「翔、いったんあのお店で休まない? 歩き疲れたでしょ」
「先輩といるときは疲れません」
「そういうのいいから、行くよ」
先輩は当たり前のように俺の手を掴んで引っ張る。
そんなに自然とされると、俺の心臓がもたないじゃないか。
先輩とのデートは隣町の大きなショッピングセンターだった。
最初に先輩が予約してくれた映画を見て、そのあとは靴や本を購入した。
先輩の選んだ映画も、先輩がお勧めしてくれた本も自分には全部未知のものでどれも新鮮で面白かった。
知らない世界をどんどん教えてくれる。
先輩が入ろうとしているこのお店も、外見は華やかでおしゃれな雰囲気。
看板メニューはフルーツが盛り合わせのパンケーキだ。女性客に人気な雰囲気が漂っている。
ここに男二人で入ってもいいのだろうか。
先輩は堂々と店内に入っていく。
遠慮がなさ過ぎて逆に尊敬できる。
「いらっしゃいませー、あ、水無瀬くーん」
「こんにちはー、久しぶりです」
扉を開けてすぐ出迎えてくれた女の店員さん。
水無瀬君って呼んだってことは、知り合い?
先輩も久しぶりって……もしかしてここって。
「ここは俺の行きつけのパンケーキ屋さんだよ」
……可愛すぎて死にそう。
店員さんとも仲良くなってるって、どれだけここに通っていたんだよ。
かわいすぎるだろ。先輩映画はスプラッターとか好きなのに、食べ物はこんなに可愛いもの好きなの?
ギャップえぐすぎないか、尊すぎて見ているだけで溶けそう。
「あれ、今日は凛音ちゃんじゃないの?」
店員さんがそう言うと、先輩は手を強く握ってくる。
先輩はすっと俺の隣に体を寄せてつないだ手を後ろに隠す。
「実は別れたんですよー」
はははーと笑って見せると、店員さんは焦って次の言葉を必死に絞り出した。
「そ、そそうだったのね。ごめんなさい聞いてしまって」
「いえいえ結構前の話なんでー、今日は大事な人とまた来たんですよ」
店員さんが俺のことを見てきたから、俺は少しだけ頭を下げた。
「そうなのね。もう久々だから味とか忘れてないでしょうね」
「忘れてませんよー」
少しだけお話をしている間、俺はずっと考えていた。
凛音って確か、二年生の梅田凛音さんだ。種目は400メートル。
先輩がもともとやっていた種目と同じ。
先輩がマネージャーになったのは俺ら一年生が入ってくるちょうど直前の話。
それまではずっと梅田さんと付き合っていたっていうことだろうか。
考えているうちに二人の会話が終わったらしく、先輩が歩き始める。
できるだけ手を繋いでいるのを他の人にばれないように、先輩と体をできるだけ近づけておく。
窓際の席で、大きな広場が見える。
広場には子供たちが遊んでいてのどかな景色だった。
「翔、俺のおすすめはこのシュガーバターチョコバナナ。甘くておいしい」
「……先輩の元カノって梅田さんですか?」
「……そう」
先輩はメニュー表をゆっくり閉じる。
「二人でよくここに来ていたんですか」
「あぁ」
「元カノさんとの場所に連れてこられるって、なんか、よくわからないんですけど、複雑な感じします」
違う、こんなこと言ったら先輩の気分が悪くなるに決まっている。
ただ先輩のおすすめのお店なんだ。それだけの話。
でも、何も言わずに元カノとの行きつけのお店に連れてくるなんて。
「ごめん、どこかで言うつもりだった。まさか店に入った瞬間にあーなるとは思っていなかったけど」
「先輩のおすすめのお店だから、連れてきてくれたんですよね?」
「そう」
「……すみません、俺変なこと気にして」
どうしよう、完全に空気を壊してしまった。
やっぱり聞かなきゃよかった。
でも、なんかもやもやして。
言わないでためる方がよくない気がした、だからって、こんな雰囲気壊す必要はない。
先輩も何も言ってくれない。
「いらっしゃいませー、こちらお水になります。注文は決まり次第店員をお呼びください」
「すみません、やっぱり今日はやめます」
先輩がそう言った。
それは、違う。
俺はとっさに椅子から立ち上がって先輩を上から見下ろす。
「それは違います。俺食べたいです。先輩の大好きなパンケーキ」
先輩は驚いたように俺をまっすぐに見据えている。
「俺はシュガーバターチョコバナナでお願いします。先輩はどうしますか?」
「え、じゃあ、俺もそれで」
「かしこまりましたー」
店員さんがその場から離れると俺は椅子に座る。
周りの人の視線に気づき、俺は恥ずかしさのあまり机に突っ伏した。
「翔、ありがと」
先輩は穏やかな声でそう言った。
ゆっくり顔を上げると、先輩はやっぱり優しそうに笑っていた。
「あのね、正直に話すけど、怒らないでね」
「怒りません」
俺の返答があまりにも早すぎたので先輩はふっと笑う。
