剣姫を堕とした数日後。
昼食の喧騒が嘘のように引いていく三等騎士団食堂。
「これで今日の昼食提供は終了だな」
「は~い、先輩~~厨房の片付けにはいりますね~」
「…………」
ミーシャはメガネをくいっと上げて腕まくりしつつ、厨房の方へ向かう。相変わらずじいさんは無言のまま。この人ずっと厨房にいるな……住んでるんじゃないかと思う程だ。
団員たちがそれぞれの持ち場へ戻った食堂は、がらんとした静寂に包まれていた。厨房からはミーシャたちが食器を洗う軽やかな音が聞こえてくる。
ふはぁ~~平和そのもだな。俺はテーブルを拭きながら一人この感じに満足していたのだが。
「キュア!」
「なんでおまえがここにいるんだ?」
俺は向かいの椅子に座る赤いトカゲにツッコミを入れる。
ルリアの召喚精霊サラマンダーのサラだ。
「先輩~サラちゃん、すっかり懐いちゃいましたねぇ」
厨房からひょっこり顔を出したミーシャが、メガネの奥の目を細める。
いやいや、懐いちゃダメだろ。
「サラ、ご主人様のところにいなくていいのか?」
「キュア~♪」
きゅあ~♪ ちゃうがな。
が、サラは俺のツッコミなど気にせず3杯目の牛丼を堪能していた。しかもつゆだく。
たしか今日はルリアの魔法課、午後から魔法訓練じゃなかったか?
「サラちゃんは先輩のご飯が大好きなんですよ~」
「いやいや、それはいいとしてもここにずっと居ていいわけないだろ」
にしても困ったな。
無理矢理連れていった方がいいのかと思案していると、食堂の扉が勢いよく開いた。
「はぁ……はぁ……! サラちゃん、やっぱりここにいた!」
息を切らして駆け込んできたのは、当のご主人さまであるルリアだった。栗色の髪を揺らし、その先端のアホ毛がぴょこぴょこと焦りを物語っている。
「もう、魔法訓練始まっちゃうよ! 早く行こ!」
ルリアがサラの前にしゃがみ込み、その小さな赤い体を揺する。だがサラは億劫そうにルリアへ視線を向けたかと思うと、再びぷいとそっぽを向いてしまった。まるで「わたしの食事の邪魔するな」とでも言いたげに。
「もう、そんな食べてばっかじゃ太るよ!」
「キュアキュア~~!」
ちっこい美少女とちっこいアカトカゲが揉めはじめた。
ルリアがサラのしっぽを引っ張るが、頑として席から動こうとしない。
4杯目の牛丼に夢中である。
「サラちゃんは先輩に懐いてますからねぇ~」
厨房から様子を見ていたミーシャがいらん一言を放つ。
「むぅうううう……」
ルリアのかわいい頬がぷくりと膨れた。その蜂蜜色の瞳が羨むように少しだけ悔しそうに、俺とサラを見比べていた。彼女の小さな胸のうちで、何かが静かに渦巻いているのが見て取れる。
「―――タケオさんにご飯対決を申し込みます!」
栗毛からピンと立ったアホ毛がブンっと揺れた。
「え? ごはん……?」
「そうです、サラちゃんに食べてもらってわたしが勝ったら、サラちゃんを返してもらいます!」
いや、今すぐ連れて行って欲しいんだが。
「お、おいルリア。そんなことしないで……」
「タケオさんには色々お世話になっているけど、これは別問題ですから!」
「だから、早く連れて……」
「これは私自身が乗り越えないといけない試練なんです!」
「ぶっちゃけ精霊召喚解除とかすればいいのでは……」
「じゃ、決戦の日は1週間後! ここで!」
ダメだ。俺の話を一切聞いちゃいない。
そう言うと、ルリアはリスのようにささ~っと走り去っていった。
◇◇◇
そして1週間後。
「ルリアの精霊サラマンダーことサラちゃんのご主人様は、だ~れだ決定大会ぃ開催ぃい~~パフパフ~ドンドン!」
ミーシャが司会と書かれたタスキをかけて、首から下げた小太鼓みたいな楽器をドンドン叩いている。
ツッコミどころ満載だけど、なんか楽しそうだな……この子。
テーブルを挟んで対峙する俺とルリア。
「タケオさん、今日こそ白黒つけさせてもらいます!」
ふんすとかわいい腕をまくってみせるルリア。
いやいや、今日こそってかマジで早く連れ帰ってくれよ。そもそも1週間も召喚しっぱなしって、大丈夫なんか?
