左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 バザルの町での買い付け任務を終えた俺たちは、グルト辺境騎士団への帰路についていた。行きは期待と不安が入り混じっていたが、帰りは心地よい疲労感と満足感が漂う。

 ガタゴトと揺れる馬車の中。

 スリーナは幌の隙間から外を眺め、ゴンスは腕を組んで居眠り……と思いきや、鼻を鳴らして筋肉をピクつかせて良く分からんトレーニング?をしている。
 そしてルリアは精霊のディーネを膝に乗せ、熱心に魔導書らしき本のページをめくっていた。定期的にピコピコ動くアホ毛がかわいらしい。

 「……ふぅ。まだあと数時間はかかるわね」

 スリーナが退屈そうに欠伸をした。
 昨夜のラーメン二段構えという暴力的な快楽を味わった後だ。普通の旅路が妙に味気なく感じてしまっているのかもしれない。

 「タケオさん。何か、こう……口が寂しくないですか?」

 ルリアが期待に満ちた目でこちらを見てくる。
 おいおい、さっき朝飯を食ったばかりだろう。……と言いかけて、俺もまた、この手持ち無沙汰な時間に何か楽しいものが欲しくなっていることに気づいた。

 「よっしゃ、なんか出すか」

 俺の言葉に、居眠りしていたゴンスがガバッと目を開けた。

 「おおぉ~~おれっちの筋肉がワクワクしてきたぜぇ!」
 「……ん。食べたい」

 ディーネまでルリアの膝から身を乗り出してきた。

 まあ、間食だからそんなガッツリしたものはダメだな。
 俺は静かに魔力を練り上げた。

 「―――現代フード召喚」

 ドサドサっと出てきたのは、色とりどりのパッケージに包まれた円柱状の棒たち。

 「なんこれ?」
 「短い杖ですかね……?」

 スリーナが一本手に取り、不思議そうに眺める。
 みんな各々手にするも、なんだこれ?みたいな顔になっている。

 「こいつは俺の母国で大人気の菓子だ。安くて、旨くて、種類が豊富、その名も「うまうま棒」だ」

 現代日本人なら誰もが知っているうまうま棒。 コンポタ味、めんたいこ味、たこ焼き味、サラミ味……。いっぱいの「棒」が馬車の中にドサッと積み上げられた。

 「袋から出して、思い切ってかじってみろ」

 ゴンスが真っ先にサラミ味を手に取った。 バリッという小気味よい音が馬車に響く。

 「おっ、タケオっち。これ軽いくせに味のパンチが効いているぜぇ~うん、うまい!」

 「わ、わたしも……。あ、この黄色いコーンポタージュ味にしてみようかな。あ、ディーネちゃんはどれにする?」

 ルリアが精霊のディーネと一緒にうまうま棒の山をガサガサとあさり始めた。
 うむうむ、その気持ちはわかるぞ。種類が多いって、なんかそれだけで楽しいんだよな。

 「わぁ~~これ、スープをそのまま固めてサクサクにしたみたいですっ♪」
 「……ん。チーズが棒になってる」

 ルリアはコンポタ味か、これでもかって濃い味が俺も好きだな。
 そしてディーネはチーズ味。こいつは袋を開けた瞬間チーズなやつだ。

 「あたしはこのめんたい味ってやつ……。んっ……ちょっとピリ辛じゃん! これ、クセになるわね!」

 めんたいに気を良くしたスリーナが次々と袋を開け、快調に音を鳴らしていく。 ディーネはチーズ味が気に入ったのか、そればかりあけている。小さな口でサクサクと食べ進め、時折「……ん、濃厚」と満足げに頷いている。
 食い方は自由だ。お気に入りを攻めまくるもよし、全種食ってみるもよし。

