僕と生徒会長の好きって書けない交換日記

その日の放課後
「し〜」
僕のあだ名を呼ぶ、懐かしい声に振り返る。
幼なじみで、別の高校に進学したケンちゃんが、自転車にまたがり、校門で待っていてくれた。
あだ名の"し〜"は、小さい頃から、ほっといても静かで、人差し指で「し〜」とされているみたいだから、"し〜"と呼ばれている。
「ケンちゃん、部活は?」 
「弱小野球部ですから、たまには休みがあるんです」
と自虐的に返してきた。
「し〜は?少し遅くない?」
「あ〜ちょっと」
2人で自転車を押しながら歩き出す。
「イジメ?」
「違う違う、イジメられてないから」
「エスカレートしてない?」
「してない。ありがと、心配してくれて」
「そりゃ心配するでしょ、し〜はイジられやすいから」
「ケンちゃんの後ろ盾も無いしね」
「そうだろう」
と、左手の力こぶを見せた。
「また、筋トレしてるの?」 
「野球部と言いつつ、筋トレ部と化してるからな。ウチの部は」

ケンちゃんのお陰で久しぶりに笑顔になれた。

次の日の朝、下駄箱にはノートがあった。
誰かが登校してくる気配を感じて、足早に教室に向かう。
教室には、すでに数名の生徒がいる。
誰も僕のことなんて気にもしていない。
ゆっくりとノートを広げる。

《落書きでもいいです。
何でもいいので、このノートに描いてみてください。そうしてもらえたら、南天を移植する件は、見直します。
追伸。
毎回、会長室に届けてもらって、ありがとうございました。今後は川本君の教室があるA棟2階、突き当たりにある放送室のポストにノートを入れてください。このポストは歌のリクエストを入れるものですが、機能しておりません。放送室は生徒会の管轄下にあり、ポストの鍵も生徒会が管理しております。》
 
放送室にポスト?あったかな?絵を描く。なんの?
描いたら本当に移植は考え直してくれるのか…。
それにしても、丁寧な字だな。
こんなに、丁寧に字を書く人が、本当に性格悪いのかな?
あ〜誰かに絵を見せたことなんてないのに…
でも、描かないと。
太郎君を思い出した。
上手だと褒めてくれたこと。
あのお手本の様な笑顔。
例えば、太郎君にむけて描くとしたら、なんの絵を描くだろう?
教室へ戻って、夏休みの太郎君との会話を思い出す。
太郎君が好きな物…飼っている柴犬。
授業中、僕は絵を描き続けた。
太郎君を思いながら描く絵は楽しくて、絵の中の柴犬も、優しく微笑んでいた。
 
《ノートの心配ありがとうございます。
放送室なら近いので助かります。
お見せするような絵では無いですが、南天の移植を考え直してもらえるなら、描きます。
下手なので、誰にも見せないで下さい。(柴犬の絵)》
 
2限目が始まる前に放送室へ向かう。
小さな鍵が着いたポストがあった。
中をのぞいてみる。
何も入っていない。
そーっとノートを入れた。
誰かに絵をみられるのは、照れくさい。
自分でも自分の顔がどうなっているか分からない、なるべく普通の顔を心がけて教室に戻った。
「くらい、何キモい顔してんだよ」
伊達君にすぐに見破られる。
僕は机にうつ伏せになり、太郎君を思った。
太郎君に会いたい。
太郎君と廊下で、すれ違うだけでも、きっと元気がもらえる。
いや、太郎君がこの学校にいると思えるだけで、勇気がわいてくる。
なのに、いないなんて。
いないって、だからどういうこと?
お昼まで、考えても、もちろん答えは出ない。
授業中、何度も先生に集中しろと怒られた。
だけど、集中なんて出来ない。
あ〜もう嫌だ。
お昼ご飯はいつも通り、誰も来ない外階段で食べる。教室にもどる前に下駄箱を確認にすると、

