朝の喧騒が嘘のように静まり返った食堂。朝食営業を無事に終え、俺とミーシャそしてじいさんの三人は一息つきながら後片付けを進めていた。
「……あれ? 先輩。なんか今日はツヤツヤしてませんかぁ~?」
不意に食器を拭いていたミーシャが眼鏡の奥の目を細めて俺を覗き込んできた。
「おお、そうか? まぁ、昨日はいい休みだったからな。リフレッシュできたんだよ、ムフフ」
思い出すのは昨日の丘の上での光景だ。ルリアの握ってくれたおにぎりの味、サラの暴走やディーネの過剰な消火活動で全員びしょ濡れになったこと。そして最後には泥だらけになって笑い転げた、あのアホみたいに楽しかった時間。
そんな記憶が顔に出ていたのか、俺の口元はどうしても緩んでしまう。
「むぅ……そのニヤけ方、怪しいですぅ! もしかしてルリアとピクニックに行った時にやらしいことでもしたんですかぁ!?」
「するわけないだろ。泥んこ遊びをしただけだぞ」
「泥のようになって……やっぱり破廉恥じゃないですかぁあ!!」
「ばか、健全に泥まみれで遊んだって意味だよ! ったく……」
「いいなあ~~今度は私も連れっててくださいよぉ~~先輩」
プンスカと頬を膨らませるミーシャに、よしよしわかったと頷く俺。
「とにかく心身ともに充実した休日だったからな。ま、今度はミーシャも行くか……って、もうこんな時間か」
俺は素早く身支度を整えると、書類を手に持ち2人に声をかける。
「ミーシャ、じいさん。俺は行ってくるから、あとの片付けは頼んだぞ」
「は~い、いってらっしゃ~い。先輩……今度はぜったい私も連れてってくださいよぉ、泥んこ遊び以外で!」
ミーシャの追い打ちのような声を背中で受け流しながら、俺は調理場を後にして本庁舎の2階にある会議室へと向かった。
◇◇◇
本庁舎2階の会議室、大きな楕円形のテーブルを囲むように騎士たちが鎮座している。
会議室の最奥である上座に座るのは、今日も今日とてムチムチの色香をふりまいて笑みを浮かべているフルノラ団長。そのすぐ脇には、いつもの冷徹な表情で背筋を伸ばした特別顧問役剣姫シュトリアーナが控えている。さらに、ガタイのいいグルト辺境騎士団騎士隊長スレイ、そして他数名の各課の課長たちがテーブルを囲んでいた。
俺はというと、そのテーブルの末席いちばん端っこの方にちょこんと座っている。
おっさんがこんな場所で何をしてるんだ?と思われるかもしれないが、これでも俺は三等騎士団食堂課の「課長」という肩書きを持っている。そう立派な幹部の一員なのだ。いちおう。
そして今日は月に一度の、グルト辺境騎士団の幹部会議がある日だ。
とはいえ、会議の内容自体は現代の会社勤めとそう変わらない。 人事異動、新兵の入団退団状況、各課の収支報告、備品の管理状況、馬の飼料の高騰について……などなど。
事務的な報告が淡々と続き、俺も自分の番が来れば「食費の推移」や「厨房設備の老朽化」について短く報告を済ませる。
「……以上です。あっと、今月の肉類とジャガイモや小麦の仕入れに関しては、バザルでの直接買い付けによりコストを抑えられています」
「うふふ、タケオちゃんは本当にお買い物上手ねぇ♡」
フルノラ団長の甘い声に、他の課長たちが「お、おう……」と微妙な顔をするのももはやいつもの光景だ。そして会議は中盤に差し掛かり、少し空気が停滞してきた。
なんかのど渇いてきたな。
「……皆様、少し喉が渇いたでしょう。飲み物を用意しました」
俺だけ飲むのもなんなので、みんなの分も召喚した。
ちなみに俺の現代フード召喚は、そこそこグルト辺境騎士団では知られている。
まあ食堂でも使いまくりだし。ここはうまいもの食えるなら細かい事はどうでもいい、みたいなゆるい感じの人が多いので助かる。
