テスト期間が明け、また放課後の文化祭準備が始まった。そして、いよいよ明日からが文化祭本番
「完成〜だよね」 僕は看板を見おろし、太郎君に同意を求めた。
「オッケー、なんとか明日の本番に、間に合ったな」 「よかったよ〜ほんと」
僕はヘナヘナとへたり込んだ。
「しずみ、力ぬけすぎ」
そう、言いながら僕の隣にしゃがんでくれる。
「太郎君のお陰で、明日が待ち遠しいよ。ほんとにありがと」
「よく頑張りました」
と僕の頭を撫でてくれた。
それだけで、僕は癒やされる。
文化祭当日
全校生徒が体育館に集まり開会宣言が行われる。
壇上には、七三メガネの会長モードの太郎君。
「いよいよ今日から二日間、私たちの文化祭が始まります。最高の仲間と、最高の準備をしてきました。
夜遅くまで準備をして、肩が凝ることもあったでしょう。」
と、言いながら、太郎君は手首を回した。
目が合った。
僕達だけのサイン。ニヤける僕。
「全ての準備は完璧に整いました。後は最高に楽しむだけです!一瞬一瞬を一生の思い出にしましょう。
それでは、……ただいまより、開会します!!」
教室の窓から校門がみえる。
僕が描いた看板の前で写真を撮ってくれる人たち。
みんなの大切な思い出に、僕の絵も入ってるなんて信じられない。
「くらい、邪魔」
と伊達君に軽く足を蹴られる。
「お前さぁ、生徒会の手伝いだろ、邪魔だから教室来んなよ」
「あ、うん」
「あと、…看板、上手いな」
「ありがと」
僕の顔はほころんだ。
邪魔と言う、伊達君の言う事はもっともだ。
僕は文化祭準備中ずっと、会長室に逃げてたんだから。この教室で出来ることは何もない。
廊下を歩きながら、隣のクラスの賑わいを羨ましく思った。
去年、文化祭を見学に来た時、高校生ってもっと楽しいものだと思っていた。
僕は中庭のベンチに座り、文化祭の絵を交換日記に描いていた。いつもより、ゆっくりと丁寧に。
《文化祭の賑わいとバルーンアートが最高!(空とバルーンの絵)》
《昨日は思ったより来校者が多かったよな。しずみの絵からも活気が伝わるよ。
中庭のバルーンアートの飾り付け、しずみの絵だと、空に浮いてるみたいで、本当にきれいだな。
しずみの絵、大好きだよ。
今日は少しだけなら一緒に校内をまわれるかも。11時、待たせるかもしれないけど、この絵を描いたベンチで待っててくれる》
文化祭2日目
朝、交換日記を見てウキウキが止まらない。
今日は太郎君と、一緒にいられる。
中庭のベンチで、絵を描きながら、太郎君を待っていると、
「何書いてるの?」
石川先輩がのぞき込んできた。
「あっ、落書きです」
そう言って、僕は、急いで交換日記を閉じた。
「ふ〜ん、クラスは?手伝わないの?」
「いや、あの、そんなに役割が無くて」
「ふ〜ん、まっ、クラスの準備もしないで、文化祭の看板描いてたら居場所無くなるか」
「えっ」
「ごめんね。ウチの会長、強引だったでしょ。でも本当に助かった。ありがとう」
と話しながら、隣に座る。
「いえ、全然、僕も看板を描きたかったですし」
「看板を描かないと駐輪場の拡張工事を進めるって、脅されてない?」
「だ大丈夫です」
「そっかぁ、よかった」
と石川先輩はニコッと笑った。
「都野君って誤解されるから」
「あ〜そうですね」
「わかる?わかるよね〜近くにいたら。悪い奴じゃないことは分かるもんね」
「はい」
「案外、いい奴なんだ」
「わかります」
「何してんの?」
僕らのベンチの後ろに太郎君が立っていた。
「あっ、別に」
と、石川先輩は立ち上がり
「じゃね、川本君」
と手を振って校舎に入っていった。
太郎君は石川先輩の座っていた場所にドシッと座った。あれ?空気が重い…
あっ、七三メガネの会長モードだからかぁ
「石川なんて?」
「あ〜太郎君がいい奴だって」
「別に、石川に優しくしたこと無いけど」
「いい奴イコール優しいじゃないから。あと、看板のお礼も言ってくれたよ」
「そっか、でもしずみ石川って……まっいいや。どこ行く?」
「うん」
