僕と生徒会長の好きって書けない交換日記

登校して、ロビーのサイネリアを会長室のサイネリアと入れ替える。そんな毎日が続いた。

「おはよ〜」
その日は石川先輩が、既に会長室にいた。
「おはようございます、早いですね。
どうしたんですか?」
「ここに来れば川本君と話せるって前田君に聞いて。」
「はい」
僕は石川先輩に何を言われるのか内心ドキドキして構える。
「ごめんなさい。」
石川先輩は、自分の足に頭をぶつけるほど腰を曲げ頭をさげた
「えっ」
「川本君の気持ちはどうでもいいっていって」
「あっ、全然大丈夫です。頭あげて下さい」
「大丈夫じゃないよ、あべなつに言われたの。川本君、私に変な影響受けてるって」
「変な…」
「出来もしないのに、私のマネしてるって」
「出来もしないのに…」
「私が言ったんじゃなくて、あべなつがそう言ってて。私は私で、川本君を巻き込んじゃったから、最後まで話す必要があると思って」
「最後…」
「姫川ちゃん、都野君に振られたって」
「そうなんですか、姫川先輩大丈夫なんですか?」
「うん、思ったより、強いわ、姫川ちゃん」
「そうですか、よかった」

「で、お節介お姉さんとしては、一言。川本君の気持ちは、どうでも良くないよ。私には、どうでも良くても、川本君自身には大切な気持ちでしょ」
「はい、でも、もうどうでもいいんです。」
「どうして?」
「僕なんて、全然、太郎君には釣り合ってませんし、とゆーか、僕の好きは、皆さんと同じ好きなのか?
姫川先輩と同じ好きなのか?わからなくて。
ただの憧れで、強く惹きつけられてただけかも、と」
「ふ〜ん。川本君の好きが、どんな好きかは分からないけど、
好きだ好きだ好きだ好きだ、そう言って後ずさりしてるよね。変なのって感じ。好きなら、前に出なきゃ。」
「…」
「伝わった?」
「あっはい」
「じゃあそういう事で。」
後ずさり。変なの。
石川先輩に言われた言葉が頭の中でループしていた。

次の日

「おはよう」
「おはようございます」
僕は阿部先輩を見て、一瞬ニヤついてしまった。
「なに?」
「連日だなと思いまして。あっ昨日は、石川先輩が待っていてくれたので」
「あ〜あ、なんか言ってた?」
「僕が石川先輩に変な影響を受けてるって、阿部先輩が言ってると」
「あ〜ねっ、間違っては無いでしょ」
「間違っては無いですけど…今日はどうされたんですか?」
「元気かな〜って思って」
「元気じゃないです」
「都野も元気無いよ」
「…」
「なんででしょう」
「…」
「①川本君が離れていくから
②姫川に痛いところ突かれたから
③川本君が悲しんでるから
④石川がヤイヤイうるさいから
⑤心の支えだった交換日記を否定した自分が許せない」
「…」
僕はずっと俯いている。
「答えは〜全部!
優しくしてやってよ、見てられないよ。都野がへこんでるとこなんて」
「僕なんか側にいない方が」
「川本君てさぁ、勝手に都野を持ち上げて、勝手に自分はへりくだって、勝手に遠ざかって行くよね。
都野はずーと変わってないのに」

阿部先輩が出て行った会長室で僕は分かった気がした。
太郎君は何も変わっていない。確かに…
僕が勝手に想像して、決めつけて、傷ついて、苦しがって、怖がって。
僕も何も変わっていない。
去年の夏、僕は最初から太郎君が好きだったんだ。

突然、校内放送が始まった。
 
「しずみ、聞こえるか?
聞こえているなら、そのままで。どこにも行かないで聞いて欲しい」

太郎君の声。しずみって呼んでいる。この放送は学校全体に流れている…よね

「この放送をお聴きの全校生徒のみなさん、おはようございます。生徒会長の都野です。
私は今日をもって会長を辞任し、後任は副会長の前田君にお願いします。

先日の放送で私は、生徒会の為に、ある生徒と交換日記をしていないと嘘をつきました。
その後、姫川に言われたんです。『交換日記を無かったことにしてよかったのか?』と」

僕はA棟の放送室へ向かって走り出した、 廊下にも響く太郎君の声。

「嘘をついたところで、しずみと自分の、特別な関係が変わることは、何も無いと思っていました。
交換日記には、何気ない日常を書くと決めていたから、それが無くても、大丈夫だと思っていました。

でも、私は交換日記を読み返して気づいたんです。
ただの日常を書いているつもりが、しずみを好きな気持ちが溢れていました。

好きって書いてないはずなのに、全部がしずみへのラブレターになっていたんです。」

僕は放送室に入りマイクをオフにした。
完全にオフになってるか不安で、あらゆるボタンをオフにし、マイクの線を抜いた。

太郎君は驚いて止まっている。
そして一言
「そのまま聞いてって言ったのに」
「聞けないよ、太郎君が自爆してるのに」
「自爆って、人の告白を」
僕は息を整えて、
「そう、そのことなんだけど、整理していい?
僕は最初から太郎君が好きだった。
途中で友達だった気持ちが、好きに変わった訳じゃない。初めて会った時に、一目惚れしたんだ。」
「うん、ありがと。」
太郎君は目を細めて笑った。
「そして、太郎君も…何も変わってなくて。太郎君も最初から僕がすき…で。
あれ?そんなことある?」
「あるよ」
「最初って?夏休み?」
「入学式で、しずみに出会ってから。」
「えっー、入学式?」
「そうだよ、1年5組に川本しずみを見つけたんだ」 「…」
「好きになった、そこから何も変わってない」
「なに?どういうこと?」
「秘密」
「いやいや、気になるから」
「はい、整理は、終わった?」
「まだ、まだ」
「めっちゃくちゃ、質問する気じゃん」 
「整理するって言ったでしょ。
あと、どうして好きって書いてくれなかったの?」
「幸せ過ぎて書けなかったんだよ。しずみと再会出来て、交換日記も出来て、毎日が幸せで。明日も明後日も、半年後も、1年後も、10年後も。しずみと幸せでいたいから。関係が動いたら、壊れるかもって怖かった」
「壊さない」
「俺も、壊さない」
と、太郎君は真面目な顔で、僕の頭にポンっと手を置いた。
「あと、…多分、…つまり、僕達は、出会った時から両思いだったってこと?」
と、僕は太郎君を見上げて聞いた。
「てこと」
と、太郎君は笑い、頭の手をポンポンとした。そして
「よし、じゃあ、次は外をどうする?」
と太郎君が放送室の外を指さす。
放送室前には、かなりの人数の生徒が押し寄せている。
「すごっ」
「パッと出てダッシュで突破する?」
「ううん、まだもう少し」
そう言って、僕は、太郎君の胸に顔を埋めた。
太郎君はそのまま、そっと僕の背中に腕をまわしてくれた。
「太郎君、クチナシの花言葉知ってる?」
「知らない、なに?」
「私は幸せです」

「俺も幸せです」

太郎君の腕の力がギュッと強くなった。

放送室の外の声は聞こえない。
だけど、騒がしいのは確実だろう。
石川先輩と姫川先輩が僕達のハグを真似してみせている笑
前田先輩と阿部先輩は、廊下の交通整理をしてくれている。ありがとう、生徒会の皆さん。

太郎君が
「これ、ラブレター」
と、交換日記を渡してくれた。
きっと僕の耳は赤くなっている。
久しぶりに見る交換日記が嬉しくて、僕はパラパラと中身を確認する。
最後のページには
「しずみ、大好きです」
の文字があった。