「大歓迎だよ! ようこそボードゲーム部へ。僕は部長の島田虎太郎です。こっちが副部長の長倉優斗」
部長は歓喜に沸いている。そりゃそうだ。普段は僕と部長しか出入りの無い部室に新入生が顔を出してくれたのだから。
僕は新入生に向けてぺこりとお辞儀をした。
彼はしっかりとお辞儀を返してくれる。
礼儀正しい感じが好印象だ。部長は満足げに頷いている。きっと僕と同じ印象を抱いたのだろう。
部長の上気した顔に僕はクスッと笑いが込み上げた。
「部活紹介、凄く良かったです。ネットゲームに無い、リアルを体感したくて。ぜひ見学に行きたくなったんです」
僕が説明した部分だ。そこを覚えていてもらえて嬉しい。少し僕の頬が緩んだ。
「わ、嬉しいなぁ。部紹介頑張って良かったよ。な、長倉君」
「そうですね」
大歓迎テンションの部長の邪魔にならないように一歩下がって静かにしたけれど。
ふと視線を感じて顔を上げれば新入生の彼が僕を見ていた。
――なんだ?
妙な熱を感じる視線に心臓がドキリと動く。
眼力の強い男子だ。黒の垂れ目が印象的。
目を逸らして良いのか迷いが生じる。すると、彼がフワリと微笑んだ。
まるで念願叶って嬉しいと言わんばかりの微笑みだ。
その表情の意味が分からず「ん?」と首をかしげると、頬を染めて彼が視線を外した。
彼は何事も無かったかのように部長に意識を向けている。
僕は彼が気になった。だって可愛すぎるだろう。
いや、大柄なイケメン男子に抱く感情では無いけれど。でも、あの照れたような動きはツボすぎる。これはモテそうな奴だ。そう思うと同時に残念になる。
こんなイケメン男子でキラキラ系はうちの部活には似合わない。きっと冷やかしだ。それか幽霊部員目的か。
どちらにせよ、この彼には期待できない。
そんな風に考え、部長と話す彼を眺めて肩を落とした。
「じゃ、色々聞けて楽しかったです。見学希望受け入れてもらえて安心しました。先輩たち優しいですし。来週の見学楽しみにしています」
丁寧に挨拶をし、爽やかな笑顔を残して彼は去って行った。嵐のような新入生だった。
パタンとドアが閉まると同時に部長がクルッと僕を向いた。
「長倉君‼ 見たか? 新入生が部室に来たよ! しかもめっちゃ良い子だ! うちの部にも春が来たぁ」
感極まる部長に僕は乾いた笑いを返した。
「ははは。部長、よく考えてください。あんなイケメン男子はうちには来ませんよ。冷静になってください」
「ええ? そうかなぁ。来てくれたら良いけどなぁ」
部長は頭をポリポリ掻いて、見せるために出したゲームを片付ける。
部長は大人数でやれるボードゲームをやりたいのだ。やはり人数が多いと盛り上がりが違う。それは僕にも良く分かる。部員を増やして楽しみたい気持ちは僕も同じだから。
「大丈夫ですよ。さっきの彼は入部しないだろうけど、見学希望が十名ですよ。全員は難しくても、きっと入部が五名は来ますよ!」
「そうだね! 期待して待とう」
ふと部長の手元にある入部希望用紙が目に留まった。そこには『1年A組古田誠』と書かれている。先程の新入生の名だ。大きく見やすい字。
体育会系に思える爽やかさだったが、字を見ると頭も良さそうだ。完璧男子か。そう思うと益々入部の期待は薄くなる。
――あまり部長が盛り上がりすぎて落ち込まないと良いけど。