「このお店を教えてくれたのが梅田でね、かなりの頻度でここに来てたんだよね。店員さんにも覚えられるくらいに。本当においしいんだよ」
メニューゆっくり開いて、一つ一つのパンケーキを愛おしそうに見つめていた。
「俺が振られたんだよ。最初は未練とかあって、このお店来るの辛くてね。でも、翔とこのパンケーキ食べたいなって思って。翔とならまた来れるかもって期待して。でも、やっぱり嫌だよな、元カノとの思い出のお店だなんて」
「ちょっと複雑でした」
「だよな」
「でも、これから俺とこのお店行きまくって、梅田さんと行ったこと忘れさせます」
「へ?」
「何度でも来ますよ。俺が上書きさせます」
「上書きって」
こらえきれなくなったのか、先輩は声に出して笑いだしてしまった。
全然真面目に言っていたつもりだから、戸惑いながら先輩を落ち着かせる。
「翔、ありがとう。これからもよろしくね」
「よろしくお願いします」
お互い見つめあって、なにかおかしくて今度は二人で笑ってしまう。
パンケーキが来るまでは他愛もない話で盛り上がる。
「お待たせしましたー、こちらシュガーバターチョコバナナお二つになります」
店員さんが運んできた大きなお皿に盛ってある大きなパンケーキが二つ。バナナが綺麗に並べてありチョコレートが贅沢にもられている。
写真を見ずに注文してしまったから、どんなものか分からなかったけど、想像を超えてきた……
「食べよ食べー」
うきうきしながら先輩は俺にフォークとナイフを渡してくれる。
「ありがとうございます……」
「いただきまーす」
「いただきます……」
先輩はパンケーキを慣れた手つきでナイフで切って、かなり大きく切り分けてそのままま口に放り込む。
「んーーー!! うまっ!!」
ぱっと花が咲いたみたいに先輩は笑顔になる。
え、いっきに雰囲気変わった……
先輩の可愛いモードきた。
一体この人どんだけ人格あるんだよって思うくらいキャラが変わる。
パクパク食べて一気に五歳児みたいに幼くなってる気がする。
かわいいぞ、いやまってくれ。
可愛すぎるぅぅゔうぅぅぅぁぁぁぅぁぁゔ
俺も早く食べよう。
最初は小さく切ってみる。
フォークを皿から離すと、トロッとしたチョコが流れる。
口に運ぶ瞬間を掴めない……
ちらっと先輩を覗き込む。
先輩はチョコが垂れていても構わずパクパク食べていた。
美味しそうに食べる先輩を見た途端、なんだかどうでもよくなって、チョコは垂れたままだが口のなかに入れる。
口いっぱいに甘いチョコが広がり、少しザラッとした砂糖も舌の上で転がり出す。
「あまっ」
思わず出た言葉だった。
最初は美味しいって言葉のほうが絶対にいい。
しまった、と思うと同時に先輩が満面の笑みで机に乗り出す。
「甘いよねー、これが美味しいんだよ!!」
口にチョコがついていて、すでに1枚目のパンケーキを食べてしまっている。
食べるのに夢中な先輩って、幸せなオーラで溢れてる。
「美味しいです」
「よかったよかった!!」
「先輩といなかったら、一生このパンケーキ食べなかったと思います」
「ん、甘いの苦手だったりする?」
「今までは、勝手に避けてしまっていた気がします。でも、もったいなかったですね」
昔はよくチョコとかケーキのような甘いものが大好きだった。
いつしか、甘いものを食べるのが女の子って固定観念を自分に押し付けていた。
食べなくても、他においしいものがあるから大丈夫。
そう思っていたのに、こんなに幸せそうな先輩を見ていたら、今までの自分がちっぽけすぎる。
この人はこの人自身が幸せになるだけでなく、俺のことも幸せにしてくれる。
「俺、先輩と一緒にいれて本当に嬉しいです」
「俺もだよ」
「先輩といるときは疲れません」
「そういうのいいから、行くよ」
先輩は当たり前のように俺の手を掴んで引っ張る。
そんなに自然とされると、俺の心臓がもたないじゃないか。
先輩とのデートは隣町の大きなショッピングセンターだった。
最初に先輩が予約してくれた映画を見て、そのあとは靴や本を購入した。
先輩の選んだ映画も、先輩がお勧めしてくれた本も自分には全部未知のものでどれも新鮮で面白かった。
知らない世界をどんどん教えてくれる。
先輩が入ろうとしているこのお店も、外見は華やかでおしゃれな雰囲気。
看板メニューはフルーツが盛り合わせのパンケーキだ。女性客に人気な雰囲気が漂っている。
ここに男二人で入ってもいいのだろうか。
先輩は堂々と店内に入っていく。
遠慮がなさ過ぎて逆に尊敬できる。
「いらっしゃいませー、あ、水無瀬くーん」
「こんにちはー、久しぶりです」
扉を開けてすぐ出迎えてくれた女の店員さん。
水無瀬君って呼んだってことは、知り合い?
