翌日。
部活後に古田とマックに行く約束をした。
「一緒にマックなんて夢みたいです」
そんな古田の言葉に驚いた。もしかしたら古田は友達が少ないのかもしれない。イケメンの意外な一面を知って、クスッと笑いが込み上げる。
「そっか。僕で良ければ、いつでも付き合うぞ」
隣を歩いていた古田が足を止めた。どうしたのかと彼を見れば、両手で顔を隠してプルプル震えている。調子でも悪いのだろうか。
「優斗先輩……。破壊力が、抜群です」
「は? 破壊力?」
意味が分からない。緩く首を傾げて、深く考えるのを止めた。
古田の考えは謎めいているところがあるから、僕が理解しようとしても無理なのだ。これはスルー案件だ。
古田が顔を隠したまま、ぼそりと一言をこぼす。
「俺と、付き合ってくれるんですね」
古田の手から漏れてくる声が緊張を孕んでいる。そう思うのは気のせいだろうか。だけど。ふと気になった部分を頭で繰り返す。
――ん? 俺と?
聞き間違いだろうか。変な意味を考えてしまい、途端に全身が熱くなる。心臓がドキドキと存在を主張し始める。そんな自分に焦る。
「いや、マックくらい、いつでも行こうぜ! ははは」
場違いなくらい高笑いをしてしまった。恥ずかしさが押し寄せる。顔が火照る僕とは真逆に、古田はガクリと肩を落として顔から手を放した。
「あ……、そう、ですよね。マック…‥。ぜひ、行きましょう」
先ほどの歓喜に満ちたような態度はどこに消えた? と聞きたくなるような落ち込みが心配になる。
「おい、大丈夫か?」
声を掛ければ、古田は大きく息を吐いた。そして僕を向いた。その表情はいつもの笑顔。
「はい。大丈夫です。優斗先輩は波みたいです。大波が来て、一気に引いてく。天然ですかね。これは、ヤバすぎです」
「は?」
まるで詩人の様な言葉が理解できない。これは僕を褒めているのか?
「いえ、何でもありません。マック行きましょう」
気を取り直したように古田が足を進める。僕も隣に並びながら思いついたことを聞いた。
「古田君は海が好きなんだな」
古田は目を見開いて、腹を抱えて笑った。またしても意味の分からない態度に、コイツと居て大丈夫だろうか、と少し不安になった。
駅前のマックは平日にしては混んでいる。僕たちは二階の端っこの席にポテトとドリンクを持って陣取っている。
「ほんとにポテトだけで良いのか? 古田君はでっかいし、もっと食べていいぞ?」
古田はウルウルした瞳で僕を見た。
「いいんです! ポテトをシェアできるなんて、最高です」
古田はポテトを好きなのだろう。確かにマックポテトは美味しいから納得する。カリカリとポテトを食べながら、ハッと気が付く。
「違うだろ! 楽しくポテトを食べている場合じゃない。将棋部の悪事を探る作戦だ!」
「え、俺は楽しくポテトで満足ですけど」
「協力する気はあるんだよな?」
僕が目を細めて古田を睨むと彼は急に慌てる。
「もちろんですよ! それより、協力したらご褒美アリですか?」
これには固まってしまった。自己中かもしれないが、そんなことは考えていなかった。古田なら無償で僕に協力してくれると甘えていた。急に申し訳なさが押し寄せる
「あ、ゴメン。そうだよな。こんな面倒に巻き込んで……」
「面倒なんかではありません! 優斗先輩のためなら何でもします。けど、ちょっとだけ欲があると言うか……。俺の望みも聞いてもらえたら嬉しいな、なんて。えっと、名前呼び、してもらえませんか?」
金を要求されるかと思っていた僕は拍子抜けして息を吐いた。
「そんな事で良いのかよ、誠君」
古田の名を呼べば、彼は嬉しそうに目を輝かせる。
「はい! 出来たら呼び捨てでお願いします」
キラキラとした表情がまぶしい。大型犬が『待て』をしているようだ。可愛くて僕の頬が緩む。
「まこと」
わざとゆっくり声にした。途端に古田が目を輝かせる。
「はい! 優斗先輩」
その返事が、まるで飼い主に名を呼ばれて『ワン!』と喜ぶ犬のように見える。
「あはは。古田君、面白すぎる!」
古田は笑う僕を拗ねた顔で睨んでくる。
「優斗先輩、呼び方」
言われて気が付く。つい苗字呼びしてしまった。
「誠、だったな」
「はい!」
ポテトを口に入れれば口の中にしょっぱい旨さが広がる。空腹が満たされる。
「そう言えば、誠は中学で部活何やってたんだ? 見た感じ運動部っぽいんだけど」
「正解です。サッカーをしていました」
「それっぽい。何でうちの部活なんだよ」
軽い気持ちで聞いた。深い意味なんて無かった。けれど――。
「サッカー推薦が決まっていたんです。でも、交通事故で左足の複雑骨折をしてしまい、サッカーは諦めました。夢が崩れるって一瞬なんですよ。ま、日常生活を送るには問題ないですけど」
ポテトを食べながら話す古田から目が離せなかった。
――え?
