グルト騎士団本庁舎の正門前。そこには、今回の買い出し任務に就くいつもの面々が集まっていた。
俺とルリアにスリーナ、それにゴンス。王都からこの地へ流れてきた時と同じ、「いつもの4人」だ。知った顔ぶれで仕事もやりやすい。
今回の任務は主に野菜や肉、そして小麦粉などのまとめ買いである。
正直グルトの町にも流通しているものではあるが、定期的に周辺の町や村へ直接買い付けに行くのが騎士団の方針だった。
王国騎士団は王国一の巨大組織だ。
その資金力が各地に回ることで、経済が循環する。特に辺境に点在する町は、実はかなり重要な存在だったりする。
何もない土地は荒れやすいし魔物も増える。だからこそ人口をある程度分散させ、町を維持する必要があるのだ。
三等騎士団の食堂も、すべてを俺の現代フード召喚で賄っているわけじゃない。
そんなことしたら俺の魔力が足らんしな。
だから元々あった野菜スープやベーコンに硬いパンも、しっかりメニューに組み込まれている。
現代フードの人気は高く、食堂にくる奴らの舌が肥え始めているのは事実だ。だが、だからといってスープやパンが残るかというと、そんなことはない。
―――食えるだけでありがたい。
その感覚はこの世界に住む人共通の認識で、ちゃんと持っている。
こういうところは、前世の俺としては見習いたいところではあるな。まあマズすぎる飯を食いまくりたいわけではないが。
「よし、忘れ物はないな。出発するぞ」
俺たちが馬車に乗り込もうとしたその時、背後からただならぬ威圧感というか妙に熱い視線を感じた。 振り返ると、そこにはグルト辺境騎士団のトップ二人が並んで立っていた。
「タケオ……無事に戻ってこい」
「タケオちゃんがいない数日間~~さみしいわ~♡」
氷剣姫シュトリアーナが、悲壮感すら漂う真剣な面持ちで俺の肩を掴む。
フルノラ団長は、いつも通り距離感が近い。あとなんかエロい。
いや、ただの買い付けやがな。
「ぜ、絶対に戻るんだぞ」
「待ってるわ~ん♡」
二人の目が現代フードへの渇望でギラついている。このままいたら、二人とも本気でよだれを垂らしそうだったので、俺は軽く礼をしてそそくさと馬車に乗り込んだ。
◇◇◇
馬車はゆっくりと正門を抜け草原の道を進んでいく。車輪の軋む音と、馬の蹄のリズムが心地いい。
遠くにはなだらかな丘と、低く流れる雲。平和そのものだ。
「にしてもタケオっち、団長と剣姫様に見送られるなんてすげぇな」
ゴンスが何気なく言った一言に。
―――ぴくん
向かいに座る女子二人の視線が、同時に俺に刺さった。
ゴンスが豪快に笑いながら太い腕を組む。その余計な一言が、女子二人の「地雷」を踏み抜いたことにこの筋肉ダルマは気づいていない。
「そういえばタケオさん……剣姫様の部屋から、いかがわしい声が聞こえるって噂……」
ルリアがじとーっとした視線を俺に向けてきた。蜂蜜色の瞳にハイライトがない……怖い。
「そうそう。なんか室内で、団長も交えて激しい音を出してたらしいじゃん?」
スリーナがニヤつきながら追撃してくる。
「な、なに言ってんだ!?」
声が裏返った。
くそぉ……この異世界の壁どうなってんだ。隣室に駄々洩れじゃねぇか。
確かに、あの二人は実際に暴れたけどな……。
それは剣姫がハンバーガーに堕ちた時の声で、団長がシュークリームに絶頂した時の音だ。確かに激しい音(剣姫と元剣聖のガチ一騎打ち)も出したが、エロい要素は微塵もない。フルノラ団長そのものがエロいのは元からだしな。
「タケぇ~~密室で、いったいなにやってんのさ」
「た、ただの打ち合わせだよ。仕事の」
俺の回答にまったく信用しない2人はさらに詰め寄って来た。
「やっぱさぁ、タケはなんだかんだ言ってデカいのがいいわけ?」
「た、タケオさん……ルリアのじゃ、満足できないんですか……?」
スリーナが自分の胸元をチラ見しながら、不満げに口を尖らせる。
そして上目遣いでプルプルと震えながら潤んだ瞳で訴えてくるルリア。 おい、やめろ。おっさんがルリアに手を出した瞬間、即牢屋行きだ。そもそも俺にそんな趣味はないしな。
それにしても、視線が痛い。
剣姫と団長とのやり取りをバラすとあとが怖いからなぁ。どうしたもんか……
「……ガム、食べる?」
とりあえず現代フード召喚を発動した。
「だまされませんよ! いつもそうやって食べ物で釣って!」
「男らしく吐きな。タケ」
と言いつつ俺の召喚したガムをちゃっかり手にするルリアとスリーナ。
「そうそう、タケオさんは剣姫様と怪しいです。で、これどうやって食べるんですか?」
「前職からできてる可能性もあるし。んで、この紙とればいいの?」
いや、完全に食う気まんまんじゃねぇか。
俺は包み紙と銀紙を剥がし、手本を見せる。
「なんかこれペラペラですね」
「たしかに、紙じゃん」
たしかに見た目はそんな感じだけどな。こいつの恐ろしさを知らんようだな。
俺は分かりすくガムを口に入れて、クチャクチャと噛んでみる。
「あ、甘いです! 噛めば噛むほどジュワ~って甘さが広がる!?」
「なにこれ、超いかすじゃん!」
だろ?