そんな俺の疑問にはお構いなしに、ミーシャが再び声をあげる。
「ではでは~! まずはわたくし、この食堂課の紅一点かつ看板娘のミーシャが腕によりをかけた至極の一品から~~♪」
司会進行役を買って出たミーシャが、なぜか選手としてしゃしゃり出てくる。
「おい、なんで司会のミーシャが参加するんだ?」
「良いじゃないですか~~私だってサラちゃんに食べさせたいんだから。細かい事言ってたらハゲますよ先輩」
おまえが出てくると余計に話がややこしくなるんだが。
だが、すでになにか用意してるぽいし。
まあ見てみるか。
「じゃ~~ん、ミーシャスペシャルですよ~~」
彼女が自信満々にテーブルへ置いたのは、見慣れたコーンスープと牛丼だった。
「さあ、召し上がれ~~サラちゃん♪」
いや、おまえそれ……単に今日の朝食昼食をとり置きしといただけじゃないか。
「ふむ、こりゃミーシャの勝ちはないな」
「なんでですかぁ~~! 先輩なら後輩の応援してくださいよぉ~~!」
いやでんきんだろ。これじゃあ……
ていうかこの大会に勝つ必要性が良く分からんのだが。
「ほらほら~~サラちゃんが好きなご飯だよ~~」
「キュ!」(プイッ)
サラはそれに一瞥をくれると、興味なしとばかりに「キュ」と短く鳴き、プイッとそっぽを向いた。
「ああぁあ~~プイってしたぁ! 赤トカゲの分際でプイってしたぁあ~~!」
「えっと、今のは『こんな冷めちらかしたスープ飲めやしないわ。牛丼に至ってはご飯が汁すいすぎてぐちょぐちょドロドロ、出直してこいや』だそうだです」
ルリアがどストレートにサラの言葉を代弁する。
「うそぉおお~「キュ!」の中にそんなセリフ入んないでしょ! サラ語どんだけむずいのよ!」
まあなあ、そりゃ放置した飯とか最悪やろ……せめてラップしとけよ。てかまあ、そもそもラップがこの世界にないんだけど。
床に手をついて嘆くミーシャを横目に俺はため息をつく。
ミーシャのネタ見せみたいな時間は終り、ルリアがフンスと息を吐いた。
「タケオさん、手加減なしでお願いしますね」
「お、おう……」
なんだかよく分からない大会がはじまった。
昼食の喧騒が嘘のように引いていく三等騎士団食堂。
「これで今日の昼食提供は終了だな」
「は~い、先輩~~厨房の片付けにはいりますね~」
「…………」
ミーシャはメガネをくいっと上げて腕まくりしつつ、厨房の方へ向かう。相変わらずじいさんは無言のまま。この人ずっと厨房にいるな……住んでるんじゃないかと思う程だ。
団員たちがそれぞれの持ち場へ戻った食堂は、がらんとした静寂に包まれていた。厨房からはミーシャたちが食器を洗う軽やかな音が聞こえてくる。
ふはぁ~~平和そのもだな。俺はテーブルを拭きながら一人この感じに満足していたのだが。
「キュア!」
「なんでおまえがここにいるんだ?」
俺は向かいの椅子に座る赤いトカゲにツッコミを入れる。
ルリアの召喚精霊サラマンダーのサラだ。
「先輩~サラちゃん、すっかり懐いちゃいましたねぇ」
厨房からひょっこり顔を出したミーシャが、メガネの奥の目を細める。
いやいや、懐いちゃダメだろ。
「サラ、ご主人様のところにいなくていいのか?」
「キュア~♪」
きゅあ~♪ ちゃうがな。
が、サラは俺のツッコミなど気にせず3杯目の牛丼を堪能していた。しかもつゆだく。
たしか今日はルリアの魔法課、午後から魔法訓練じゃなかったか?
