あまつさえ、愛だとか。

先輩に触れている手をサッと引っ込める。
黒田先輩と松本はもう施錠の準備をしていた。



「っはぁー暑っつ!湿気ヤバくないすかこの体育館」


「そりゃ梅雨だからな。仕方ない」


「つか黒田先輩、俺が褒められるシーンとか言ってませんでした?俺褒められなかったっすよ」


「…お前、褒められたいの?」


「うわぁ、その言い方ムカつく…」



ついさっきまでの俺と先輩の空気は、この2人の会話で嘘みたいに溶けた。
ちらりと隣を見てみると、先輩もまたこちらを見ていて。



「「ふっ…」」



2人同時に頬が緩んで吹き出した。
可笑しそうに笑う、二階堂先輩の笑顔。

…やっぱり、二階堂先輩は笑顔が似合う。

真剣にカメラを覗き込む先輩、芝居をする先輩、ふと泣いてしまう涙脆い先輩…いろんな先輩の側面を垣間見たけれど。
嬉しそうに、柔らかくはにかむ二階堂先輩の顔が頭に焼き付いていて。

もっと…もっと、見たい。
俺の知らない先輩の表情を、ずっと見ていたい。
先輩のことを知りたいと思ってから、その気持ちが膨れ上がっているのは紛れもない事実だ。
この気持ちに名前があることを、俺は知っている。
…知っている、けれど。

まだ…まだ、気付かないふりをしていたい。

名前をつけてしまうには、まだ早い気がする。
この思いがどんなものであれ、俺の中でこの人が大切で、尊敬すべき人であることに変わりはないのだから。