移動のお供といえばガムだ。単調な時間の気分転換にもなるし、口寂しさの解消やお手軽感がよい。
「―――むぐっ!?」
ふと隣を見ると、ゴンスの顔がみるみるうちに青くなる。
「こら、いきなり10枚も食うな! それにガムは最終的に出すもんだ。飲みこんじゃダメだぞ」
俺は慌ててゴンスの背中をバシバシ叩き、彼が飲み込みそうになったガムの塊を吐き出させた。
「あ……タケオさん、この銀紙って」
「そうだ、噛み終わったらそれに包むんだ」
「うわっ、タケ! こっちのガムは違う味がするじゃん!」
「むっふっ! タケオっち、なんかこれスースーする!」
スリーナの言う通り、何個か違う種類のガムを出しておいた。
ちなみにゴンスの噛んでいるのはミント味だ。スリーナがぶどう味。
ガタゴトと馬車に揺られながらのんびり。
ガムを噛みながら、外の景色を眺める。
……うん、やっぱいい。こういう時間好きだわ。
ルリアとスリーナは、ガムをくるくる巻いたりしてキャッキャしている。
それ、俺も子供の頃やったなぁ。前世も異世界も変わらずに一度はやるものなのか。
どれ、もうちょっと遊んでみるか。
俺は舌を使ってガムを口の中の定位置へと誘導する。 そして、前歯の裏に薄く広げ空気を送り込むと……
プゥ~~
「な、なんですかそれ!?」
「なんかタケの口から丸いの膨れてるんだけど!?」
「これはな、風船ガムだ」
俺はみんなに風船ガムを渡す。
「えと、こうですか? あ、あれ! む、難しいです……」
「全然膨らまねぇ~~タケオっちみたいにいかないぜ~口の筋肉を鍛え直しだなこりゃ」
まあ、一朝一夕にはできない。こればっかりは何回もやるしかないからな。まあ移動時間は存分にあるんだから、楽しみと思ってこの出張期間に習得できればいいだろう。
などと少しばかり上から目線になっていた、その時だった。
プゥウウウ~~~!
「わあぁ~~スリーナさんすごい!」
「タケオっちのよりデカいぜ!」
俺よりデカいだと……
スリーナの口元に、俺の倍近い大きさの見事なピンク色の球体が完成していた。 彼女は「えへへ、余裕だし?」と言いたげに、不敵な笑みを浮かべている。
これは……オーバー・ザ・フェイス!?
