買い付けを終えた俺たちはその日の宿へ戻った。
バザルの町で予約した宿は一言で言えば「簡素」だった。 石造りの壁に使い込まれた木のベッド、華美な装飾はないが掃除はしっかり行き届いている。俺は重い腰を浮かせてようやく一息つこうとしていた。
「ふはぁ~~」
グッと腰を伸ばして、息を吐く。
さて、明日の出発まではのんびりだ。
小一時間程ぼぉ~っとした。何も考えない時間もまた良きだ。
働きづめだった前世では考えられない時間の使い方だが、これがまたたまらんな。
さて、そろそろ夕食か。
ルリアたちを誘って一階の食堂へ降りようとしたその時だった。
外が、やけに騒がしい。
「……なんだ?」
怒号とけたたましい足音。
窓から顔を出すと、複数の人影が走り回っている。誰もが武装しているな……。
ルリアたちも異変に気付いて、宿のロビーに降りてきた。
ほどなくして宿の扉が勢いよく開く。
「騎士団の方々! 魔物が出ました!」
息を切らして入って来たのは町の自警団員だった。
周囲の森から魔物が群れで出たらしい。その規模は不明だが、近年では一番の大事らしい。
「申し訳ありませんが、至急応援をお願いします!」
……まあ、そうなるよな。
「了解だ。これは騎士団の仕事でもある。みんな行くぞ。自警団を手伝おう」
「はい! タケオさん」
「おっけ~タケ!」
「筋肉、あったまってきたぜ!」
俺たちは休息を切り上げ、装備を整えて宿を飛び出した。
◇◇◇
辺境の町は基本的に城壁に囲まれてる。そこまで魔物が出ない地区であっても、今回のようなこともあるからだ。
もちろん城壁と言っても、最前線や王城のようなごついモノではなく簡素なものだが。
町の守備は北門と南門の二手に分かれることになり、俺たち4人は南門へと配置された。
南門に到着すると、そこには怯えた表情の自警団員たちが十数名、槍を構えて待機していた。
魔物の群れとはまだ距離があるようで、いまのところ森の手前からは出てくる動きはないとのこと。
夕暮れ時の城壁前。緊張感が漂う中―――
「……くぅ」
静寂の中、不意にかわいらしい音が響いた。
「……ううぅ」
隣を見るとルリアが頬を赤くして、そっとお腹を押さえている。
「す、すみません、ちょうどお夕飯の時間だったので」
「いや、気にすんな」
見ればスリーナもゴンスもそして周囲の自警団員たちも、どこか元気がなかった。まあみんな飯前に駆り集めれたんだから、そりゃそうか。
ほどなくして、自警団のひとりが大きな籠を運んできた。
「皆様、お疲れ様です! 今のうちに食事を取っておいてください」
配られたのは、石のように硬いパンだけだった。
スリーナが絶望的な顔でパンを叩く。カチカチと虚しい音がする。
「……まあ、そうだよな」
準備なんてしてる暇もなかっただろう。
配ってくれるだけありがたい。
とはいえ。
「出張飯が硬いパンだけって、ちょっと泣けるな……」
この世界特有のパンをかじかじと口に押し込んでいく。
噛みしめるたびに、テンションが下がっていくのは否めない。周りの団員たちも、げっそりした顔で硬いパンをかじっていた。
これじゃあ戦う前に顎が疲れちまうな。
……よし。ここはおっさんが一肌脱ぐか。
俺は小さく息を吸い、静かに魔力を練った。
「―――現代フード召喚!」
ポンッ、ポンッと召喚されたものが目の前に現れる。
「……なんか、刺激的な匂いがするんだけど」
「でも……すっごく食欲そそります」
スリーナが鼻をひくつかせて、ルリアがこちらに寄って来た。
俺が召喚した現代フード。
そう、カレーである。
ルリアとゴンスがスプーンでカレーを一口運ぶ。
「……んむっ!? ―――はふぅ! 辛い、辛いですタケオさん!」
「うわっ、なんだよこれタケオっち! おれっちの舌がヒーヒーいってるぜ」
まあたしかに辛いだろうな。
この世界には刺激のある食べ物は少ない。いや、現実的には存在するんだろうけど食べ物と認定されていない。
たが俺は知っている。カレーの本領はここから発揮されるということを。
「なにこれ、超美味しいんだけど! 身体が芯から熱くなってくるじゃん!」
