「…………(スゥー、ハァー)」
俺の後頭部から30センチ。そこにはエプロンをつけた最強の剣姫シュトリアーナが、まるで俺の影にでもなったかのように張り付いている。
気にしない気にしない。
これは剣姫の視察と言う事になっているからな。
凄まじく目が近いけど……
「先輩~~今朝のメニューはコーンスープにいつものパン、それから先輩が買い付けた塩漬けベーコンの薄切り焼きでいいですかね」
「ああ、ミーシャそれで頼む。おっとそうだ、バザルで買い付けたオレンジとリンゴも出すか」
「わぁ~~美味しそうですね♪」
「だろ、バザルの市場で偶然目に入ったんだよ」
無言でリンゴを手にしたじいさんがウムと頷いたかと思うと手際よくリンゴの皮をむいて、サクサクっとひと口大に切りはじめた。
うむ、仕事が早い。
調理場が一気に活気づく。ミーシャはメガネを曇らせながら大量のスープをかき混ぜ、じいさんはフルーツの次にベーコンをササっと炒め始めた。
そしてしばらくすると―――
「ふぃ~~朝飯だ~~」
「おはようっす」
食堂の扉が開くと同時に腹を空かせた騎士たちがゾロゾロと入ってきた。
各自トレーを取って列を作り、順繰りに朝食を盛っていく。
団員達がかごからパンを取って、次にスープの器にコーンスープを入れるのはミーシャ、そしてじいさんが炒めたてのベーコンを添える。
そして俺が最後の仕上げを入れていく。
「おお、タケオさん。今日は果物もあるのか!」
「おう、バザルでいいのが入ったんだ」
「うわぁ~~こりゃ楽しみだな~」
順繰りにトレーを埋めていく騎士から嬉しい声があがる。
「リンゴにオレンジかぁ~さいごのお楽しみにとって――――――!?」
先頭の騎士が、一瞬にして石像のように固まった。
俺の背後の存在に気付いたからだ。
その視線の先にいるのは、三角巾を巻きフリルエプロンを揺らしながら険しい表情でがん睨みする、銀髪の美人騎士。
「え? え? シュ、シュトリアーナ一等騎士殿……!?」
「さっさといけ。うしろがつかえる」
「は、はひっ!! ありがとうございますっ!!」
最強の剣姫からリンゴを手渡された騎士は、何が起こってるのかわからいまま背筋をピンと張って席へと向かった。 あちこちで「え、あれ本物?」「幻術じゃないのか?」「え、エプロンだと……?」「しかもフリフリだぞ!」と、どよめきが広がる。
そんなざわついた雰囲気のなか、見慣れた二人が列から顔を出す。
「……ちょい、タケオ。一体何をやらかしたん? なんで剣姫様があんたの背中に憑依してるわけ?」
呆れ声をあげたのはスリーナだ。
いや、俺もこの背後霊を除霊できるのならして欲しいんだけど。
こいつは一筋縄ではいかんのだよ。
「うわぁ……た、タケオさん。剣姫さまにエプロンつけさせて背後に密着させるって……これは一体どういうプレイなんですか!?」
こらっ、年頃の美少女がプレイとか言うんじゃない。
スリーナの隣でアホ毛をピンんと立てるルリア。
「2人とも誤解しているようだが……これはあくまで団長命令による剣姫の「視察」だからな」
「え? し、視殺……ですか? 確かに目が殺し屋みたいで怖いですけど……ひぃいい!」
そう言いながらルリアが怯えてスリーナの背後に隠れる。確かにシュトリアーナは俺に話しかける2人をみるやいなや、獲物を品定めするような冷徹な瞳で見据えていた。
まあこんなどぎつい視線をうけたら、命の危機を感じてもおかしくはない。
「スリーナ、ルリア。騒いでないで早く朝飯をとってくれ」
「……ま、いいわ。タケにもここでは言えない事情があるんだろうし」
「そうですね。後でじっくりお話を聞きましょう」
なんか物騒なことを言いつつも、朝食ののったトレーをもってテーブルに向かう2人。
その後も朝食に並ぶ騎士たちからビビられるエプロン剣姫だったが、なんだかんだで時は過ぎていった。
◇◇◇
朝食業務が一段落したところで、俺は自分のコーヒーの手を伸ばした。 すると、背後から服の裾をクイッと引っ張られる感覚。
「…………(じーっ)」
シュトリアーナが、俺のマグカップと顔を交互に見ていた。
「コーヒーか? これ、今朝飲んだやつだけど大丈夫?」
