左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 朝食後の片付けを終え少しばかり休憩を挟んだ俺たちは、早くも昼食の準備に取り掛かっていた。
 定番の硬いパンをミーシャと手分けして切り分けていく。
 ちなみにフリフリエプロン剣姫はいつもの定位置、つまり俺の背後にぴったりくっついている。

 「先輩~~今日のお昼は何にしますか? 牛丼? それとも天丼?」 
 「ああ、そうだなぁ……」

 どうすっか。
 出張から帰ったら、新メニュー出すかなと考えていたんだよな。

 「よし、ここは王道でいくか―――現代フード召喚!」

 調理台の上に次々と、どんぶりが現れた。
 中から熱々の湯気があがる。

 「ああぁ、先輩! それが噂のラーメンですかぁ~♪」

 ミーシャが目をキラキラさせてどんぶりを覗き込んできた。

 そう、彼女の言う通り、俺が召喚したのはラーメンだ。
 琥珀色の透き通ったスープにチャーシューとメンマが鎮座する【醤油ラーメン】。白濁した濃厚なスープから、食欲をそそるニンニクと脂の香りが立ち上る【とんこつラーメン】。 そして数種類の味噌をブレンドした深みのある香りに、たっぷりの野菜がのった【みそラーメン】。

 「私が留守番してる間に、ルリアたちと深夜にこっそり食べたっていうあのラーメンですよね! 私だけ仲間外れにして楽しんだラーメンですよね!」

 「たく……まだ根に持ってたのか。ほら、まずは試食だ。これを食えばそんな不満も吹っ飛ぶぞ」

 ミーシャは、むぅ……と唸りながらもちゃっかり箸は動いており、とんこつラーメンをずずぅ~~っと口に運んだ。

 眼鏡の奥の目が大きく見開かれ、咀嚼のスピードが上がる。
 とんこつの次は醤油、そして味噌までわき目もふらずに完食だ。

 「先輩……」
 「どうした、ミーシャ?」

 「……負けました」

 なにがどう負けたのかはわからんが、とにかく美味かったってことらしい。

 「ふはぁ……このスープと麺……想像していたよりズルズルいけちゃいますね♪」

 すっかり上機嫌なミーシャ。

 「だろ? よし、じゃあ今日はこの三種のラーメンをメインにしよう。あとはパンと、朝の残りのフルーツだ」

 なんか和洋ごちゃごちゃだが、いまさらだし気にしない。



 ◇◇◇



 昼食の鐘が鳴ると同時に騎士たちが食堂へとなだれ込んできた。
 厨房から漂う今まで嗅いだことのない濃厚な香りに、野郎どもの鼻がピクピクと動いている。

 「タケオさん、今日の昼めしはなんだ!?」
 「なんかよだれが止まらないぞ!」

 「おう、新メニューのラーメンだ。醤油、とんこつ、みそと種類があるから、好きなのを選んでくれ」

 「じゃ、じゃあ……その一番香りが強いとんこつってやつをくれ」
 「お、おれはしょうゆってのにしてみようかな」

 騎士たちは半信半疑でラーメンを口に運んだが、次の瞬間には全員が「ズズズッ~~!」と一心不乱に麺をすすり始めていた。

 「な、なんだこれ……! なんかとまらん!」
 「この白いスープ、見た目よりずっとコクがあって力がみなぎってくる」
 「このみそってやつ、なんかわからん味だけどうまい!」

