左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 「ずるい、ズルい、ずるいぃいいい!」

 ここは、三等騎士団食堂。そして目の前でブンブンと手を振り回しながら抗議しているのは、後輩のミーシャだ。その勢いで、鼻にかけたメガネが今にもずり落ちそうになっている。

 「先輩だけズルいです! お泊り出張なんて!」

 「だから仕事だって言ってるだろ……」

 「仕事でもズルいものはズルいんです!」

 なぜこの子がここまでワーワー言っているのか。 理由は単純だ。
 周辺の町への物資買い付け任務が発令されて俺、ルリア、スリーナ、ゴンスの四名が選出されたのだが、ミーシャには「留守番」という非情な通告がなされたからである。
 周辺の町と言っても、ここは王国最果ての辺境で町と町の距離もかなりのもの。当然ながら日帰りなんて芸当は無理で、お泊まりの出張となる。 それを聞いたミーシャが「ええぇえ、私だけ仲間外れですかぁ~~」と拗ねてしまったわけだ。

 「いや、だから仕事……」

 言いかけて、俺は一度息を整えた。

 「ミーシャには、俺がいない数日間の食堂運営を任せる。これは大事な仕事だぞ」

 そう告げると、さっきまで床に転がりそうな勢いで拗ねていたミーシャは一瞬だけ口を尖らせ、それから大きくため息をついた。

 「……ううぅう……わかりましたぁ~」

 しぶしぶ納得したらしい。
 だがすぐに上目遣いでこちらを見てきた。メガネをクイっとしてその口を開く。

 「そのかわり~帰ってきたらご褒美もらいますからね?」

 「ご褒美か……まあ、いいだろ」

 俺が頷くと、ミーシャは「やったぁ!」と両手を上げた。現金なやつだ。

 これで話はまとまったと思ったのだが。
 出発準備に入ろうとした俺の袖を、クイクイとミーシャが引っ張った。

 「肝心なことを忘れてます。先輩がいない間のメニューはどうするんです?」

 ああ……。そうか。それがあった。
 俺がこの食堂に来てから、団員たちの舌はすっかり肥えてしまっている。

 「朝食用の粉末スープはある程度ストックを召喚してあるから、数日はもつとして……問題は昼食だよな」

 現状、昼飯のメインは「牛丼」「天丼」、そしてたまに「ざるそば」の三種で回している。
 副食として今まで出していた豆のスープとパンも並行して出しているのでこちらは今までどおりでよいが、メインは俺がいないと現代フード召喚が使えないからなぁ。

 「う~む。以前のメニューに一時的に戻すか……」

 すると、ミーシャが露骨に顔をしかめた。

 「ええー! そんなことしたら暴動がおきますよぉ! あの味を知った騎士たちが黙ってるわけないじゃないですかぁ!」
 「そう言われてもな、ミーシャ。俺の現代フード召喚なしに、牛丼を数日分作り置きして鮮度を保つなんて無理だろ」
 「ひどい! そんな、かわいい後輩のミーシャが飢えた騎士たちに襲われていいんですか! 牛丼がないならミーシャを食べればいいじゃない、なんて言われたらどうするんですか! 私、かわいいからすぐに襲われますからね!」