スリーナが汗をかきながらも、カレーをバクバクと食べ進める。
やはり彼女からか。スリーナは現代フードの受け入れ順応が早い。味に対する先入観が薄いのだろう。
「辛いっ……で、でも。お肉と野菜の甘みとこのドロッとしたスープが……ご、ご飯が止まりません!」
「おおおぉ! 俺っちの筋肉が喜んでるぜ! この熱さ、力がみなぎってくる!」
ルリアがカレーの魅力に堕ちていく。
ゴンスに至っては、豪快にカレーを飲み込むような勢いだ。
さて、俺も頂くか。
とろりとしたルーが温かいご飯と絶妙に絡み合い、口の中で一体となって完成される。このバランスの良さが最高。そしてジャガイモやニンジンなどの具材もよい。
が、そんなウンチクよりも……
うまいっ!
普通にうまいっ!
それだけで他の言葉は不要。
そう、こいつは老若男女問わず愛される最高のフードなんだ。
ガツガツ食うぞ~~~!
夜の冷えた空気の中で、スパイスの香りが広がる。
俺たちの周囲からでるにおいにつられて、自警団員たちも一人また一人とこちらを振り返る。彼らの口からは、隠しきれないヨダレが垂れていた。
「お、おい……なんだその匂い」
「なんかわかんないけど……うまそう……(じゅるり)」
自警団員たちが、ちらちらとこちらを見始める。
よし、まあいいか。
「みんな、カレー食うか」
「え、いいんですか!?」
「マジかよ! 騎士様最高!」」
俺は魔力を込めて、現代フード召喚を連発する。
ぽぽぽんっと出てきたホカホカのカレーたち。即席の配膳が始まった。
「こんなうまいもん、初めて食べた……」
「辛いけど、止まんねぇ」
「う、うめぇえええ! 腹の底から力が出てくる!」
「ご飯が苦手なら、パンにつけてもいいぞ」
自警団員たちも先ほどの渋い顔はどこへやら、次々と笑顔になる。
野外で食うカレー。
ちょっと肌寒い感じが、逆に身体の中からポカポカになって心地よい。
冷え切っていた南門の空気が、カレーの熱気とスパイスの香りで一気に「野外キャンプ」のような楽しい雰囲気に包まれていく。
やはりカレーはどんな状況でも人々を笑顔にする「王様」の料理だな。
そんな中、誰よりもカレーに夢中になっている奴がいた。
「キュア! キュアキュア~~♪」
ルリアの精霊、サラマンダーのサラだ。
「おいおい、サラ……」
気付けば三杯目。
「サラちゃん。それ、食べすぎじゃ―――」
「キュアッ、キュア♪」
「もう、あとでお腹痛くなっても知らないからね。はい、もう戻りなさい」
ルリアが召喚魔法陣を展開する。
どうやら、いったんサラを収納するようだな。たしかに現状魔物たちに大きな動きはないようだし、戦闘が起こるのかもわからんし。
「……ん? サラ、そのカレー持ち帰るのか?」
サラは複数のカレーを小さな手足で器用に抱え込んでいる。
「ええぇ……サラちゃん、そんなに夜食持っていって大丈夫?」と ルリアが心配そうに声をかける。
「キュア♪」
サラは満足げに短く鳴いて、カレーと共に召喚魔法陣の向こう側へと消えていった。
火の精霊だからか、スパイシーな味が気に入ったのかもしれんな。
まあ、深く考えてもしゃーないことだ。
その後もみんなでカレーを食って、大満足な夕飯の時を過ごした俺たち。
心と腹が満たされ、士気は最高潮。
さぁ~~魔物どもめ。来るならきやがれ。
バザルの町で予約した宿は一言で言えば「簡素」だった。 石造りの壁に使い込まれた木のベッド、華美な装飾はないが掃除はしっかり行き届いている。俺は重い腰を浮かせてようやく一息つこうとしていた。
「ふはぁ~~」
グッと腰を伸ばして、息を吐く。
さて、明日の出発まではのんびりだ。
小一時間程ぼぉ~っとした。何も考えない時間もまた良きだ。
働きづめだった前世では考えられない時間の使い方だが、これがまたたまらんな。
さて、そろそろ夕食か。
ルリアたちを誘って一階の食堂へ降りようとしたその時だった。
外が、やけに騒がしい。
「……なんだ?」
怒号とけたたましい足音。
窓から顔を出すと、複数の人影が走り回っている。誰もが武装しているな……。