先輩も久しぶりって……もしかしてここって。
「ここは俺の行きつけのパンケーキ屋さんだよ」
……可愛すぎて死にそう。
店員さんとも仲良くなってるって、どれだけここに通っていたんだよ。
かわいすぎるだろ。先輩映画はスプラッターとか好きなのに、食べ物はこんなに可愛いもの好きなの?
ギャップえぐすぎないか、尊すぎて見ているだけで溶けそう。
「あれ、今日は凛音ちゃんじゃないの?」
店員さんがそう言うと、先輩は手を強く握ってくる。
先輩はすっと俺の隣に体を寄せてつないだ手を後ろに隠す。
「実は別れたんですよー」
はははーと笑って見せると、店員さんは焦って次の言葉を必死に絞り出した。
「そ、そそうだったのね。ごめんなさい聞いてしまって」
「いえいえ結構前の話なんでー、今日は大事な人とまた来たんですよ」
店員さんが俺のことを見てきたから、俺は少しだけ頭を下げた。
「そうなのね。もう久々だから味とか忘れてないでしょうね」
「忘れてませんよー」
少しだけお話をしている間、俺はずっと考えていた。
凛音って確か、二年生の梅田凛音さんだ。種目は400メートル。
先輩がもともとやっていた種目と同じ。
先輩がマネージャーになったのは俺ら一年生が入ってくるちょうど直前の話。
それまではずっと梅田さんと付き合っていたっていうことだろうか。
考えているうちに二人の会話が終わったらしく、先輩が歩き始める。
できるだけ手を繋いでいるのを他の人にばれないように、先輩と体をできるだけ近づけておく。
窓際の席で、大きな広場が見える。
広場には子供たちが遊んでいてのどかな景色だった。
「翔、俺のおすすめはこのシュガーバターチョコバナナ。甘くておいしい」
「……先輩の元カノって梅田さんですか?」
「……そう」
先輩はメニュー表をゆっくり閉じる。
「二人でよくここに来ていたんですか」
「あぁ」
「元カノさんとの場所に連れてこられるって、なんか、よくわからないんですけど、複雑な感じします」
違う、こんなこと言ったら先輩の気分が悪くなるに決まっている。
ただ先輩のおすすめのお店なんだ。それだけの話。
でも、何も言わずに元カノとの行きつけのお店に連れてくるなんて。
「ごめん、どこかで言うつもりだった。まさか店に入った瞬間にあーなるとは思っていなかったけど」
「先輩のおすすめのお店だから、連れてきてくれたんですよね?」
「そう」
「……すみません、俺変なこと気にして」
どうしよう、完全に空気を壊してしまった。
やっぱり聞かなきゃよかった。
でも、なんかもやもやして。
言わないでためる方がよくない気がした、だからって、こんな雰囲気壊す必要はない。
先輩も何も言ってくれない。
「いらっしゃいませー、こちらお水になります。注文は決まり次第店員をお呼びください」
「すみません、やっぱり今日はやめます」
先輩がそう言った。
それは、違う。
俺はとっさに椅子から立ち上がって先輩を上から見下ろす。
「それは違います。俺食べたいです。先輩の大好きなパンケーキ」
先輩は驚いたように俺をまっすぐに見据えている。
「俺はシュガーバターチョコバナナでお願いします。先輩はどうしますか?」
「え、じゃあ、俺もそれで」
「かしこまりましたー」
店員さんがその場から離れると俺は椅子に座る。
周りの人の視線に気づき、俺は恥ずかしさのあまり机に突っ伏した。
「翔、ありがと」
先輩は穏やかな声でそう言った。
ゆっくり顔を上げると、先輩はやっぱり優しそうに笑っていた。
「あのね、正直に話すけど、怒らないでね」
「怒りません」
俺の返答があまりにも早すぎたので先輩はふっと笑う。
