あまつさえ、愛だとか。


「梅雨なんだから当たり前だろ。まぁ、俺も梅雨を題材にした監督には理解しかねるが」



スポドリをごくごく喉に流し込む黒田先輩に「それなぁ」と頷く松本。



「まぁ、脚本も演出も文句のつけようがないくらいすげー良いから着いていきますけど」


「はは、そうだな。ここにいるのは、あいつの作る世界観に惹かれたやつしかいない」



2人ともそう言いながら顔を見合わせて笑った。

…ふ、いいな。
二階堂先輩が褒められている。
それがなんだか、自分のことのように嬉しい。
ふと周りを見渡して、自然と笑みがこぼれた。
この場にいる人達は皆、先輩の作る何かに心を動かされていて。
けれど面白いことに、感じ方も受け取り方もひとりひとりが全然違う。
それは制作中の今も尚同じこと。
たくさんの感情が入り交じるこの空間で、同じ場所を目がけて同じものを作っている。
そんな中でも、俺は二階堂先輩が見ている景色を知りたくて、作りたくてここにいる。
この気持ちはずっと変わっていないし、きっと変わることなんてないんだろう。

───って、何を今更…?
俺が二階堂先輩に向ける気持ちなんて、わかりきってることなのに。
そうだ、きっと松本と黒田先輩が珍しくあんなことを言っていたから。
だから、こんなことを考えてるんだ。



「すぅー…はぁ…」



機材を抱えた裏方たちも集まってきて、準備を終えた頃。
これから始まるであろうラストシーンに向けて、気持ちを整えようと深呼吸をしていたら。



「みんな揃ったかな。そろそろ始めようと思うけど…いい?」



瞬間、ふわりと風が吹いた。