今回用意したのは、ココアにカフェオレ、抹茶オレ。そして一部の好事家向けにブラックコーヒーだ。
「あら~~ワタシこの抹茶オレ好きだわ~♪」
「団長、このカフェオレとやらもいけますぞ」
みんな喜んでカップに口をつけはじめた。
そんななか、一人の騎士がカップをじっと見つめている。
「ほう、これはまた見たことのない色合いだな……」
騎士隊長のスレイが興味深そうに、漆黒の液体が入ったカップを手に取った。俺が「それは少し苦いですよ」と言ったが、彼は「騎士たるもの、常に挑戦だ!」とばかりにグイッと一口。
「……ぶはぁっっ!! げほっ、ごほっ!!」
スレイが顔を真っ赤にして、危うく吹き出しそうになりながら激しくむせ込んだ。
「あらら~~スレイちゃん。それブラックコーヒーって言って、とっても苦いのよぉ~」
フルノラ団長が楽しそうにクスりと笑う。
その隣でシュトリアーナは平然とした顔でブラックコーヒーを手に取り、優雅に口をつけた。
「……ふぅ、今日もいい味だ。目が冴える」
おかわりを要求するかのように、彼女は静かにカップを俺の方へ差し出す。
相変わらずこの剣姫さまはブラックコーヒーにハマっているようだ。
「しゅ、シュトリアーナ殿。よくそんな平気な顔で飲めるな……凄まじい精神力だ」
スレイが涙目になりながら感銘を受けているじゃないか。
いや、おまえ。それは精神力の問題じゃなくて、ただの嗜好の問題だと思うぞ。
「ふん、この深みのある味が分からんとは、鍛錬が足りんぞスレイ」
「くっ……これも鍛錬のうちか……!」
シュトリアーナの勘違い甚だしい煽りに、スレイが本気で悔しがっている。
なんだこの不毛な会話は。コーヒーなんて好きなら飲むし嫌いなら飲まん、それでいいのにな。
そんなやり取りをまるで劇でも楽しむかのように「ウフフ」と見ていたフルノラ団長が、不意に表情を引き締めて口を開いた。
「さぁ~~事務的なお話はこれくらいにしてぇ~そろそろ、本題に入りましょうかしら♡ みんな気になる交流会のお話よぉ~~♡」
その言葉が出た瞬間、会議室の空気が一変した。
交流会……。 それは王国各地に点在する全騎士団が一同に集結する、年に一度の大規模な合同行事だ。 建前としては騎士同士の技術交流や親睦を深める場だが、実態は各騎士団のプライドを賭けた大運動会である。
「うむ……いよいよその時期か。早急にわがグルト辺境騎士団からの代表メンバーを選出しなくてはならんな」
スレイが真剣な表情で腕を組んだ。
代表選出。これに選ばれることは騎士としての名誉であり、同時に他団に恥をさらさないためのプレッシャーがかかる任務でもある。
「代表が決まったら……次は、開催地までの旅費の確保と物資の輸送日程を組まなきゃな。俺も旅中で出す食事の仕込みを考えないと……」
俺は手元のメモ帳に「保存のきく食材のリストアップ」と書き込もうとした。
各地の代表メンバー数名~数十名程度とはいえ最終的には千人以上もの騎士が集まる王国全土を巻き込んだデカい行事だ。どこで開催されるにせよ、辺境のグルト騎士団からは長旅になるだろう。てことで、予算と在庫の調整が俺の頭をよぎる。
そんな俺の呟きを聞きとったのか、フルノラ団長が「うふん」と艶っぽいウインクを俺に投げた。
「うふぅ~ん、タケオちゃん。旅費の心配は一切しなくていいわよぉ♡」
「……え?」
俺はペンを止めて顔を上げた。 旅費が要らないって? どういうことだ。
「団長、それは……まさか、わがグルト辺境騎士団は今年の交流会には不参加、ということでしょうか?」
スレイが驚きを露わにする。この一大イベントに不参加など異例中の異例だ。忠誠を誓う王家への不敬にも当たりかねない。……まさか、そんなわけはないよな。
「ちがうわよぉ~スレイちゃん。不参加なわけないじゃな~い♪」
