修了式の日、将棋部のロッカーを見に行く。
まだ最後のページは僕のイルミネーションの絵だ。
《いつか見てくれるんじゃないかと思うから、書くね。
今日は、修了式で、少しだけ勇気を出したよ。
クラスメイトに購買に行くように言われたけど、断った。勇気がいったけど、断ってみると案外、悪くないって感じ。(トナカイのイルミネーションの絵)》
冬休みだけど、緑化委員として水やりに学校に来た。
その前に将棋部のロッカーに行く。
最後のページは昨日の僕のトナカイの絵。
だけど、書くことをやめたくない。
ここで僕がやめたら、本当に交換日記が終わってしまう。
《冬休みだけど、花壇の水やりはあるんだ。ついでに、会長室のクチナシにも、水をあげたよ。卒業式用に育てているサイネリアも順調です。
夏休みに太郎君と出会った花壇で太郎君を少し待ってしまいました。
(花壇に飾り付けされた星屑のイルミネーションの絵)》
今日は将棋部のロッカーに行く前に会長室に寄った。クチナシの水やりを口実に、太郎君が来るかもしれないと、30分くらい待ってみた。
やっぱり来ない。
諦めて帰ろうとした時、ドアが開いた。
「あっ、ごめんなさい。誰もいないと思って」
姫川先輩が立っていた。
「こちらこそ、すみません。あの、クチナシの水やりに来ただけなので、今、帰ります」
僕は急いで、廊下に出ようとした。
「川本君、少しお時間いい?」
と、姫川先輩に呼び止められた。
太郎君の話だろうか…嫌だなと、思いながらも、断る理由が思いつかなかった。
2人で向かい合ってソファに座る。
「クラスはどう?」
「えっ?」
「なかなか、馴染めていない様子だから」
「あっ、はい。なんとか。自分から、嫌な事は嫌と言う努力をしてる感じです」
「そう、その努力は大変じゃない?」
姫川先輩の会話の意図?ゴール?が読めない。
彼女として、太郎君と僕について、何か聞きたいことがあるのかと思ったけど…違うのか?
「努力は大変ですけど、頑張らないと」
「うん、川本君。頑張ってるのね。」
「僕に原因があるんだろうし、それを直して、みんなに溶け込んで。」
「うん、そうなんだ。」
姫川先輩の独特な、ゆっくりとした間で話は進む。
「川本君。誤解しないで聞いて欲しいんだけど。
私が思うことを話していい?」
「はい…もちろん、です」
「頑張ることも大事なんだけど、川本君が直すことってあるのかな。って思うの。」
「はぃ?」
「クラスでイジメが起こったら、それは残念なことだけど、たまたま、そういうタイミングだった。」
「タイミング?」
「イジメられる子に原因があるわけでもなく、
イジメっ子が常に意地悪なわけでもなく、
先生がいつも気づか無いわけでもない。
長い時間の中で、たまたま悪い方にタイミングが合ってしまった。」
「すみません、つまり」
「つまり、川本君に悪いところなんて何もない。
人は完璧じゃない。いい所もあれば悪い所もみんなある」
「なるほど…」
「しっくりこなくてもいいの。」
「いえ、姫川先輩。つまり誰も悪くないということですか?」
「どうだろう、…でもそういう考え方もあるのかなって」
姫川先輩は上品に微笑んだ。
そして最後に
「話を聞いてくれてありがとう」
と言ってくれた。
《姫川先輩に会いました。めちゃくちゃ優しい人ですね。
花壇の水やり、緑化委員のみんなに言って、僕一人ですることにしたんだ。これで冬休みも学校にくる理由が出来るでしょ。
夏休みは暑かったよね。水を掛けあっても制服はすぐ乾いて、今は凍りそうに寒い(カチコチに凍っている自分の絵)》
《メリー・クリスマス。昨日のウチの晩御飯は、お母さんがクリスマスディナーだって張り切っていたよ。はちみつをかけた唐揚げはもちろん、チラシ寿司もあるし、かつサンドもあるし、ロウソクを立てたケーキもあるしで、テーブルは、ゴチャゴチャだったよ。
太郎君はクリスマスどう過ごした?(クリスマスツリーの絵)》
ロッカーに鍵をかけ振り返ると阿部先輩が立っていた。
「びっくりした、いつからいたんですか」
「少し前から」
「声掛けてくださいよ」
「一生懸命に書いてたから、邪魔したくなくて」
「待たせてすみません」
「全然」
「今日はどうしたんですか?」
「イルミネーション撤収の立合いとお節介をしに」
「お節介?」
「都野から、川本君が勘違いしてるようだから、キチンと説明するようにと言付かってきました」
「勘違い?」
「そんなの、交換日記に書けばと言ったのですが、交換日記には楽し〜いことしか書きたくないそうです」
「はい」
僕は改めて阿部先輩に向き直した。
「付き合って無いから。姫川と。」
「えっ?でも」
「周りは、なんでか分からないけど勘違いしてて、でもほっといてるのは、都野に告白してくる生徒がいなくなったから。面倒が減ったそうだ。
姫川も特に困らない、このままでいいって言ってくれてるから、否定してない。だって。」
「えっ?」
僕の理解が追いついていないのを察して、阿部先輩は続けた。
「俺も、2人のこと近くで見てるけど、付き合って無いよ。都野が川本君に嘘つく理由も無いしね」
「そうなんですか」
「まっ、姫川は都野が好きだろうけど。石川の動きを見てると」
「石川先輩?」
