放課後、各クラスでは、文化祭の準備が始まった。
僕のクラスでも。僕は、そそくさと会長室に行く準備をする。
「くらい、ジュース買ってきて」
「えっ、?」
背中に伊達君の声
「えっじゃなくて、お前だけが暇なの。なんでも屋だろ、ジュース買ってきて」
「あ〜、分かったよ」
「欲しい人、くらいに言って」
そういう、伊達君の呼びかけに、数人が小銭を持って僕の周りに集まる
「あっ、ごめん、待って。メモるから」
僕は、携帯に、みんなの希望ジュースと預かった金額を入力した。
自動販売機と教室を何度か往復してるうちに、会長室には30分以上遅れて到着した。
「遅い」
「ごめん」
「うそ、うそ。大丈夫だった?クラスの文化祭準備が忙しい?」
「全然、僕は」
と鞄をソファに置く。
「しずみのクラスは縁日だよね」
「なんで知ってるの?」
「生徒会長ですから」
「流石です。」
と僕はふざけてお辞儀した。そして
「だけど僕は、役割無いから」
と伝えた。
「無い?」
「ある」
「どっち」
と太郎君は笑った。
この笑顔、癒やされる。
「どっちも。無いからある」
「だから、どっち」
「僕がぼーっとしている間に色々決まって。役割が無いなら、なんでも屋って事になった」
「ふ〜ん、スーパーマンじゃん」
「なにそれ」
「なんでも出来るってことだろ」
「ほんと、も〜、太郎君は前向きって言うか、変って言うか」
「あきれる?」
「ちょっと」
「いいんだよ、変でもなんでも。求められる場所に行けばいい。そこがしずみの得意なことに、繋がってるかもしれないだろ」
ジュース買うのが、得意って言われてもな、、
「しずみ?聞いてる?ほら、ここにしずみが辿り着いた」
と、床の白紙の看板をさす。
「看板を描くことを求められた。それがしずみの得意なことだろ」
「全部、太郎君次第でしょ。はい、でも、やります!」
と僕は呆れながら腕まくりをして気合を入れ直した。
家に着く。帰り際に渡された交換日記を開く。
《看板のこと、承諾してくれてありがとう。本当に助かる。
助かるだけじゃなくて、しずみと放課後過ごせることが嬉しい。どんな看板にしようか?》
《承諾しました。承諾したからには頑張ろうと思ってるよ。どんな…帰りに考えていたんだけど、ウチの学校は花が多いし、癒やされる感じがいいと思う。例えば》
と、学校に咲いている桜やパンジー、クチナシなどの花の絵を描いた。
次の日の放課後、会長室
「今日は早いな」
「みんな、忙しそうだったから、その隙に」
「そんなコソコソしてんのか」
「まぁ、まぁ、僕のクラスのことはいいから」
クラスでイジられてること、太郎君にはバレたくない。恥ずかしい。
少しでも、太郎君に釣り合う人間でいたい。
「しずみ、大丈夫?何かあったら相談しろよ」
「分かった分かった。あっ、相談と言えば、
評判悪いよ〜この文化祭のスケジュール」
「そのこと。やっぱり」
「文化祭が中間テストの1週間後なんて。テスト勉強しないで、文化祭準備しろ!ってことでしょ。
後、10日もしたら中間テストなのに。みんな、文句言いながら、こうやって、放課後を使っているよ。」
「例年だから」
「逃げた」
と僕は太郎君を睨む。
「はい、逃げます。だって、就任してすぐに、文化祭の日程変更なんて不可能。変更するなら来年のだけど、俺その頃、会長じゃないし」
「ズル、なにそれ?会長の風上にも置けない」
「おっ、しずみから、まさか慣用句が出るとは」
「バカにして〜」
「してない、してない」
と笑顔をみせる。
「ズルい」
僕は、あまりにも笑顔が眩しくて目を逸らした。七三分けで、メガネをしていても、あの笑顔には敵わない。
「はいはい、ズルいズルいって言ってないで、やりますよ。内容は、これで決定!」
と交換日記を出した。
僕が朝、放送室のポストに入れたのをちゃんと見てくれていた。
「ほんとにいいの?」
「いい、これがめちゃくちゃいい。しずみは流石だな」
と太郎君は僕の目を見て言ってくれた。
文化祭まで後3週間。
週末。
家でゴロゴロしながら、テスト勉強をしていた。
早く月曜になってくれ〜と、願ったのは初めてだ。
看板のイメージはもう完璧。
早く取り掛かりたい。
自分の絵が沢山の人に観てもらえる。
緊張するけど、ワクワクもする。
それに早く、太郎君に会いたい。
月曜の誰もいない下駄箱。
僕の下駄箱だけ輝いてみえる。
《疲れた〜文化祭準備って、生徒会がやること多すぎ。
久しぶりに、ゆっくりできる土日だった。
しずみは何してた?