どこ行くと言われても、クラス以外の知り合いがいない僕は、行きたいところは無い。
そう言えば太郎君はダンスが好きなんだよね、小森先輩と友達なら小森先輩を見たいのかな。
「体育館、ダンス部がやってるよね」
「あ〜、行ってみる?」
「うん」
体育館は薄暗く、観客席のパイプ椅子は9割くらいが埋まっている。
ステージでは、赤や青や黄色の証明に照らされてダンス部員が踊っていた。
小森先輩のソロパートになると女子生徒の歓声が上がる。
「しずみ」
と小さな声で太郎君が僕の手を引いた。
前方の立ち見エリアが空いていた。
小森先輩と目が合った気がした。
「ここで、スペシャルゲストに登場してもらいましょう、都野会長〜つのくん〜つの〜」
と、太郎君を呼んでいる。
太郎君は動かない。
小森先輩は諦める様子は無く、
「会長〜つの〜こた〜」
と呼んだ。
コタと呼ぶのは小森先輩なのか。
僕の隣にスポットライトが当たる。
太郎君は小森先輩を睨んでいる。
小森先輩は気にする様子も無く話を始める。
「え〜実は、都野会長とは幼なじみでして。
2人でダンススクールに通っていた過去がございます。皆さん、会長のダンスみたいですよね」
観客席からは
「みたい〜」という声が響く。小森先輩は
「会長!会長!」
と音頭をとる
観客席からも
「会長!会長!」
と手拍子と声援がおこる。
太郎君は一度、僕の手をギュッと握った。
そして俯き、大きく深呼吸すると、吹っ切ったように、ステージに走っていった。
走りながら、メガネをブレザーに入れ、ステージの上でブレザーを脱ぎ捨て、小森先輩とハイタッチをした。
ステージの上の太郎君は、
僕が一目惚れした、あの夏の太郎君で、観客席からは、
「カッコいい」
の連発
噂を聞いた生徒が体育館に集まり、身動きが取れない状況になった。
ステージが終わっても太郎君の周りには人が押し寄せて、僕は近づけない。
放送室ポストに交換日記を入れた。
「くらい、片付け手伝え〜」
伊達君から声をかけられた。
「ここにあるゴミ全部、ゴミ置き場に運んどいて」
僕が、黙ってゴミを見て、途方にくれていると、
「こんなにいっぱい、何往復もしなきゃいけない!って思ってるんだろ?
しろ!クラスのこと何もやらなかったんだから、片付けくらいは、みんなの倍やれ」
「はい」
伊達君の言う事はもっともで、断る理由も無い。
2メートル以上はある段ボールを、幾つも持って歩いていると、急にふわっと軽くなった。
一瞬、太郎君?と、嬉しくなったけど、
目の前には阿部先輩がいた。
「大変〜持つよ。ゴミ置き場までだろ」
「いえ、大丈夫です」
「いえいえ、ウチの会長がご迷惑をお掛けしてますから」
「えっ?」
「看板、描いてくれたんだよね」
「はい」
「看板が壊れた時、俺らも手伝うって言ったのに、自分の責任だからって、譲らなくて」
「そうなんですか」
「まさか川本君一人に、押しつけるとは思ってなかった、大丈夫だった?」
「はい」
「悪気は無いんだけど、都野って」
僕は石川先輩を思い出し、微笑ましい気持ちになった。
「生徒会の皆さん仲いいんですね」
「なんでそうなる?」
「石川先輩も会長のことフォローしてて、阿部先輩も」
「あ〜仲いいってゆーか、石川と、俺以外、残りの3人は変だから」
「へん?」
「ここだけの話、あの3人、勉強してねーの。」
「えっ?」
「なっ、変だろ?てゆーか怖いだろ。
俺と石川は文化祭の準備が忙しすぎて、中間テストの順位、ちゃんと落ちたのに。あいつら変わらず1位2位3位だからな」
「すごいですね」
「すごいんじゃなくて、怖いんだよ」
「なに、吹き込んでるんだ」
背後からの声に阿部先輩と2人で振り返る。
太郎君が仁王立ちで立っていた。
「吹き込むなんて人聞きが悪い。おっ、観念してイケメンに振り切ってるじゃん」
阿部先輩の言うように、太郎君はもうメガネを掛けず、髪型も七三分けにしていなかった。
「今日で怖さ倍増なんだよな。都野の中に、謎の"妖怪イケメン隠し"も存在してるから」