そんな事を考えてため息をついた。
翌週の月曜日。
今日から部活見学者がやってくる。
僕たちの学校では部活ごとに部室が一つ、活動教室が一つ与えられている。僕たちボードゲーム部は生物室が活動場所。
今日は部活見学者が来るから張り切って、いつもより多くのボードゲームを運んでいる。僕たちの部室は特別教室棟の四階。そこから本校舎の二階にある生物室までが意外と遠い。いや、遠く感じるのは欲張りすぎてゲームを多く持ち過ぎたせいか。
本校舎への渡り廊下で限界が来た。
僕はドサっと荷物を置いて一休憩をいれた。
こんなことなら部長にもっと持ってもらえば良かった。見学者が早く来たら困る、と部長は必要最低限だけ荷物を持って先に行っている。
「あぁ、くっそ。二回に分ければよかった」
腰を伸ばしながらつい独り言が漏れた。その時、にゅっと大きな影が僕を覆った。
「優斗先輩? これ、運べばいいですか?」
ハッと振り返れば、先日部室に直接見学希望用紙を届けに来た新入生がいた。
急な名前呼びに驚くが、そう言えば部長が僕の紹介をしていたと思い出す。
「古田、くん? いや、いいよ。君たちを歓迎するための準備なんだから」
そう言う間に古田はヒョイッと荷物を持ち上げてしまう。
「あ、これ重いですね。部室からって大変でしたよね。次からは俺が運びますから、言ってください」
「はあ?」
「先輩のサポートは後輩の仕事ですよね」
僕が苦労して持っていた荷物を軽々と持ち上げている古田の筋力が羨ましい。そして、無駄にイケメンだと感じた。こんなの女子にしたら即恋愛に発展コースだろう。
「古田君」
「はいっ!」
君は見学者なんだからそんなことしなくていいよ、と断ろうとしたのだけど。
こちらを向いた古田が頬を染めて目をキラキラさせているから断れなくなってしまう。
何だろう。この従順さは。でも、後輩ができたらこんな気分なのかもしれない。ちょっとだけ先輩気分を味わって頬がにやけてしまう。
「あ、えっと。本当にお願いしていいの、かな?」
古田を上目遣いに見つめた。十センチほどの身長差だと少し見上げるのは仕方がない。
近くで見る古田は男でも驚くくらいに綺麗な顔だ。思わず見とれてしまった。
「全然! もう、優斗先輩の為なら何でも運びたい気分です! 何なら、優斗先輩を運びたい、なんて。あははは」
急に赤面して笑いだす古田に付いて行けなくてポカンと口を開けた。
――僕を運ぶ?
一瞬首を傾げてしまったが、楽しそうに笑う彼を見て冗談だと気が付いた。
もしかして古田はちょっと楽しい奴かもしれない。
「ははは。古田君、面白いんだね」
「そ、そうですかね⁉ あはは」
意味不明に二人で笑いながら生物室に向かった。正直助かったし、古田は良い奴かもしれないと思った。
生物室に到着した古田はそのまま僕と部長の手伝いをしてくれた。
部活見学希望は古田を含めて十一人。テーブルは四か所に初心者でも楽しめるマンカラ、陣取りゲーム、人生ゲームなどを配置した。その他に外国製のゲームと国産ゲームに分けて展示。
これで準備はばっちりだ。
「古田君、ありがとう。本当に助かったよ。ここからは見学者として部体験を楽しんで」
「はい。でも、何かあれば手伝います。僕は優斗先輩の後輩ですから」
――ん? まだ入部もしていないだろ?