その豊満な身体をくねらせながら、でかすぎる胸の谷間に手をするりと這わせる団長。
いや、なにやってんの? ついに頭がいかれてしまったのかこの人は。
と思っていたら、そのデカいスイカの間から一枚の紙が出てきた。
「じゃ~~ん! 見て見てぇ~~なんと、今年の交流会はここ「グルト辺境騎士団」に決まりましたぁ~~♡ は~~い、はくしゅぅ~~パチパチ~~♪」
フルノラ団長が、これ見よがしに一枚の書面を広げた。 そこには、燦然と輝く荘厳な印が真っ赤な蝋で押されている。 正真正銘、王家からの正式な命令書だ。
「…………は?」
俺の口から間の抜けた声が漏れた。スレイも他の課長たちも、石像のように固まっている。
じゃ~~ん、じゃないんだが……
いやいや、おかしいだろ。
交流会といえば、普通は王都にある本部か、交通の便がいい主要都市で開催されるものだ。こんな王国の最果てにある三等騎士団の……しかも、設備も予算もギリギリの辺境騎士団で開催するなんて前代未聞にも程がある。
俺はフルノラ団長から渡された書面を再度マジマジと見た。
「王印……王家の命令……ガチの本物じゃないですか。なんで、よりによってここなんですか?」
「ウフフ~~、私たちの活躍が陛下のお耳に届いたのかしら? それとも誰かさんの美味しいお料理の噂が広まりすぎちゃったのかしらねぇ~♡」
ウフフじゃないんだが。
団長は楽しそうに笑っているが、俺の背中には嫌な汗が流れた。
「みんな、頑張ってねぇ~~ホスト役なんだから粗相のないように。あ、タケオちゃんはお客様に美味しいものをい~~ぱい出すのよ♡ お・も・て・な・し~~ね♡」
「……マジかよ」
大運動会が、俺たちのホームグラウンドで始まろうとしているだと。
思わず頭を抱えた。千人以上の騎士に各団の要人。そして、かつて俺を「無能」として左遷した本部のあいつも間違いなく来る。
静かだった辺境の地が、とんでもない嵐に巻き込まれようとしていた。
「……あれ? 先輩。なんか今日はツヤツヤしてませんかぁ~?」
不意に食器を拭いていたミーシャが眼鏡の奥の目を細めて俺を覗き込んできた。
「おお、そうか? まぁ、昨日はいい休みだったからな。リフレッシュできたんだよ、ムフフ」
思い出すのは昨日の丘の上での光景だ。ルリアの握ってくれたおにぎりの味、サラの暴走やディーネの過剰な消火活動で全員びしょ濡れになったこと。そして最後には泥だらけになって笑い転げた、あのアホみたいに楽しかった時間。
そんな記憶が顔に出ていたのか、俺の口元はどうしても緩んでしまう。
「むぅ……そのニヤけ方、怪しいですぅ! もしかしてルリアとピクニックに行った時にやらしいことでもしたんですかぁ!?」
「するわけないだろ。泥んこ遊びをしただけだぞ」
「泥のようになって……やっぱり破廉恥じゃないですかぁあ!!」
「ばか、健全に泥まみれで遊んだって意味だよ! ったく……」
「いいなあ~~今度は私も連れっててくださいよぉ~~先輩」
プンスカと頬を膨らませるミーシャに、よしよしわかったと頷く俺。
「とにかく心身ともに充実した休日だったからな。ま、今度はミーシャも行くか……って、もうこんな時間か」
俺は素早く身支度を整えると、書類を手に持ち2人に声をかける。
「ミーシャ、じいさん。俺は行ってくるから、あとの片付けは頼んだぞ」
「は~い、いってらっしゃ~い。先輩……今度はぜったい私も連れてってくださいよぉ、泥んこ遊び以外で!」
ミーシャの追い打ちのような声を背中で受け流しながら、俺は調理場を後にして本庁舎の2階にある会議室へと向かった。
◇◇◇
本庁舎2階の会議室、大きな楕円形のテーブルを囲むように騎士たちが鎮座している。