しずみに会って癒されたかったぁ。
俺は、本を読んだり、ゲームしたり、柴子とさんぽしたり。柴子のさんぽは、姉との取り合いで。
どっちも譲らなくて結局、柴子は1日4回も、さんぽ行ってたけどね》
《お疲れ様。僕の土日は、一応テスト勉強してた。
なかなか進まなかったけど。
柴子、愛されてるね。
そう言えば、僕も妹とメロンパンの取り合いした。
お母さんが近くのパン屋さんで買ってきてくれたんだけど、二人ともメロンパンが第一候補で。結局じゃんけんで僕が負けた。太郎君は1番好きなパンって何?(メロンパンの絵)》
1限目が始まる前に放送室のポストに入れた。
3、4限目は文化祭準備。
明日からテスト期間の1週間前、部活停止期間となる。その期間は放課後、学校には残れない。
だから、どこのクラスも今日、集中的に準備が進められている。僕は、
「くらい、水、絵の具の水入れ替えてきて」
「段ボール足りないから、調達してきて」
「床の養生テープ、ちゃんと貼れって言っただろ、やり直し」
など、呼ばれるがままに動いていた。
「くらい、ほんと使えねぇな。だから整理券、家で作ってこいって言ったよな」
と、突然、伊達君に詰め寄られた。
「ごめん、でも知らなくて」
「知らないって何だよ、俺が言い忘れてたってことか!」
「別にそういう」
僕は後退りをし、水入れにつまずき尻もちをついた。水入れはひっくり返り、ポスターを濡らした。
「何やってんだよ」
伊達君の声が響くと同時に、入口の壁がノックされ、ダンス部の小森先輩が入ってきた。
クラスの女子がざわつく。
「川本君、大丈夫?これ。」
と交換日記を差し出した。
僕は立ち上がり、交換日記を受け取る。
小森先輩の登場に、クラスは静まり返った。
「せっかくの楽しい文化祭だから、準備も楽しくしようね」
「「「はい」」」
女子達が、小森先輩のアドバイスに、元気よく返事をし、ポスターの塗り直しに取り掛かる。
僕はみんなに、
「ごめんなさい」
と頭を下げた。誰からも反応は無い。
小森先輩は、
「頑張ってね」
と肩をポンと叩いて出て行った。伊達君が
「ごめんなさいって言われてもな、間に合わなかったらどうするんだよ」
と凄みながら、また近づいてくる。
そしてパッと交換日記を取った。
僕は取り返そうと追いかける。
「廊下でやってよ、また汚れるから」
というクラスメイトの声が聞こえる。
伊達君は黒板の前で、交換日記を放り投げてはキャッチしている。僕は
「返して」
と手を伸ばした。
「川本しずみ君いますか」
入口で僕を呼ぶ声、
振り返ると太郎君が立っていた。
恥ずかしさのあまり、俯く。
伊達君の手も下がる。その隙に、サッと交換日記を取った。
伊達君は何か言いたげだが、生徒会長を前に騒げない様子だ。
静まり返る教室に向かって、太郎君はもう一度
「川本しずみ君はいますか」
と言った。
みんな僕をみる。太郎君はツカツカと教室の中に入ってきて、僕の手首を掴んだ。
そして