「うるさい、もういいよ。俺が手伝うから、阿部は石川を手伝ってあげて。」
阿部先輩は僕をみる。
「あっ、僕なら大丈夫です。」
「そう?じゃ、都野、川本君のことイジメんなよ」
と太郎君に段ボールを渡し去っていった。
「ごめん、なんか」
と言いながら太郎君は歩き出した。
「全然〜阿部先輩も石川先輩も面白くていい人達だよね。"妖怪イケメン隠し"はウケる笑」
「は〜、言いふらすなよ。ただでさえ面倒なことになってんだから」
と周りを見渡す。
そう。
今までに感じたことのない視線をビシバシと感じる。視線だけでは無く、
「きゃ〜カッコいい」
みたいな、女子生徒の悲鳴に近い声まで。
「太郎君、人気者になっちゃったね」
「は〜めんどい」
と段ボールで顔を隠した。
「コケるよ」
「大丈夫、この学校の見取図は頭に入ってるから」
なんだか、滑稽な太郎君に笑ってしまった。
なんとかゴミ置き場に着いた。
「よし、じゃあ次、教室戻るぞ」
「太郎君、もう大丈夫だから」
「だけど、まだまだあるだろ?」
「そうだけど、大丈夫。クラスの仕事だから、やっぱり僕がやらないと」
「そっかぁ…しずみ、覚えてる、ここ?」
「うん?ゴミ置き場…何を」
太郎君は少し寂しそうに僕を見つめている。
「いや、何でもない。もう1回くらい手伝うよ」
「いいよ、だって太郎君と一緒だと目立つし、はかどらないよ」
「おい、手伝ってもらっといて、悪口かよ」
「違う違う笑、いい意味で。かっこよすぎたから、ダンスしている時の太郎君」
僕は改めて太郎君に、みとれた。
「しずみ?」
「あっメガネ外したほうが楽でしょ?」
ほわほわっとした気持ちから、正気に戻り、質問する。
「メガネ外すだけにしては、弊害ありすぎだろ」
遠巻きに、太郎君を囲む女子生徒をみて呟いた。
「はいはい、早く動き出さないと、自分で作った人混みで身動き取れなくなるよ」
と僕は太郎君の背中を押した。
「完成〜だよね」 僕は看板を見おろし、太郎君に同意を求めた。
「オッケー、なんとか明日の本番に、間に合ったな」 「よかったよ〜ほんと」
僕はヘナヘナとへたり込んだ。
「しずみ、力ぬけすぎ」
そう、言いながら僕の隣にしゃがんでくれる。
「太郎君のお陰で、明日が待ち遠しいよ。ほんとにありがと」
「よく頑張りました」
と僕の頭を撫でてくれた。
それだけで、僕は癒やされる。
文化祭当日
全校生徒が体育館に集まり開会宣言が行われる。
壇上には、七三メガネの会長モードの太郎君。
「いよいよ今日から二日間、私たちの文化祭が始まります。最高の仲間と、最高の準備をしてきました。
夜遅くまで準備をして、肩が凝ることもあったでしょう。」
と、言いながら、太郎君は手首を回した。
目が合った。
僕達だけのサイン。ニヤける僕。
「全ての準備は完璧に整いました。後は最高に楽しむだけです!一瞬一瞬を一生の思い出にしましょう。
それでは、……ただいまより、開会します!!」
教室の窓から校門がみえる。
僕が描いた看板の前で写真を撮ってくれる人たち。
みんなの大切な思い出に、僕の絵も入ってるなんて信じられない。
「くらい、邪魔」
と伊達君に軽く足を蹴られる。
「お前さぁ、生徒会の手伝いだろ、邪魔だから教室来んなよ」
「あ、うん」
「あと、…看板、上手いな」
「ありがと」
僕の顔はほころんだ。
邪魔と言う、伊達君の言う事はもっともだ。
僕は文化祭準備中ずっと、会長室に逃げてたんだから。この教室で出来ることは何もない。
廊下を歩きながら、隣のクラスの賑わいを羨ましく思った。
去年、文化祭を見学に来た時、高校生ってもっと楽しいものだと思っていた。
僕は中庭のベンチに座り、文化祭の絵を交換日記に描いていた。いつもより、ゆっくりと丁寧に。
《文化祭の賑わいとバルーンアートが最高!(空とバルーンの絵)》
《昨日は思ったより来校者が多かったよな。しずみの絵からも活気が伝わるよ。
中庭のバルーンアートの飾り付け、しずみの絵だと、空に浮いてるみたいで、本当にきれいだな。