そう言おうとしたけれど。
「おお! 心強いじゃないか! このまま部に入部してくれると嬉しい! ぜひ古田君、うちに!」
勢いよく部長が会話に割り込んできた。相変わらず部長のテンションが高い。
「はい! 島田部長」
部長の勢いに負けずと返事をする古田に向けて僕は軽く笑いを返した。古田はどこまで真剣に入部したいと言っているのか分からない。
あまり僕らをぬか喜びさせないでほしい。部長が落ちこむ顔は見たくない。こんなに張り切っている部長は初めて見るから。
少しため息をついて部長に視線を向けた。すると。
「部長が、気になるんですか?」
急に耳もとに響く声に背がゾワッとした。ハッと横を見れば、僕の顔の真横に古田の顔がある。
「わっ! びっくりしたぁ。古田君、おどかすな」
少し距離を置こうとしたのに。古田は僕の動きにくっついてくる。逃げるな、と無言の訴えが聞こえてきそうだ。これ以上離れてはいけない。そう感じた。
「島田部長との距離は結構近いですよね? どうしてですか?」
なんだ? 古田は何を気にしている? 分からずに心臓がドクドクと鳴り出す。
「え? そりゃ、一緒に部活、やってるし」
真顔の古田から目が逸らせない。変な汗が額に滲む。さっき荷物を運んでもらった時とは雰囲気が全然違う。
「そう、ですか。優斗先輩の特別じゃないんですよね?」
「は? 特別?」
近い距離で視線が合ったまま。妙な緊張感が生まれる。古田の黒い瞳は、まるで豹の様な迫力がある。古田の口が触れそうな右耳が熱い。
「部長とは、ただの先輩後輩関係、ですよね?」
低い声にドキっとする。右耳から頬に熱が広がってくる。この不思議な感覚から逃げたいような、甘えたいような、不思議な気持ちが湧き上がる。
「あ、もち、ろん、だけど。なに?」
混乱する。そう思った時。スッと古田が顔を離した。
急に古田が笑顔になる。高校生らしい爽やかな笑顔だ。
「いや、いいんです。ちょっと不安になってしまって。でも、大丈夫そうなので! 良かったぁ。あ、この箱は隅に寄せときますね」
僕から離れる古田を目で追った。
心臓がドッドッと余韻を訴えている。呆然とする僕の肩をポンっと叩かれて、飛び上がりそうになってしまった。
「古田君、いいね! 絶対うちに入部してほしいよ」
僕の隣には部長が来ていた。
僕は何となく古田に目線を向けた。やはり古田はこちらを見ている。僕と目が合うとニコリと微笑む。
優しそうな穏やかな笑みなのだけど。
僕は部長から一歩離れた。そうしたほうが良いと感じたから。テキパキと動いている古田をもう一度見つめる。古田はもうこちらを見ていない。
「そう、ですね。入部してくれるといいです」
「うん。本当に完璧くらいに、イイ子だよ」
――いい子、なんだよな?
その疑問は続々と部見学に来た新入生にかき消された。何しろ見学者十一名に対して僕たち部員は二名だけだから。
こんなに忙しい部活は初めてだった。
部長は歓喜に沸いている。そりゃそうだ。普段は僕と部長しか出入りの無い部室に新入生が顔を出してくれたのだから。
僕は新入生に向けてぺこりとお辞儀をした。
彼はしっかりとお辞儀を返してくれる。
礼儀正しい感じが好印象だ。部長は満足げに頷いている。きっと僕と同じ印象を抱いたのだろう。
部長の上気した顔に僕はクスッと笑いが込み上げた。
「部活紹介、凄く良かったです。ネットゲームに無い、リアルを体感したくて。ぜひ見学に行きたくなったんです」
僕が説明した部分だ。そこを覚えていてもらえて嬉しい。少し僕の頬が緩んだ。
「わ、嬉しいなぁ。部紹介頑張って良かったよ。な、長倉君」
「そうですね」
大歓迎テンションの部長の邪魔にならないように一歩下がって静かにしたけれど。
ふと視線を感じて顔を上げれば新入生の彼が僕を見ていた。
――なんだ?