「文化祭実行委員は?君たち?今から文化祭終わりまで、彼は生徒会の文化祭準備を手伝ってもらうから、よろしく」
「あっはい」
実行委員は、太郎君の圧に圧倒されている。
「じゃあ。クラス全員が楽しめる!そんな文化祭にしようね」
と僕の手を引きクラスを出た。
クラスメイトのざわめきが後ろから聞こえる。手元をみた、この手はいつまで繋がっていれるのだろう。
引っ張られながら、太郎君の背中を見つめる。
会長室前で手はほどかれた。
太郎君は一言も話さないまま、僕に体操着を渡した。
「これは?」
「学校の予備、だから着替えて。濡れてるでしょ」
「ありがとう」
僕は着替えながら、張り詰めている空気を和まそうと、
「僕、ほんとドジで。水入れにつまづいちゃって。
こぼしちゃって。だけど、クラスのみんなに謝ったら、何とかなるって言ってくれて、いいクラスメイトで」
「嘘つくなよ」
「えっ」
「小森から聞いてるから」
「あっ、そっか」
僕はソファに座っわって、着替え終わった制服をたたみながら、言い訳をした。
「でもいつもじゃないから、テストとか文化祭とか近くて、みんなピリピリしてて、イジメられてるわけじゃないし、ちょっとイジられてるだけっていうか」
太郎君は僕の頭にポンと手を置きながら、
「イジメでもイジりでも、どっちでもいい。しずみが傷ついてるから、イヤだ」
「僕は別に」
「しずみ、自分の気持ちにわざと鈍感になるな。」
そう言って僕の肩をグッと抱いた。
「今までは1人で、倒れないように、わざと鈍感になってたんだろけど、今は俺がいるから。俺が支えてやるから、辛い時は辛いって言っていいんだよ」
僕は泣いてしまった。
泣いてしまって、涙も鼻水も止まらない。
太郎君は優しく
「ほら、しずみ、ティッシュあるから」
と渡してくれた。
「あっありがとう、優しいよね、太郎君は」
「はいはい、もういいから泣きやめ〜。あっお昼ご飯は、購買でメロンパン買ってこようか」
「ありがとうぅ」
太郎君の優しさに涙が止まらない。
2人でお昼を食べていると、太郎君の携帯は何度もなった。
「忙しいの?」
「めちゃくちゃ、忙しい。だからごめん。午後はほとんど顔出せないけど、一人で大丈夫?」
「全然大丈夫、頑張ってね」
と、太郎君を見送った。
看板を描き始める前に、交換日記を開いた。
《俺の1番好きなパンはクロワッサンかな。誰か、クロワッサンの上手な食べ方教えてほしいよ笑
文化祭関連だと、今更、予算の増額を申請する部がいくつかあって、ウンザリする。断ろうとしたけど、前田がルールではギリギリまで、申請可になってるから、断ることは出来ないって。真面目過ぎだろ?
で、その話合いがスケジュールに割り込んできて、他の作業とかが、ずれまくりだよ。
文化祭は準備から全てを楽しみたいんだけどな。しずみは文化祭たのしめてる?》
《太郎君のお陰で、今日から楽しめるよ。そう言えば、緑化委員としても、チューリップの予算アップをお願いしたいかも…落ち着いたら、申請書出します。
あっ、今朝、妹からされた色占い。太郎君は何色が好き?
