「違います」
すぐに否定すると、明里は安心したように胸をなで下ろした。
「よかった、ちゃんと否定できて」
「え?」
先輩だけ状況を理解できていない。
そりゃそうだよ、中学生の時の話だから。
「ごめんね、ちょっと意地悪な喋り方だったかも。でも、睦月が嫌そうな顔してくれて安心。ちゃんと表情豊かになったね」
明里はそれだけ言って、深く礼をしてサッと走り出してしまった。
「明里っ、ありがと」
声が届いたかどうかはわからない。
けれど、思いが伝わればいいなと思った。
***
「高校の時、明里と付き合ってたんです。だけど、俺がちゃんと喋らなかったり、ずっと無表情だったから、他の人が誤解して変な噂が流れたんです。俺もどうしたらいいかわからなくて、何もできませんでした。結局、自然消滅したんです」
「ふーん」
先輩は全く興味がなさそうだった。
俺は今、元カノがいることを先輩に明らかにして、隠していた罪悪感に押しつぶされそうだというのに。
先輩は俺のちょっと前を歩いていて、表情が見れない。
怒っているのか、それとも本当に何も感じていないのか全く分からない。
「元カノ、いるの嫌ですか?」
「いや? 俺だって3人いるし」
「え??」
「嘘、ほんとは1人だけ。しかも高校1年生のとき。部活内にいる」
「え、知らないです。部内に先輩の元カノが?!」
「そそそ、だからお互い様ね。別に隠し事の一つや二つは全然おっけーだよ。恋人だからって何でもかんでも言わなきゃいけないわけじゃない」
言葉では安心するのに、やっぱり前を歩く先輩が大丈夫なように見えない。
このまま曖昧な気持ちのままでいるのは嫌だ。
「先輩、言いたいことが他にあれば全部言ってください。俺は何でも受け止めます」
「なにそれ、受けるー。特にないよ。はははー」
重みが全くない言葉。
言葉では笑っているけど、中身は全く笑っていない。
先輩の本音が知りたい。
でも、聞いている限り何も言ってくれないってことは、言いたくないということだろうか。
さっきも先輩が言っていたように、恋人だから何でもかんでも言わなきゃいけないわけではない。
俺も先輩も過去の恋愛のことはずっと隠していた。
だって、それは知られたくなかったから。
黙って俺は先輩についていく。
沈黙の時間がこんなに痛いのは初めてなことのような気がした。
別の話題を探しても盛り上がれる気がしない。
この後も先輩の家で二人きりというのに、ちゃんと楽しめるのだろうか。
先輩はそもそも、俺といるのも辛くなっていないだろうか。
先輩がこんなに黙っているなんて、やっぱり怒っている?
あれ、なんだか、目が……
「……睦月?」
先輩が振り返っているというのに、ピントが合わない。
目の奥が熱い。呼吸がうまくできない。
「どうして泣いてるの?」
その言葉でやっと自分が泣いていることに気が付いた。
一気に目から涙があふれてしまった。
頬を伝う涙に熱が伴って、涙が熱いことを今知った。
「せ、先輩、ごめんなさいぃ」
「えいやいや、どうして謝るの?」
「俺、先輩怒らしちゃったかもって、でも、どうしたらいいか分からなくて……」
「……なんだよもう」
ぼそっとそう呟くと、先輩はすっと俺の手を握る。
そのまま先輩は俺の体を包み込んだ。
「ちょ、今……」
「大丈夫、人いないから」
確かにこの時間帯のこの道は人が少ないから大丈夫だけど……
先輩のほうが身長が低いから、鼻の先に先輩の頭がすぐ近くにある。
小っちゃくて可愛いぃぃ……
「別に、俺怒ってないから! てか、俺は……」
スッと先輩は俺のほっぺに両手を添えて、目を合わしてくれる。
先輩は、拗ねたような少し怒ったような表情だが、その奥にはかわいらしさが見える顔をしている。
「お前が、翔って呼ばれてるし、明里って名前呼んでるし、なんか腹が立ったんだよ!」
へ? それって……
「嫉妬?」
「だぁっぁぁぁぁぁ! ダサいだろ。てかお前だってなに泣いてんだよ!」
「だから、先輩が怒ってるって……」
「元カノの話くらいで怒るか! お前は今俺と付き合ってんだよ!」
先輩は顔を真っ赤にして怒っている。
怒っているから真っ赤なんじゃなくて、恥ずかしさで赤くなっている。
「なんだよっ……ったく。涙拭いたら行くぞっ……」
先輩は、声を発しようとしているが、乾いた息が漏れただけだった。
さらに顔が真っ赤になり「もうどうとでもなれっ」とでも言いたげな怒った顔で大きな声で声を出す。
「翔!!」
ずんずんと先を歩き出す。
名前……
っっっかっっっっっわっっっっっっわぁぁぁぁっぁぁいいいぃぃぃぃぃぃ……
先輩って、照れるんだぁぁっぁぁらぁぁぁっぁ!!!!!
お泊りの時だって、なんか余裕あって、ちょっとエスな先輩って感じして、それも興奮したけど、やっぱりかわいいいいいところもあるんだ!!
可愛すぎる、抱きしめたい、家帰ったら思いっきり抱き着きたい!
