僕と生徒会長の好きって書けない交換日記

「しず〜今日も休むの?」
リビングからお母さんの声が聞こえる。
「休む〜」
そう言ってベットに潜り込む。
「明日からは行きなさいねぇ、期末テスト受けに来なさいって、先生から連絡あったわよ」

どうしよう…教室に遅刻ギリギリに行ってテストが終わったらパッと帰る。そうすれば、誰とも話さず、太郎君と会わずに済むかな。
テスト勉強は進まない。
太郎君のことばかり考える。
何からどう考えても答えは好きしかない。
だけど会いたくない。

登校、わざと5分遅刻して教室に着いた。
問題用紙がもう僕の机には置かれていた。
テストはボロボロ。遅刻したのに時間が余る。ふと、会長室のクチナシが気になった。
太郎君は水やりをしてくれてるだろうか?
次のテストで今日は終わり。
1限目と同じで答案用紙はほぼ白紙、時間はまだ余っている。そのまま提出して会長室に向かった。
今ならテスト中で太郎君に会わずにすむ。
一か八か、鍵はかかっていなかった。
自分でも、なぜ太郎君を避けているのか?整理がつかない。
整理がつかないから避けたいのか?
堂々巡りをしながら、クチナシに水をあげる。
元気になれよ〜、そしてその元気を分けてくれ〜
その時、会長室のドアが開いた。

「しずみ」
振り返ると太郎君が立っていた。
「久しぶり、体調大丈夫?」
「えっ?」
「体調不良で休んでたんだろ」
「…うん」
「テスト早く終わらせて、さっさとここに逃げてきたんだ」
「逃げる?」
「あぁ、あの放送の後も、変わらず周りは煩くて、ほんとイヤになるよ」
「ごめん」
「なんでしずみが謝るの?」
「ごめん、僕なんかと関わったせいで。」
「うん?意味が分からないけど」
「僕のせいで、太郎君のイメージとか会長の威厳とか、傷つけたし」
「何?俺のイメージって?会長の威厳?初めて聞いたけど」
「だから、太郎君はカッコ良くてダンスも出来て頭も良くて、完璧な会長なのに交換日記なんかして、イメージが崩れちゃって」
「交換日記なんかって何?」
明らかに太郎君は、冷静を保ちながら怒っている。
「太郎君も放送で言ってたでしょ、非効率的なことで恥ずかしいって」
「あぁ、だから何?あれは事実じゃないってしずみもわかってるだろ」
「わかってるけど、わかってるけど、もう、無理だよ」
僕の目から涙がポロポロポロポロ溢れてきた。
「無理って、何が?」
「僕が太郎君の近くにいることが。」
「別に物理的に近くに居てもらってるって感覚は無いけど。だから交換日記をしてるんだし」
「物理的にじゃなくて、気持ち的に。友達で、もう、いられない」
そう言って、僕は会長室から走って逃げた。
太郎君が追いかけてきて、話を続けることになっても、もう話せる言葉が見つからない。
思い当たる言葉は全て吐き出した。
だから、全力で逃げた。
好きでいたいだけなのに、好きでいることがこんなにつらい。

 
期末テストが終ると2年生は1週間、修学旅行に行く。
太郎君のいない学校にホッとする自分がいた。
会長室にクチナシの水やりにいく。
なぜか石川先輩に声をかけられた。
「先輩、修学旅行は?」
「1週間スキー特訓って誰が行きたいの?」
「そうですけど、一応、修学旅行ですし」
「嫌よ。私こう見えても運動神経が悪いの」
「そう見えてます」
「川本君、言うようになったね」
「すみません」
「いいよ、こっちもそのほうが本音が、話しやすいし」
「本音?」
「姫川ちゃん、修学旅行で告白するって、都野君に。」
僕の心拍数はいっきにあがった。きっと石川先輩に、それが伝わっただろう。
「川本君が都野君をどう思ってるかは、この際どうでもいいの。だってあの2人完璧でしょ?」
「はい」
「お似合い過ぎてびっくりするってゆ〜か」
「そう思います」
「なのに、姫川ちゃん、全然自信無いから。だから、川本君にも応援してもらいたいの」
「応援って、言われましても。僕に出来ることなんて」
「ある、都野君にちょっかい出さないで。それだけ」
「ちょっかい?僕は別に」
「川本君がどういう気持ちかは、どうでもいいって言ったでしょ。都野君の気持ちを揺さぶらないで」
「揺さぶるもなにも、太郎君は」
「ほら、そういう、二人だけの呼び方。鼻につくよね」
「石川先輩って僕のこと嫌いですか?」
「ううん、姫川ちゃんを全力応援してるだけ。だから、川本君を傷つけてたり、嫌な気にさせてたらごめんね」
「仲いいんですね、姫川先輩と」
「ううん、全然。話すようになったのは生徒会に入ってからだし」
「じゃあ、どうして、そんなに応援できるんですか?」
「今の姫川ちゃんが幸せなら、過去の自分の罪が軽くなる気がする。みたいな」
「みたいな?」
石川先輩は腕組みをして、歩き回りながら
「あ〜もう、全部言うから協力してね!」
と言った。僕は
「はい」
と背筋を伸ばした。