 ……いや、そうはならんやろ。

 「ああぁ~~! 先輩、いま鼻で笑った! バカにしましたね!」

 ぷんぷんと怒るミーシャを眺めながら俺は考える。 たしかに食堂課としては、俺の不在中も「美味い飯」を提供し続けたいってのは本音だが……

 お、そうだ。いいものがあった。
 俺は深く息を吸い込み、魔力を練り上げる。

 「現代フード召喚!」

 ポンッ! と乾いた音と共に、テーブルの上に長方形の箱が現れた。

 「……なんですか、この本みたいな箱?」

 ミーシャが不思議そうにその箱を手に取る。

 「あけてみ」

 言われるがままにミーシャが箱の封を切る。

 「え……なんか透明な厚手の袋に入った……これ、茶色いドロドロ? なにこれ??」
 「その透明な袋を、そのままそこに入れてくれ」

 俺は沸騰したお湯の鍋を指さした。首を傾げながらも、ミーシャは言われた通り袋を湯に沈める。

 待つこと5分ほど。

 「よし、取り出して、ご飯にかけてみろ」

 「???……わかりました先輩」
 「熱いから気をつけてな」

 コクコクと頷きながら、慎重に袋の上部を破いて中身をご飯にかけるミーシャ。

 「……あれ、このにおいって」

 ミーシャの鼻がピクリと動く。
 袋を開けたさいに漏れ出たにおい。さらにご飯の上に乗ったホカホカの具材を見て、ミーシャも気付いたようだな。
 そう、これは牛丼のレトルトパウチ食品である。
 具材の載った牛丼を一口食べると、ミーシャがビクッと揺れた。

 「すご……こ、これ、牛丼ですよ……先輩」

 「だろ。こいつなら常温で長期間の保存が可能だ。食べる時にこうして湯せんすれば、召喚魔法の使えないミーシャやじいさんでも『牛丼』を提供できる」

 ミーシャが「ほぇ~~」と感心の声を漏らす。厨房の奥では、じいさんの髭がピクンと力強く揺れた。

 「あ、でもでも先輩! ご飯はどうするんです? さすがに炊き立てのご飯を数日分用意するのは……やっぱりパンで代用ですか?」

 ふむ、牛丼パンだと……なんか前世でもその存在は聞いたことがあるが未経験だな。

 「パンも試してみたいが、ご飯も用意しておこう―――現代フード召喚!」

 ポンっと現れたのはパックご飯だ。

 「ああ~~こ、これ、ごはんですか。あれ? でもカチカチですよ?」
 「こいつもさっきのレトルト牛丼と同じく長期保存が可能な食品だ。そしてこいつも湯せんでいける」

 俺はパックご飯を容器のまま沸騰した鍋に入れて、中火で10分ほどまつ。
 本来は電子レンジでチンして温めるのが基本だが、この異世界に電子レンジなんてない。だが、湯せんで代用することも可能なのだ。

 「よしミーシャ、中身をとりだしてみてくれ」

 容器のビニールを慎重にはがしていくミーシャ。

 「はぁわあああ~~せ、先輩ぃ~ホカホカ・ツヤツヤのご飯でてきたぁ~~」

 うむ、こいつを器によそって、さきほど湯せんしたレトルト牛丼をかければ―――

 「牛丼の完成だ」
 「ふぇえ~~せ、先輩ってやっぱりとんでもない魔法を使うんですね……」

 いや、まあ俺は召喚しているだけだからな。リスペクトするのはこのレトルト牛丼やパックご飯を開発した人や流通させたひとたちなんだが。まあそんなこと言っても仕方ないので、どや顔をしてみた。

 「あと、これも出しておくか」
 「うわ、また違う箱でてきた!」

 新たに出したレトルト食品は、中華丼。

 「ふはぁ~~これなんですかハフハフ! とろみと具材たっぷりで~ハフハフ!」
 「…………!?」

 よしよし、ミーシャとじいさんの反応よし。
 評判が良ければ、メインメニューのローテーションを任せてもいいな。

 「牛丼と中華丼のレトルトがあれば、数日はまわるだろ」
 「はいっ! 大丈夫ですよぉ先輩~~ハフハフ!」

 俺はレトルト食品とパックご飯をある程度召喚してミーシャたちに託し、食堂をあとにした。



 ◇◇◇



 「タケオさ~ん、こっちですよ~」
 「タケ! 遅いぞ出発だ」
 「タケオっち、筋肉の準備はできてるか~」

 元気に手を振るルリア。
 馬車の中から顔を出すスリーナ。
 なんか良く分からんポーズをとるゴンス。

 このメンツで動くのは久々だな。王都から辺境へ向かうあの馬車旅以来か。 騒がしい面々だが、気心は知れている。

 さてと、おっさん。初の出張を楽しみますか。