しずみの絵、大好きだよ。
今日は少しだけなら一緒に校内をまわれるかも。11時、待たせるかもしれないけど、この絵を描いたベンチで待っててくれる》
文化祭2日目
朝、交換日記を見てウキウキが止まらない。
今日は太郎君と、一緒にいられる。
中庭のベンチで、絵を描きながら、太郎君を待っていると、
「何書いてるの?」
石川先輩がのぞき込んできた。
「あっ、落書きです」
そう言って、僕は、急いで交換日記を閉じた。
「ふ〜ん、クラスは?手伝わないの?」
「いや、あの、そんなに役割が無くて」
「ふ〜ん、まっ、クラスの準備もしないで、文化祭の看板描いてたら居場所無くなるか」
「えっ」
「ごめんね。ウチの会長、強引だったでしょ。でも本当に助かった。ありがとう」
と話しながら、隣に座る。
「いえ、全然、僕も看板を描きたかったですし」
「看板を描かないと駐輪場の拡張工事を進めるって、脅されてない?」
「だ大丈夫です」
「そっかぁ、よかった」
と石川先輩はニコッと笑った。
「都野君って誤解されるから」
「あ〜そうですね」
「わかる?わかるよね〜近くにいたら。悪い奴じゃないことは分かるもんね」
「はい」
「案外、いい奴なんだ」
「わかります」
「何してんの?」
僕らのベンチの後ろに太郎君が立っていた。
「あっ、別に」
と、石川先輩は立ち上がり
「じゃね、川本君」
と手を振って校舎に入っていった。
太郎君は石川先輩の座っていた場所にドシッと座った。あれ?空気が重い…
あっ、七三メガネの会長モードだからかぁ
「石川なんて?」
「あ〜太郎君がいい奴だって」
「別に、石川に優しくしたこと無いけど」
「いい奴イコール優しいじゃないから。あと、看板のお礼も言ってくれたよ」
「そっか、でもしずみ石川って……まっいいや。どこ行く?」
「うん」
どこ行くと言われても、クラス以外の知り合いがいない僕は、行きたいところは無い。
そう言えば太郎君はダンスが好きなんだよね、小森先輩と友達なら小森先輩を見たいのかな。
「体育館、ダンス部がやってるよね」
「あ〜、行ってみる?」
「うん」
体育館は薄暗く、観客席のパイプ椅子は9割くらいが埋まっている。
ステージでは、赤や青や黄色の証明に照らされてダンス部員が踊っていた。
小森先輩のソロパートになると女子生徒の歓声が上がる。
「しずみ」
と小さな声で太郎君が僕の手を引いた。
前方の立ち見エリアが空いていた。
小森先輩と目が合った気がした。
「ここで、スペシャルゲストに登場してもらいましょう、都野会長〜つのくん〜つの〜」
と、太郎君を呼んでいる。
太郎君は動かない。
小森先輩は諦める様子は無く、
「会長〜つの〜こた〜」
と呼んだ。
コタと呼ぶのは小森先輩なのか。
僕の隣にスポットライトが当たる。
太郎君は小森先輩を睨んでいる。
小森先輩は気にする様子も無く話を始める。
「え〜実は、都野会長とは幼なじみでして。
2人でダンススクールに通っていた過去がございます。皆さん、会長のダンスみたいですよね」
観客席からは
「みたい〜」という声が響く。小森先輩は
「会長!会長!」
と音頭をとる
観客席からも
「会長!会長!」
と手拍子と声援がおこる。
太郎君は一度、僕の手をギュッと握った。
そして俯き、大きく深呼吸すると、吹っ切ったように、ステージに走っていった。
走りながら、メガネをブレザーに入れ、ステージの上でブレザーを脱ぎ捨て、小森先輩とハイタッチをした。
ステージの上の太郎君は、
僕が一目惚れした、あの夏の太郎君で、観客席からは、
「カッコいい」
の連発
噂を聞いた生徒が体育館に集まり、身動きが取れない状況になった。
ステージが終わっても太郎君の周りには人が押し寄せて、僕は近づけない。
放送室ポストに交換日記を入れた。
「くらい、片付け手伝え〜」
伊達君から声をかけられた。
「ここにあるゴミ全部、ゴミ置き場に運んどいて」
僕が、黙ってゴミを見て、途方にくれていると、
「こんなにいっぱい、何往復もしなきゃいけない!って思ってるんだろ?
