僕と生徒会長の好きって書けない交換日記

家に帰り、自分の部屋でノートを開く。
B5の横に罫線が入った普通のノート。
緊張して会長のことはよく見ていない。
性格が悪いと聞いていたけど、そこまでひどくはなかった?
いや、こんな面倒くさいことをさせるのは、ネチネチした性格の悪さだ。
とりあえず自己紹介を書いて、要望を簡潔に書こう、
そう思った。

《1年5組川本しずみです。
緑化委員として、花壇を無くして駐輪場を広げるという公約には反対です。考え直してください。よろしくお願いします。》

ノートを閉じベットに横になる。
頭には太郎君の笑顔が浮かぶ。
あ〜太郎君、どこに行っちゃったんだろう。
本当にもう会えないのかな。
 
次の日、いつもより早く家を出た。
自転車で30分走ると学校に着く。
予想通り、学校にはほとんど生徒がいない。
生徒会会議室のあるB棟にむかう。
部外者なのに、この棟をウロウロしていることが、気まずい。
さっさと会長室に、ノートを届けよう。
息を切らしながら4階まで階段を駆け上がった。
会長室は生徒会会議室の廊下を挟んで向かいにあった。
僕は誰もいないであろう空間にむけ、ノックをした。返事はもちろんない。
引き戸を開けると、だだっ広い空間に教職員用と同じ机、椅子が、置かれていた。
手前に小さなテーブルと二人掛けソファが向かい合わせに1台づつ。壁に立て掛けてあるパイプ椅子は3脚。
ここで、生徒会メンバーと先生達が話合いをすることもあるのだろうか?とふと思った。
ノートを机に置き、教室に行こうと振り返ると、入口隅に鉢植えがあった。
プラスチックのラベルにはクチナシとある。
この学校は花壇が多い、廊下には生花が花瓶に入れられ、何か所にも飾られている。生徒会長室にまで花がある。
きっと学校として、花や木にふれることを、大切にしてるのだろう。なのに花壇を壊すという発想をする生徒会長がいるなんて、理解できない。
僕は、疑問と納得のできない思いを巡らせながら、A棟2階の自分の教室に向かった。

教室に入ると、もう数名の生徒は来ていた。
伊達君はまだ来ていないことに一安心する。
直ぐに席につき、うつ伏せになり、伊達君に、なんて報告しようか?考えを巡らせた。
予鈴まで後30分…
とりあえず、直談判に行ったことは話せる。
それからどうなったかは、まだ何も結論が出ていないと、これも正直に話そう。
それで、何かムチャを言われるのか、なじられるのかは分からないけど、本当のことだし、それしかない。
予鈴まで後10分。
伊達君は遅刻かもしれない。
伊達君の遅刻を願っていると、
「川本」と知らない声に呼ばれた。
僕は声のする方に顔を上げる。
教室の入口に、ダンス部の部長が、見覚えのあるノートを手に持っていた。
僕は急いで入口へ行く。
教室はざわついている。
「これ」
とほんの、50分前に会長室の机に置いた、ノートを受け取った。
「えっと」
「俺は、2年の小森、渡せば分かるんだよね」
「あっ、ありがとうございます」
先輩が立ち去った後、数人の女子に矢継早に質問される。
「どういう知り合い?」
「ダンス部じゃないよね?」
「小森先輩と、どんな話するの?」
そう言えば、生徒会の阿部先輩と小森先輩は、ウチの学校で、人気を二分していると、聞いたことがある。
「ねぇ、川本君聞いてるの?」
女子達の質問に、
「わからない」
と答えて席につく。

そしてノートをめくる。
僕の汚い字の後に、3行あけて、綺麗な字が増えていた。
会長がもう返事を書いてくれたのだ。

《おはようございます。生徒会長の都野です。
公約の件、通学で、自転車を利用する生徒は5年前と比べて1.5倍になっています。安全面、利便性から考えて、駐輪場拡張を公約としました。
緑化委員としても仕事が減るので、喜んでもらえるかと考えていたのですが》

僕は、1限目の授業中に返事を書く。

《お返事の早さに驚いています。ありがとうございます。
しかし、緑化委員が喜ぶという勝手な想像には納得いきません。
あの花壇に植えられている木を、咲いている花をご存じですか?
とても歴史のある南天の木です。
もう20年以上になるそうです。
グラウンドに咲く桜の花を南天越しに見ると、すごく絵になります。ですので考え直してもらえると
助かります》

そこまで書いてノートを閉じた。
自分でもビックリするほど、僕はイライラしていた。
授業が終わると同時に僕は走り出した。
廊下で、遅刻してきた伊達君と、すれ違う。
「くらい」
と呼ばれたが、走る速度は変えなかった。
B棟4階、B棟4階、僕はそれだけを考えながら走った。
会長室前、息を整えてノックする。
返事はない。鍵はかかってない。
朝と同じ様に、机にノートを置き、A棟2階の教室まで戻った。
伊達君に、さっき無視したことを怒られそうで、話しかけられないように、予鈴と同時に教室に入る。
2限目が終わり、案の定
「くらい」
と後ろから呼ばれた。
僕は伊達君の机に近づく。
「さっき、何無視してんだよ」
と、軽く足を蹴られる。
「ごめん、急いでて」
「はぁ?お前なんかに、用事なんて無いだろ」
「うん、ごめん」
俯き、早く終わることを願っている。
「あれは?どうなったの?」
「あれ?」
「生徒会長だよ」
とまた蹴られる。
「あ〜行ったよ。昨日」
「どうなった?」
珍しく、僕の話に前のめりになる伊達君たち
「どうって、まだ。何も、向こうは利便性がいいって言うから、こっちは…」 
「結局、変わらない、花壇は撤去って事だろ」
「いや、まだ分からない」
伊達君は、周りの仲間を見渡し、バカにしたように笑った。
「お前、案外しつこいな。」
片手でシッシッとされ、席に戻った。
しつこいって、なんだか納得いかない評価を受けた。
1日が終わり昇降口に行く、僕の下駄箱にはノートが入っていた。
 
《早速のお返事ありがとう。
南天越しのグラウンドが絵になる。と、感じるその感覚、絵を描いてらっしゃるのですか?
もしそうなら、川本さんの絵を見てみたいです。
このノートに、少し描いてみてくれませんか?
南天の木は、移植すればいいと言う意見もあります、切り倒す訳ではありませんのでご安心ください。》

僕はその場で座り込み、返事を書いた。

《移植には反対です。
移植すれば、南天は弱ってしまうかもしれません。
もし、大丈夫だったとしても、20年間見続けたグラウンドが見えなくなるのは、南天も悲しいと思います。
僕は絵を描きますが、落書きのようなものなので、お見せするようなものではありません》
 
B棟4階会長室にノートを届け校門を出た。
クチナシに水やりをしているのか?
少し気になったが、
生徒会メンバーとの鉢合わせを避けるために、逃げるように帰った。