考えていなかった内容に頭がついて行かない。
「固まらないでください。もう過去の事です。この高校には一般入試で入りました。でも、違うどこかに自分の輝く場所があったかもしれないって思うとやるせなくて。だから四月の部活紹介は見たくもなかったです。だけど……」
古田が強い瞳で僕を射貫く。僕の心がドキっと反応する。息が震える。
「優斗先輩を見た時、俺の前に光が差しました」
「は、はぁ?」
変な汗が滲む。エアコンが効いている店内なのに。
「懸命にボードゲームの楽しさを語る優斗先輩が綺麗でした。何より『無理せずに楽しめる部活があるよ。部活は楽しいだけでも良いんだよ』って言ってくれた言葉が刺さりました。部活は夢を追うために、苦しくて必死になるべきだと考えていた俺の思考が逆転した瞬間です。走れない頑張れない自分も許してあげて良いのかと、思えた瞬間でした」
淡々と話す古田に何と言葉を返して良いのか分からず呆然としてしまった。
「古田君……」
声を掛ける事しか出来ない。それ以上何も言えない。そんな僕を見て古田がクスッと笑う。
「優斗先輩、呼び方が戻っています」
優しく笑う表情を見て、僕の頬に涙が伝った。そんな苦しさを乗り越えていたなんて。
「誠、お前……」
「はい」
胸がいっぱいだ。溢れる想いを伝えておきたい。そう思った。
「僕は、お前が結構好きだ。なんか、カッコイイ、な」
僕より後輩だけど、尊敬できると思った。
「は⁉ ええ⁉ なん、で⁉ はぁ?」
先ほどまでの大人びた哀愁はどこへやら。真っ赤になって慌てる古田が可愛い。
「ははは。僕は可愛い後輩を持ったよ」
温かいこの気持ちを表現したつもりだったのに。急に古田は項垂れた。
「そう、ですよねぇ。後輩としての『好き』ですよ、ねぇ~」
大げさにため息を吐く古田の態度の意味がわからない。せっかくカッコイイと伝えたのに、僕の何がいけなかったのだろう。
古田の事に気を取られて、その日の目的である将棋部の話をし忘れた。
それに気が付いたのは帰宅した後だった。
部活後に古田とマックに行く約束をした。
「一緒にマックなんて夢みたいです」
そんな古田の言葉に驚いた。もしかしたら古田は友達が少ないのかもしれない。イケメンの意外な一面を知って、クスッと笑いが込み上げる。
「そっか。僕で良ければ、いつでも付き合うぞ」
隣を歩いていた古田が足を止めた。どうしたのかと彼を見れば、両手で顔を隠してプルプル震えている。調子でも悪いのだろうか。
「優斗先輩……。破壊力が、抜群です」
「は? 破壊力?」
意味が分からない。緩く首を傾げて、深く考えるのを止めた。
古田の考えは謎めいているところがあるから、僕が理解しようとしても無理なのだ。これはスルー案件だ。
古田が顔を隠したまま、ぼそりと一言をこぼす。
「俺と、付き合ってくれるんですね」
古田の手から漏れてくる声が緊張を孕んでいる。そう思うのは気のせいだろうか。だけど。ふと気になった部分を頭で繰り返す。
――ん? 俺と?
聞き間違いだろうか。変な意味を考えてしまい、途端に全身が熱くなる。心臓がドキドキと存在を主張し始める。そんな自分に焦る。
「いや、マックくらい、いつでも行こうぜ! ははは」
場違いなくらい高笑いをしてしまった。恥ずかしさが押し寄せる。顔が火照る僕とは真逆に、古田はガクリと肩を落として顔から手を放した。
「あ……、そう、ですよね。マック…‥。ぜひ、行きましょう」
先ほどの歓喜に満ちたような態度はどこに消えた? と聞きたくなるような落ち込みが心配になる。
「おい、大丈夫か?」
声を掛ければ、古田は大きく息を吐いた。そして僕を向いた。その表情はいつもの笑顔。
「はい。大丈夫です。優斗先輩は波みたいです。大波が来て、一気に引いてく。天然ですかね。これは、ヤバすぎです」
「は?」
まるで詩人の様な言葉が理解できない。これは僕を褒めているのか?
