左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 魔物の襲撃を「激辛カレー」と「ワサビ」で強引に制圧した俺たちは、ようやく宿へと戻った。
 北門の魔物たちは南門がほぼ全滅したことを感じ取ったのか、大きな戦闘も起こらず森へ去っていったとのことだ。
 これにて俺たちの緊急出勤(スクランブル)は、完了したわけである。

 「ふぅ……」

 宿に入ってようやく一息つく俺たち。

 「……ん、ディーネがんばった」
 「うん、たしかにディーネちゃん頑張ってくれたね」

 青くてちっこい美少女精霊の頭を撫でるルリア。
 ルリアの言うとおり、この子の頑張りが戦いに大きく影響したことは間違いないだろう。

 だが、問題もある。

 「……さっむ。もう体が芯まで冷え切ってるんだけど」

 スリーナが肩を震わせながら毛布にくるまっている。 無理もない。
 ルリアの新精霊ディーネが放った強烈ブリザードの影響で、南門周辺は今もなお巨大なスケートリンク状態だ。そこに長時間いた俺たちの体温はすっかり奪われていた。

 「腹も減ったぜ……戦いのあとは筋肉が栄養を求めてるぜぇ」

 ゴンスが力なく自慢の筋肉をさする。
 宿の食堂はもうとっくの昔に閉まっている。ていうか真夜中だからあたりまえだが。かといって、この空腹と冷え冷えの身体で寝つけるわけもない。

 「……よし。みんなお疲れ様だな。ここはひとつおっさんから最高の夜食を振舞おうじゃないか」

 俺の言葉に、ルリア、スリーナ、ゴンスの目が一斉に俺に向いた。 そして、ちっこ青い精霊ディーネが期待に満ちた目でこちらを覗いている。

 「―――現代フード召喚」

 俺は魔力を練り、テーブルの上に5つの丼を召喚した。

 「さて……まずはこいつだ。腹と体を温めるぞ」

 ふわりと食欲をそそる芳醇な香りが宿屋の食堂に立ち込める。透き通った琥珀色のスープに、中細のストレート麺、その上には適度な厚さのチャーシュー、味付け玉子、メンマ、そして鮮やかな青ネギが鎮座している。

 そう、こいつは醤油ラーメンだ。

 「……わぁ、綺麗~スープがキラキラしてます!」

 ルリアが目を丸くして、レンゲを手に取った。
 この世界にもスープ料理はある。だが、ここまで洗練された出汁(ダシ)の文化は存在しない。

 慎重にスープを一口いれるルリア。

 「―――はふぅ……っ!! な、なんですかこのスープ! あっさりだけど深くて……それでいて、スッと喉を通って、身体が温まっていくのがわかります!」

 ルリアのひと口を皮切りに、スリーナとゴンスも醬油ラーメンに口をつける。

 「麺って、こうやって食べるのよね……?」

 スリーナが慣れない手つきで箸を使い、麺を口に運んだ。

 ずぅずぅ~~~

 「……んんっ!? なにこの食感! スープの味がついてくるじゃん! ちょっ、止まらないんだけど!」
 「おれっちの冷えた筋肉が躍動し始めたぜ! すげぇ~~このらぁめんってやつ!!」

 そうだろう、そうだろう。

 「……ん。これ、いい」

 精霊のディーネもご満悦でラーメンをすすりはじめた。
 ラーメンは元より最高のポテンシャルをもっている。ましてや夜中にいくラーメンだぞ。もう至高以外のなにものでもない。

 「ズルズル」という、最高に美味そうな音が静かな宿屋に響く。 醤油ラーメンの持つ優しくも完成された究極フードが、極限状態の俺たちの胃袋に染み渡っていく。

 「……ふぅ、落ち着いた。最高だったぜ、タケオっち」

 醤油ラーメンをたいらげたゴンスが満足げに腹を叩いた。
 だが、俺は不敵に笑う。
 おっさんの「夜食」は、これだけでは終わらない。

 「おいおい、ゴンス。今のは、あくまで冷えた体を温めるための準備運動だ」


 「「「「……え?」」」」


 3人と精霊一匹が俺の方に目を向ける。

 グフフ、さあ、いよいよ本命を登場させようではないか。

 俺は再び魔力を集中させた。
 今度は先ほどとは打って変わって、重厚で殺伐とした気配。

 「―――現代フード召喚んん!」

 ドォォォン、という効果音が聞こえてきそうなほど重量感のある丼が現れた。
 先ほどの琥珀色のスープとは一変、白濁した濃厚な豚骨スープ。その表面には雪のように白い花がこれでもかというほど大量に浮いている。
 中央には分厚いバラ肉のチャーシューがそびえ立ち、ニンニクの香りが暴力的と言えるほど鼻を突いた。

 「な、なんですか……この、白くてぷよぷよした花みたいなのは……?」

 ルリアが、さっきの感動を上書きするほどの衝撃的な顔で丼を覗き込む。

 「こいつは背脂……つまり、豚の脂の旨味だ」
 「あ、あぶらって……」

 「いいか、ルリア。深夜にこれを食うのは一種の罪だ。だがその罪の味が、人間を一番幸せにするんだよ」

 そう、俺の召喚したのはギトギト背脂とんこつラーメンである。

 「あ、あたしもう醤油ラーメン一杯食べたし。こんな脂っこいの―――」

 そう言いながらもスリーナの視線は吸い寄せられるように、とろりとした脂に絡まる極太麺に固定されている。

 「でもせっかくタケが出したんだし、一口だけよ……?」
 「そ、そうですよね。タケオさんに悪いし……わたしもひと口だけ」

 スリーナとルリアが、禁断の果実をかじるように背脂たっぷりのスープをすすった。


 「――――――っ!!」


 彼女たちの顔が、官能的なまでに蕩けた。

 「……なんこれ……さっきのと全然違うじゃん! 脳に直接美味しいって叩き込まれる感じ!」
 「す、すご……脂が……甘い! 塩気と脂と、このニンニクのパンチが……止まらないですっ!!」
 「うおおおお!! これだ! 俺っちが求めていたのはぁあ~~この暴力的なまでの栄養だぁああ!!」

 脂の甘みに豚骨の深いコク、そして胃袋を重く満たしていく炭水化物の波。 深夜と疲労に空腹、全ての条件が揃った時にラーメンは「食事」を超えて「快楽」へと昇華する。

 よっしゃ~~俺もいくぞ~~!

 ずずぅうううう~~~!!
 ガッツリ背脂ごと麺をすすり、一気にからだに流し込む。

 うっはぁ……やっぱラーメンうめぇえ……

 深夜ラーメン最高だわ。たまらん。

 あっという間に麺と具材をたいらげた俺たち。のこるは……

 「ぐふふふ……汁も全部いっちゃおうかなぁ~~」
 「た、タケオさん! なんてこと言うんですか!?」

 「ルリアだっていきたいんだろ? 素直になれよ」
 「うぅうう……そ、そんなこと」

 ずぅ~~~

 「……ん。しるさいこう」
 「ああぁ~ディーネちゃんいったぁ~~! もうぅう~わたしもいく~~!」

 ずぅ~~~

 よしよし、今日は夜食祭りなのだ。
 汁の一滴まで楽しみ尽くせばいい。

 こうして俺たちの大満足な夜は更けていった。