左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 ガタゴト、ガタゴト……。
 古びた馬車は、騎士団本部のある王都から離れれば離れるほど音がひどくなってきた。
 整備された街道はとっくの昔に姿を消して、田舎の野道が延々と続く。

 「はぁ~~最悪……なんであたしがド田舎なんか行かなきゃなんないわけぇ?」

 向かいに座る赤毛の女がブツブツ文句を垂れ流している。鎧を着崩して、派手目の化粧に座り方は完全に不良少女だ。
 そんなつり目のヤンキーギャル女騎士と目が合った。

 「あたしはスリーナってんだ。女騎士になったらもっとこう……モテたり、チヤホヤされるって聞いたのにさぁ。なんでいけてないド田舎にいかされるのさぁ~~」

 ギャル騎士はしきりに「おかしいっしょ」を連呼しはじめる。

 「おれっちはゴンスだぜ。なにが得意って? この筋肉を見てわかるだろ? 力仕事はお手のものさ。素手で壁を砕いたり扉壊したり、すごいだろう」

 俺の目の前でデカい力こぶを作ってみせるゴツイ男。はたして壁や扉をぶっ壊すことが仕事かどうかはわからんが。

 「……まあ、勢い余って隊長の椅子を粉砕しちまってな。それで辺境送りってわけだぜ」

 聞いてもいないのに二人とも経歴を喋りだした。ヤンキーギャルに筋肉か。なるほど、三等騎士ってのはクセの強いやつらの集まりらしい。
 あとゴンスに関しては、隊長の椅子を壊した以外にも左遷要因はあると思うぞ。

 俺はと言えば、のんびり外を眺めていた視線を彼らに向けて口をひらいた。

 「ああ、俺はタケオだ」

 「珍しい名前だぜ。異国の出身か~? ま、筋肉に関係ないし、どーでもいいか」

 質問したゴンスが勝手に自己完結した。やはり筋肉が好きらしい。
 ま、異国ってのは間違いじゃないけどな。だが日本から転生したなんて言っても意味不明だろうし。

 「で、あんたなんで飛ばされたのさ?」

 「本部のお偉い方とちょっとな」

 「なにそれぇ、うけるぅ~本部の幹部とやりあうとか。にしてもぉ~あんた本部所属って感じしないねぇ~。でも、おっさんにしてはまあまあの顔じゃん」

 褒めたのか罵倒したのかどっちだそれ。
 まあいい、些細なことは気にしない。それにこいつらに悪意はかんじないしな。

 他愛もない会話はほどほどで終り、スリーナは鎧を外してインナー姿で寝始め、ゴンスは豪快ないびきを奏で始めた。馬車の揺れが心地よいリズムになり、俺の瞼もおちかける……いや、その前に。

 少し小腹がすいたな。

 というわけで―――

 「……現代フード召喚」

 ポンっと、手に現れる黄色い袋。中身は……そう、ポテトチップスだ。開封した瞬間、空気がうっすらジャガイモと油の香りに染まる。

 ポリッ……ポリポリ……うむ、やはりポテトチップスにハズレはないな。

 いやぁ~~これでスマホでもあれば動画ダラダラ見ながら、延々と食べてるんだが。
 あいにくこの異世界にそんな機器はない。

 軽く幌を上げると、外はひたすら草原。ずっと同じで草しかない。その無意味な単調さが逆に心地いい。
 のんびりと代り映えのしない草原を見ながら、馬車に揺られてポリつくのもアリだな。
 いいじゃないか~~うんうん。

 俺が贅沢な時間を堪能していると……

 じぃ~~~。

 すっげぇ視線を浴びていることに気付いた。
 さっき絡んできた2人は寝てる。俺は馬車をぐるり見回してみた。

 見ると、端っこにちょこんと座っていたちっこい少女が、その蜂蜜色の黄色く綺麗な瞳を大きく見開いている。
 ……その視線の先には俺のポテトチップス。

 う~~ん、めっちゃ見てる……

 しゃ~ない。

 俺がちょいちょいと彼女を手招きすると。
 その女の子は、爆速で俺の横にしゅたっと飛んできた。

 小動物のような可愛い外見のくせに、立ち止まると胸元がブルルンと主張してしまう。ここだけは成長し続けているのか……
 栗色の髪はふわふわで、頭頂部から元気にぴょこんと生えたアホ毛がなんともなごませくれる。