会議室の最奥である上座に座るのは、今日も今日とてムチムチの色香をふりまいて笑みを浮かべているフルノラ団長。そのすぐ脇には、いつもの冷徹な表情で背筋を伸ばした特別顧問役剣姫シュトリアーナが控えている。さらに、ガタイのいいグルト辺境騎士団騎士隊長スレイ、そして他数名の各課の課長たちがテーブルを囲んでいた。
俺はというと、そのテーブルの末席いちばん端っこの方にちょこんと座っている。
おっさんがこんな場所で何をしてるんだ?と思われるかもしれないが、これでも俺は三等騎士団食堂課の「課長」という肩書きを持っている。そう立派な幹部の一員なのだ。いちおう。
そして今日は月に一度の、グルト辺境騎士団の幹部会議がある日だ。
とはいえ、会議の内容自体は現代の会社勤めとそう変わらない。 人事異動、新兵の入団退団状況、各課の収支報告、備品の管理状況、馬の飼料の高騰について……などなど。
事務的な報告が淡々と続き、俺も自分の番が来れば「食費の推移」や「厨房設備の老朽化」について短く報告を済ませる。
「……以上です。あっと、今月の肉類とジャガイモや小麦の仕入れに関しては、バザルでの直接買い付けによりコストを抑えられています」
「うふふ、タケオちゃんは本当にお買い物上手ねぇ♡」
フルノラ団長の甘い声に、他の課長たちが「お、おう……」と微妙な顔をするのももはやいつもの光景だ。そして会議は中盤に差し掛かり、少し空気が停滞してきた。
なんかのど渇いてきたな。
「……皆様、少し喉が渇いたでしょう。飲み物を用意しました」
俺だけ飲むのもなんなので、みんなの分も召喚した。
ちなみに俺の現代フード召喚は、そこそこグルト辺境騎士団では知られている。
まあ食堂でも使いまくりだし。ここはうまいもの食えるなら細かい事はどうでもいい、みたいなゆるい感じの人が多いので助かる。
今回用意したのは、ココアにカフェオレ、抹茶オレ。そして一部の好事家向けにブラックコーヒーだ。
「あら~~ワタシこの抹茶オレ好きだわ~♪」
「団長、このカフェオレとやらもいけますぞ」
みんな喜んでカップに口をつけはじめた。
そんななか、一人の騎士がカップをじっと見つめている。
「ほう、これはまた見たことのない色合いだな……」
騎士隊長のスレイが興味深そうに、漆黒の液体が入ったカップを手に取った。俺が「それは少し苦いですよ」と言ったが、彼は「騎士たるもの、常に挑戦だ!」とばかりにグイッと一口。
「……ぶはぁっっ!! げほっ、ごほっ!!」
スレイが顔を真っ赤にして、危うく吹き出しそうになりながら激しくむせ込んだ。
「あらら~~スレイちゃん。それブラックコーヒーって言って、とっても苦いのよぉ~」
フルノラ団長が楽しそうにクスりと笑う。
その隣でシュトリアーナは平然とした顔でブラックコーヒーを手に取り、優雅に口をつけた。
「……ふぅ、今日もいい味だ。目が冴える」
おかわりを要求するかのように、彼女は静かにカップを俺の方へ差し出す。
相変わらずこの剣姫さまはブラックコーヒーにハマっているようだ。
「しゅ、シュトリアーナ殿。よくそんな平気な顔で飲めるな……凄まじい精神力だ」
スレイが涙目になりながら感銘を受けているじゃないか。
いや、おまえ。それは精神力の問題じゃなくて、ただの嗜好の問題だと思うぞ。
「ふん、この深みのある味が分からんとは、鍛錬が足りんぞスレイ」
「くっ……これも鍛錬のうちか……!」
シュトリアーナの勘違い甚だしい煽りに、スレイが本気で悔しがっている。
なんだこの不毛な会話は。コーヒーなんて好きなら飲むし嫌いなら飲まん、それでいいのにな。
そんなやり取りをまるで劇でも楽しむかのように「ウフフ」と見ていたフルノラ団長が、不意に表情を引き締めて口を開いた。
「さぁ~~事務的なお話はこれくらいにしてぇ~そろそろ、本題に入りましょうかしら♡ みんな気になる交流会のお話よぉ~~♡」