 ずずぅうううう~~~

 食堂内はかつてないほどの熱気とすする音に包まれた。

 ファンタジー世界の騎士たちが、全員ラーメンすする姿は……なんかいいじゃないか。

 そして一通り食べ終えた騎士たちから、次々と声が上がる。

 「タケオさん! おかわり!」
 「こっちもたのむっ!」

 まあ、そうなっちまうわな。
 騎士たちの器を見ると、まだスープは残っている。

 てことで……

 「―――現代フード召喚!」

 「わっ……先輩これって、麺ですよね?」

 「そうだ、おかわり欲しがっている奴らにはこれで対応する」

 俺がだしたのはラーメンそのものではなく、麺のみ。
 そう、替え玉である。

 俺は次々と追加の麺を召喚し、ミーシャがそれを各テーブルに運んでいく。だが、ここで問題が発生した。
 「替え玉」の要求が殺到しすぎた。

 「……回転率が落ちてるな」

 三等騎士食堂はそれなりの広さがあるが、グルト騎士団の全団員を一度に収容できるほどではない。
 いつもならガツガツ食べてさっさと出ていく連中が、ラーメンの美味さに取り憑かれて席を立とうとしないのだ。 外にはまだ食事にありつけていない騎士たちの長い列ができ始めていた。

 「困りましたね、先輩。みんな動こうとしませんよぉ~ラーメンの魔力、恐るべしです……」

 メガネを揺らすミーシャ。
 その時、俺の背後でずっと「視察」を続けていた存在が動いた。

 「…………私が行く」

 フリフリエプロン姿の剣姫シュトリアーナが、替え玉ののったトレイを手に取った。 彼女はそのまま麺を待つ騎士たちのテーブルへと歩み寄る。

 綺麗な銀髪を後ろでくくった三角巾、そしてフリルのエプロン。 最強の剣姫がまるで街の看板娘のような格好で麺を運んでくる。その圧倒的なギャップ萌えに、騎士たちは一瞬天国にでも昇ったような恍惚の表情を浮かべた……が。

 「…………(ギロリ)」

 シュトリアーナの冷徹な眼光が騎士たちを射抜く。

 「食ったら、さっさと出ろ。戦場での飯に時間をかけるな! ……貴様ら、それほどまでに鈍りきっているのか?」

 氷点下まで凍りつくような、冷たく鋭い声。
 先ほどまでの甘い看板娘の幻想は一瞬で打ち砕かれ、目の前にいるのが、自分たちを一撃で細切れにできる最強の怪物であることを、彼らの本能が思い出した。

 「は、はひぃいい! 申し訳ありませんっ!!」
 「食いました! 今、最後の一本たべました!」
 「撤退! 直ちに職務に戻りますです!!」

 現実を引き戻された騎士たちは、爆速で残りのスープを飲み干し脱兎のごとく食堂から駆け出していった。シュトリアーナがテーブルを回るたび、面白いように席が空いていく。

 その様子を見て、俺は思わず口元を緩めた。

 「……なんだ。いつものセリフじゃないか」



 ◇◇◇



 昼食の嵐が去り静かになった食堂。
 俺とミーシャ、じいさんの前にシュトリアーナが歩み寄ってきた。彼女は無言でエプロンを脱ぎ、俺に手渡す。

 「……よし。三等騎士食堂課の視察は終わりだ。特に問題はない……このまま、皆の胃袋を支えてくれ」

 凛とした声でそう告げると彼女はきびすを返し、本庁舎の方へと歩きはじめた。いつもの、背筋が真っ直ぐに伸びた威風堂々たる後ろ姿だ。

 だが、俺の横を通り過ぎる瞬間。 彼女は俺にしか聞こえないような小さな声でささやいた。

 「……タケオ成分が不足したら、また来る」

 「え?」

 聞き返そうとした時には、彼女はもう出口の扉へと向かっていた。去り際にちらりと見えた彼女の耳が、少しだけ赤かったような気がしたが……まあ、気のせいだろう。

 いずれにせよ病的な剣姫から、普段の剣姫に戻った事だけはたしかだ。
 どうやって治ったのかはちょっと良くわからん。


 余談だが後日……
 コーヒ―が気に入ったようだから、エスプレッソとか色々飲まして反応を楽しんでいたら。
 「ぜんぜん眠れない」と目の下にクマを付けた剣姫に自室訪問されるのであった。

 夜に飲みすぎると寝れなくなるって、教えるの忘れてたわ。