 「これ、一本いくらくらいなんだ?」

 ゴンスが三本目を剥きながら俺に聞いてきた。

 「俺の母国じゃ、子供の小遣いで買える値段だよ」
 「マジかよ!? こんなに旨いのにか!? 」

 そうだ、こいつは少ない小遣いをやりくりして買う駄菓子の中には必ず入ってくるレギュラーメンバーだからな。
 それだけ対費用効果が優れた子供の味方なのだ。

 馬車の中はうまうま棒の粉が飛び散るのも気にせず、駄菓子の他愛もない会話で盛り上がった。


 さて、ひとしきりうまうま棒を楽しんだところで……

 「じゃあ、次はちょいとばかし遊び心のあるやつをだすか―――現代フード召喚」

 俺の前にポンっと現れたのは、トレイと袋そして小さなスプーンが入ったキット。
 そう、こいつは現代日本における知育菓子の金字塔「ねるねるね~る」である。

 「……タケオさん、これは? 魔導具のセットみたいですが」

 興味津々で「ねるねるね~る」のキットを覗き込むルリア。
 アホ毛がブンブン揺れているところを見ると、こういうのが好きなんだろう。

 「よしルリア、このトレイに1番の粉を入れて水を混ぜてみてくれ」
 「ええぇ、タケオさん。なんか高度な技術が必要そうですよ……わたしにできるかな」

 「もちろんだ、俺の故郷じゃ子供たちが作っているんだぞ」

 ルリアは不思議そうにしながらも、俺の指示通りに1番の粉と水を混ぜ始めた。

 「ふぁ! た、タケオさん……白い粉が青くなりましたよ!?」
 「うわ、ほんとだ。なんこれ魔法じゃないの?」
 「……ん。魔力は感じない」

 いや、ただの駄菓子だからな。

 「次に、この2番の粉を入れてさらによく練るんだ」

 ルリアが二番目の粉を投入し、スプーンでかき混ぜる。その瞬間、馬車の中に驚愕の叫びが上がった。

 「えぇっ! また色が変わりましたよ!? 青から紫に……」
 「待て待て、ルリアっち! これ膨らんでるぞ! モコモコと大きくなってやがる!」

  ゴンスが身を乗り出してトレイを覗き込む。

 「……ん。いぜん魔力反応はない。なのに、物質が変質して膨張している……」
 「なんこれ、スライムみたいんなんでき始めてるじゃん」
 「タケオさん、こ、これはまさか……錬金術ですか!?」
 「……ん。黒魔術とみた」

 そんなたいそうなものではない。

 「いいから、最後にこの3番のチップをまぶして食ってみろ」

 ルリアがおそるおそるむらさき色のフワフワをスプーンですくい、カラフルなチップをまわりに着けて口に運んだ。ルリアの膝に座るディーネが、そしてスリーナもゴンスも固唾を飲んでそれを見守る。

 「……あ。なんか不思議な味だけど、いい」

 ルリアの顔が驚きと喜びにパッと明るくなった。

 「甘い……! それに、シュワシュワします! 口の中で泡が弾けてぶどう?のような味がしますね」

 「あたしも! あたしもやってみたいし!」
 「おれっちもだ! 筋肉がシュワシュワを求めてるぜ!」
 「……ん。ディーネも後学のために」

 おっし、おっさんも久々に作ってみるかな。

 馬車の揺れも忘れて大人たちが夢中で紫や青の泡を練り、色が変わっただの、膨らんできただの騒ぐ。そしてキャンディチップを付けてはシュワシュワする!と大はしゃぎする。

 こうして俺たちの帰路は、駄菓子で盛り上がりあっという間に過ぎていった。
 こういう時間の過ごし方もアリだなと思う。

 「……あぁ、楽しかった。なんだか、子供に戻ったみたい」

 ルリアが、指についた粉を舐めながら満足げに息をついた。

 「ははっ、まあいいヒマつぶしになっただろ」

 俺がそう答えると、馬車が大きく揺れ御者の声が響く。

 幌をめくると、見慣れたグルトの町が夕日に照らされている。
 さ~~て、無事に任務完了だ。

 俺たちの長いようで短い出張は終りを迎えようとしていた。

 なんか騎士団門の近くに見慣れたメガネっ子がいるようだが……
 うん、今日は疲れてるし……見なかったことにしよう。