照れた君を見せてほしい

 帰り道、風が冷たくてとても寒い。
 あたりはもう真っ暗で電灯がなければ先輩の顔がよく見えない。

 先輩は肩を上げてマフラーに顔を埋めようとしている。

 すっと視線を先輩の手に下ろす。

 手、繋ぎたい。

 驚くほどスムーズに手を出して、そのままゆっくり力を込めて握った。
 
 先輩は何も言わずに握り返してくれる、

 冷たい手だなー。

 俺より手が小さくて華奢な指。
 かわいいなぁ。

「恋人っぽい」

 ぼそっとつぶやくと、先輩は足を止めてしまう。

 ここには電灯がなくて先輩の顔がよく見えない。

「先輩?」

「……恋人だろーが」

 少しだけ荒れた口調。

 ちょっと照れながら言っているのだろうか。

「あ、そうでした」

「……」

 絶対に照れている。

 興味本位で先輩の顔を覗き込む。

 先輩のほうが身長低いから、すこしかがめばすぐに先輩の顔を覗き込める。

 目が合うと、明らかに動揺している。

 俺がまっすぐに先輩の目を見ても、先輩は恥ずかしいのか目を合わせずにきょろきょろと狭い視界の中を動き続ける。

「目、見てください」

「あーのーなぁ……」

 バチっと目が合う。

 暗くてもよく見えた。

 恥ずかしいのに、どこか欲求不満にも見える目。

 なぜだかとてもエロく見えた。

 次の瞬間、俺は先輩にキスをしていた。

 そのときになって先輩と目が合った。

 今にも解けそうで、どこか満ち足りた目。

 かわいい……

「やっぱり今日俺が先輩抱きたいです」

「勝手にしろよ」


***


「だーかーら、どうして翔は俺の裸見ただけでそうなっちゃうの?」

「すみませんすみませんすみません。やっぱり先輩の体直視できないです。やっぱり無理でした」

 情けない……

 先輩が服脱いだ瞬間、体が凍ったみたいに動かなくなって、頭も真っ白になって、結局何もできない。

 今だって、先輩が服着てくれないから壁を見て体育座りをしている。

 油断したら鼻血が出そう。

「やっぱり、恥ずかしいです……」

「んー、見るのが恥ずかしいの?」

「はい」

「じゃあ見なくていいよ」

「は?」

 後ろから先輩の足音が聞こえる。

 振り向かずに止まっていると、突然視界が黒に染まる。

 え? なんで? これって……

「ネクタイ?」

「うん、目を隠すから俺にゆだねな。見たくなったら外せばいいし」

「ちょ、ちょっと待ってください、それはさすがにぃ……ん」

 先輩がキスをしてくれた。

 視界がふさがってていつ来るか分からない。

「先輩さすがにこれはダメでぇ……んん」

 全然やめてくれない。

 何度も愛を確かめるように唇が押し付けられる。

 気持ちいいのに、なにも見えなくてかなり怖い。

 目の前には先輩がいるはずなのに、ちゃんと先輩なのか分からない。

 怖い……

 そのとき、すっとネクタイが緩んだ。

 急に光が入ってきて、先輩の顔のピントが合わない。

 徐々に焦点が合う。

 先輩は穏やかに笑っている。

「裸見るの恥ずかしいし、ネクタイも怖いなら、翔の視界を全部俺の顔にすればいい?」

 何その提案……

 これいうのかなり恥ずかしいと思うのに、全然照れてないの不思議すぎる。

 目の前に先輩の顔って、こっちもなかなか恥ずかしいけれど、でも裸よりかは。

「大丈夫、です」

「そっか。いつか、見えるようになってね。今日はなんだか我慢できないから譲歩はここまでね」

「な、なんですかそのセリフ。先輩よく恥ずかしがらずに言えますね」

「え? 脳のリミッター外れたかも」

「いつもの先輩じゃない」

「翔だって、いつもの無表情じゃない」

 あ、たしかに。

 俺、先輩といるときは表情金が動いてる気がする。

「俺の前は、もっと照れていいんだよ」

「かなり限界まで来てます」

 先輩はしししっと笑って見せる。

 なんだか悔しくて、今度は自分から先輩にキスをする。

「先輩もリミッターとかいいんで、照れてください」

「なんだよそのセリフ」

 顔は真っ赤だけれど、先輩の口調はちょっと荒い。

 最初はかわいくて小っちゃくて守りたいと思わせてくれる先輩。

 それでも先輩にはいろんな一面がある。

 余裕があってリードするときもあるのに、名前を呼ぶのに照れてしまったり。

 こんなに多くの先輩を見せてくれて嬉しいな。

 きっと先輩も同じことを考えている。

 無表情の睦月翔というイメージ像を、完全に破壊した。

 先輩の前なら、これからも照れて見せますよ。

 だから、先輩ももっと照れてください。