こくりと小さく頷く剣姫シュトリアーナ。
さっそく彼女の分も召喚して手渡すと、ゆっくりではあるがコーヒーを口に含んでいく。
彼女が早朝に飲んだ時は、とうてい美味そうには見えなかった。だがリクエストする以上、苦味以外で心地よいなにかに気付いたのかもしれんな。
コーヒーにハマるきっかけなんて、些細なことが多い。
あ、そうだ。
ちょっとみんなにも出してみよ。
「ぶっ!」
「ごはっ!」
「なんだこれぇ……」
う~~ん、やはりコーヒーは馴染まんか。
まだ食堂内に残っていた騎士数名にコーヒーを出してみたが、全員同じようなリアクションをした。
この異世界でコーヒーをみたことがないし、そういう文化がまったくないからか。紅茶はあるんだけどな。
そこへ朝食を食べ終えたルリアたちが、空のトレーを持って来た。
「……ぐっ。あたしこれちょっとムリ」
「ひゃぁああ! にがいです~~ぅ~~」
やはり同じ反応か。比較的柔軟なスリーナも、コーヒーはいけないらしい。
「むはぁああ~~、な、な、な、なんですこの漆黒の闇ドリンクは!?」
ミーシャも続いて同じくか。
おっと、朝一の最後がこれじゃまずい。
朝飯のあとは気持ち良く出勤してもらいたいからな。
ならば―――
「―――現代フード召喚!」
厨房の調理台に色とりどりの細長い袋が、バラバラと現れた。
「……先輩、なんですかこの派手な棒は?」
ミーシャが興味津々で袋を手に取る。
「こいつはコーンスープと同じ魔法の粉だ。カップに入れて、お湯を注ぐだけで最高の一杯ができる」
俺は人数分のカップを用意した。
さてさて、食後のティータイムといこうじゃないか。
「じゃ、私はこれにしよかな」
ミーシャが細長いスティックの袋を不思議そうに振っている。
「そいつはカフェオレだな」
粉末をカップに入れて、お湯を注ぐと―――
「んん? さっきのコーヒーと似たような香り……だけど違う?」
「あ、ほんとだミーシャちゃん。コーヒーみたいに真っ黒じゃないですね」
「さっきの苦いコーヒーにミルクをたっぷり混ぜたようなもんだ。これならいけるはずだぞ」
ちょろ……
さっきのコーヒーがちょっとしたトラウマなのだろうか。
おっかなビックリでカフェオレを口に含んだミーシャだったが……
「―――あっ! これ美味しい!」
飲めると分かったとたんに、頬がゆるむミーシャ。メガネを曇らせながらフーフー飲んでいる。
よし、カフェオレなら万人うけしそうだな。
「わぁああ~~タケオさんこれもおいしいですよぉ~なんかフワフワがうえに乗ってます♪」
ルリアが飲んでいるのはカプチーノだ。
こちらはエスプレッソベースにミルクと気持ちばかりのミルク泡つき。
本格的なカプチーノを召喚することもできるが、まあ今日はスティックで我慢してくれ。
「タケ……なんかあたしのだけ色違うんだけど……」
緑色のカップを覗き込むスリーナ。
彼女のは抹茶オレだな。
「スリーナ、そいつは俺の故郷の特別な茶葉を使った、少し大人な甘みの一杯だ」
「ふ~~~ん……あ、けっこういかすじゃん」
許容範囲の広いスリーナなら、抹茶の美味さが分かると思ったぜ。
どれ……俺も飲んでみよっと。
「うむ、騎士団で抹茶……これはよい」
ついでに、さっきコーヒーに撃沈した騎士たちにも好きなのを飲んでもらった。
結果は大好評だった。
「いや~~うまかったよタケオさん!」
「ああ、さいこうだぜ課長!」
にこやかに食堂から出ていく騎士たち。
よしよし、朝一で落とした気分は挽回したぞ。
「……ふぅ。やっぱ食後に温かいものを飲むってのは、心の洗濯だな」
俺は自分のブラックコーヒーを飲みながら、ようやく一息ついた。 現代日本では当たり前だったインスタント技術。だがこの異世界において、手軽に手に入る「温かな味」はどんな高級魔法薬よりも心を癒やす力があるのかもしれない。
「……タケオ」
剣姫シュトリアーナが、空になったカップを差し出してきた。
「おかわりか?」
「ああ、ブラックをくれ」
どうやら剣姫はコーヒーが好きになった模様だ。
人によりけりだが、カフェインは心を落ち着かせるリラックス効果やストレス軽減につながるからな。
剣姫の眉間のしわも、だいぶと落ち着いてきたようだった。
