僕と生徒会長の好きって書けない交換日記

《今日はありがとう。軽めの捻挫と打撲だから、
全然大丈夫。
太郎君のお陰でクラスの皆に責められることもなかったよ。さすが、生徒会長。
あっ因みに今日のお母さんのお弁当は、お好み焼きとたこ焼きだったよ。(お弁当の絵)》

《ほぼ材料一緒じゃん。
ケガしてたんだな。ムリするなよ。こっちはやっと落ち着けると思ったら、クリスマスの準備だって。生徒会長なんて名ばかりで、ただの雑用係だよ》

《クリスマス、みんなは楽しみにしてるよ。ウチの学校はイルミネーションが綺麗だもんね。
もしかしてあれ全部、生徒会の人達がしてくれてるの?
昨日のお弁当の理由をお母さんに聞いたら、材料が一緒で楽だからだって。そのまま。今日はそうめんいなりだった。創作的、過ぎるでしょ。(そうめんいなりの絵)》

《しずみとまた、お昼一緒に食べたいな。
数えるくらいしか一緒に食べて無いのに、ずっと一緒に食べてたような気がする。
だから今、一緒に食べてないのがすごく寂しいよ。
イルミネーション、さすがに業者さんが入ってくれてるよ。
だけどどんな感じにするかは生徒会が決めないといけない。予算もあるし、毎年同じにならないように、会議〜会議って感じ》

《ウチの学校の生徒会選出ルール、成績上位5人がなるって言うのは、理にかなってるね。太郎君たち忙しすぎ。
今日、姫川先輩に声をかけてもらったよ。球技大会の時、たまたま体育館にいて、見てたんだって。ケガを心配してくれた。
それと、クラスでの立ち振舞は無理しなくていい、時間が解決してくれることもあるって教えてくれた。
生徒会の皆さん、良い人達ばっかだね。
あっ、阿部先輩のロッカーちゃんと見た?
将棋盤じゃなくて、動物将棋入ってたよ。(動物の絵)》

移動教室、廊下を歩いていると前から太郎君が来るのが見える。
ただいつも、周りに何人も女子生徒がいて、とても話しかけられる状況じゃない。
それでも、太郎と目が合うだけで嬉しい。
太郎君はすれ違いざまに手首を回した。
僕も太郎君の背中を見ながら手首を回した。
「やっぱりカッコいいよね、会長」
太郎君が通り過ぎると、いつも女子達の噂話が始まる。
ダンスが上手な理由や、好きな食べ物、みんなは噂だけど、僕は答えをしっている。
少し、優越感に浸る。
だけど今日は違った。僕の知らないこと…
「姫川先輩と付き合ってるんだって」
「やっぱり〜お似合いだもんね」
「ごめん、それって本当?」
つい、噂話をしていた女子生徒2人を捕まえて、聞いてしまった。
「びっくりした!えっ、本当だと思うよ、同じ生徒会の石川先輩情報だから」
「あっそうなんだ。ありがと」
僕は、足に力が入らなかった。
急に膝から下が無いような、そんな感覚に陥った。
バカみたいだ。優越感に浸って。
僕は、太郎君のことを何も知らなかったんだ。
皆より知ってるつもりでいい気になって、本当にバカだ。
 
《姫川?体育館にいたんだ。
あっ、クリスマスのイルミネーション、しずみは暖かい系がいい?それともキラキラ派手系がいい?
生徒会でも意見が分かれてて。
阿部のロッカーみたよ笑
動物将棋購入を、部員に強要するなよって念押ししといた。》

《阿部先輩はホントに面白いし優しいし。だから強要はしないと思う。
イルミネーションは石川先輩とか、姫川先輩とか女子の先輩の意見を聞いた方がいいんじゃない。結局、クリスマスって女子とか恋人同士のイベントだし》

《その女子2人が分かれてて。
姫川は暖かい系、石川は派手系。
そこがハッキリ決まらないと、今年のイルミネーションのテーマも決まらなくて。
あっそれより期末テストどうだった?》

《じゃあイルミネーションは暖かい系かな。期末は大丈夫だったよ。
クリスマスのイルミネーション楽しみだな。生徒会の皆さんありがとう!》

「川本君」
教室の机、うつ伏せで、暇を潰していると女子に呼ばれた。
「はい」
「川本君って都野会長と仲いいんだっけ?」
「えっ?」
「文化祭の手伝いとか、球技大会のお姫様抱っことか」
「別に、仲いいとかじゃ無いけど」
「そうなんだ、じゃあ、誰を好きとか、誰かと付き合ってるとか知らない?」
僕は迷った。
だけどあの噂話のことを話せば、太郎君への気持ちに、少しは踏ん切りが着く気がした。
「そうだね、噂くらいなら」
「噂って?」
「同じ生徒会の姫川先輩と付き合ってるって」
「え〜そうなの?」
「そうみたい」
「そっかぁ〜残念。……だけど、めちゃめちゃお似合いだね」
「そうだね」
と僕は相槌をうった。
僕には将棋部のロッカーに交換日記を取りに行く勇気も元気も理由も何も無くなった。

