僕と生徒会長の好きって書けない交換日記

放課後、僕の下駄箱にはノートがあった。
 
《文化祭看板依頼
作業は会長室でやってもらっていいので、よろしくお願いします。
もちろん、微力ながら手伝うよ》

え〜、文化祭の看板って?なに?どんな感じだったっけ?
去年、学校見学で文化祭には来たけど、覚えていない。

《僕には無理です。看板って、絶対すごく大事なものなのに、僕なんかには出来ません。
PS
連休の3日目、花壇の水やりに来ます》

その場で書いて、放送室のポストに入れて帰宅した。
せっかくの連休、夏休みの様に太郎君に会いたい。
だけど、会えなかった。太郎君は来なかった。
中間テストが近いのに、全く、勉強には身が入らない。

連休明けの下駄箱

《おはよう。連休のこと、ノートに気付いてなくて、行かなくてごめん。
今日はお昼を一緒に食べよう。会長室で待っている》

会えなくて暗い気持ちが一気に明るくなる。
行けなくて、じゃなくて、
行かなくて、というところが太郎君らしいな。
そんな事を考える僕の顔はほころんでいた。
「邪魔だよ」
伊達君にお尻を蹴られて現実に戻される。
お昼休みのB棟は静かだ。僕は4階までかけ上がる。会長室をノックすると
「はい」
会長トーンの太郎君の返事が聞こえる。
「失礼しま〜す」
僕は、小さな声とともに、引き戸をあける。
「どうぞ」
自分の隣のソファに僕を促す、七三メガネの会長モードの太郎君がいた。
僕は緊張しながら腰を下ろした。
「月曜は本当にごめん」
「全然大丈夫。…」
僕は、見た目と口調の合わなさに、まだ慣れない。
「どうした?」
「いや、七三分けのメガネの会長が、そのフランクな話し方。まだ慣れない」
「それは、慣れなきゃ。しずみだけの特権だから。この俺のチグハグモード見れるの」
「そうだね」
僕だけの特権。
「あっ、ノート放課後にポストに入れてもさすがに、見ないよね。こっちこそごめん。太郎君はお弁当?」
と僕は話を変えた。
「俺はコンビニ」
と袋をみせ、おにぎりを出す。
「しずみは弁当?」
うんと、頷きながらドキドキしてるのは僕だけ。
なんだか損してる?なんて考える。僕は
「文化祭の看板。どういうこと?」
と、太郎君に確認する。
「あ〜ごめん、ごめん。でも、もうしずみにしか、お願い出来なくて」 
「なんで?」
「生徒会会議室に置いてあった文化祭の看板、俺が壊しちゃって。まっ、美術部にお願いしたら、ちゃっちゃって、やってくれると思ってたんだけど」
「無理だよそれ」
「なんで、美術部と同じリアクション」
「どんなものでも、一個の作品を仕上げるには時間とエネルギーかいるから」
「そう、全く一緒。そう言われて、美術部は、文化祭に展示する自分たちの作品で手一杯だって」
「それで僕?」
「そう、美術部くらい絵が上手いくせに、なぜか〜くすぶっている、しずみにお願いするしかないって思って」
「悪かったね、くすぶってて」
「いいって、いいって」
「良くないよ」
「こういう時、美術部員じゃなくて、助かったよ。」
「テキトーだね」
と太郎君を軽く睨んだ。
「看板の文化祭って字は俺が書くから、周りのデザイン?てゆーか絵を、しずみにちゃっちゃっとお願いしたくって」
「ちゃっちゃじゃないよ」
「そこをなんとか」
とおにぎりを持ちながら、僕に手を合わせてきた。
「あ〜もうわかったよ。ちゃっちゃっとじゃなく、しっかり描きます」
「ありがとう」
太郎君はそう言って、僕にハグをした。
ニヤけた顔が止まらない!せめて胸のドキドキだけは、太郎君にまで響かないことを祈っていた。
そっと体が離される時に目が合う。
「うん?」
太郎君は僕の表情に疑問を持ったみたい。僕も自分が今、どんな顔をしているのか?わからない。
僕は部屋の隅にあるクチナシの鉢に目を逸らした。
「あれクチナシの実だよね」
「分からない」
「水やりしてないの?」
「するの?」
「剪定は」
「するの?」
「肥料は」
「するの?」
「太郎君、真面目に」
「真面目だよ、本当に何も知らない。色々引き継ぎはあったけど、それに関しては無かったから」
「それって、クチナシね」
「はい、クチナシ、…え?」
「あげてもいい?水」
「もちろん」
僕は自分が飲むはずだったミネラルウォーターを少しクチナシに分けた。
「ほんとに好きなんだな、植物が」
と僕を見る太郎君と目が合った。
「普通だよ。目の前に枯れそうな木があるのにほっとけないよ」
僕は手元のお弁当へ視線を移す。
太郎君もコンビニの袋から、新しいおにぎりに視線を移す。そして
「じゃあ、さっそく、今日の放課後から、きてくれる」
と話を仕切り直した。
「分かりました。あと…ノートは?…続ける?」
と僕はノートをみせた。太郎君は受取り
「俺はそのつもりだったけど、しずみは…嫌?」
と、僕の顔をのぞき込む。
「嫌じゃないけど」
本当は、やめたくない。
入学して初めて、学校に来る楽しみが出来ていた。
「学校では、ゆっくり話せないし、交換日記みたいで楽しい。それに俺、しずみの絵が好きだから、俺は続けたい」
「ありがと。まっ、太郎君がそこまで言うなら、続けようっか」
と僕は、ふざけて偉そうに言った。
「ありがとう〜」と太郎君は僕の頭をグリグリした。
「いたい〜」と避けながら、嬉しさがこみ上げてきた。