その言葉が出た瞬間、会議室の空気が一変した。
交流会……。 それは王国各地に点在する全騎士団が一同に集結する、年に一度の大規模な合同行事だ。 建前としては騎士同士の技術交流や親睦を深める場だが、実態は各騎士団のプライドを賭けた大運動会である。
「うむ……いよいよその時期か。早急にわがグルト辺境騎士団からの代表メンバーを選出しなくてはならんな」
スレイが真剣な表情で腕を組んだ。
代表選出。これに選ばれることは騎士としての名誉であり、同時に他団に恥をさらさないためのプレッシャーがかかる任務でもある。
「代表が決まったら……次は、開催地までの旅費の確保と物資の輸送日程を組まなきゃな。俺も旅中で出す食事の仕込みを考えないと……」
俺は手元のメモ帳に「保存のきく食材のリストアップ」と書き込もうとした。
各地の代表メンバー数名~数十名程度とはいえ最終的には千人以上もの騎士が集まる王国全土を巻き込んだデカい行事だ。どこで開催されるにせよ、辺境のグルト騎士団からは長旅になるだろう。てことで、予算と在庫の調整が俺の頭をよぎる。
そんな俺の呟きを聞きとったのか、フルノラ団長が「うふん」と艶っぽいウインクを俺に投げた。
「うふぅ~ん、タケオちゃん。旅費の心配は一切しなくていいわよぉ♡」
「……え?」
俺はペンを止めて顔を上げた。 旅費が要らないって? どういうことだ。
「団長、それは……まさか、わがグルト辺境騎士団は今年の交流会には不参加、ということでしょうか?」
スレイが驚きを露わにする。この一大イベントに不参加など異例中の異例だ。忠誠を誓う王家への不敬にも当たりかねない。……まさか、そんなわけはないよな。
「ちがうわよぉ~スレイちゃん。不参加なわけないじゃな~い♪」
その豊満な身体をくねらせながら、でかすぎる胸の谷間に手をするりと這わせる団長。
いや、なにやってんの? ついに頭がいかれてしまったのかこの人は。
と思っていたら、そのデカいスイカの間から一枚の紙が出てきた。
「じゃ~~ん! 見て見てぇ~~なんと、今年の交流会はここ「グルト辺境騎士団」に決まりましたぁ~~♡ は~~い、はくしゅぅ~~パチパチ~~♪」
フルノラ団長が、これ見よがしに一枚の書面を広げた。 そこには、燦然と輝く荘厳な印が真っ赤な蝋で押されている。 正真正銘、王家からの正式な命令書だ。
「…………は?」
俺の口から間の抜けた声が漏れた。スレイも他の課長たちも、石像のように固まっている。
じゃ~~ん、じゃないんだが……
いやいや、おかしいだろ。
交流会といえば、普通は王都にある本部か、交通の便がいい主要都市で開催されるものだ。こんな王国の最果てにある三等騎士団の……しかも、設備も予算もギリギリの辺境騎士団で開催するなんて前代未聞にも程がある。
俺はフルノラ団長から渡された書面を再度マジマジと見た。
「王印……王家の命令……ガチの本物じゃないですか。なんで、よりによってここなんですか?」
「ウフフ~~、私たちの活躍が陛下のお耳に届いたのかしら? それとも誰かさんの美味しいお料理の噂が広まりすぎちゃったのかしらねぇ~♡」
ウフフじゃないんだが。
団長は楽しそうに笑っているが、俺の背中には嫌な汗が流れた。
「みんな、頑張ってねぇ~~ホスト役なんだから粗相のないように。あ、タケオちゃんはお客様に美味しいものをい~~ぱい出すのよ♡ お・も・て・な・し~~ね♡」
「……マジかよ」
大運動会が、俺たちのホームグラウンドで始まろうとしているだと。
思わず頭を抱えた。千人以上の騎士に各団の要人。そして、かつて俺を「無能」として左遷した本部のあいつも間違いなく来る。
静かだった辺境の地が、とんでもない嵐に巻き込まれようとしていた。