ルリアたちも異変に気付いて、宿のロビーに降りてきた。
ほどなくして宿の扉が勢いよく開く。
「騎士団の方々! 魔物が出ました!」
息を切らして入って来たのは町の自警団員だった。
周囲の森から魔物が群れで出たらしい。その規模は不明だが、近年では一番の大事らしい。
「申し訳ありませんが、至急応援をお願いします!」
……まあ、そうなるよな。
「了解だ。これは騎士団の仕事でもある。みんな行くぞ。自警団を手伝おう」
「はい! タケオさん」
「おっけ~タケ!」
「筋肉、あったまってきたぜ!」
俺たちは休息を切り上げ、装備を整えて宿を飛び出した。
◇◇◇
辺境の町は基本的に城壁に囲まれてる。そこまで魔物が出ない地区であっても、今回のようなこともあるからだ。
もちろん城壁と言っても、最前線や王城のようなごついモノではなく簡素なものだが。
町の守備は北門と南門の二手に分かれることになり、俺たち4人は南門へと配置された。
南門に到着すると、そこには怯えた表情の自警団員たちが十数名、槍を構えて待機していた。
魔物の群れとはまだ距離があるようで、いまのところ森の手前からは出てくる動きはないとのこと。
夕暮れ時の城壁前。緊張感が漂う中―――
「……くぅ」
静寂の中、不意にかわいらしい音が響いた。
「……ううぅ」
隣を見るとルリアが頬を赤くして、そっとお腹を押さえている。
「す、すみません、ちょうどお夕飯の時間だったので」
「いや、気にすんな」
見ればスリーナもゴンスもそして周囲の自警団員たちも、どこか元気がなかった。まあみんな飯前に駆り集めれたんだから、そりゃそうか。
ほどなくして、自警団のひとりが大きな籠を運んできた。
「皆様、お疲れ様です! 今のうちに食事を取っておいてください」
配られたのは、石のように硬いパンだけだった。
スリーナが絶望的な顔でパンを叩く。カチカチと虚しい音がする。
「……まあ、そうだよな」
準備なんてしてる暇もなかっただろう。
配ってくれるだけありがたい。
とはいえ。
「出張飯が硬いパンだけって、ちょっと泣けるな……」
この世界特有のパンをかじかじと口に押し込んでいく。
噛みしめるたびに、テンションが下がっていくのは否めない。周りの団員たちも、げっそりした顔で硬いパンをかじっていた。
これじゃあ戦う前に顎が疲れちまうな。
……よし。ここはおっさんが一肌脱ぐか。
俺は小さく息を吸い、静かに魔力を練った。
「―――現代フード召喚!」
ポンッ、ポンッと召喚されたものが目の前に現れる。
「……なんか、刺激的な匂いがするんだけど」
「でも……すっごく食欲そそります」
スリーナが鼻をひくつかせて、ルリアがこちらに寄って来た。
俺が召喚した現代フード。
そう、カレーである。
ルリアとゴンスがスプーンでカレーを一口運ぶ。
「……んむっ!? ―――はふぅ! 辛い、辛いですタケオさん!」
「うわっ、なんだよこれタケオっち! おれっちの舌がヒーヒーいってるぜ」
まあたしかに辛いだろうな。
この世界には刺激のある食べ物は少ない。いや、現実的には存在するんだろうけど食べ物と認定されていない。
たが俺は知っている。カレーの本領はここから発揮されるということを。
「なにこれ、超美味しいんだけど! 身体が芯から熱くなってくるじゃん!」
スリーナが汗をかきながらも、カレーをバクバクと食べ進める。
やはり彼女からか。スリーナは現代フードの受け入れ順応が早い。味に対する先入観が薄いのだろう。
「辛いっ……で、でも。お肉と野菜の甘みとこのドロッとしたスープが……ご、ご飯が止まりません!」
「おおおぉ! 俺っちの筋肉が喜んでるぜ! この熱さ、力がみなぎってくる!」
ルリアがカレーの魅力に堕ちていく。
ゴンスに至っては、豪快にカレーを飲み込むような勢いだ。
さて、俺も頂くか。
とろりとしたルーが温かいご飯と絶妙に絡み合い、口の中で一体となって完成される。このバランスの良さが最高。そしてジャガイモやニンジンなどの具材もよい。
が、そんなウンチクよりも……
うまいっ!