僕が好きなのは紺色。
影のリーダー・縁の下の力持ちタイプだって。全然違うって、妹に笑われたよ。
PS
交換日記はずっと下駄箱にお願いします。小森先輩に教室にまで持ってきてもらうのは悪いので。》
看板は最終下校時間の19時まで描き続け、なんとか目処がついた。
太郎君は忙しくて会長室には戻って来なかった。僕は交換日記を会長室の机に置き、クチナシに水をやり帰ってきた。
部活停止期間〜テスト期間が終わった。約2週間、放課後の文化祭準備は出来なかった。だけど、僕らには交換日記がある。
《おはよう、交換日記は下駄箱に。了解です。
好きな色は黄色かな。
しずみの縁の下の力持ちタイプは案外あってると思うよ。
占いといえば動物占いって昔、流行らなかった?俺は狼だったかな。
追伸。
看板を見た姫川が、「秋に拘らず、四季を感じれる花々があるのがいい」って》
《嬉しい☆姫川先輩にお礼言っておいてね。学校にある全ての花を描いたんだ。
動物占い、流行ったよね〜
僕は羊で妹はトラ。
妹の方が強い動物だから、この占いは信用出来るって母さんが言ってた笑
小学生の頃から変わらないんだよね。
小学生の頃といえば、妹と家の庭にタイムカプセルを埋めたんだけど、目印を石にしてて、母さんがその石を移動させちゃって、未だに見つけられない。(タイムカプセルのクッキー缶の絵)》
《妹さんと仲いいんだな。石を目印にしちゃダメだろ笑
タイムカプセルには、何を入れたの?
俺は、小学生といえば、一応ダンス頑張ってて。
だけど、こっちに引っ越してきて、なんか改めて教室入るのも億劫で。しずみは、なにか習い事してた?》
《石って言っても、3歳児くらいある、石だよ。
ダンス!それで小森先輩と仲いいの?
今度踊ってるとこみせてよ。
小学生で引っ越してきたってどこから?
習い事はしてたよ。一通り。妹と一緒に。
ピアノ、習字、水泳みたいな。
妹は、なんでも、そつなくこなせてて、
ピアノのコンクールに出たり、
学校で習字の代表になったり。
たしか水泳も選手コースだったかな。(石を持ち上げるお母さんの絵)》
《3歳児の石ってなんだよ笑、お母さんの絵面白すぎ。ダンス、見せるのは絶対イヤ。
引っ越してきたのは同じ市内、車で40分くらいかかるところかな。
妹さんと一緒に一通りやってるのは、しずみぽいな。いいお兄ちゃんなんだな。
そうだ、中間テスト大丈夫そう?》
《大丈夫じゃない〜(見開き一面に砂浜で倒れ込む自分の絵)》
《なぜ、海?笑
だけど、この絵嫌いじゃないよ。
勉強は、積み重ねだからな。しずみは重ねてないんだろうな》
《重ねてないよ、並べてる。だから、広大になって。果てしなくて〜海って感じ。
海の前では、僕は無力なんだよ。
太郎君はその海で悠々とサーフィンしてそうだね。(サーフィンしている太郎君の絵)》
《サーフィンか、楽しそう。学生の間は嫌でも勉強という海に出るんだから、楽しまないとな。
しずみは釣りから始めたら。まずは取っつきやすい問題から、一本釣りで笑》
《釣りなぁ〜いい思い出ないんだよ。
昔、お父さんと2人で川釣りにいって、溺れて。それから、川も苦手で。
てゆーか太郎君て…苦手なもの無さそう。無敵で最強で爽やかで(七三メガネの太郎君の無敵笑顔の絵)》
《どんなイメージだよ。
俺の絵?こんな風に見えてるの?ありがと。
でも無敵でも最強でも爽やかでもない。ただの高2男子だよ。ヘタる時あるし、支えにしてるものもあるし。しずみの様に特別じゃないんだよ俺は》
《いやいやいや、僕のどこが特別なの?無い無い。
太郎君は案外、周りが見えてないんだね。
遅くなったけど、タイムカプセルの中身は、当時、妹と2人で集めていた、かわいい消しゴムです。
PS
看板依頼してくれて本当にありがとう。
文化祭準備中、クラスにいなくてよかったし、看板も描けた。いいことばっかりだった》
僕のクラスでも。僕は、そそくさと会長室に行く準備をする。
「くらい、ジュース買ってきて」
「えっ、?」
背中に伊達君の声
「えっじゃなくて、お前だけが暇なの。なんでも屋だろ、ジュース買ってきて」
「あ〜、分かったよ」
「欲しい人、くらいに言って」