「このお店を教えてくれたのが梅田でね、かなりの頻度でここに来てたんだよね。店員さんにも覚えられるくらいに。本当においしいんだよ」
メニューゆっくり開いて、一つ一つのパンケーキを愛おしそうに見つめていた。
「俺が振られたんだよ。最初は未練とかあって、このお店来るの辛くてね。でも、翔とこのパンケーキ食べたいなって思って。翔とならまた来れるかもって期待して。でも、やっぱり嫌だよな、元カノとの思い出のお店だなんて」
「ちょっと複雑でした」
「だよな」
「でも、これから俺とこのお店行きまくって、梅田さんと行ったこと忘れさせます」
「へ?」
「何度でも来ますよ。俺が上書きさせます」
「上書きって」
こらえきれなくなったのか、先輩は声に出して笑いだしてしまった。
全然真面目に言っていたつもりだから、戸惑いながら先輩を落ち着かせる。
「翔、ありがとう。これからもよろしくね」
「よろしくお願いします」
お互い見つめあって、なにかおかしくて今度は二人で笑ってしまう。
パンケーキが来るまでは他愛もない話で盛り上がる。
「お待たせしましたー、こちらシュガーバターチョコバナナお二つになります」
店員さんが運んできた大きなお皿に盛ってある大きなパンケーキが二つ。バナナが綺麗に並べてありチョコレートが贅沢にもられている。
写真を見ずに注文してしまったから、どんなものか分からなかったけど、想像を超えてきた……
「食べよ食べー」
うきうきしながら先輩は俺にフォークとナイフを渡してくれる。
「ありがとうございます……」
「いただきまーす」
「いただきます……」
先輩はパンケーキを慣れた手つきでナイフで切って、かなり大きく切り分けてそのままま口に放り込む。
「んーーー!! うまっ!!」
ぱっと花が咲いたみたいに先輩は笑顔になる。
え、いっきに雰囲気変わった……
先輩の可愛いモードきた。
一体この人どんだけ人格あるんだよって思うくらいキャラが変わる。
パクパク食べて一気に五歳児みたいに幼くなってる気がする。
かわいいぞ、いやまってくれ。
可愛すぎるぅぅゔうぅぅぅぁぁぁぅぁぁゔ
俺も早く食べよう。
最初は小さく切ってみる。
フォークを皿から離すと、トロッとしたチョコが流れる。
口に運ぶ瞬間を掴めない……
ちらっと先輩を覗き込む。
先輩はチョコが垂れていても構わずパクパク食べていた。
美味しそうに食べる先輩を見た途端、なんだかどうでもよくなって、チョコは垂れたままだが口のなかに入れる。
口いっぱいに甘いチョコが広がり、少しザラッとした砂糖も舌の上で転がり出す。
「あまっ」
思わず出た言葉だった。
最初は美味しいって言葉のほうが絶対にいい。
しまった、と思うと同時に先輩が満面の笑みで机に乗り出す。
「甘いよねー、これが美味しいんだよ!!」
口にチョコがついていて、すでに1枚目のパンケーキを食べてしまっている。
食べるのに夢中な先輩って、幸せなオーラで溢れてる。
「美味しいです」
「よかったよかった!!」
「先輩といなかったら、一生このパンケーキ食べなかったと思います」
「ん、甘いの苦手だったりする?」
「今までは、勝手に避けてしまっていた気がします。でも、もったいなかったですね」
昔はよくチョコとかケーキのような甘いものが大好きだった。
いつしか、甘いものを食べるのが女の子って固定観念を自分に押し付けていた。
食べなくても、他においしいものがあるから大丈夫。
そう思っていたのに、こんなに幸せそうな先輩を見ていたら、今までの自分がちっぽけすぎる。
この人はこの人自身が幸せになるだけでなく、俺のことも幸せにしてくれる。
「俺、先輩と一緒にいれて本当に嬉しいです」
「俺もだよ」