「いえ、何でもありません。マック行きましょう」
気を取り直したように古田が足を進める。僕も隣に並びながら思いついたことを聞いた。
「古田君は海が好きなんだな」
古田は目を見開いて、腹を抱えて笑った。またしても意味の分からない態度に、コイツと居て大丈夫だろうか、と少し不安になった。
駅前のマックは平日にしては混んでいる。僕たちは二階の端っこの席にポテトとドリンクを持って陣取っている。
「ほんとにポテトだけで良いのか? 古田君はでっかいし、もっと食べていいぞ?」
古田はウルウルした瞳で僕を見た。
「いいんです! ポテトをシェアできるなんて、最高です」
古田はポテトを好きなのだろう。確かにマックポテトは美味しいから納得する。カリカリとポテトを食べながら、ハッと気が付く。
「違うだろ! 楽しくポテトを食べている場合じゃない。将棋部の悪事を探る作戦だ!」
「え、俺は楽しくポテトで満足ですけど」
「協力する気はあるんだよな?」
僕が目を細めて古田を睨むと彼は急に慌てる。
「もちろんですよ! それより、協力したらご褒美アリですか?」
これには固まってしまった。自己中かもしれないが、そんなことは考えていなかった。古田なら無償で僕に協力してくれると甘えていた。急に申し訳なさが押し寄せる
「あ、ゴメン。そうだよな。こんな面倒に巻き込んで……」
「面倒なんかではありません! 優斗先輩のためなら何でもします。けど、ちょっとだけ欲があると言うか……。俺の望みも聞いてもらえたら嬉しいな、なんて。えっと、名前呼び、してもらえませんか?」
金を要求されるかと思っていた僕は拍子抜けして息を吐いた。
「そんな事で良いのかよ、誠君」
古田の名を呼べば、彼は嬉しそうに目を輝かせる。
「はい! 出来たら呼び捨てでお願いします」
キラキラとした表情がまぶしい。大型犬が『待て』をしているようだ。可愛くて僕の頬が緩む。
「まこと」
わざとゆっくり声にした。途端に古田が目を輝かせる。
「はい! 優斗先輩」
その返事が、まるで飼い主に名を呼ばれて『ワン!』と喜ぶ犬のように見える。
「あはは。古田君、面白すぎる!」
古田は笑う僕を拗ねた顔で睨んでくる。
「優斗先輩、呼び方」
言われて気が付く。つい苗字呼びしてしまった。
「誠、だったな」
「はい!」
ポテトを口に入れれば口の中にしょっぱい旨さが広がる。空腹が満たされる。
「そう言えば、誠は中学で部活何やってたんだ? 見た感じ運動部っぽいんだけど」
「正解です。サッカーをしていました」
「それっぽい。何でうちの部活なんだよ」
軽い気持ちで聞いた。深い意味なんて無かった。けれど――。
「サッカー推薦が決まっていたんです。でも、交通事故で左足の複雑骨折をしてしまい、サッカーは諦めました。夢が崩れるって一瞬なんですよ。ま、日常生活を送るには問題ないですけど」
ポテトを食べながら話す古田から目が離せなかった。
――え?
考えていなかった内容に頭がついて行かない。
「固まらないでください。もう過去の事です。この高校には一般入試で入りました。でも、違うどこかに自分の輝く場所があったかもしれないって思うとやるせなくて。だから四月の部活紹介は見たくもなかったです。だけど……」
古田が強い瞳で僕を射貫く。僕の心がドキっと反応する。息が震える。
「優斗先輩を見た時、俺の前に光が差しました」
「は、はぁ?」
変な汗が滲む。エアコンが効いている店内なのに。
「懸命にボードゲームの楽しさを語る優斗先輩が綺麗でした。何より『無理せずに楽しめる部活があるよ。部活は楽しいだけでも良いんだよ』って言ってくれた言葉が刺さりました。部活は夢を追うために、苦しくて必死になるべきだと考えていた俺の思考が逆転した瞬間です。走れない頑張れない自分も許してあげて良いのかと、思えた瞬間でした」
淡々と話す古田に何と言葉を返して良いのか分からず呆然としてしまった。
「古田君……」
声を掛ける事しか出来ない。それ以上何も言えない。そんな僕を見て古田がクスッと笑う。
「優斗先輩、呼び方が戻っています」
優しく笑う表情を見て、僕の頬に涙が伝った。そんな苦しさを乗り越えていたなんて。
「誠、お前……」
「はい」
胸がいっぱいだ。溢れる想いを伝えておきたい。そう思った。
「僕は、お前が結構好きだ。なんか、カッコイイ、な」
僕より後輩だけど、尊敬できると思った。
「は⁉ ええ⁉ なん、で⁉ はぁ?」
先ほどまでの大人びた哀愁はどこへやら。真っ赤になって慌てる古田が可愛い。
「ははは。僕は可愛い後輩を持ったよ」
温かいこの気持ちを表現したつもりだったのに。急に古田は項垂れた。
「そう、ですよねぇ。後輩としての『好き』ですよ、ねぇ~」
大げさにため息を吐く古田の態度の意味がわからない。せっかくカッコイイと伝えたのに、僕の何がいけなかったのだろう。
古田の事に気を取られて、その日の目的である将棋部の話をし忘れた。
それに気が付いたのは帰宅した後だった。