そういう、伊達君の呼びかけに、数人が小銭を持って僕の周りに集まる
「あっ、ごめん、待って。メモるから」
僕は、携帯に、みんなの希望ジュースと預かった金額を入力した。
自動販売機と教室を何度か往復してるうちに、会長室には30分以上遅れて到着した。
「遅い」
「ごめん」
「うそ、うそ。大丈夫だった?クラスの文化祭準備が忙しい?」
「全然、僕は」
と鞄をソファに置く。
「しずみのクラスは縁日だよね」
「なんで知ってるの?」
「生徒会長ですから」
「流石です。」
と僕はふざけてお辞儀した。そして
「だけど僕は、役割無いから」
と伝えた。
「無い?」
「ある」
「どっち」
と太郎君は笑った。
この笑顔、癒やされる。
「どっちも。無いからある」
「だから、どっち」
「僕がぼーっとしている間に色々決まって。役割が無いなら、なんでも屋って事になった」
「ふ〜ん、スーパーマンじゃん」
「なにそれ」
「なんでも出来るってことだろ」
「ほんと、も〜、太郎君は前向きって言うか、変って言うか」
「あきれる?」
「ちょっと」
「いいんだよ、変でもなんでも。求められる場所に行けばいい。そこがしずみの得意なことに、繋がってるかもしれないだろ」
ジュース買うのが、得意って言われてもな、、
「しずみ?聞いてる?ほら、ここにしずみが辿り着いた」
と、床の白紙の看板をさす。
「看板を描くことを求められた。それがしずみの得意なことだろ」
「全部、太郎君次第でしょ。はい、でも、やります!」
と僕は呆れながら腕まくりをして気合を入れ直した。
家に着く。帰り際に渡された交換日記を開く。
《看板のこと、承諾してくれてありがとう。本当に助かる。
助かるだけじゃなくて、しずみと放課後過ごせることが嬉しい。どんな看板にしようか?》
《承諾しました。承諾したからには頑張ろうと思ってるよ。どんな…帰りに考えていたんだけど、ウチの学校は花が多いし、癒やされる感じがいいと思う。例えば》
と、学校に咲いている桜やパンジー、クチナシなどの花の絵を描いた。
次の日の放課後、会長室
「今日は早いな」
「みんな、忙しそうだったから、その隙に」
「そんなコソコソしてんのか」
「まぁ、まぁ、僕のクラスのことはいいから」
クラスでイジられてること、太郎君にはバレたくない。恥ずかしい。
少しでも、太郎君に釣り合う人間でいたい。
「しずみ、大丈夫?何かあったら相談しろよ」
「分かった分かった。あっ、相談と言えば、
評判悪いよ〜この文化祭のスケジュール」
「そのこと。やっぱり」
「文化祭が中間テストの1週間後なんて。テスト勉強しないで、文化祭準備しろ!ってことでしょ。
後、10日もしたら中間テストなのに。みんな、文句言いながら、こうやって、放課後を使っているよ。」
「例年だから」
「逃げた」
と僕は太郎君を睨む。
「はい、逃げます。だって、就任してすぐに、文化祭の日程変更なんて不可能。変更するなら来年のだけど、俺その頃、会長じゃないし」
「ズル、なにそれ?会長の風上にも置けない」
「おっ、しずみから、まさか慣用句が出るとは」
「バカにして〜」
「してない、してない」
と笑顔をみせる。
「ズルい」
僕は、あまりにも笑顔が眩しくて目を逸らした。七三分けで、メガネをしていても、あの笑顔には敵わない。
「はいはい、ズルいズルいって言ってないで、やりますよ。内容は、これで決定!」
と交換日記を出した。
僕が朝、放送室のポストに入れたのをちゃんと見てくれていた。
「ほんとにいいの?」
「いい、これがめちゃくちゃいい。しずみは流石だな」
と太郎君は僕の目を見て言ってくれた。
文化祭まで後3週間。
週末。
家でゴロゴロしながら、テスト勉強をしていた。
早く月曜になってくれ〜と、願ったのは初めてだ。
看板のイメージはもう完璧。
早く取り掛かりたい。
自分の絵が沢山の人に観てもらえる。
緊張するけど、ワクワクもする。
それに早く、太郎君に会いたい。
月曜の誰もいない下駄箱。
僕の下駄箱だけ輝いてみえる。
《疲れた〜文化祭準備って、生徒会がやること多すぎ。
久しぶりに、ゆっくりできる土日だった。
しずみは何してた?