「あった」
僕はすぐにノートを開く。

《柴犬だよね。
景色以外も描くんだね。すっごくかわいい。絵の事は詳しくないけど、川本君の絵は、暖かいね。
川本君が愛情を持っているものを描くから暖かいのかな。忙しすぎる生徒会の仕事の合間にみて、癒やされました。
もしよかったら、また絵を描いてもらえたら嬉しいです。》

《ほめてもらえてよかったです。
愛情とか、そんな立派なものでは無いです。景色も描きますが、好きなものを描いてます。
柴犬は友達が飼っていて、…あっ友達と言えるか、わ分かりません。
夏休み以来、会えていませんし。
僕が勝手に友達だと思っている子が飼っていて、その子との夏の思い出を、思い出しながら描きました。
ただの絵日記の絵みたいなものです。
生徒会の仕事、大変なんですね。そんな中、申し訳無いのですが、南天の木はどうなりそうですか?》


「ということで、ウチのクラスは縁日を再現します。わたあめ、スーパーボールすくい、フランクフルトを販売するチーム、飾り付けチーム、呼び込みチームに分かれました、自分の名前が無いなぁって方います?」
あれ?5限目は文化祭の話合いだった。
だけど、絵を描いているうちに全てが決まっていた。僕の名前は黒板に名前無い。どうしよう…。
ゆっくり手を挙げた。
「あっはい。名前無いです」
と実行委員に伝える。
「えっなんで」
「なんでと、言われましても」
「希望聞いてる時に手を挙げなかったの?」
ヤバい。責められてる。
「たぶん、すみません」
「くらいは全員の雑用でいいじゃん」
伊達君の声が響いて、みんなが僕の反応を待っている。
「ぼ、僕はそれで大丈夫だけど」
「じゃあ、川本君はなんでも屋ってことで、よろしくお願いします。
それぞれチームに分かれて話合いしてください」
僕は一人、自分の席に座っていた。
わたあめチームや飾り付けチームなど、それぞれ集まって話合いをしている。
僕をイジる伊達君ですら、スーパーボールすくいとして、皆と楽しそうにしている。
僕だけが、馴染めていない。
居心地の悪さを感じてノートを持って廊下に出た。
暇だし、何を描いてもいいと書いてあったから、南天の木を見に行った。
南天の木の絵を描いたノートを放送室のポストに入れ、教室に戻る。ちょうど6限目が終るチャイムが鳴った。

次の日の朝も下駄箱にはノートが入っていた。
僕はワクワクしながら、ノートを開く。

《南天の木の絵ありがとう。みずみずしい綺麗な絵ですね。南天の移植は、しない方向で、学校に掛け合っていますので、もう少しお待ちください。》

すごい。本当に学校と話してくれているんだ。
僕なんかの意見を真面目に聞いてくれるなんて。
絵を描けって言うのは、よく分からないけど、会長は、みんなが思ってる様な人じゃない。いい人だと思う。

《さっそく、学校と掛け合って頂きありがとうございます。(花壇のパンジーの絵)》

早くお礼を伝えたくて、サクッとパンジーの絵を描き、放送部のポストへ入れた。

お昼休み、まさかとは思いながら、下駄箱を見に行く。
「あった!」

《今日の放課後、会長室に来てください。よろしくお願いします。
夏休みにあった、お友達は、何か事情があるんだと思います。相手の方も、友達だと思っていると思いますよ》

