家族……。
まさか、鈴の口からそんな温かな言葉を聞く日が来るなんて。
思いもしなかった一言が、張り詰めていた心の糸を、静かに解いていくのを感じていた。
こんな夜に。こんな、息をするだけでも胸が痛むような時に。
それでも、その言葉だけは、ひどく優しく聞こえてしまった。
「鈴……ありがとう。すぐに戻るから!」
縋るような思いで、仏壇のある奥の間へ走る。
心臓の鼓動が耳元でうるさく打ち鳴らされ、何度も畳に足を取られそうになりながら、ようやく仏壇の前へと滑り込んだ。
膝をつく暇も惜しい。けれど、自然と手は仏壇へ伸びていた。
「あれ……?位牌が……」
いつも、そこにあるはずの黒檀の位牌が、忽然と消えている。
今朝だって、私は確かに水をお供えし、香を焚いて手を合わせたはずだ。
一体、どうして。
仏壇の引き出しを掻き乱し、傍らの箪笥を片端から開く。
けれど、指先に触れるのは冷たい木肌と、畳まれた布の感触ばかりで、母の位牌は見当たらない。
「なんで……っ!?ない、どこにもない……っ!」
永太や琴が悪戯をした?
いえ、それだけはあり得ない。
二人は私を真似するように、今朝も一緒に手を合わせてくれた。
意味は理解できずとも、それが私にとって何より大切なものだということくらい、幼いながらにもあの子たちは解ってくれている。
一刻も早く逃げなければならないのに、焦燥で指先が凍りついたように動かない。
息ばかりが荒くなって、喉の奥がひゅうひゅうと鳴る。
外では、誰かの叫び声がまた一つ増えた。
「お母さん、ごめんなさいっ……!」
まさか、鈴の口からそんな温かな言葉を聞く日が来るなんて。
思いもしなかった一言が、張り詰めていた心の糸を、静かに解いていくのを感じていた。
こんな夜に。こんな、息をするだけでも胸が痛むような時に。
それでも、その言葉だけは、ひどく優しく聞こえてしまった。
「鈴……ありがとう。すぐに戻るから!」
縋るような思いで、仏壇のある奥の間へ走る。
心臓の鼓動が耳元でうるさく打ち鳴らされ、何度も畳に足を取られそうになりながら、ようやく仏壇の前へと滑り込んだ。
膝をつく暇も惜しい。けれど、自然と手は仏壇へ伸びていた。
「あれ……?位牌が……」
いつも、そこにあるはずの黒檀の位牌が、忽然と消えている。
今朝だって、私は確かに水をお供えし、香を焚いて手を合わせたはずだ。
一体、どうして。
仏壇の引き出しを掻き乱し、傍らの箪笥を片端から開く。
けれど、指先に触れるのは冷たい木肌と、畳まれた布の感触ばかりで、母の位牌は見当たらない。
「なんで……っ!?ない、どこにもない……っ!」
永太や琴が悪戯をした?
いえ、それだけはあり得ない。
二人は私を真似するように、今朝も一緒に手を合わせてくれた。
意味は理解できずとも、それが私にとって何より大切なものだということくらい、幼いながらにもあの子たちは解ってくれている。
一刻も早く逃げなければならないのに、焦燥で指先が凍りついたように動かない。
息ばかりが荒くなって、喉の奥がひゅうひゅうと鳴る。
外では、誰かの叫び声がまた一つ増えた。
「お母さん、ごめんなさいっ……!」