しずみに会って癒されたかったぁ。
俺は、本を読んだり、ゲームしたり、柴子とさんぽしたり。柴子のさんぽは、姉との取り合いで。
どっちも譲らなくて結局、柴子は1日4回も、さんぽ行ってたけどね》
《お疲れ様。僕の土日は、一応テスト勉強してた。
なかなか進まなかったけど。
柴子、愛されてるね。
そう言えば、僕も妹とメロンパンの取り合いした。
お母さんが近くのパン屋さんで買ってきてくれたんだけど、二人ともメロンパンが第一候補で。結局じゃんけんで僕が負けた。太郎君は1番好きなパンって何?(メロンパンの絵)》
1限目が始まる前に放送室のポストに入れた。
3、4限目は文化祭準備。
明日からテスト期間の1週間前、部活停止期間となる。その期間は放課後、学校には残れない。
だから、どこのクラスも今日、集中的に準備が進められている。僕は、
「くらい、水、絵の具の水入れ替えてきて」
「段ボール足りないから、調達してきて」
「床の養生テープ、ちゃんと貼れって言っただろ、やり直し」
など、呼ばれるがままに動いていた。
「くらい、ほんと使えねぇな。だから整理券、家で作ってこいって言ったよな」
と、突然、伊達君に詰め寄られた。
「ごめん、でも知らなくて」
「知らないって何だよ、俺が言い忘れてたってことか!」
「別にそういう」
僕は後退りをし、水入れにつまずき尻もちをついた。水入れはひっくり返り、ポスターを濡らした。
「何やってんだよ」
伊達君の声が響くと同時に、入口の壁がノックされ、ダンス部の小森先輩が入ってきた。
クラスの女子がざわつく。
「川本君、大丈夫?これ。」
と交換日記を差し出した。
僕は立ち上がり、交換日記を受け取る。
小森先輩の登場に、クラスは静まり返った。
「せっかくの楽しい文化祭だから、準備も楽しくしようね」
「「「はい」」」
女子達が、小森先輩のアドバイスに、元気よく返事をし、ポスターの塗り直しに取り掛かる。
僕はみんなに、
「ごめんなさい」
と頭を下げた。誰からも反応は無い。
小森先輩は、
「頑張ってね」
と肩をポンと叩いて出て行った。伊達君が
「ごめんなさいって言われてもな、間に合わなかったらどうするんだよ」
と凄みながら、また近づいてくる。
そしてパッと交換日記を取った。
僕は取り返そうと追いかける。
「廊下でやってよ、また汚れるから」
というクラスメイトの声が聞こえる。
伊達君は黒板の前で、交換日記を放り投げてはキャッチしている。僕は
「返して」
と手を伸ばした。
「川本しずみ君いますか」
入口で僕を呼ぶ声、
振り返ると太郎君が立っていた。
恥ずかしさのあまり、俯く。
伊達君の手も下がる。その隙に、サッと交換日記を取った。
伊達君は何か言いたげだが、生徒会長を前に騒げない様子だ。
静まり返る教室に向かって、太郎君はもう一度
「川本しずみ君はいますか」
と言った。
みんな僕をみる。太郎君はツカツカと教室の中に入ってきて、僕の手首を掴んだ。
そして
