僕と生徒会長の好きって書けない交換日記

教室に入るといつもより騒がしい。
しかも、僕に視線が集まっている気がする…
「くらい、掲示板みた?」
伊達君に話しかけられるが、何のことか分からない。
「掲示板?どこの?」
「色んなとろこの。お前、にぶいから、絶対見てないだろ。」
「見てないけど、何か載ってたの?」
「生徒会長と緑化委員会の癒着。癒着の理由は生徒会長が贔屓にしてる1年が緑化委員だから。だって」
「えっ、」
自分の顔から、血の気が引いていくのがわかった。
伊達君は意気揚々と掲示板の内容を話始めた。
「①緑化委員だけ来年度の予算が上がった
②緑化委員の反対により、公約であった駐輪場拡張を取り止めた
③文化祭の看板、なぜか会長が独断で贔屓の1年に描かせた
④球技大会、会長は校庭にいるはずなのに、なぜか体育館にいて贔屓の1年を保健室まで連れて行った
⑤その1年生と会長は交換日記をしているらしい」
「え〜」
最後の交換日記でクラスメイトから悲鳴に似た声があがった。
「この会長が贔屓にしてる1年って、くらいのことだよな」
僕は俯いて動けない。
「くらい、聞いてる?」
チャイムに助けられる
先生が教室に入ってきた。
僕は自分の席に座り、うつ伏せになった。
誰にも顔をみられたくない。
きっと情けない顔をしている。
太郎君が僕のせいで、ピンチだ。
だけど僕に何が出来るだろう…
休み時間、僕の机の周りには伊達君を筆頭に何人かが集まって、色々問いただしてくる。
僕は顔を上げない。
悲しい顔も怒ってる顔もどんな顔でも太郎君の援護にはならない。

校内放送が入った。
 
「緑化委員の皆さんに連絡します。至急、生徒会会議室に集合してください。繰り返し連絡します。緑化委員の皆さんは、至急、生徒会会議室に集まってください」

僕は急いでB棟に向かう。
背後で伊達君達が何か言ってるけど、それどころじゃない。
B棟入口には、僕以外の緑化委員4人が集まっていた。
「なんか面倒なことになったよな」
「チューリップの予算案、出さなきゃよかったよ」
「別に駐輪場のとこの花壇、無くなってもいいしな」
口々に話をしている。
だけど僕と目が合うと、全員黙った。
委員長が
「川本に責任を押しつけるつもりは無いけど、でも会長とのやり取りは、川本に任せてたから。だから、詳しい説明を求められたらよろしくな」
僕は断れる訳もなく、
「はい、分かりました」
と言った。
5人でぞろぞろと、足取り重く4階まで登っていく。僕は一番後ろについていった。
「失礼します」
と委員長がノックし、生徒会会議室に入っていく。
残りのメンバーも一礼して入る。
僕も同じく一礼し引き戸を閉めた。
5人の生徒会役員がいつもの席に座ってこちらをみている。
太郎君だけが僕達に背を向けて窓の外を見ていた。
「も〜お互い面倒なことになったよね」
石川先輩が、重たい空気のなか発言した。
「でも、誰も悪気があるわけじゃないんだし、きちんと説明すれば大丈夫じゃない」
と姫川先輩。
「説明もなにも、予算上げてって言ってきたの緑化委員だけだし。追加で、卒業式の花もお願いしたから、緑化委員としては、仕事が増えて大変だよな」
と阿部先輩はウチの委員長に同意を求めた。
「うん、まぁ」
「歯切れ悪いなぁ」
と阿部先輩
「そりゃ歯切れ悪くて仕方ないんじゃない。他の問題は委員長には関係なくて、都野と川本君の話でしょ」と前田先輩
「てっことで、川本君以外の緑化委員は戻っていいよ。他の生徒にこの件のこと聞かれたら、問題あるようなことは何もないって言ってね」
と石川先輩
僕以外の緑化委員4人は、拍子抜けした顔で生徒会会議室を後にした。
「さぁ、本題はここからだよね。癒着さん達」
と石川先輩は僕と太郎君を見て、にやりと笑った。
「癒着って大袈裟な。ただの友達だろ」
と阿部先輩がフォローしてくれる。
「友達でもなんでもいいけど、癒着って思われる関係はマズイだろ」
と前田先輩
「だけど、普通にしてるのに、勝手にそう言われてもね」
と姫川先輩