「ひろくん、可愛いですね」
「うっせー、ったく、家帰ったら楽しみにしとけよ」
「え?」
「俺がこんなに恥ずかしい思いをするなんて思ってもいなかった。お前にも何倍も照れてもらうからな」
「え?」
「楽しみだなぁ、今夜は寝かせねーからな」
そのセリフを真っ赤な顔で言ってるの超推せる……
すぐに否定すると、明里は安心したように胸をなで下ろした。
「よかった、ちゃんと否定できて」
「え?」
先輩だけ状況を理解できていない。
そりゃそうだよ、中学生の時の話だから。
「ごめんね、ちょっと意地悪な喋り方だったかも。でも、睦月が嫌そうな顔してくれて安心。ちゃんと表情豊かになったね」
明里はそれだけ言って、深く礼をしてサッと走り出してしまった。
「明里っ、ありがと」
声が届いたかどうかはわからない。
けれど、思いが伝わればいいなと思った。
***
「高校の時、明里と付き合ってたんです。だけど、俺がちゃんと喋らなかったり、ずっと無表情だったから、他の人が誤解して変な噂が流れたんです。俺もどうしたらいいかわからなくて、何もできませんでした。結局、自然消滅したんです」
「ふーん」
先輩は全く興味がなさそうだった。
俺は今、元カノがいることを先輩に明らかにして、隠していた罪悪感に押しつぶされそうだというのに。
先輩は俺のちょっと前を歩いていて、表情が見れない。
怒っているのか、それとも本当に何も感じていないのか全く分からない。
「元カノ、いるの嫌ですか?」
「いや? 俺だって3人いるし」
「え??」
「嘘、ほんとは1人だけ。しかも高校1年生のとき。部活内にいる」
「え、知らないです。部内に先輩の元カノが?!」
「そそそ、だからお互い様ね。別に隠し事の一つや二つは全然おっけーだよ。恋人だからって何でもかんでも言わなきゃいけないわけじゃない」
言葉では安心するのに、やっぱり前を歩く先輩が大丈夫なように見えない。
このまま曖昧な気持ちのままでいるのは嫌だ。
「先輩、言いたいことが他にあれば全部言ってください。俺は何でも受け止めます」
「なにそれ、受けるー。特にないよ。はははー」
重みが全くない言葉。
言葉では笑っているけど、中身は全く笑っていない。
先輩の本音が知りたい。
でも、聞いている限り何も言ってくれないってことは、言いたくないということだろうか。
さっきも先輩が言っていたように、恋人だから何でもかんでも言わなきゃいけないわけではない。
俺も先輩も過去の恋愛のことはずっと隠していた。
だって、それは知られたくなかったから。
黙って俺は先輩についていく。
沈黙の時間がこんなに痛いのは初めてなことのような気がした。
別の話題を探しても盛り上がれる気がしない。
この後も先輩の家で二人きりというのに、ちゃんと楽しめるのだろうか。
先輩はそもそも、俺といるのも辛くなっていないだろうか。
先輩がこんなに黙っているなんて、やっぱり怒っている?
あれ、なんだか、目が……
「……睦月?」
先輩が振り返っているというのに、ピントが合わない。
目の奥が熱い。呼吸がうまくできない。
「どうして泣いてるの?」
その言葉でやっと自分が泣いていることに気が付いた。
一気に目から涙があふれてしまった。
頬を伝う涙に熱が伴って、涙が熱いことを今知った。
「せ、先輩、ごめんなさいぃ」
「えいやいや、どうして謝るの?」
「俺、先輩怒らしちゃったかもって、でも、どうしたらいいか分からなくて……」
「……なんだよもう」
ぼそっとそう呟くと、先輩はすっと俺の手を握る。
そのまま先輩は俺の体を包み込んだ。
「ちょ、今……」
「大丈夫、人いないから」
確かにこの時間帯のこの道は人が少ないから大丈夫だけど……
先輩のほうが身長が低いから、鼻の先に先輩の頭がすぐ近くにある。
小っちゃくて可愛いぃぃ……
「別に、俺怒ってないから! てか、俺は……」
スッと先輩は俺のほっぺに両手を添えて、目を合わしてくれる。
先輩は、拗ねたような少し怒ったような表情だが、その奥にはかわいらしさが見える顔をしている。
「お前が、翔って呼ばれてるし、明里って名前呼んでるし、なんか腹が立ったんだよ!」
へ? それって……
「嫉妬?」
「だぁっぁぁぁぁぁ! ダサいだろ。てかお前だってなに泣いてんだよ!」
「だから、先輩が怒ってるって……」
「元カノの話くらいで怒るか! お前は今俺と付き合ってんだよ!」
先輩は顔を真っ赤にして怒っている。
怒っているから真っ赤なんじゃなくて、恥ずかしさで赤くなっている。
「なんだよっ……ったく。涙拭いたら行くぞっ……」
先輩は、声を発しようとしているが、乾いた息が漏れただけだった。
さらに顔が真っ赤になり「もうどうとでもなれっ」とでも言いたげな怒った顔で大きな声で声を出す。
「翔!!」
ずんずんと先を歩き出す。
名前……
っっっかっっっっっわっっっっっっわぁぁぁぁっぁぁいいいぃぃぃぃぃぃ……
先輩って、照れるんだぁぁっぁぁらぁぁぁっぁ!!!!!
お泊りの時だって、なんか余裕あって、ちょっとエスな先輩って感じして、それも興奮したけど、やっぱりかわいいいいいところもあるんだ!!
可愛すぎる、抱きしめたい、家帰ったら思いっきり抱き着きたい!
「ひろくん、可愛いですね」
「うっせー、ったく、家帰ったら楽しみにしとけよ」
「え?」
「俺がこんなに恥ずかしい思いをするなんて思ってもいなかった。お前にも何倍も照れてもらうからな」
「え?」
「楽しみだなぁ、今夜は寝かせねーからな」
そのセリフを真っ赤な顔で言ってるの超推せる……