「文化祭実行委員は?君たち?今から文化祭終わりまで、彼は生徒会の文化祭準備を手伝ってもらうから、よろしく」
「あっはい」
実行委員は、太郎君の圧に圧倒されている。
「じゃあ。クラス全員が楽しめる!そんな文化祭にしようね」
と僕の手を引きクラスを出た。
クラスメイトのざわめきが後ろから聞こえる。手元をみた、この手はいつまで繋がっていれるのだろう。
引っ張られながら、太郎君の背中を見つめる。
会長室前で手はほどかれた。
太郎君は一言も話さないまま、僕に体操着を渡した。
「これは?」
「学校の予備、だから着替えて。濡れてるでしょ」
「ありがとう」
僕は着替えながら、張り詰めている空気を和まそうと、
「僕、ほんとドジで。水入れにつまづいちゃって。
こぼしちゃって。だけど、クラスのみんなに謝ったら、何とかなるって言ってくれて、いいクラスメイトで」
「嘘つくなよ」
「えっ」
「小森から聞いてるから」
「あっ、そっか」
僕はソファに座っわって、着替え終わった制服をたたみながら、言い訳をした。
「でもいつもじゃないから、テストとか文化祭とか近くて、みんなピリピリしてて、イジメられてるわけじゃないし、ちょっとイジられてるだけっていうか」
太郎君は僕の頭にポンと手を置きながら、
「イジメでもイジりでも、どっちでもいい。しずみが傷ついてるから、イヤだ」
「僕は別に」
「しずみ、自分の気持ちにわざと鈍感になるな。」
そう言って僕の肩をグッと抱いた。
「今までは1人で、倒れないように、わざと鈍感になってたんだろけど、今は俺がいるから。俺が支えてやるから、辛い時は辛いって言っていいんだよ」
僕は泣いてしまった。
泣いてしまって、涙も鼻水も止まらない。
太郎君は優しく
「ほら、しずみ、ティッシュあるから」
と渡してくれた。
「あっありがとう、優しいよね、太郎君は」
「はいはい、もういいから泣きやめ〜。あっお昼ご飯は、購買でメロンパン買ってこようか」
「ありがとうぅ」
太郎君の優しさに涙が止まらない。
2人でお昼を食べていると、太郎君の携帯は何度もなった。
「忙しいの?」
「めちゃくちゃ、忙しい。だからごめん。午後はほとんど顔出せないけど、一人で大丈夫?」
「全然大丈夫、頑張ってね」
と、太郎君を見送った。
看板を描き始める前に、交換日記を開いた。
《俺の1番好きなパンはクロワッサンかな。誰か、クロワッサンの上手な食べ方教えてほしいよ笑
文化祭関連だと、今更、予算の増額を申請する部がいくつかあって、ウンザリする。断ろうとしたけど、前田がルールではギリギリまで、申請可になってるから、断ることは出来ないって。真面目過ぎだろ?
で、その話合いがスケジュールに割り込んできて、他の作業とかが、ずれまくりだよ。
文化祭は準備から全てを楽しみたいんだけどな。しずみは文化祭たのしめてる?》
《太郎君のお陰で、今日から楽しめるよ。そう言えば、緑化委員としても、チューリップの予算アップをお願いしたいかも…落ち着いたら、申請書出します。
あっ、今朝、妹からされた色占い。太郎君は何色が好き?