しろ!クラスのこと何もやらなかったんだから、片付けくらいは、みんなの倍やれ」
「はい」
伊達君の言う事はもっともで、断る理由も無い。
2メートル以上はある段ボールを、幾つも持って歩いていると、急にふわっと軽くなった。
一瞬、太郎君?と、嬉しくなったけど、
目の前には阿部先輩がいた。
「大変〜持つよ。ゴミ置き場までだろ」
「いえ、大丈夫です」
「いえいえ、ウチの会長がご迷惑をお掛けしてますから」
「えっ?」
「看板、描いてくれたんだよね」
「はい」
「看板が壊れた時、俺らも手伝うって言ったのに、自分の責任だからって、譲らなくて」
「そうなんですか」
「まさか川本君一人に、押しつけるとは思ってなかった、大丈夫だった?」
「はい」
「悪気は無いんだけど、都野って」
僕は石川先輩を思い出し、微笑ましい気持ちになった。
「生徒会の皆さん仲いいんですね」
「なんでそうなる?」
「石川先輩も会長のことフォローしてて、阿部先輩も」
「あ〜仲いいってゆーか、石川と、俺以外、残りの3人は変だから」
「へん?」
「ここだけの話、あの3人、勉強してねーの。」
「えっ?」
「なっ、変だろ?てゆーか怖いだろ。
俺と石川は文化祭の準備が忙しすぎて、中間テストの順位、ちゃんと落ちたのに。あいつら変わらず1位2位3位だからな」
「すごいですね」
「すごいんじゃなくて、怖いんだよ」
「なに、吹き込んでるんだ」
背後からの声に阿部先輩と2人で振り返る。
太郎君が仁王立ちで立っていた。
「吹き込むなんて人聞きが悪い。おっ、観念してイケメンに振り切ってるじゃん」
阿部先輩の言うように、太郎君はもうメガネを掛けず、髪型も七三分けにしていなかった。
「今日で怖さ倍増なんだよな。都野の中に、謎の"妖怪イケメン隠し"も存在してるから」
「うるさい、もういいよ。俺が手伝うから、阿部は石川を手伝ってあげて。」
阿部先輩は僕をみる。
「あっ、僕なら大丈夫です。」
「そう?じゃ、都野、川本君のことイジメんなよ」
と太郎君に段ボールを渡し去っていった。
「ごめん、なんか」
と言いながら太郎君は歩き出した。
「全然〜阿部先輩も石川先輩も面白くていい人達だよね。"妖怪イケメン隠し"はウケる笑」
「は〜、言いふらすなよ。ただでさえ面倒なことになってんだから」
と周りを見渡す。
そう。
今までに感じたことのない視線をビシバシと感じる。視線だけでは無く、
「きゃ〜カッコいい」
みたいな、女子生徒の悲鳴に近い声まで。
「太郎君、人気者になっちゃったね」
「は〜めんどい」
と段ボールで顔を隠した。
「コケるよ」
「大丈夫、この学校の見取図は頭に入ってるから」
なんだか、滑稽な太郎君に笑ってしまった。
なんとかゴミ置き場に着いた。
「よし、じゃあ次、教室戻るぞ」
「太郎君、もう大丈夫だから」
「だけど、まだまだあるだろ?」
「そうだけど、大丈夫。クラスの仕事だから、やっぱり僕がやらないと」
「そっかぁ…しずみ、覚えてる、ここ?」
「うん?ゴミ置き場…何を」
太郎君は少し寂しそうに僕を見つめている。
「いや、何でもない。もう1回くらい手伝うよ」
「いいよ、だって太郎君と一緒だと目立つし、はかどらないよ」
「おい、手伝ってもらっといて、悪口かよ」
「違う違う笑、いい意味で。かっこよすぎたから、ダンスしている時の太郎君」
僕は改めて太郎君に、みとれた。
「しずみ?」
「あっメガネ外したほうが楽でしょ?」
ほわほわっとした気持ちから、正気に戻り、質問する。
「メガネ外すだけにしては、弊害ありすぎだろ」
遠巻きに、太郎君を囲む女子生徒をみて呟いた。
「はいはい、早く動き出さないと、自分で作った人混みで身動き取れなくなるよ」
と僕は太郎君の背中を押した。