太郎君はこちらに向き直し、
「みんなには迷惑かけてごめん、だけどちょっと、川本君と2人で話をさせてくれる?」
と頭をさげた。
「ヤダ」
と即答し続ける石川先輩
「だって、迷惑だと思うなら、ここでちゃんと私たちにも話してよ。」
「別に話さないって言って無いじゃん、この騒動になってから2人で話せて無いんだから、まずは2人で。ねっ」
と阿部先輩は僕らを見た。
「口裏を合わせるにしても、俺ら全員で合わせないと意味ないと思う。だから、俺らも暇じゃないし、ここで話してもらったほうがいいかな」
と前田先輩
「は〜いそう思います、ねっ姫川ちゃん」
「うん、そうかな。」
と石川先輩に促され、姫川先輩も答える。
「当事者は抜きで3対1。だから、ここで話すに決定。」
と石川先輩は場を仕切る。
「じゃあ1個づつ。文化祭の看板は?どういう経緯で川本君が描いたの?」
太郎君に視線が集まる。
「美術部にお願いしたけど、断られた。だから、川本君にお願いした」
「どうして?絵が上手な子は他にもいるでしょ」
「川本君がいい。そう思った」
「いつから、知り合いなの?ウチらの就任初日に川本君がここに来たけど、あの時はもう知ってたってこと?」
石川先輩の質問が続く。
「私たちを、2人は初対面のふりをして、騙してたってこと?…黙ってないで、都野君」
「会長になる前から」
「だからいつから?小学校から、とかあるでしょ」
僕はどこに視線を持って行けばいいか、迷っている、阿部先輩と目が合った。
「別にそこは良くない?俺らだってお互いの交友関係さらけ出して無いし」
と阿部先輩
「さらけ出せと言われれば、いつでもさらけ出せるけど。ねっ、姫川ちゃん」
「うん。2人は同じ中学じゃないよね?」
と姫川先輩は僕を見た。
「えっと…」
夏休みに会ったことを話すと、そこから全てを話すことになって、僕と太郎君の全てが無くなる気がして怖かった。まるで手編みのマフラーが、一つの
ほころびからほどけて、跡形もなく無くなる様に。