「姫川ちゃんは覚えてないだろうけど、私1年間だけ、姫川ちゃんと同じ小学校だったの。5年生の時。で、隣のクラスで酷いイジメがあった。毎朝、上履き隠すのは当たり前みたいな。
私は、転校してきたばっかりだしとか、隣のクラスだしとか、色々言い訳を並べて何もしなかった。
本当は、自分が標的になるのが、怖かっただけ。見て見ぬふりをした。」
「隣のクラスでイジメを受けていたのが姫川先輩?」
「そう」
「姫川って珍しい名字でしょ。だから、この学校に入学して、初めて成績順が張り出された時は驚いた。あの姫川さんかな?って」
「話しかけに行ったんですか」
「行けないよ、正しさだけじゃ動けない。
小学校当時のことを知ってる人に会いたく無いかも、って言い訳して。姫川ちゃんのクラスの子に、どんな子か聞いたり、友達がいるのか確認したりした。それだけ」
石川先輩の覚悟がひしひしと伝わってくる。
「2年でも同じクラスになれなかった。接点を作るために必死で勉強した。ウチの学年、上位3人は入学当初からずっと固定メンバーだから。なんとか、4位、5位になって、生徒会メンバーになれば、話す機会が出来て、償えるチャンスが巡ってくる。そう仮定して」
「すごいですね」
「自分勝手なだけよ。
この償いが終わらないと、心の鉛が一生取れない。
姫川ちゃんの今の幸せが、私の鉛を取ることに繋がっているのかは分からない。だけど、幸せになってほしい。その為に私が出来ることは、全力でするつもり」
石川先輩の覚悟に比べたら、僕が太郎君を思う気持ちなんて、薄っぺらく感じた。
「先輩、僕、応援してます。」
「ありがとう」
そう言って、満面の笑みで僕の手を握り、上下にブンブン振った。

僕の太郎君への気持ちはなんだったんだろう…憧れ。好きって言うには程遠い、ただ蟻が太陽を見上げていた、それだけだったのか。

 
「ただいま、はい、お土産」
と、廊下で校庭を眺めていた僕に、小樽チーズケーキを阿部先輩はくれた。
「ありがとうございます」
「けんか?」
「はい?」
「都野と」
そう言いながら、体育の授業をする太郎君を2人で眺める。
「いえ、僕が前のめりだったのを、定位置に戻っただけです」
「定位置?」
「1年生は1年生らしく、2年生とは仲良くならないし、話す機会も無い。そんな感じです」
「つまり、都野と友達になる前に戻るってこと?」
「まぁ、ザックリ言うと」
「俺とも友達じゃなくなるってこと?」
「えっ」
「俺は川本君とはもう友達だと思ってたよ」
「すみません」
「ふ〜ん、…確実になんかあったじゃん、力になれるか分からないけど」
「ありがとうございます、でも本当にもう大丈夫なんです」
「都野、放送で交換日記してないって言ったこと、後悔してたよ。
俺は生徒会長として、正しい判断だったと思うけど。
友達も交換日記も一人じゃ始められない。
だから、終わりも一人じゃ決めれないと思うけど」
阿部先輩はもっともすぎる、だけど
「正しさだけじゃ動けないんです」
「石川みたいなこと言うじゃん」
「すみません」
「別に怒ってないよ、うん」
阿部先輩は自分で自分を納得させる様に話し始める。
「石川って、そういうとこあるんたけど、人の常識や正しさは当てはまらない。たけど川本君と違うところは、自分の正しさで生きてるってことかな。
石川は、今正しいかどうか聞いたら、常に正しいって言い切る。だけど川本君は、都野と友達やめるのが正しいかと聞かれたら、迷うだろ。そこが違う」
「はい」
僕は俯く。
「別に反省しろ!って言ってるわけじゃなくて、みんなそんなもんだから。石川みたいに強くないから、だから、今、全部を決めなくていいと思うよ。」
と言って
「ゆっくり〜ゆっくりと」
と後ずさりしながら、最後は大きく手を振って去っていった。
僕は流される。
石川先輩といる時は石川先輩に。
阿部先輩といる時は阿部先輩に。
太郎君といる時は、そこに流れは無い。
ただお互いが向かい合って。だから、余計に自分が虚しくなる。あまりに不釣り合いな現実から目を逸らせなくて。