イルミネーション点灯式
12月のある日の放課後 中庭
「「メリー・クリスマス」」
サンタにコスプレした石川先輩と姫川先輩が、スイッチを押した。
温かな光が校舎を包む。
サンタや雪だるまのオブジェはきらびやかに輝き出す。
生垣は星屑が振りかけられたように、キラキラ光る。
今年のイルミネーションのテーマは冬の七夕。
生徒はそれぞれ好きな場所でイルミネーションを楽しむ。
クリスマスらしいBGMが流れ、告白する生徒や、恋人、友達とプレゼント交換をする生徒。
どこもかしこも、僕には関係の無い場所。
帰ろうと下駄箱で靴を履いていると、
「川本君だよね」
と、突然声を掛けられる。
振り返ると…前田先輩?
「えっと、前田先輩ですよね?」
「副会長なんて、やってられないよ。名前すら覚えられてない」
「すみません」
「別に、今に始まったことじゃないし。副会長になる前から、俺はただの2番だから」
「あの、どうされたんですか」
「あ〜ごめん、川本君に愚痴るつもりじゃなくて。文化祭の看板のお礼言えてなかったから。
最近、君一人にお願いしたって知って。ホントに助かった。ありがとう」
「いえ、全然」
「帰るの?イルミネーションは?」
「もう、見たので」
「屋上は?屋上から観るとまた違った良さがあるよ」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、、行ってみます」
僕は教えられるがまま、屋上に向かった。あのまま帰るわけにも行かない。
ただ、このイルミネーションを太郎君と姫川先輩が考えたと思うと、胸が詰まる。
屋上。
確かに綺麗。
綺麗過ぎて、、涙が溢れた。


「しずみ?」
「太郎君、どうして?」
僕は急いで涙を隠した。
「屋上からの見え方の確認、しずみは?」
「前田先輩に屋上を勧められて」
「前田?ふ〜ん。」
太郎君はベンチに座った。
「しずみ、最近忙しい?取りに行ってないでしょ交換日記」
「うん」
「だよな〜毎日確認して、あった!って思っても、最後のページは俺の字で」
「ごめん」
「別に謝って欲しいわけじゃなくて。交換日記なんて、時間のある時に、楽しくすればいいんだから。」
僕はベンチ横のフェンスにもたれた。
「しずみも前、言ってたじゃん。負担になってるならゆっくりでいいって。俺もそう思ってるし」

「…忙しいとか負担とか、そういう事じゃなくて、交換日記ってなんなのかなって」
「うん?」
「だから、」
どう伝えればいい…その苛立ちがため息として出てしまった。
太郎君にもきっと聞こえた。
「…だから、意味あるのかなって」
「意味?」
「そう、僕らにとって、どれだけの意味があるのかなって」
「うん?」
太郎君が黙ると怖い。怒ってる?
僕は何をしてるんだろう。
太郎君は僕の唯一の友達。
友達と交換日記をしていて、そこに書いていることが、雑談なのか、大切なことなのか、なんてどっちでもいい。
絶対、報告しなきゃいけないことがあるわけでもない。
僕だって、ほとんど雑談しか書いてない。

「太郎君、意味なんて無くていいんだよね」
太郎君は黙って俯いている。
「友達同士のやり取りに深い意味なんて無くて。絶対報告しなきゃいけないことも、約束も無くて」
「しずみ、しずみの言いたいことが、ちょっと分からない」
「だから、今まで通りでいいってこと」
「しずみは嫌だったんじゃないの?」
「ごめんごめん、勘違い」
「勘違い…?」
「あっ、行かなくて大丈夫なの?姫川先輩、待ってたりしないの?」
「なんで、姫川?」
「なんでって、付き合ってるなら、こういうイベントは一緒に過ごすもんでしょ。てゆーか、ここも2人で来るはずだったのに僕がいたから、姫川先輩が帰っちゃったとか?」
僕は、自然と早口になっている。
「しずみ、なんか勘違い」
「してるよ、勘違いしてたって言ったじゃん、
いやぁ、でも姫川先輩と太郎君って本当にお似合いだよね」
太郎君は黙っている。
「お似合いってみんな言ってるよ」
「…お似合いってなんだよ」
「だから、並ぶと絵になるってこと。やっぱり、2人が」
「うるさいよ、お似合いお似合いって、自分が誰と似合うかなんて自分でわかるよ!」
そう言って太郎君は屋上から出ていった。

僕には分からない。
自分が誰と似合うかなんて。
自分が想っている相手とお似合いになれたら、どんなに幸せだろう。だけどあり得ない。
だって、僕は、僕はこんなに太郎君が好きで、だけど、太郎君はあんなに姫川先輩とお似合いなんだから。
太郎君は、みんなにお似合いだって言われすぎてウンザリしてるんだ。きっとただ自然に付き合ってるだけなのに。
毎日毎日みんなに注目されて、きっとウンザリしてるんだ。
僕は決めた。
友達なんだから、ちゃんと太郎君を応援しよう。
太郎君ばっかりに頼って無いで、僕もしっかりしよう。
僕は将棋部ロッカーに交換日記を取りに行った。

《しずみが楽しみなら、やる気が出るよ。今回は屋上からみると、より温かみを感じれる演出にしたんだ。しずみ、年末の挨拶としては少し早いけど、夏休み、俺と出会ってくれてありがとう。しずみと出会えたから、色々あったけど、なんとか今年を乗り越えられた。
イルミネーションは一緒に観ような。》

僕は誰もいない将棋部の部室で泣き崩れた。
僕が切り替えないといけない。
太郎君とのこの関係を終わらせなくない。
交換日記が終わってしまったら困るのは僕だ。
だって太郎君の周りには恋人も仲間もいる。
なのに僕は、偉そうに、交換日記に意味を持たせようとした。なんの意味も無くても、交換日記があれば僕は友達として、太郎君と繋がっていられる。
僕は、中庭のベンチに座り、交換日記にイルミネーションの絵を描いた。