俺の後頭部から30センチ。そこにはエプロンをつけた最強の剣姫シュトリアーナが、まるで俺の影にでもなったかのように張り付いている。
気にしない気にしない。
これは剣姫の視察と言う事になっているからな。
凄まじく目が近いけど……
「先輩~~今朝のメニューはコーンスープにいつものパン、それから先輩が買い付けた塩漬けベーコンの薄切り焼きでいいですかね」
「ああ、ミーシャそれで頼む。おっとそうだ、バザルで買い付けたオレンジとリンゴも出すか」
「わぁ~~美味しそうですね♪」
「だろ、バザルの市場で偶然目に入ったんだよ」
無言でリンゴを手にしたじいさんがウムと頷いたかと思うと手際よくリンゴの皮をむいて、サクサクっとひと口大に切りはじめた。
うむ、仕事が早い。
調理場が一気に活気づく。ミーシャはメガネを曇らせながら大量のスープをかき混ぜ、じいさんはフルーツの次にベーコンをササっと炒め始めた。
そしてしばらくすると―――
「ふぃ~~朝飯だ~~」
「おはようっす」
食堂の扉が開くと同時に腹を空かせた騎士たちがゾロゾロと入ってきた。
各自トレーを取って列を作り、順繰りに朝食を盛っていく。
団員達がかごからパンを取って、次にスープの器にコーンスープを入れるのはミーシャ、そしてじいさんが炒めたてのベーコンを添える。
そして俺が最後の仕上げを入れていく。
「おお、タケオさん。今日は果物もあるのか!」
「おう、バザルでいいのが入ったんだ」
「うわぁ~~こりゃ楽しみだな~」
順繰りにトレーを埋めていく騎士から嬉しい声があがる。
「リンゴにオレンジかぁ~さいごのお楽しみにとって――――――!?」
先頭の騎士が、一瞬にして石像のように固まった。
俺の背後の存在に気付いたからだ。
その視線の先にいるのは、三角巾を巻きフリルエプロンを揺らしながら険しい表情でがん睨みする、銀髪の美人騎士。
「え? え? シュ、シュトリアーナ一等騎士殿……!?」
「さっさといけ。うしろがつかえる」
「は、はひっ!! ありがとうございますっ!!」
最強の剣姫からリンゴを手渡された騎士は、何が起こってるのかわからいまま背筋をピンと張って席へと向かった。 あちこちで「え、あれ本物?」「幻術じゃないのか?」「え、エプロンだと……?」「しかもフリフリだぞ!」と、どよめきが広がる。
そんなざわついた雰囲気のなか、見慣れた二人が列から顔を出す。
「……ちょい、タケオ。一体何をやらかしたん? なんで剣姫様があんたの背中に憑依してるわけ?」
呆れ声をあげたのはスリーナだ。
いや、俺もこの背後霊を除霊できるのならして欲しいんだけど。
こいつは一筋縄ではいかんのだよ。
「うわぁ……た、タケオさん。剣姫さまにエプロンつけさせて背後に密着させるって……これは一体どういうプレイなんですか!?」
こらっ、年頃の美少女がプレイとか言うんじゃない。
スリーナの隣でアホ毛をピンんと立てるルリア。
「2人とも誤解しているようだが……これはあくまで団長命令による剣姫の「視察」だからな」
「え? し、視殺……ですか? 確かに目が殺し屋みたいで怖いですけど……ひぃいい!」
そう言いながらルリアが怯えてスリーナの背後に隠れる。確かにシュトリアーナは俺に話しかける2人をみるやいなや、獲物を品定めするような冷徹な瞳で見据えていた。
まあこんなどぎつい視線をうけたら、命の危機を感じてもおかしくはない。
「スリーナ、ルリア。騒いでないで早く朝飯をとってくれ」
「……ま、いいわ。タケにもここでは言えない事情があるんだろうし」
「そうですね。後でじっくりお話を聞きましょう」
なんか物騒なことを言いつつも、朝食ののったトレーをもってテーブルに向かう2人。
その後も朝食に並ぶ騎士たちからビビられるエプロン剣姫だったが、なんだかんだで時は過ぎていった。
◇◇◇
朝食業務が一段落したところで、俺は自分のコーヒーの手を伸ばした。 すると、背後から服の裾をクイッと引っ張られる感覚。
「…………(じーっ)」
シュトリアーナが、俺のマグカップと顔を交互に見ていた。
「コーヒーか? これ、今朝飲んだやつだけど大丈夫?」
こくりと小さく頷く剣姫シュトリアーナ。