昇降口横のロビーで、卒業式用のサイネリアを育てている。溶け込みすぎていて誰も気に留めていない。
卒業式まであと少し。開花が遅れている鉢がある気がする。
日当たりのいい場所に移動させたほうがいいかな。
委員長から、生徒会に相談してもらう。

放課後
「委員長、会長室って、そんなに日当たりいいんですか?」
「俺も行ったこと無いけど、そこに移動するようにって生徒会からの指示だから」
そういう委員長の後ろに、サイネリアの鉢を持った緑化委員達が続く。
「これ200鉢、全部運ぶんですか」
「いや、開花が遅いのだけにしようか」
僕は何も言わず、一番後ろをついて行った。
会長室に太郎君はいなかった。
代わりに前田先輩が指示をだす。
「このあたりに置いて。200全部は無理だけど」
「いや、開花の様子をみて、ロビーとここで入れ替えて、卒業式には200鉢、全てがベストな状態になるように持っていこうと思ってるよ」
「そうか、頼むよ。式が終わったら、卒業生に持ち帰ってもらう予定だから、一つも枯れてる花が無いように」
「そうなのか、聞いてなかった」
委員長含め、緑化委員メンバーは驚いている。
「都野から伝わっていると思ってたよ」
前田先輩の発言で全員が僕を見た。
「すみません」
聞いたような、聞いてないような、ここでハッキリとしたことは言えない。
「川本、きちんとしてくれよ」
委員長が、あきれ顔で僕を見た。
「いや、都野が忘れてただけかもしれない」
前田先輩がフォローしてくれる。
「忘れてただけって、だけじゃないから」
珍しく委員長が前田先輩に食ってかかる。
「だいたい、生徒会のフォローを緑化委員がするの何回目だよ」
「フォローって?緑化委員に何かしてもらった記憶は無いけど」
「川本は、緑化委員だろ。その川本使って色々してんじゃん。それで、誤解だか本当だか、知らない記事が出たんだろ。で俺等も口裏を合わせさせられた。なのに次は忘れてただけって、都野会長は緑化委員のこと軽く見すぎなんだよ」
「都野はそんなつもりは無いと思う。緑化委員だけ軽く見るようなヤツじゃない」
「どんなヤツかは知らないよ、同じクラスに2回もなってるけど、一切、喋んないから。入学してから、ずーと1位で、俺はお前らとは違うって、顔して歩いてるから」
「まっそう見られがちだけど」
「見られがちじゃなくて、そうだろ」
また、僕のせいで太郎君が悪く言われている。
「すみません、思い出しました。都野会長に言われてました、すみません」
と僕は頭をさげた。
「なんだよ」
委員長はばつが悪そうに僕をみた。
「なので、全部、僕が卒業式まで責任をもってやります。ロビーのサイネリアをみて、開花の遅いものはこちらのサイネリアと入れ替えて。本当にすみませんでした。委員長、なので、今日は」
「分かったよ」
委員長が廊下に出るとぞろぞろと残り3人が続いた。
「委員長、僕は、サイネリアに水やりしてから帰ります」
ドアが閉まる音
前田先輩が僕をみて、
「大丈夫なの?俺は、都野の責任だろうと、川本君の責任だろうとどっちでもよくて。卒業式に200のサイネリアがあれば問題無いけど」
「はい、大丈夫です。ご迷惑をおかけしてすみません」
「じゃあ、よろしく」
1人になった会長室で、ホッと胸をなで下ろした。