 「あ、わたしルリアです」
 「おう、俺はタケオだ」

 そして少しばかりルリアの話を聞いた。
 彼女は精霊使いという珍しい魔法の使い手だった。騎士団本部魔法課からこちらに転属となったそうだ。

 魔法課か……騎士団にも魔法使いはたくさんいるし、なかには魔法剣なるものを使うものもいる。
 まあ俺はあんま絡んでなかったから知らんけど。てか本部なんて巨大企業の本社みたいなもんだから、ほとんどの人と接点もないままにおわる。

 にしてもあまり左遷要素がないように思えるな。
 希少な魔法の使い手ならば、むしろ重宝されるのではないのか?
 そんな俺の疑問が顔に出ていたのか、彼女は自らその理由を語った。

 「わたし魔法が下手くそなんです……いつも失敗して怒られて」

 そうなのか? だがルリアはまだ16歳だそうだし、これからって感じだけどな。本部の魔法課には育成制度が整ってないのだろうか。
 しょんぼり肩を落としたルリアだったが、その蜂蜜色の大きな瞳は俺の手元に一点集中し続けている。

 まあ、決まったことをあじゃこじゃ言っても仕方ないことだな。

 「とりあえず食うか?」

 俺はポテトチップスの袋を彼女にグッと差し出した。
 「ええ、いいんですか!」とアホ毛を左右に揺らして、袋に遠慮なく手を突っ込むちっこい美少女。
 まあ、そこまで凝視されたら、俺も気になってしゃ~ないからな。それに手招きしたのも俺だし。

 「な、な、なぁ~~~なんですかこれ!?」

 「ポテトチップスってんだ」

 「ぽ……ポて?? こんなに薄いのに崩れない……な、なにこれ……お、おいしい!!」

 ルリアの特徴的なアホ毛が、ピンと真上に伸びた。

 ポリポリ……
 ポリポリ……

 止まらない。

 「ふあ、ふあ、しょっぱくて、こうばしくて、カリカリして、ふぁふぁ~~♡」

 目が完全にとろけてる。
 あ~~これはダメだ、堕ちたやつの顔だ。前部署の剣姫さまと同じ目になっちゃったよ。

 ポリポリ……
 ポリポリ……

 「タケオさん……」
 「なんだルリア」

 「……なくなりました」

 すっげぇ期待を込めたかわいらしい目で俺を見あげるルリア。
 塩気のついた小さな指をペロペロ舐めだした。

 さらに空になった袋を逆さにして、ブンブン振りはじめる。

 わかった、わかった。

 俺は再びポテトチップスを召喚した。

 「す、すごい! それ魔法ですか?」
 「んん? まあそうだな」

 召喚魔法なのだから、まあ魔法だな。魔力も消費するし。
 俺は袋をパーティーあけして、期待を込めた目でワクついているルリアの目のまえに置く。

 栗毛の美少女はさっそくパクリ……


 「――――――はぅあぁああ!! さっきとちがう!?」


 ルリアのアホ毛がブンブン左右に揺れる。
 ククク……そりゃそうだ。さっきのは塩味、そしてこいつは……
 コンソメ味だからな!

 「ふぁ、ふぁ、これもおいしいぃ! なんか止まらないですぅ~~♪」

 ポリポリ……ポリポリ……。俺もつまみつつ、のんびり馬車旅を満喫する。

 ああ……いいぞ最高だ。これぞ理想のスローライフの幕開けだ。


 ―――ガタンッ!!


 「うおっ!?」

 ポテトチップが宙に舞った。寝ていた二人も飛び起きる。

 「なによ、急に!?」 
 「あいてて……脱輪かな?」

 スリーナとゴンスが寝起きであたりをキョロキョロする。
 いや違うな。御者の声が震えていた。

 「しゅ、襲撃だァーー!!」

 俺が幌を開けた瞬間―――

 赤黒い毛に覆われた魔物たちが牙を剥き、馬車をぐるりと囲んでいた。

 おいおいおい。


 ふざけるなよ、ここで俺のスローライフを終わらされてたまるか。