゃ完全にパンクするから、グルトの街の宿屋を総動員するらしい」
それでも足りない分は、演習場や町周辺にに天幕を張って野営するとのこと。今回は直前の決定ってことで、本部もそこらへんは配慮をしてくれるらしい。まあ、この辺境騎士団に求めすぎてもなってかんじだろう。
なら、なんでここにしたんだよって話なんだが。まあ今更言ってもはじまらん。
「到着日1日の食事はどうするんですか?」
ミーシャの言う通り、まずはそこだよな。
「到着日の歓迎会としての食事は、グルトの領主と街の住民が総出で料理を振る舞うことになっている。街を挙げてのお祭り騒ぎにするつもりらしい。よって1日の到着日に俺たちが動くのは、午後の全体会議だ。そこでの飲み物と茶菓子の用意が必要だな」
「それだけなら、なんとかなるかも……?」
「甘いぞ。問題はその翌日10月2日が本番だ。朝から交流会……という名の大運動会が始まる。ここで俺たちの受け持ちは全騎士の昼飯と、夜の大夕食会だ」
「…………」
ミーシャのペンが止まった。
千人以上の騎士の胃袋。しかも、本部や一等騎士たちといったエリート様たちも来る。適当なものは出せないし、量が足りないなんて事態になればグルト騎士団の恥として末代まで語り継がれるだろう。
「10月3日には各員解散。そこまで乗り切れば、ようやく終了だ」
「……先輩、これ、死ぬ気でやらないと無理なやつですよ」
「分かってる。だが、嘆いてばかりいてもしょうがないだろ。ここは三等騎士団食堂課の腕の見せ所だ」
「ですよね! はぁ~~い。にしてもとんでもないことになったなぁ。そもそもなんで王命なんて出たんですかね。辺境の三等騎士団で開催なんて、本当になにがあったんだろ」
ミーシャが首を傾げる。それは至極まっとうな疑問で、俺だって知りたい。
王家とパイプがありそうなのは、元剣聖のフルノラ団長か、あるいは王国騎士団の象徴でもある剣姫シュトリアーナぐらいだが。あの二人がわざわざこんな面倒なホスト役を自ら買って出るとは思えない。
ま、そんな雲の上の方々の思考を一般人の俺が考えても、答えが出るわけもない。
「さぁて、どんな食事を出すかな……まずは冷めても美味い昼弁当の構成と、夕食会のメインディッシュを……」
じいさんとミーシャを交えて、あーでもないこーでもないと打ち合わせを始めた、その時だった。
バァ~~ん!!
爆発でも起きたかのような勢いで、食堂のドアが跳ね上がった。
え? なに?
「ああ~~! あなたがタケオさまですわねぇ~~♪」
突然の、甘くそれでいて通りが良い声。
そして視界に飛び込んできたのは、ひらひらと舞う鮮やかな桃色のドレス。それが一直線に俺を目がけて飛んできた。
……アカン、これは身の危険を感じるタイプの突進だ!
俺の生存本能が警報を鳴らす。俺は反射的に身体をひねり、その桃色ドレスの弾丸アタックをギリギリで回避した。
「きゃっ!」
可愛い悲鳴を発した桃色ドレスは、狙いを外してそのまま床にバウンド。
そして、俺の後ろでポカンと口を開けていたミーシャの正面に勢いよくダイブした。
ばふん! ポヨン!
「な、な、な、なんですかこのデカいのはっ!? ぶふぉっ!?」
デカいってなんだ?
俺が振り向くと、そこにはカオスな光景が広がっていた。 ミーシャの顔面が桃色ドレスの少女が持つ極めて豊かな二つの膨らみの間に、すっぽりと完璧に隙間なく埋もれていたのだ。
「ちょっ……! 離れてください、この無駄乳おんなぁっ!」
「やんっ! 暴れないでくださいまし、めがねさん!」
「あああ! 私のメガネがぁ~~谷間の深淵にもってかれるぅぅ~~そして顔もぉ~~窒息するぅ~!」
よくわからん寸劇が始まったので、俺は慌てて二人の間に割って入り無理やり引き離した。
「ふぅ助かりました……死ぬかと思いましたよ先輩。で……なんなんですか、この人は!」
ミーシャがズレたメガネを直し、肩で息をしながら叫ぶ。
そしてもう一方の桃色ドレスの少女は、床に座り込んだまま潤んだ瞳でじっと俺を見上げていた。
さらりと流れる金糸のような髪に抜けるように白い肌。そしてお淑やかな桃色ドレスからはみ出さんばかりの破壊的なまでのプロポーション。よく見れば、この世のものとは思えないほどの超絶美少女だった。
そこへ、再び食堂の扉がスッと開いた。今度は音も立てず、影のようにこちらへ近づいてくる女性。
桃色ドレスの少女とは対照的な、非の打ち所がない丁寧な所作で歩を進めるメイド服の女性だ。
「……姫様。なぜ勝手に行かれたのですか。警護の者が慌てふためいております」
「ええぇ~だってぇ~リリィ。わたくし、一刻も早くタケオさんにお会いしたかったんですもの!」
少女が鈴を転がすような声で答える。
それに対してリリィと呼ばれたメイドさんが、もう少し自覚をお持ちください! けっこうガチめに怒られている。
ていうか……
姫様だと?
いかん、いやな予感しかしない……

