南門前は異様な光景になっていた。
100倍激辛カレーの洗礼を受けたブラックウルフたちは、ほぼ壊滅。
舌を出して悶絶する個体、泡を吹いて転げ回る個体、そこへ騎士団と自警団によるとどめの一撃が刺されていった。
「……さて、残るはあいつらか」
俺の視線の先に見える魔物たち。
ゆっくり、だが確実に近づいてくる巨大な影。
オークだ。
人の数倍はある体躯。そして分厚い筋肉に、家の一軒でも粉砕しそうな巨大な丸太のこん棒を手にぶら下げている。
数は……約10体ほどか。
正直なところ数はさきほど倒したブラックウルフたちより少ない。
だが一体一体がタフで力も桁違いだ。
真正面からぶつかると、こっちの被害がデカい。
「どうしたもんか……」
そう思って、ふと後ろを見る。
ルリアだ。
魔法陣はもう完成しているようだな。
複雑な紋様が淡く光り、魔力も安定しているように見えた。素人の俺が見ても凄そうな魔法陣だなと思う出来栄えだ。
……なのに。
ルリアの表情が、やけに険しいんだが。
まだ何か足りないのだろうか。
「……タケオさん」
「ん? どうした」
「その……ちょっと、カレー出してくれませんか……普通の」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
いま戦闘中だぞ。カレー休憩には早すぎる。
「えっと、その……精霊さんが、お腹すきすぎて力出ないって……」
「マジか」
「でもこの子、すっごい偏食で……なに出しても、あんまり食べてくれなくて……でもカレーだったら」
……精霊って、そんな生き物だったのか。サラだけが特殊個体ってわけでもなさそうだ。
「と、とにかく! カレーを魔法陣の前に置いてもらえませんか! お願いします!」
召喚主のルリアが必死な顔でうったえる。彼女なりに最前手を打とうとしているのだろう。
よっしゃわかった―――
俺は魔力を練り、魔法陣のすぐ前にホカホカのカレーを召喚した。
すると……。
ぬっ。
魔法陣の中から、青い半透明な小さな手がにょきっと伸びてきた。それが皿を掴み、魔法陣の奥へと引きずり込んでいく。
ムシャムシャと魔法陣の奥からカレーを楽しむ音がする。
「や、やた! タケオさん! うまくいきそうです!」
どうやら新しい精霊はカレーが気に入ったようだ。
まあ多くの人に愛されるフードだからな。精霊も例外ではないのだろう。
「……とりあえず」
俺は追加でカレーを召喚してみる。
青い手が忙しなく動き魔法陣の中に消えていく皿。
「ルリア、そいつに食ったらすぐ働けって伝えろよ! 俺は前線に行くから、準備ができたら叫べ!」
「はい、タケオさん!」
俺は数皿のカレーを追加で置き土産すると、スリーナたちが出張っている最前線へと駆け出す。
その頃にはもうオークたちが間合いに入ってきていた。
◇◇◇
「グモォオオ!」
オークのドデカイこん棒が振り下ろされて地面が砕け、土煙が舞う。
速度はそれほどないのだが、いかんせん威力がでかい。
「はぁあああ!!」
スリーナの鋭い斬撃がオークの足を狙うが、太いこん棒を盾のように使い決定打を許さない。
さらにブンブン振り下ろされるこん棒攻撃が想像以上にやっかいだ。
「こいつら、うざっ! リーチも長いし、近づけないんだけど!」
「俺っちの筋肉でも、このこん棒を押し返すのは骨が折れるぜぇ……!」
ゴンスがオークの振り下ろした棍棒を受け止め血管を浮かせて耐えている。 オークたちはその巨体を活かし、重い一撃を繰り返してくる。こちらが懐に入ろうとすれば、別のオークが横から棍棒を薙ぎ払ってきたりと連携まで取ってきた。
俺も隙を見て奴らの口内に現代フードを直接召喚してやりたいのだが、いかんせん距離がある。あのこん棒の射程内に入るのはおっさんにとって自殺行為に等しい。
下手に突っ込めば、俺がミンチだ。
「……なんとか隙さえ作れれば」
―――その時だ。
「タケオさん、準備オーケーです! みなさん、いったんこちらに退避してください!」
後ろからルリアの叫び声が響いた。 よし、来たか。
「スリーナ、ゴンス、全員下がれ! ルリアの精霊が出るぞ!」
俺たちは即座にオークたちから距離を取る。
ルリアの横に立っていたのは―――
水色の長い髪に透き通るような肌。淡い青のワンピースをまとい、まるで湖の底から現れたような儚くも美しい少女の姿をした精霊。
「へぇ~ウンディーネじゃん」
スリーナが感心した声を出した。
ウンディーネっていうとたしか水の精霊だったか。
「ディーネちゃん、水でオークたちを押し流して! 激流放水!」
「……ん」
ルリアの号令に、ウンディーネことディーネはコクリと頷いた。
ディーネがその可愛らしい口を大きく開けると、 そこから凄まじい勢いで水が放たれる。
おおぉ、こりゃ名前の通り激流だな。
……ん?