普通にうまいっ!
それだけで他の言葉は不要。
そう、こいつは老若男女問わず愛される最高のフードなんだ。
ガツガツ食うぞ~~~!
夜の冷えた空気の中で、スパイスの香りが広がる。
俺たちの周囲からでるにおいにつられて、自警団員たちも一人また一人とこちらを振り返る。彼らの口からは、隠しきれないヨダレが垂れていた。
「お、おい……なんだその匂い」
「なんかわかんないけど……うまそう……(じゅるり)」
自警団員たちが、ちらちらとこちらを見始める。
よし、まあいいか。
「みんな、カレー食うか」
「え、いいんですか!?」
「マジかよ! 騎士様最高!」」
俺は魔力を込めて、現代フード召喚を連発する。
ぽぽぽんっと出てきたホカホカのカレーたち。即席の配膳が始まった。
「こんなうまいもん、初めて食べた……」
「辛いけど、止まんねぇ」
「う、うめぇえええ! 腹の底から力が出てくる!」
「ご飯が苦手なら、パンにつけてもいいぞ」
自警団員たちも先ほどの渋い顔はどこへやら、次々と笑顔になる。
野外で食うカレー。
ちょっと肌寒い感じが、逆に身体の中からポカポカになって心地よい。
冷え切っていた南門の空気が、カレーの熱気とスパイスの香りで一気に「野外キャンプ」のような楽しい雰囲気に包まれていく。
やはりカレーはどんな状況でも人々を笑顔にする「王様」の料理だな。
そんな中、誰よりもカレーに夢中になっている奴がいた。
「キュア! キュアキュア~~♪」
ルリアの精霊、サラマンダーのサラだ。
「おいおい、サラ……」
気付けば三杯目。
「サラちゃん。それ、食べすぎじゃ―――」
「キュアッ、キュア♪」
「もう、あとでお腹痛くなっても知らないからね。はい、もう戻りなさい」
ルリアが召喚魔法陣を展開する。
どうやら、いったんサラを収納するようだな。たしかに現状魔物たちに大きな動きはないようだし、戦闘が起こるのかもわからんし。
「……ん? サラ、そのカレー持ち帰るのか?」
サラは複数のカレーを小さな手足で器用に抱え込んでいる。
「ええぇ……サラちゃん、そんなに夜食持っていって大丈夫?」と ルリアが心配そうに声をかける。
「キュア♪」
サラは満足げに短く鳴いて、カレーと共に召喚魔法陣の向こう側へと消えていった。
火の精霊だからか、スパイシーな味が気に入ったのかもしれんな。
まあ、深く考えてもしゃーないことだ。
その後もみんなでカレーを食って、大満足な夕飯の時を過ごした俺たち。
心と腹が満たされ、士気は最高潮。
さぁ~~魔物どもめ。来るならきやがれ。

