鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

鬼……。
人を喰らうという、恐ろしい化け物。
古めかしいお伽話の中では、聞いたことがある。
悪い子をさらうもの。山の奥に棲むもの。人の世に降りてくるはずのないもの。
けれど、まさかそんな。
夢か幻でも見ているのでは……。

しかし、あんなに血相を変えた新八さんが、そんな悪趣味な冗談を言うはずがない。

震えが止まらない手をぎゅっと握りしめ、外へ踏み出す。
裸足に近い足裏から、土間の冷たさが這い上がってきた。
遠くから、夜を裂くような怒号と、逃げ惑う人々の足音が響き始めている。

山の向こう。
隣の集落があるはずの空が、おぞましいほど赤々と染まっていた。
あれは、燃えているのだ。
村が、炎に呑まれている。

喉が、砂を噛んだようにカラカラに乾いていく。
膝から下が、自分のものではないように頼りない。
けれど、立ち止まっている暇などない。
早く、逃げなければ。

「父さん!!継母さん!!!起きて!!すぐに逃げないと!!」
「あぁ……?なんだ、騒々しい……」
「鬼が現れたの!!すぐに、すぐに逃げないと……!」
「はあ?ついに頭までおかしくなったのか、お前は!」

寝ぼけ眼の父と継母を必死に叩き起こすが、返ってくるのは起き抜けにも関わらず罵声だけ。
今この時でさえ、私の言葉はまともに受け取ってもらえない。
悔しさより先に、焦りが喉を塞いだ。
けれど、二人の助けがなければ、永太と琴を連れて逃げ切ることなど、私一人では難しいかもしれない。

「とにかく!鈴も起こしてくるから!!」

外の騒ぎは刻一刻と大きくなっていく。
幾十もの駆ける足音、荷車の軋む音、悲鳴のような呼びかけが、薄い壁を通り越して部屋中に満ちていく。
もう、耳を塞いで眠っていられる夜ではなかった。

「鈴!起きて!!すぐに支度を……!」
「……もう……何よ、うるさいわね……」
「起きて、お願い!もう皆逃げ始めているの!!早く……っ」
「もう!嘘だったら承知しないわよ!」
「それで構わないから!だから起きて!!」