「……あれ、これ水か?」
吐き出されたのは、水というより―――キラキラと輝く光の結晶。いや、結晶どころじゃない。
「え? ディーネちゃん、それ水じゃない! ちょ、氷だよこれ!」
ディーネの口から放出されたのは極寒の冷気だった。
こりゃブリザードだな……猛吹雪だわ。
冷気の奔流がオークたちを一気に飲み込むと同時に、地面が瞬時に白く染まる。
「ストップ! もういいから! 張り切りすぎだよぉ~~キャッ!」
ルリアが叫ぶが、時すでに遅し。足元が凍りついたせいかルリアが派手にすっころんだ。
「……ん。なんか気持ち良くて、でちゃった」
「もう~~でちゃったじゃないの。カレーそんなに美味しかったの?」
ブンブンと頷く水の精霊ディーネ。
どうやらさっき食ったカレーが美味すぎたのか、あるいはスパイスで代謝が上がりすぎたのか、ディーネの出力はルリアの予想を遥かに超えていた。
ちょっとした興奮状態で、自身の魔力を全開放したようだ。
結果として南門周辺広範囲の地面が完全凍結。
俺たちの戦場は一瞬にして見事なまでの「スケートリンク」へと変貌した。
ほとんどのオークは氷漬けになったが、何体かは完全凍結を免れたようだ。
「グモォオ!?」
「グウェアッ!」
が、その生き残りたちも凍結した地面にツルッと滑り、見事にすっころぶ。
巨体を支える足元が急に摩擦を失い、次々とひっくり返るオーク。 あちこちで巨体が氷に叩きつけられる鈍い音が響く。ドデカイ棍棒も手から離れ虚しく氷の上を滑っていく。
これはとどめを刺すチャンスかと思いきや……現実はそう甘くない。
「わ、ちょっ、タケどいて!」
「タケオっち! 俺っち止まんないぜぇ~~!」
……そう。ツルツルするのは俺たちもだ。
スリーナがバランスを崩してあらぬ方向へ。そしてゴンスは生まれたての小鹿のように足をガクガクさせながら、氷の上を滑走し始める。
ツルッツルの氷の上で、誰もまともに立てない。
俺が必死にバランスを取っていると。
ズズズズ……
「……ん?」
なんとオークたちが、転んだままこちらに滑ってくるではないか。
歩くのは諦めて転がるという選択肢を取ったのか……いや、これアホらしく見えてけっこう理にかなっているぞ。
「スリーナ、ゴンス、ルリア!」
返事がない。3人とも氷結地面に苦戦している様子だ。
こんな無防備のまま門前まで攻め込まれるのはマズい。一体でも町中に入るとえらいことになる。
ならば……
俺が止めるしかない。
すぅうう、息を深く吸いオークが最も接近するタイミングで―――
「―――現代フード召喚!!」
「グモォオオオオオオオ!?」(つーーーん!)
オークが絶叫した。
顔のパーツがキュゥウウっとすべて中央に激寄り集中している。まるでマンガの顔みたいに。
その顔のまま悶絶して、地面を釣り上げらた魚のようにビクビクとのたうち回りはじめた。
そう。
俺がオークの口の中に直接召喚したのは―――
「ワサビ」だ。
日本が誇る、鼻に抜ける最強の刺激。
生ワサビ1キロ(チューブわさび20本分)を一気に口内インした。
「うらぁああ―――現代フード(ワサビ)連続召喚んんん!!」
俺は接近してくるオーク全ての口内にワサビ爆弾を直接投下した。
向こうから射程距離に入ってくれたおかげで、直接召喚することができる。
「グモォオオ!?」(つーーーん!)
「フガウモォぁ!」(つーーーん!)
「ムゴンゴォオオ!!」(つーーーん!)
ははは~~どうだ、ツーン地獄を味わうがいい!
