鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

朔夜の声に、耳を澄ませた。
戦闘終了後の喧騒に混じって、どこからか聞き慣れた、懐かしい声が響く。

「……おねえちゃ……っ!」

とたとたと、可愛らしい足音が畳を叩く。
時折自分の足に躓きそうになりながら、一直線にこちらへ向かってくる小さな二つの影。

「おねーーちゃーーーん!!」
「っ……あ……!」

その姿を目にしただけで、視界は瞬時に熱いもので滲む。
駆け寄らずにはいられないのに、溢れる涙のせいで足元が覚束ない。
私も転がるようにして二人を迎え入れた。

「永太っ!!琴!!」
「うぁぁあああん!!おねえちゃーーん!!」
「おね、おねえちゃ……っ、あぁぁああ!!」

小さな二人が、全力で私の胸の中に飛び込んでくる。
もう二度と、その肌に触れることはできないかもしれないと、何度も諦めそうになった。
けれど今、私の腕の中には、確かに二人の温もりと、生きた重みが存在している。

細い腕が、私の背中に必死にしがみつく。
小さな頬が、私の胸元に押しつけられる。
その全部が、夢ではないのだと教えてくれた。

「よかったっ……本当に、無事で……!」
「う、うえぇぇん!」
「元気な顔、お姉ちゃんに見せてくれる……?」

二人の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を、私は着物の袖を汚すのも厭わず拭う。
心なしか、少し痩せたかもしれない。
頬も、以前よりこけて見える。
それでも、しっかりと自分の足で走り、枯れんばかりの大きな声で泣いている。

それだけで、今は十分だった。

「……この前のことがあったからな。俺が直々に二人の所在を確認しに向かったんだ」
「そうだったんですね……!ありがとうございます、本当に、何とお礼を言えばいいのか——」
「よかったぁ!!これで全部解決じゃない!!」

朔夜へ感謝を告げようとした私の言葉は、後ろから響いた鈴の声にかき消された。
彼女は、再会した弟妹を抱きしめるでもなく、その無事を喜ぶ風でもない。
ただただ、浅ましい期待に目を輝かせ、朔夜へと擦り寄った。

「朔夜様!さすがだわ!これで私たちの今後の面倒も、見ていただけるんですよね!」
「鈴!?何を……」
「え?だって、この前おっしゃったじゃない。『責任を持って援助する』って!」

ああ——。
胸の奥で、何かが静かに砕け散る音がした。

「そうと決まったら、すぐに父さんと母さんも呼ばなくちゃ!きっと喜ぶわ」
「別宅も建ててもらえるんでしょう?私、洋風のお部屋がいいわ。一度でいいから、ベッドとやらに寝てみたかったのよ!」

永太と琴には一瞥もくれず、鈴は物語の絵空事を語るようなうつろな口調で、自分の欲望を並べ立てていく。

琴が怯えたように私の袖を握った。
永太はしゃくりあげながらも、鈴の方を見て唇を引き結んでいる。
その小さな反応だけで、二人がこれまでどれほど怖い思いをしてきたのか、嫌というほど伝わってきた。

「鈴。……今は、その話をする時じゃない」
「は?何よ、さっきからずっと偉そうに。助かったんだからいいじゃない」
「よくない」

自分でも驚くほど、静かな声だった。

「永太と琴が無事だった。それだけは、本当によかった。けれど、あなたは二人を使って私を脅した。見つけていないと分かっていたのに、居場所を知っているような嘘をついた」
「だ、だって、それは……」
「それに、今もこの子たちの顔を見ようともしない」

鈴の顔が、見る見るうちに引きつっていく。
怒りなのか、怯えなのか、私には分からない。
けれど、もう目を逸らすことはできなかった。

二人を抱きしめる腕に、力を込める。

「……私は、もうあなたたちの言葉に従わない。永太と琴も、渡さない」

ようやく言えた。
ずっと言えなかった言葉。

朔夜が静かに私の隣へ立つ。
何も言わないけれど、その存在だけで、足元に力が戻ってくる気がした。

「え?どうしてよ、姉さん。独り占めはよくないわよ?」
「私たちは……もう、家族とは言えない。鈴もわかっているでしょう」

静かに、けれどはっきりと拒絶の言葉を放つ。

あの鬼に襲われた夜。
血が繋がっていながらも、私の心を、母の想いを。
そして幼い弟妹の安全さえも踏みにじった彼女たちは、もう私の家族ではなくなってしまったのだ。

「またそんなこと言って!母親が違うからって、そんなの今更じゃない」

なんて滑稽なのだろう。
母親が違うとはいえ、半分は同じ血が流れているというのに。
赤の他人よりも、今の私と彼女は、気が遠くなるほど離れた場所にいる。

「……違うわ。私はもう、父さんも継母さんも、そして鈴。あなたを家族として見ることはできない」

一滴の血も繋がっていない朔夜は、私に「家族になろう」と言ってくれた。
そして今も、こうして傷ついた私に寄り添い、静かに支えてくれている。

どちらが心の底から私を想っているのか。
答えは、もう出ていた。

「都合のいい家族ごっこは、もう終わり。父さんたちにも、そう伝えてくれて構わないから」
「何それ!?永太と琴だけここに置いて、よい思いをさせるってこと!?そんなのズルいじゃない!!」