僕が好きなのは紺色。
影のリーダー・縁の下の力持ちタイプだって。全然違うって、妹に笑われたよ。
PS
交換日記はずっと下駄箱にお願いします。小森先輩に教室にまで持ってきてもらうのは悪いので。》
看板は最終下校時間の19時まで描き続け、なんとか目処がついた。
太郎君は忙しくて会長室には戻って来なかった。僕は交換日記を会長室の机に置き、クチナシに水をやり帰ってきた。
部活停止期間〜テスト期間が終わった。約2週間、放課後の文化祭準備は出来なかった。だけど、僕らには交換日記がある。
《おはよう、交換日記は下駄箱に。了解です。
好きな色は黄色かな。
しずみの縁の下の力持ちタイプは案外あってると思うよ。
占いといえば動物占いって昔、流行らなかった?俺は狼だったかな。
追伸。
看板を見た姫川が、「秋に拘らず、四季を感じれる花々があるのがいい」って》
《嬉しい☆姫川先輩にお礼言っておいてね。学校にある全ての花を描いたんだ。
動物占い、流行ったよね〜
僕は羊で妹はトラ。
妹の方が強い動物だから、この占いは信用出来るって母さんが言ってた笑
小学生の頃から変わらないんだよね。
小学生の頃といえば、妹と家の庭にタイムカプセルを埋めたんだけど、目印を石にしてて、母さんがその石を移動させちゃって、未だに見つけられない。(タイムカプセルのクッキー缶の絵)》
《妹さんと仲いいんだな。石を目印にしちゃダメだろ笑
タイムカプセルには、何を入れたの?
俺は、小学生といえば、一応ダンス頑張ってて。
だけど、こっちに引っ越してきて、なんか改めて教室入るのも億劫で。しずみは、なにか習い事してた?》
《石って言っても、3歳児くらいある、石だよ。
ダンス!それで小森先輩と仲いいの?
今度踊ってるとこみせてよ。
小学生で引っ越してきたってどこから?
習い事はしてたよ。一通り。妹と一緒に。
ピアノ、習字、水泳みたいな。
妹は、なんでも、そつなくこなせてて、
ピアノのコンクールに出たり、
学校で習字の代表になったり。
たしか水泳も選手コースだったかな。(石を持ち上げるお母さんの絵)》
《3歳児の石ってなんだよ笑、お母さんの絵面白すぎ。ダンス、見せるのは絶対イヤ。
引っ越してきたのは同じ市内、車で40分くらいかかるところかな。
妹さんと一緒に一通りやってるのは、しずみぽいな。いいお兄ちゃんなんだな。
そうだ、中間テスト大丈夫そう?》
《大丈夫じゃない〜(見開き一面に砂浜で倒れ込む自分の絵)》
《なぜ、海?笑
だけど、この絵嫌いじゃないよ。
勉強は、積み重ねだからな。しずみは重ねてないんだろうな》
《重ねてないよ、並べてる。だから、広大になって。果てしなくて〜海って感じ。
海の前では、僕は無力なんだよ。
太郎君はその海で悠々とサーフィンしてそうだね。(サーフィンしている太郎君の絵)》
《サーフィンか、楽しそう。学生の間は嫌でも勉強という海に出るんだから、楽しまないとな。
しずみは釣りから始めたら。まずは取っつきやすい問題から、一本釣りで笑》
《釣りなぁ〜いい思い出ないんだよ。
昔、お父さんと2人で川釣りにいって、溺れて。それから、川も苦手で。
てゆーか太郎君て…苦手なもの無さそう。無敵で最強で爽やかで(七三メガネの太郎君の無敵笑顔の絵)》
《どんなイメージだよ。
俺の絵?こんな風に見えてるの?ありがと。
でも無敵でも最強でも爽やかでもない。ただの高2男子だよ。ヘタる時あるし、支えにしてるものもあるし。しずみの様に特別じゃないんだよ俺は》
《いやいやいや、僕のどこが特別なの?無い無い。
太郎君は案外、周りが見えてないんだね。
遅くなったけど、タイムカプセルの中身は、当時、妹と2人で集めていた、かわいい消しゴムです。
PS
看板依頼してくれて本当にありがとう。
文化祭準備中、クラスにいなくてよかったし、看板も描けた。いいことばっかりだった》