妙な熱を感じる視線に心臓がドキリと動く。
眼力の強い男子だ。黒の垂れ目が印象的。
目を逸らして良いのか迷いが生じる。すると、彼がフワリと微笑んだ。
まるで念願叶って嬉しいと言わんばかりの微笑みだ。
その表情の意味が分からず「ん?」と首をかしげると、頬を染めて彼が視線を外した。
彼は何事も無かったかのように部長に意識を向けている。
僕は彼が気になった。だって可愛すぎるだろう。
いや、大柄なイケメン男子に抱く感情では無いけれど。でも、あの照れたような動きはツボすぎる。これはモテそうな奴だ。そう思うと同時に残念になる。
こんなイケメン男子でキラキラ系はうちの部活には似合わない。きっと冷やかしだ。それか幽霊部員目的か。
どちらにせよ、この彼には期待できない。
そんな風に考え、部長と話す彼を眺めて肩を落とした。
「じゃ、色々聞けて楽しかったです。見学希望受け入れてもらえて安心しました。先輩たち優しいですし。来週の見学楽しみにしています」
丁寧に挨拶をし、爽やかな笑顔を残して彼は去って行った。嵐のような新入生だった。
パタンとドアが閉まると同時に部長がクルッと僕を向いた。
「長倉君‼ 見たか? 新入生が部室に来たよ! しかもめっちゃ良い子だ! うちの部にも春が来たぁ」
感極まる部長に僕は乾いた笑いを返した。
「ははは。部長、よく考えてください。あんなイケメン男子はうちには来ませんよ。冷静になってください」
「ええ? そうかなぁ。来てくれたら良いけどなぁ」
部長は頭をポリポリ掻いて、見せるために出したゲームを片付ける。
部長は大人数でやれるボードゲームをやりたいのだ。やはり人数が多いと盛り上がりが違う。それは僕にも良く分かる。部員を増やして楽しみたい気持ちは僕も同じだから。
「大丈夫ですよ。さっきの彼は入部しないだろうけど、見学希望が十名ですよ。全員は難しくても、きっと入部が五名は来ますよ!」
「そうだね! 期待して待とう」
ふと部長の手元にある入部希望用紙が目に留まった。そこには『1年A組古田誠』と書かれている。先程の新入生の名だ。大きく見やすい字。
体育会系に思える爽やかさだったが、字を見ると頭も良さそうだ。完璧男子か。そう思うと益々入部の期待は薄くなる。
――あまり部長が盛り上がりすぎて落ち込まないと良いけど。
そんな事を考えてため息をついた。
翌週の月曜日。
今日から部活見学者がやってくる。
僕たちの学校では部活ごとに部室が一つ、活動教室が一つ与えられている。僕たちボードゲーム部は生物室が活動場所。
今日は部活見学者が来るから張り切って、いつもより多くのボードゲームを運んでいる。僕たちの部室は特別教室棟の四階。そこから本校舎の二階にある生物室までが意外と遠い。いや、遠く感じるのは欲張りすぎてゲームを多く持ち過ぎたせいか。
本校舎への渡り廊下で限界が来た。
僕はドサっと荷物を置いて一休憩をいれた。
こんなことなら部長にもっと持ってもらえば良かった。見学者が早く来たら困る、と部長は必要最低限だけ荷物を持って先に行っている。
「あぁ、くっそ。二回に分ければよかった」
腰を伸ばしながらつい独り言が漏れた。その時、にゅっと大きな影が僕を覆った。
「優斗先輩? これ、運べばいいですか?」
ハッと振り返れば、先日部室に直接見学希望用紙を届けに来た新入生がいた。
急な名前呼びに驚くが、そう言えば部長が僕の紹介をしていたと思い出す。
「古田、くん? いや、いいよ。君たちを歓迎するための準備なんだから」
そう言う間に古田はヒョイッと荷物を持ち上げてしまう。
「あ、これ重いですね。部室からって大変でしたよね。次からは俺が運びますから、言ってください」
「はあ?」
「先輩のサポートは後輩の仕事ですよね」
僕が苦労して持っていた荷物を軽々と持ち上げている古田の筋力が羨ましい。そして、無駄にイケメンだと感じた。こんなの女子にしたら即恋愛に発展コースだろう。
「古田君」
「はいっ!」
君は見学者なんだからそんなことしなくていいよ、と断ろうとしたのだけど。
こちらを向いた古田が頬を染めて目をキラキラさせているから断れなくなってしまう。
何だろう。この従順さは。でも、後輩ができたらこんな気分なのかもしれない。ちょっとだけ先輩気分を味わって頬がにやけてしまう。
「あ、えっと。本当にお願いしていいの、かな?」
古田を上目遣いに見つめた。十センチほどの身長差だと少し見上げるのは仕方がない。
近くで見る古田は男でも驚くくらいに綺麗な顔だ。思わず見とれてしまった。
「全然! もう、優斗先輩の為なら何でも運びたい気分です! 何なら、優斗先輩を運びたい、なんて。あははは」
急に赤面して笑いだす古田に付いて行けなくてポカンと口を開けた。
――僕を運ぶ?