「そう、この噂も石川発信でしょ、多分。」
確かに。
「女子がタッグ組むと強いよ」
「はい…ですね」
「他人事みたいに。いいの?」
「いいの、とは?」
「このままほっといたら、姫川と都野、本当に付き合うかもよ。」
「えっと」
阿部先輩ってどこまで、気付いてるんだろう…
「川本君、都野のこと好きなんでしょ」
「えっあっ、はぁ」
僕は突然、確信を突かれ、とぼけた返事をしてしまった。
「別に誰にも言わないよ、もちろん都野にも」
「ありがとうございます」
「ただ、石川って手強いから大丈夫かな〜って思って。俺に何か手伝えることある?」
「はい…いえ、大丈夫です。
僕はただ、もう少し、太郎君に片思いをしていたいんです。好きでいたいんです。
この気持ちを太郎君に伝えたら、きっと諦めないといけない。終わりにするのはまだ嫌なんです。」
「ふ〜ん、なるほどね。了解。じゃあ、いつでも力になるから」
と阿部先輩は部室を出ていった。
僕は交換日記をもう一度ロッカーからだし、追加で阿部先輩と会ったことを書いた。
《阿部先輩に会いました。姫川先輩のこと聞きました。ごめんなさい。勝手に勘違いして。明日から学校閉庁日になるから、交換日記がしばらく書けないのが残念です。》
1月4日、開庁日
僕は朝から学校に水やりに出かける。
もちろん、水やりは将棋部室によってから。
《明けましておめでとう。今年もよろしく。これは俺が絶対先に言いたかったから閉庁日に忍び込んだ。
阿部に言われたよ、自分がされて嫌だったことするなって。
交換日記が無い日々、めっちゃ寂しかった〜。
クリスマスディナーしずみのお母さん流石だな。
ウチはクリスマスだからって何も変わらない日常の食卓だったよ。
クリスマスどう過ごしたかって。
誰かさんとイルミネーション一緒に観ようと思ってたけど、謎の勘違いをされてたので、1人大人しく家にいたよ。来年こそ、一緒に観ような》
《本当にごめん。うん、イルミネーション一緒にみたい。初詣は何お願いした?
僕は交換日記、太郎君が返事書いてくれますようにってお願いしたよ。一緒に行った妹に、しばらく祈ってたら願い事長すぎって言われたよ笑、(神社の絵)》
《初詣は行ってない。人混みが苦手で。交換日記の件は神様にお願いするようなことじゃないだろ。誰かさんの勘違いが招いたことなんだから笑。
だから違うことをちゃんとお祈りした方がいいぞ。
落ち着いたら一緒にいこう》
《そうだね。もう叶ったし。せっかく年に1回の神様へのお願いだから、神様でも1年かかる様な、壮大なお願いを考えよう。
今日から3学期だね〜卒業式の壇上の花、サイネリアは元気だから安心してね。
あっ、駐輪場拡張の話、最近話題になってないけど、無しになったってこと?(ニコッと笑顔の絵)》
《無しじゃなくて延期な。来年の生徒会がどうするかまでは決めれないから。
卒業式、予算削減できて助かる。
だけど、明らかに削減しましたって、わかるような貧相な感じにはならないように。緑化委員、よろしくな。
願い事、壮大にするのは、だいぶ罰当たりな気がするけど、しずみ発想が強くなったな。》
《そうでしょう、実はクラスでも思ってることを言うようにしたんだ。そしたら、しずみって呼んでくれる子がいたりして、教室の居心地も良くなってきた。
居心地の悪さを作ってたのは自分だったのかなって反省してる(反省ざるの絵)》
登校してすぐに、将棋部のロッカーにノートを入れ、部室を出ると石川先輩とすれ違った。
「あれ、川本君、部活入ってたっけ?」
「いえ」
「じゃあどうして?ここ部室しか無いよね」
と辺りを見渡した。なんだかヤバい。阿部先輩の言葉を思い出す。石川先輩は手強い。
「どこかの部室に用事があったの?」
「いや、用事というか」
僕は後ずさりしながら、頭をフル回転させるが、なにも浮かばない。
「あの、石川先輩は何をされてるんですか?」
「私?私は4階の生徒会室に用があって。」
「ですよね」
「ですよ、川本君は?」
「僕は…僕は、ちょっと私用で」
と言って石川先輩のリアクションを待たずに走って逃げた。
「逃げちゃだめでしょ」
逃げた先にいた阿部先輩に事情を話すと、やっぱりそう言われた。
「ですけど、なにも浮かばなくて」
「阿部先輩にちょっと頼まれ事でって言ってよかったのに」
「あっありがとうございます。でも、石川先輩なら、ちょっとって何?ってなりませんか」
「そしたら、ちょっとって言ったら少しってことですよ〜って」
「そんなの言ったら、少しって何?ってなりますよ」
「そしたら、少しって言ったら小さじ1杯くらいかなって」
「怒られませんか」
「絶対怒られる」
「阿部先輩〜」僕は先輩の肩をゆらした。
「嘘嘘、石川は性格悪いけど、悪気はないから。大丈夫」
校内放送
「生徒会役員の皆さんに連絡します。至急、生徒会会議室に集合してください。繰り返し連絡します。生徒会役員の皆さんは、至急、生徒会会議室に集まってください。」
「あっ呼ばれてる。石川にはさらっと俺から言っとくから、川本君は気にしなくていいよ」
颯爽と立去る阿部先輩の姿に
「ありがとうございます」
とお辞儀をした。
阿部先輩にはお世話になりっぱなしだな。何か僕にお礼できることあるかな?太郎君に相談してみよう。