しばらくして、ヒクヒクしていたオークたちはその動きをゆっくりと止めていく。
あれだけの量が一気に口に入ったのだから……強烈なツーンの後に待つのは窒息である。
「ふぅ……なんとかなったか」
こうしてオークの半数は氷漬けになり、残りの半数はワサビ漬けになった。
俺は額の汗をぬぐうと、お腹がグゥっと鳴る。
こりゃ、夜食いかんとやってられんな。
100倍激辛カレーの洗礼を受けたブラックウルフたちは、ほぼ壊滅。
舌を出して悶絶する個体、泡を吹いて転げ回る個体、そこへ騎士団と自警団によるとどめの一撃が刺されていった。
「……さて、残るはあいつらか」
俺の視線の先に見える魔物たち。
ゆっくり、だが確実に近づいてくる巨大な影。
オークだ。
人の数倍はある体躯。そして分厚い筋肉に、家の一軒でも粉砕しそうな巨大な丸太のこん棒を手にぶら下げている。
数は……約10体ほどか。
正直なところ数はさきほど倒したブラックウルフたちより少ない。
だが一体一体がタフで力も桁違いだ。
真正面からぶつかると、こっちの被害がデカい。
「どうしたもんか……」
そう思って、ふと後ろを見る。
ルリアだ。
魔法陣はもう完成しているようだな。
複雑な紋様が淡く光り、魔力も安定しているように見えた。素人の俺が見ても凄そうな魔法陣だなと思う出来栄えだ。
……なのに。
ルリアの表情が、やけに険しいんだが。
まだ何か足りないのだろうか。
「……タケオさん」
「ん? どうした」
「その……ちょっと、カレー出してくれませんか……普通の」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
いま戦闘中だぞ。カレー休憩には早すぎる。
「えっと、その……精霊さんが、お腹すきすぎて力出ないって……」
「マジか」
「でもこの子、すっごい偏食で……なに出しても、あんまり食べてくれなくて……でもカレーだったら」
……精霊って、そんな生き物だったのか。サラだけが特殊個体ってわけでもなさそうだ。
「と、とにかく! カレーを魔法陣の前に置いてもらえませんか! お願いします!」
召喚主のルリアが必死な顔でうったえる。彼女なりに最前手を打とうとしているのだろう。
よっしゃわかった―――
俺は魔力を練り、魔法陣のすぐ前にホカホカのカレーを召喚した。
すると……。
ぬっ。
魔法陣の中から、青い半透明な小さな手がにょきっと伸びてきた。それが皿を掴み、魔法陣の奥へと引きずり込んでいく。
ムシャムシャと魔法陣の奥からカレーを楽しむ音がする。
「や、やた! タケオさん! うまくいきそうです!」
どうやら新しい精霊はカレーが気に入ったようだ。
まあ多くの人に愛されるフードだからな。精霊も例外ではないのだろう。
「……とりあえず」
俺は追加でカレーを召喚してみる。
青い手が忙しなく動き魔法陣の中に消えていく皿。
「ルリア、そいつに食ったらすぐ働けって伝えろよ! 俺は前線に行くから、準備ができたら叫べ!」
「はい、タケオさん!」
俺は数皿のカレーを追加で置き土産すると、スリーナたちが出張っている最前線へと駆け出す。
その頃にはもうオークたちが間合いに入ってきていた。
◇◇◇
「グモォオオ!」
オークのドデカイこん棒が振り下ろされて地面が砕け、土煙が舞う。
速度はそれほどないのだが、いかんせん威力がでかい。
「はぁあああ!!」
スリーナの鋭い斬撃がオークの足を狙うが、太いこん棒を盾のように使い決定打を許さない。
さらにブンブン振り下ろされるこん棒攻撃が想像以上にやっかいだ。
「こいつら、うざっ! リーチも長いし、近づけないんだけど!」
「俺っちの筋肉でも、このこん棒を押し返すのは骨が折れるぜぇ……!」
ゴンスがオークの振り下ろした棍棒を受け止め血管を浮かせて耐えている。 オークたちはその巨体を活かし、重い一撃を繰り返してくる。こちらが懐に入ろうとすれば、別のオークが横から棍棒を薙ぎ払ってきたりと連携まで取ってきた。
俺も隙を見て奴らの口内に現代フードを直接召喚してやりたいのだが、いかんせん距離がある。あのこん棒の射程内に入るのはおっさんにとって自殺行為に等しい。
下手に突っ込めば、俺がミンチだ。
「……なんとか隙さえ作れれば」
―――その時だ。
「タケオさん、準備オーケーです! みなさん、いったんこちらに退避してください!」
後ろからルリアの叫び声が響いた。 よし、来たか。
「スリーナ、ゴンス、全員下がれ! ルリアの精霊が出るぞ!」
俺たちは即座にオークたちから距離を取る。
ルリアの横に立っていたのは―――
水色の長い髪に透き通るような肌。淡い青のワンピースをまとい、まるで湖の底から現れたような儚くも美しい少女の姿をした精霊。
「へぇ~ウンディーネじゃん」
スリーナが感心した声を出した。
ウンディーネっていうとたしか水の精霊だったか。
「ディーネちゃん、水でオークたちを押し流して! 激流放水!」
「……ん」
ルリアの号令に、ウンディーネことディーネはコクリと頷いた。
ディーネがその可愛らしい口を大きく開けると、 そこから凄まじい勢いで水が放たれる。
おおぉ、こりゃ名前の通り激流だな。
……ん?