さっそく彼女の分も召喚して手渡すと、ゆっくりではあるがコーヒーを口に含んでいく。
彼女が早朝に飲んだ時は、とうてい美味そうには見えなかった。だがリクエストする以上、苦味以外で心地よいなにかに気付いたのかもしれんな。
コーヒーにハマるきっかけなんて、些細なことが多い。
あ、そうだ。
ちょっとみんなにも出してみよ。
「ぶっ!」
「ごはっ!」
「なんだこれぇ……」
う~~ん、やはりコーヒーは馴染まんか。
まだ食堂内に残っていた騎士数名にコーヒーを出してみたが、全員同じようなリアクションをした。
この異世界でコーヒーをみたことがないし、そういう文化がまったくないからか。紅茶はあるんだけどな。
そこへ朝食を食べ終えたルリアたちが、空のトレーを持って来た。
「……ぐっ。あたしこれちょっとムリ」
「ひゃぁああ! にがいです~~ぅ~~」
やはり同じ反応か。比較的柔軟なスリーナも、コーヒーはいけないらしい。
「むはぁああ~~、な、な、な、なんですこの漆黒の闇ドリンクは!?」
ミーシャも続いて同じくか。
おっと、朝一の最後がこれじゃまずい。
朝飯のあとは気持ち良く出勤してもらいたいからな。
ならば―――
「―――現代フード召喚!」
厨房の調理台に色とりどりの細長い袋が、バラバラと現れた。
「……先輩、なんですかこの派手な棒は?」
ミーシャが興味津々で袋を手に取る。
「こいつはコーンスープと同じ魔法の粉だ。カップに入れて、お湯を注ぐだけで最高の一杯ができる」
俺は人数分のカップを用意した。
さてさて、食後のティータイムといこうじゃないか。
「じゃ、私はこれにしよかな」
ミーシャが細長いスティックの袋を不思議そうに振っている。
「そいつはカフェオレだな」
粉末をカップに入れて、お湯を注ぐと―――
「んん? さっきのコーヒーと似たような香り……だけど違う?」
「あ、ほんとだミーシャちゃん。コーヒーみたいに真っ黒じゃないですね」
「さっきの苦いコーヒーにミルクをたっぷり混ぜたようなもんだ。これならいけるはずだぞ」
ちょろ……
さっきのコーヒーがちょっとしたトラウマなのだろうか。
おっかなビックリでカフェオレを口に含んだミーシャだったが……
「―――あっ! これ美味しい!」
飲めると分かったとたんに、頬がゆるむミーシャ。メガネを曇らせながらフーフー飲んでいる。
よし、カフェオレなら万人うけしそうだな。
「わぁああ~~タケオさんこれもおいしいですよぉ~なんかフワフワがうえに乗ってます♪」
ルリアが飲んでいるのはカプチーノだ。
こちらはエスプレッソベースにミルクと気持ちばかりのミルク泡つき。
本格的なカプチーノを召喚することもできるが、まあ今日はスティックで我慢してくれ。
「タケ……なんかあたしのだけ色違うんだけど……」
緑色のカップを覗き込むスリーナ。
彼女のは抹茶オレだな。
「スリーナ、そいつは俺の故郷の特別な茶葉を使った、少し大人な甘みの一杯だ」
「ふ~~~ん……あ、けっこういかすじゃん」
許容範囲の広いスリーナなら、抹茶の美味さが分かると思ったぜ。
どれ……俺も飲んでみよっと。
「うむ、騎士団で抹茶……これはよい」
ついでに、さっきコーヒーに撃沈した騎士たちにも好きなのを飲んでもらった。
結果は大好評だった。
「いや~~うまかったよタケオさん!」
「ああ、さいこうだぜ課長!」
にこやかに食堂から出ていく騎士たち。
よしよし、朝一で落とした気分は挽回したぞ。
「……ふぅ。やっぱ食後に温かいものを飲むってのは、心の洗濯だな」
俺は自分のブラックコーヒーを飲みながら、ようやく一息ついた。 現代日本では当たり前だったインスタント技術。だがこの異世界において、手軽に手に入る「温かな味」はどんな高級魔法薬よりも心を癒やす力があるのかもしれない。
「……タケオ」
剣姫シュトリアーナが、空になったカップを差し出してきた。
「おかわりか?」
「ああ、ブラックをくれ」
どうやら剣姫はコーヒーが好きになった模様だ。
人によりけりだが、カフェインは心を落ち着かせるリラックス効果やストレス軽減につながるからな。
剣姫の眉間のしわも、だいぶと落ち着いてきたようだった。