自身の顔よりも大きな風船を膨らませる大技だ。
たしかにスリーナはキャラ的に風船ガムが似合う気はする。元々器用な面をもっているしな。
だが……
風船ガム歴30年以上の俺が、一瞬で初心者に抜かれるとは。
おっさんのプライドが少しだけ疼いた。
「……いいだろう」
俺は静かに、新たな風船ガムを3つ口に放り込んだ。
いまから繰り出す技は、1つでは足らないからな。
「スリーナ、俺の本気を見せてやる。ダブル風船だ!」
「のぞむところじゃん! あたし、もう一個つくるし!」
「なぁあああ! オーバー・ザ・フェイスを複数だとおぉおおお!?」
「うわぁああ~タケオっち~~風船が顔面に張り付いたぜぇ~~!」
「ちょっと、ゴンスさんこっち来たらわたしの風船われちゃう~~」
馬車の外では魔物がうろついているかもしれないというのに、車内ではピンク色の風船を膨らませる大人たちの、アホらしくて平和な戦いに明け暮れるのであった。
うお、なんか出張テンション上がってきた。
辺境スローライフ勤務、最高じゃねぇか。
俺とルリアにスリーナ、それにゴンス。王都からこの地へ流れてきた時と同じ、「いつもの4人」だ。知った顔ぶれで仕事もやりやすい。
今回の任務は主に野菜や肉、そして小麦粉などのまとめ買いである。
正直グルトの町にも流通しているものではあるが、定期的に周辺の町や村へ直接買い付けに行くのが騎士団の方針だった。
王国騎士団は王国一の巨大組織だ。
その資金力が各地に回ることで、経済が循環する。特に辺境に点在する町は、実はかなり重要な存在だったりする。
何もない土地は荒れやすいし魔物も増える。だからこそ人口をある程度分散させ、町を維持する必要があるのだ。
三等騎士団の食堂も、すべてを俺の現代フード召喚で賄っているわけじゃない。
そんなことしたら俺の魔力が足らんしな。
だから元々あった野菜スープやベーコンに硬いパンも、しっかりメニューに組み込まれている。
現代フードの人気は高く、食堂にくる奴らの舌が肥え始めているのは事実だ。だが、だからといってスープやパンが残るかというと、そんなことはない。
―――食えるだけでありがたい。
その感覚はこの世界に住む人共通の認識で、ちゃんと持っている。
こういうところは、前世の俺としては見習いたいところではあるな。まあマズすぎる飯を食いまくりたいわけではないが。
「よし、忘れ物はないな。出発するぞ」
俺たちが馬車に乗り込もうとしたその時、背後からただならぬ威圧感というか妙に熱い視線を感じた。 振り返ると、そこにはグルト辺境騎士団のトップ二人が並んで立っていた。
「タケオ……無事に戻ってこい」
「タケオちゃんがいない数日間~~さみしいわ~♡」
氷剣姫シュトリアーナが、悲壮感すら漂う真剣な面持ちで俺の肩を掴む。
フルノラ団長は、いつも通り距離感が近い。あとなんかエロい。
いや、ただの買い付けやがな。
「ぜ、絶対に戻るんだぞ」
「待ってるわ~ん♡」
二人の目が現代フードへの渇望でギラついている。このままいたら、二人とも本気でよだれを垂らしそうだったので、俺は軽く礼をしてそそくさと馬車に乗り込んだ。
◇◇◇
馬車はゆっくりと正門を抜け草原の道を進んでいく。車輪の軋む音と、馬の蹄のリズムが心地いい。
遠くにはなだらかな丘と、低く流れる雲。平和そのものだ。
「にしてもタケオっち、団長と剣姫様に見送られるなんてすげぇな」
ゴンスが何気なく言った一言に。
―――ぴくん
向かいに座る女子二人の視線が、同時に俺に刺さった。
ゴンスが豪快に笑いながら太い腕を組む。その余計な一言が、女子二人の「地雷」を踏み抜いたことにこの筋肉ダルマは気づいていない。
「そういえばタケオさん……剣姫様の部屋から、いかがわしい声が聞こえるって噂……」
ルリアがじとーっとした視線を俺に向けてきた。蜂蜜色の瞳にハイライトがない……怖い。
「そうそう。なんか室内で、団長も交えて激しい音を出してたらしいじゃん?」
スリーナがニヤつきながら追撃してくる。
「な、なに言ってんだ!?」
声が裏返った。
くそぉ……この異世界の壁どうなってんだ。隣室に駄々洩れじゃねぇか。
確かに、あの二人は実際に暴れたけどな……。
それは剣姫がハンバーガーに堕ちた時の声で、団長がシュークリームに絶頂した時の音だ。確かに激しい音(剣姫と元剣聖のガチ一騎打ち)も出したが、エロい要素は微塵もない。フルノラ団長そのものがエロいのは元からだしな。
「タケぇ~~密室で、いったいなにやってんのさ」
「た、ただの打ち合わせだよ。仕事の」
俺の回答にまったく信用しない2人はさらに詰め寄って来た。
「やっぱさぁ、タケはなんだかんだ言ってデカいのがいいわけ?」
「た、タケオさん……ルリアのじゃ、満足できないんですか……?」
スリーナが自分の胸元をチラ見しながら、不満げに口を尖らせる。
そして上目遣いでプルプルと震えながら潤んだ瞳で訴えてくるルリア。 おい、やめろ。おっさんがルリアに手を出した瞬間、即牢屋行きだ。そもそも俺にそんな趣味はないしな。
それにしても、視線が痛い。
剣姫と団長とのやり取りをバラすとあとが怖いからなぁ。どうしたもんか……
「……ガム、食べる?」
とりあえず現代フード召喚を発動した。
「だまされませんよ! いつもそうやって食べ物で釣って!」
「男らしく吐きな。タケ」
と言いつつ俺の召喚したガムをちゃっかり手にするルリアとスリーナ。
「そうそう、タケオさんは剣姫様と怪しいです。で、これどうやって食べるんですか?」
「前職からできてる可能性もあるし。んで、この紙とればいいの?」
いや、完全に食う気まんまんじゃねぇか。
俺は包み紙と銀紙を剥がし、手本を見せる。
「なんかこれペラペラですね」
「たしかに、紙じゃん」
たしかに見た目はそんな感じだけどな。こいつの恐ろしさを知らんようだな。
俺は分かりすくガムを口に入れて、クチャクチャと噛んでみる。
「あ、甘いです! 噛めば噛むほどジュワ~って甘さが広がる!?」
「なにこれ、超いかすじゃん!」
だろ?