一瞬首を傾げてしまったが、楽しそうに笑う彼を見て冗談だと気が付いた。
もしかして古田はちょっと楽しい奴かもしれない。
「ははは。古田君、面白いんだね」
「そ、そうですかね⁉ あはは」
意味不明に二人で笑いながら生物室に向かった。正直助かったし、古田は良い奴かもしれないと思った。
生物室に到着した古田はそのまま僕と部長の手伝いをしてくれた。
部活見学希望は古田を含めて十一人。テーブルは四か所に初心者でも楽しめるマンカラ、陣取りゲーム、人生ゲームなどを配置した。その他に外国製のゲームと国産ゲームに分けて展示。
これで準備はばっちりだ。
「古田君、ありがとう。本当に助かったよ。ここからは見学者として部体験を楽しんで」
「はい。でも、何かあれば手伝います。僕は優斗先輩の後輩ですから」
――ん? まだ入部もしていないだろ?
そう言おうとしたけれど。
「おお! 心強いじゃないか! このまま部に入部してくれると嬉しい! ぜひ古田君、うちに!」
勢いよく部長が会話に割り込んできた。相変わらず部長のテンションが高い。
「はい! 島田部長」
部長の勢いに負けずと返事をする古田に向けて僕は軽く笑いを返した。古田はどこまで真剣に入部したいと言っているのか分からない。
あまり僕らをぬか喜びさせないでほしい。部長が落ちこむ顔は見たくない。こんなに張り切っている部長は初めて見るから。
少しため息をついて部長に視線を向けた。すると。
「部長が、気になるんですか?」
急に耳もとに響く声に背がゾワッとした。ハッと横を見れば、僕の顔の真横に古田の顔がある。
「わっ! びっくりしたぁ。古田君、おどかすな」
少し距離を置こうとしたのに。古田は僕の動きにくっついてくる。逃げるな、と無言の訴えが聞こえてきそうだ。これ以上離れてはいけない。そう感じた。
「島田部長との距離は結構近いですよね? どうしてですか?」
なんだ? 古田は何を気にしている? 分からずに心臓がドクドクと鳴り出す。
「え? そりゃ、一緒に部活、やってるし」
真顔の古田から目が逸らせない。変な汗が額に滲む。さっき荷物を運んでもらった時とは雰囲気が全然違う。
「そう、ですか。優斗先輩の特別じゃないんですよね?」
「は? 特別?」
近い距離で視線が合ったまま。妙な緊張感が生まれる。古田の黒い瞳は、まるで豹の様な迫力がある。古田の口が触れそうな右耳が熱い。
「部長とは、ただの先輩後輩関係、ですよね?」
低い声にドキっとする。右耳から頬に熱が広がってくる。この不思議な感覚から逃げたいような、甘えたいような、不思議な気持ちが湧き上がる。
「あ、もち、ろん、だけど。なに?」
混乱する。そう思った時。スッと古田が顔を離した。
急に古田が笑顔になる。高校生らしい爽やかな笑顔だ。
「いや、いいんです。ちょっと不安になってしまって。でも、大丈夫そうなので! 良かったぁ。あ、この箱は隅に寄せときますね」
僕から離れる古田を目で追った。
心臓がドッドッと余韻を訴えている。呆然とする僕の肩をポンっと叩かれて、飛び上がりそうになってしまった。
「古田君、いいね! 絶対うちに入部してほしいよ」
僕の隣には部長が来ていた。
僕は何となく古田に目線を向けた。やはり古田はこちらを見ている。僕と目が合うとニコリと微笑む。
優しそうな穏やかな笑みなのだけど。
僕は部長から一歩離れた。そうしたほうが良いと感じたから。テキパキと動いている古田をもう一度見つめる。古田はもうこちらを見ていない。
「そう、ですね。入部してくれるといいです」
「うん。本当に完璧くらいに、イイ子だよ」
――いい子、なんだよな?
その疑問は続々と部見学に来た新入生にかき消された。何しろ見学者十一名に対して僕たち部員は二名だけだから。
こんなに忙しい部活は初めてだった。