「前世から」
「都野君、真面目に」
と石川先輩
「真面目に、俺は前世からだと感じてる」
と太郎君は僕をみた。
心臓が飛び出るくらいドキドキしている。
「もう、いつから知り合いかは、重要じゃないから、いいじゃん。
看板の件は、美術部に断られて、以前から知り合いだった絵が上手な川本君にお願いした。
全校生徒に公募しなかったのは、文化祭本番まで、時間が無かったから。以上」
と阿部先輩はまとめた。
「次は、球技大会だっけ?」
と前田先輩。
「どうして体育館にいたの?」
と石川先輩
「そんなの、見回りだろ。自分の試合が終わったら、生徒会として、他を回るのは当然だろ」
と阿部先輩
「そんなの、しろって言われてないじゃん」
「しろって言われたことしか、できない石川とは違って、しろって言われなくても、できる会長で良かったなぁ、立派な会長だな、でこの話はおしまい。目の前に倒れた生徒がいたら、助けるのも当然。以上」
とまた阿部先輩がまとめてくれた。
石川先輩は納得いかない様子で話しだす。
「じゃあ、交換日記は?してるなら見せて。
そこに生徒会の予算の事とか書いてあったら、それこそ問題でしょ」
前田先輩が
「交換日記って、あれだろ。最初に、都野が川本君に渡したノート。あれが、勘違いされてるだけだろ。だから言ったんだよ。規定の用紙に」
「わかった、わかった、規定の用紙に書くルールでしょ」
と、石川先輩が割って入る。
前田先輩も、負ける気は無さそうで、
「携帯があるのに、そんな面倒くさい、効率悪い、女子のもの、するわけ無くない?」
「あ〜男女差別。なに女子のものって」
熱くなる、石川先輩
「だから、携帯持ってない女子小学生がするものだろ、交換日記なんて」
「だから、男子小学生だってしてるかも」
「しないよ!男は」
「それが差別で古いって言ってるのよ」
石川先輩と前田先輩の口論の間に、僕と太郎君と阿部先輩は、アイコンタクトでひとつの答えを出した。
「前田の言ってた通りなんじゃない。
あの初日のノートが勘違いされてる。携帯あるし、交換日記は無いわ。なっ」
と阿部先輩は太郎君と僕を見た。
僕達は頷いた。
前田先輩は興奮している石川先輩と早く離れたい様子で、
「じゃあ話はこれで終わり。もう教室戻っていい?」
と、会議室を見渡す。
僕ら3人は頷き、姫川先輩は、少し首を傾げて
「いいのかな?」
と、太郎君と僕を見た。
「そうそう、まだ、いいわけなくて、これをどこで公表するの?全校集会で会長が説明する?」
と、石川先輩は、太郎君を見た。
「説明いる?」
と阿部先輩
「いるでしょ!あっ新聞部にインタビューさせて、訂正記事ださせよう。それが一番綺麗じゃない。」
と石川先輩は生徒会会議室を見渡し全員と目を合わせた。
「いいじゃん。じゃあ、仕切りは石川で」
と前田先輩は立ち上がる。
「都野がいいなら、そうする?」
と阿部先輩は太郎君を見る。
「私も都野君が問題ないなら、新聞部にお願いするのがいいと思う」
と姫川先輩
太郎君は、大きなため息をつき、そして
「石川、新聞部にお願いしてもらえる」
と言った。
「は〜い、じゃあ、今日の放課後にでも、話を聞いてもらって、明日には掲示板に訂正記事出してもらおう」
「明日はムリじゃない、新聞部の方の都合もあるだろうし」
姫川先輩と石川先輩は新聞部への話しの持っていき方や、今後の対応を話している。
僕は一言も喋らずに生徒会会議室から廊下に出た。
ノロノロ歩いていると
後ろから前田先輩が
「川本君、迷惑かけるけどごめんね」
と言って追い越していった。
「いえ、僕の方こそ」
と言ったけど、声が小さくて聞こえなかっただろう。
「川本君」
と阿部先輩に呼び止められた。
「一緒に教室まで行くよ、もう授業始まってるから、先生に生徒会を代表して、川本君の遅刻を謝るし」
「大丈夫です、僕一人でも。」
「都野会長命令なので、執行させてください」
と言って阿部先輩は笑った。
僕もつられて笑った。
ずっと引きつっていた顔が、やっとほぐれた気がした。
「これは、都野からじゃないけど、交換日記はしばらくやめたほうがいいよな」
歩きながら、阿部先輩は僕の顔色をみている。
「そうですね。僕もそう思ってました。」
「だな、落ち着いたら、またいつでも俺のロッカー貸してやるから。」
「ありがとうございます」

教室に着くと、クラスメイトはざわついた。 阿部先輩は
「弘中先生、川本君を生徒会で借りて遅刻させてしまって申し訳ありませんでした。」
と頭をさげた。
そして教室を見渡しながら、
「生徒会が川本君に迷惑をかけてしまったので謝罪していたところでした。ですので、今回のことで、くれぐれも川本君がクラスで孤立するようなことが無いようによろしくお願いします」
ともう一度頭を下げてくれた。
「じゃあな」
阿部先輩は僕の腰をポンと叩いた。
僕は押し出される形で自分の席に着いた。みんなの視線を感じるけど、今はもう、1人じゃない。
心強い味方がいる。太郎君はもちろん、阿部先輩や前田先輩。石川先輩と姫川先輩は分からないけど、でも敵じゃない。
交換日記っていう心の支えが無くても、僕はやっていける。
太郎君のお陰で、僕は強くなったんだ。