「サラちゃんは先輩のご飯が大好きなんですよ~」
「いやいや、それはいいとしてもここにずっと居ていいわけないだろ」
にしても困ったな。
無理矢理連れていった方がいいのかと思案していると、食堂の扉が勢いよく開いた。
「はぁ……はぁ……! サラちゃん、やっぱりここにいた!」
息を切らして駆け込んできたのは、当のご主人さまであるルリアだった。栗色の髪を揺らし、その先端のアホ毛がぴょこぴょこと焦りを物語っている。
「もう、魔法訓練始まっちゃうよ! 早く行こ!」
ルリアがサラの前にしゃがみ込み、その小さな赤い体を揺する。だがサラは億劫そうにルリアへ視線を向けたかと思うと、再びぷいとそっぽを向いてしまった。まるで「わたしの食事の邪魔するな」とでも言いたげに。
「もう、そんな食べてばっかじゃ太るよ!」
「キュアキュア~~!」
ちっこい美少女とちっこいアカトカゲが揉めはじめた。
ルリアがサラのしっぽを引っ張るが、頑として席から動こうとしない。
4杯目の牛丼に夢中である。
「サラちゃんは先輩に懐いてますからねぇ~」
厨房から様子を見ていたミーシャがいらん一言を放つ。
「むぅうううう……」
ルリアのかわいい頬がぷくりと膨れた。その蜂蜜色の瞳が羨むように少しだけ悔しそうに、俺とサラを見比べていた。彼女の小さな胸のうちで、何かが静かに渦巻いているのが見て取れる。
「―――タケオさんにご飯対決を申し込みます!」
栗毛からピンと立ったアホ毛がブンっと揺れた。
「え? ごはん……?」
「そうです、サラちゃんに食べてもらってわたしが勝ったら、サラちゃんを返してもらいます!」
いや、今すぐ連れて行って欲しいんだが。
「お、おいルリア。そんなことしないで……」
「タケオさんには色々お世話になっているけど、これは別問題ですから!」
「だから、早く連れて……」
「これは私自身が乗り越えないといけない試練なんです!」
「ぶっちゃけ精霊召喚解除とかすればいいのでは……」
「じゃ、決戦の日は1週間後! ここで!」
ダメだ。俺の話を一切聞いちゃいない。
そう言うと、ルリアはリスのようにささ~っと走り去っていった。
◇◇◇
そして1週間後。
「ルリアの精霊サラマンダーことサラちゃんのご主人様は、だ~れだ決定大会ぃ開催ぃい~~パフパフ~ドンドン!」
ミーシャが司会と書かれたタスキをかけて、首から下げた小太鼓みたいな楽器をドンドン叩いている。
ツッコミどころ満載だけど、なんか楽しそうだな……この子。
テーブルを挟んで対峙する俺とルリア。
「タケオさん、今日こそ白黒つけさせてもらいます!」
ふんすとかわいい腕をまくってみせるルリア。
いやいや、今日こそってかマジで早く連れ帰ってくれよ。そもそも1週間も召喚しっぱなしって、大丈夫なんか?
そんな俺の疑問にはお構いなしに、ミーシャが再び声をあげる。
「ではでは~! まずはわたくし、この食堂課の紅一点かつ看板娘のミーシャが腕によりをかけた至極の一品から~~♪」
司会進行役を買って出たミーシャが、なぜか選手としてしゃしゃり出てくる。
「おい、なんで司会のミーシャが参加するんだ?」
「良いじゃないですか~~私だってサラちゃんに食べさせたいんだから。細かい事言ってたらハゲますよ先輩」
おまえが出てくると余計に話がややこしくなるんだが。
だが、すでになにか用意してるぽいし。
まあ見てみるか。
「じゃ~~ん、ミーシャスペシャルですよ~~」
彼女が自信満々にテーブルへ置いたのは、見慣れたコーンスープと牛丼だった。
「さあ、召し上がれ~~サラちゃん♪」
いや、おまえそれ……単に今日の朝食昼食をとり置きしといただけじゃないか。
「ふむ、こりゃミーシャの勝ちはないな」
「なんでですかぁ~~! 先輩なら後輩の応援してくださいよぉ~~!」
いやでんきんだろ。これじゃあ……
ていうかこの大会に勝つ必要性が良く分からんのだが。
「ほらほら~~サラちゃんが好きなご飯だよ~~」
「キュ!」(プイッ)
サラはそれに一瞥をくれると、興味なしとばかりに「キュ」と短く鳴き、プイッとそっぽを向いた。
「ああぁあ~~プイってしたぁ! 赤トカゲの分際でプイってしたぁあ~~!」
「えっと、今のは『こんな冷めちらかしたスープ飲めやしないわ。牛丼に至ってはご飯が汁すいすぎてぐちょぐちょドロドロ、出直してこいや』だそうだです」
ルリアがどストレートにサラの言葉を代弁する。
「うそぉおお~「キュ!」の中にそんなセリフ入んないでしょ! サラ語どんだけむずいのよ!」
まあなあ、そりゃ放置した飯とか最悪やろ……せめてラップしとけよ。てかまあ、そもそもラップがこの世界にないんだけど。
床に手をついて嘆くミーシャを横目に俺はため息をつく。
ミーシャのネタ見せみたいな時間は終り、ルリアがフンスと息を吐いた。
「タケオさん、手加減なしでお願いしますね」
「お、おう……」
なんだかよく分からない大会がはじまった。