「……あれ、これ水か?」
吐き出されたのは、水というより―――キラキラと輝く光の結晶。いや、結晶どころじゃない。
「え? ディーネちゃん、それ水じゃない! ちょ、氷だよこれ!」
ディーネの口から放出されたのは極寒の冷気だった。
こりゃブリザードだな……猛吹雪だわ。
冷気の奔流がオークたちを一気に飲み込むと同時に、地面が瞬時に白く染まる。
「ストップ! もういいから! 張り切りすぎだよぉ~~キャッ!」
ルリアが叫ぶが、時すでに遅し。足元が凍りついたせいかルリアが派手にすっころんだ。
「……ん。なんか気持ち良くて、でちゃった」
「もう~~でちゃったじゃないの。カレーそんなに美味しかったの?」
ブンブンと頷く水の精霊ディーネ。
どうやらさっき食ったカレーが美味すぎたのか、あるいはスパイスで代謝が上がりすぎたのか、ディーネの出力はルリアの予想を遥かに超えていた。
ちょっとした興奮状態で、自身の魔力を全開放したようだ。
結果として南門周辺広範囲の地面が完全凍結。
俺たちの戦場は一瞬にして見事なまでの「スケートリンク」へと変貌した。
ほとんどのオークは氷漬けになったが、何体かは完全凍結を免れたようだ。
「グモォオ!?」
「グウェアッ!」
が、その生き残りたちも凍結した地面にツルッと滑り、見事にすっころぶ。
巨体を支える足元が急に摩擦を失い、次々とひっくり返るオーク。 あちこちで巨体が氷に叩きつけられる鈍い音が響く。ドデカイ棍棒も手から離れ虚しく氷の上を滑っていく。
これはとどめを刺すチャンスかと思いきや……現実はそう甘くない。
「わ、ちょっ、タケどいて!」
「タケオっち! 俺っち止まんないぜぇ~~!」
……そう。ツルツルするのは俺たちもだ。
スリーナがバランスを崩してあらぬ方向へ。そしてゴンスは生まれたての小鹿のように足をガクガクさせながら、氷の上を滑走し始める。
ツルッツルの氷の上で、誰もまともに立てない。
俺が必死にバランスを取っていると。
ズズズズ……
「……ん?」
なんとオークたちが、転んだままこちらに滑ってくるではないか。
歩くのは諦めて転がるという選択肢を取ったのか……いや、これアホらしく見えてけっこう理にかなっているぞ。
「スリーナ、ゴンス、ルリア!」
返事がない。3人とも氷結地面に苦戦している様子だ。
こんな無防備のまま門前まで攻め込まれるのはマズい。一体でも町中に入るとえらいことになる。
ならば……
俺が止めるしかない。
すぅうう、息を深く吸いオークが最も接近するタイミングで―――
「―――現代フード召喚!!」
「グモォオオオオオオオ!?」(つーーーん!)
オークが絶叫した。
顔のパーツがキュゥウウっとすべて中央に激寄り集中している。まるでマンガの顔みたいに。
その顔のまま悶絶して、地面を釣り上げらた魚のようにビクビクとのたうち回りはじめた。
そう。
俺がオークの口の中に直接召喚したのは―――
「ワサビ」だ。
日本が誇る、鼻に抜ける最強の刺激。
生ワサビ1キロ(チューブわさび20本分)を一気に口内インした。
「うらぁああ―――現代フード(ワサビ)連続召喚んんん!!」
俺は接近してくるオーク全ての口内にワサビ爆弾を直接投下した。
向こうから射程距離に入ってくれたおかげで、直接召喚することができる。
「グモォオオ!?」(つーーーん!)
「フガウモォぁ!」(つーーーん!)
「ムゴンゴォオオ!!」(つーーーん!)
ははは~~どうだ、ツーン地獄を味わうがいい!
しばらくして、ヒクヒクしていたオークたちはその動きをゆっくりと止めていく。
あれだけの量が一気に口に入ったのだから……強烈なツーンの後に待つのは窒息である。
「ふぅ……なんとかなったか」
こうしてオークの半数は氷漬けになり、残りの半数はワサビ漬けになった。
俺は額の汗をぬぐうと、お腹がグゥっと鳴る。
こりゃ、夜食いかんとやってられんな。