移動のお供といえばガムだ。単調な時間の気分転換にもなるし、口寂しさの解消やお手軽感がよい。
「―――むぐっ!?」
ふと隣を見ると、ゴンスの顔がみるみるうちに青くなる。
「こら、いきなり10枚も食うな! それにガムは最終的に出すもんだ。飲みこんじゃダメだぞ」
俺は慌ててゴンスの背中をバシバシ叩き、彼が飲み込みそうになったガムの塊を吐き出させた。
「あ……タケオさん、この銀紙って」
「そうだ、噛み終わったらそれに包むんだ」
「うわっ、タケ! こっちのガムは違う味がするじゃん!」
「むっふっ! タケオっち、なんかこれスースーする!」
スリーナの言う通り、何個か違う種類のガムを出しておいた。
ちなみにゴンスの噛んでいるのはミント味だ。スリーナがぶどう味。
ガタゴトと馬車に揺られながらのんびり。
ガムを噛みながら、外の景色を眺める。
……うん、やっぱいい。こういう時間好きだわ。
ルリアとスリーナは、ガムをくるくる巻いたりしてキャッキャしている。
それ、俺も子供の頃やったなぁ。前世も異世界も変わらずに一度はやるものなのか。
どれ、もうちょっと遊んでみるか。
俺は舌を使ってガムを口の中の定位置へと誘導する。 そして、前歯の裏に薄く広げ空気を送り込むと……
プゥ~~
「な、なんですかそれ!?」
「なんかタケの口から丸いの膨れてるんだけど!?」
「これはな、風船ガムだ」
俺はみんなに風船ガムを渡す。
「えと、こうですか? あ、あれ! む、難しいです……」
「全然膨らまねぇ~~タケオっちみたいにいかないぜ~口の筋肉を鍛え直しだなこりゃ」
まあ、一朝一夕にはできない。こればっかりは何回もやるしかないからな。まあ移動時間は存分にあるんだから、楽しみと思ってこの出張期間に習得できればいいだろう。
などと少しばかり上から目線になっていた、その時だった。
プゥウウウ~~~!
「わあぁ~~スリーナさんすごい!」
「タケオっちのよりデカいぜ!」
俺よりデカいだと……
スリーナの口元に、俺の倍近い大きさの見事なピンク色の球体が完成していた。 彼女は「えへへ、余裕だし?」と言いたげに、不敵な笑みを浮かべている。
これは……オーバー・ザ・フェイス!?
自身の顔よりも大きな風船を膨らませる大技だ。
たしかにスリーナはキャラ的に風船ガムが似合う気はする。元々器用な面をもっているしな。
だが……
風船ガム歴30年以上の俺が、一瞬で初心者に抜かれるとは。
おっさんのプライドが少しだけ疼いた。
「……いいだろう」
俺は静かに、新たな風船ガムを3つ口に放り込んだ。
いまから繰り出す技は、1つでは足らないからな。
「スリーナ、俺の本気を見せてやる。ダブル風船だ!」
「のぞむところじゃん! あたし、もう一個つくるし!」
「なぁあああ! オーバー・ザ・フェイスを複数だとおぉおおお!?」
「うわぁああ~タケオっち~~風船が顔面に張り付いたぜぇ~~!」
「ちょっと、ゴンスさんこっち来たらわたしの風船われちゃう~~」
馬車の外では魔物がうろついているかもしれないというのに、車内ではピンク色の風船を膨らませる大人たちの、アホらしくて平和な戦いに明け暮れるのであった。
うお、なんか出張テンション上がってきた。
辺境スローライフ勤務、最高じゃねぇか。