友達?急になんだろう?
放課後…公約を白紙にしてくれるのかな?。
怒られる様な事…してないよな。
不安と期待の中、放課後になり、会長室前で深呼吸をした。
ノックすると、すぐに返事が返ってきた。
「すみません、緑化委員1年の川本です。」
「どうぞ」
引き戸を開けて中に入る。
会長は机に腰掛け、足を組んでいる。
机に座る会長は、足、長すぎ!!。
「急に呼び出してごめん。大丈夫だった?」
「はい。全然」
あれ?なにか話し方が違う…
机から、降りながら、手首を回した。
あれ?それって、肩コリに効く…
「お願いがあるんだ。俺の友達のしずみに」
友達?しずみ?この呼び方!
僕はうつむき加減だった視線を会長に合わせた。
「え〜っ、あっえ〜」
僕は引き戸まで後ずさりした。
目の前には、メガネを外し、七三分けを、クシャクシャにして、犬みたいに頭を振る太郎君がいた。
「何?えっなんで?太郎君、会長?」
「しずみ、ビックリし過ぎ」
と笑う太郎君に、少し腹がたつ。
だって
「だって、もう会えないと思って、なのに、目の前に居て。会長とか本当、意味わかんない」
「騙すつもりは無かったんだけど」
「ひどいよ、2年とか、聞いてないし」
僕はいつの間にか涙声になっていた。
太郎君は、神妙な声で
「しずみ、ごめん。」
と僕の頭をポンと触り、ソファの肘かけに座った。
「本当に騙すつもりは無かった。落ち着いたら、しずみに会いに行くつもりで。だけど、就任初日に、しずみの方から来るんだもん。びっくりした」
「そっそれは、事情があって。」
そう言いながら、僕は太郎君の座っているソファにドシッと腰をおろした。
ソファは思ったより固くてお尻が痛かった。
「てゆーか、太郎君、名前、太郎じゃないよね?」
「うん?」
「だから都野会長の下の名前、太郎じゃないよね?」
「あ〜まぁ、あの時は、しずみが名前に、コンプレックスがあるみたいだったから。
俺もちょっとでも、変な名前を答えた方がいいのかなぁと思って」
「だから、太郎は普通だって。本当の名前は?」
「あぁ笑、幸太郎。都野幸太郎。だから、コタって呼ぶヤツもいるけど、今更、呼びづらいでしょ。」
僕は太郎君に鋭い視線をむけた。
「わかったよ、そんなに睨むなよ」
「だから、睨んでないし」
「睨んでるよ」
「睨んでないよ」
「睨んでるよ、明らかに」
「睨んでないし、明らかじゃない」
「明らかだよ」
「明らかじゃない、太郎君は…あっ、会長は」
「いいよ、太郎で」
「良くないよ、会長だし、太郎じゃないし」
「会長だし、太郎でしょ」
「だから、本名は違うでしょ…コタ?」
と僕は試してみた。
「変だよ」 
「はい、会長」
「だから、それは絶対イヤ」
「じゃあ…」
「太郎で決まり」
と押し切られた。
「分かりました。太郎君、よろしくお願いします」
と僕は、礼儀正しくお辞儀した。
「こちらこそよろしく」
と太郎君は、右手を出して握手を求めた。
僕も手を出し握手する。
突然、太郎君が僕を、引っ張ったから、太郎君の胸に飛び込む形になった。
心臓がヤバい。
このドキドキ、太郎君に伝わってしまっているだろうか…
太郎君はいつも通り話し始める。
「よかったぁ、もう、しずみと普通に話せないかもって、一瞬、焦った。
あと、ノートに書いてたよな、友達と言えるか分からないって。不安にさせて、ごめんな」
「うん、大丈夫。大丈夫じゃなかったけど、だって太郎君、いなくなっちゃったんたもん」
「それはマジ(ごめん)」
コンコン、ノックの音が響いた。
僕らはとっさに離れる。
「はい、少しお待ちください」
太郎君の声は会長のトーンに戻っていた。

「ごめんなさい、都野君と看板について相談したくて。」
扉の向こうで姫川先輩?の声が聞こえる。
太郎君は髪型を戻し、メガネをかける。
「どうぞ」
僕は、邪魔にならない様に部屋の隅、クチナシまで下がった。
入ってくる姫川先輩と目が合う。
「ごめんなさい、お客様がいらしたのに」
「いえいえ、僕はもう、終わりましたから。では、会長、そういう事で。」
僕は太郎君に視線を送りながら出口まで後ずさりした。
「川本君、詳しい事はノートで」
そう言って視線を外す太郎君。
僕はうなずきながら、廊下に出たけど、 詳しいこと?なんのこと? 色々分からないことだらけだ。
だけど僕の顔は嬉しすぎてニヤけている。
もう会えないと諦めかけていた太郎君が、目の前にいた。 本当に夢みたいで、嬉しすぎる。
僕はニヤけた顔の頬を両手でパンパンと叩いた。