鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

西園寺さんの対応を使用人に任せ、鈴が案内されたという自分の部屋へ急ぐ。
胸を突く嫌な予感を振り払うように障子を開けると、私はその惨状に愕然とし、その場に立ち尽くした。

「鈴、何をしているの……っ!?」

部屋の中は、嵐が過ぎ去った後のようだった。
つい今しがたまで、私が丁寧に畳んでいた着物の数々が、無残に広げられ、床一面に散らばっている。
帯は乱暴に引き出され、袖は踏まれ、薄紙に包んでいたはずの小物まで投げ出されていた。

「あ、姉さん。待たせるなんて酷いじゃない。これ、全部姉さんのなの?こんなにあるんだから、私に少しぐらい分けてくれたっていいじゃない」

鈴は悪びれる様子もなく、私の私物を物色していた。
その手つきは遠慮の欠片もなく、店先の商品を品定めしているかのよう。

「何を言っているの!?それは、朔夜が……」
「へー。あの方、朔夜、様って言うのね」

鈴は一度も袖を通していない訪問着を勝手に羽織ると、今度は鏡台の上に並べていた簪まで弄び始めた。
繊細な飾りの先が、彼女の指の間で危うく揺れる。

「見てわからない?私なんて、あの集落から逃げ出したあの日から、一度だって着替えられていないのよ。姉さんだけこんな贅沢、不公平じゃない?」
「その着物を返しなさい。……簪も、触らないで」
「はぁ!?」

私は奪い取るようにして、鏡台の簪や櫛をすべて引き出しに仕舞い込む。
どれも朔夜が、私のためにと買ってくれた大切な品。
ほとんど一度も使えていないものばかりだけど、自分以外の誰かに触れられたくない。
ましてや、奪うつもりで手を伸ばしてくる相手になど。

「……本当、男ってなんで姉さんみたいな女ばかり選ぶのかしら」
「何が言いたいの」
「鬼狩りの番ですっけ?笑わせないで。もしあの日、集落に取り残されたのが私だったら——」

鈴は毛先をくるくると弄びながら、笑みを浮かべて言葉を繋ぐ。

「今ここに座って、贅沢三昧していたのは私だったんじゃない?運がよかっただけじゃないの、姉さんは」

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

あの絶望的な夜、置いていかれたのは私だ。
もしあの時、朔夜に助けてもらわなかったら、ここにいるどころか、私はとっくに鬼に殺されていた。
それを、運がよかっただけだなんて。

胸の奥で、冷たいものがゆっくりと形を変えていく。

「だからね、今からでも私がその番とやらになってあげてもいいと思っているの」
「……そんな馬鹿なことを言うために、わざわざここへ来たの?」
「やだ、姉さん怒ったの?怖い顔」

私を逆なでするように、鈴はくすくすと喉を鳴らして笑う。
彼女のこういう身勝手な振る舞いは、以前からずっとそう。
今までは家族だからと、ただ静かに流せていたはずなのに。

今は、できない。
朔夜が与えてくれたものまで、黙って踏みにじられるのは嫌だった。

「もちろん、そんな話だけで終わるわけないじゃない」
「……じゃあ、何?」
「永太と琴に、会いたいと思わない?」
「……え?」

鈴の口から出るとは思っていなかった名前に、心臓が跳ねた。

「どういうこと……?二人が見つかったの?無事なの!?」
「さあ、どうだと思う?」
「誤魔化さないで!どこにいるのか教えなさい!!」

二人が生きているなら、父や継母、そして鈴に任せておくなんて到底できない。
今すぐにでも駆けつけて、この腕で抱きしめてあげたかった。

琴は泣いていないだろうか。
永太は、無理に強がっていないだろうか。
あの日からずっと抱えていた不安が、喉元までせり上がってくる。

「だからぁ、それは姉さんの態度次第だって言ってるのよ」
「どういう意味?」
「も~。察しが悪いわねぇ。朔夜様と、永太と琴……姉さんはどっちを選ぶの?って聞いてるの」
「選ぶ、ですって……?」
「そう!朔夜様の番の座を私に譲ってくれるなら、二人を返してあげてもいいわよ。でも……」

嘘よ、やめて。
幼い二人を、あんなに私に懐いていた子たちを、そんな取引の道具にしないで。
胸の奥で叫んでいるのに、声にならない。
指先が冷えて、感覚が遠のいていく。

「譲ってくれないなら、一生二人に会わせない。姉さんに捨てられたって言い聞かせてやるわ」
「……父さんも、母さんも、鈴と同じ考えなの?」
「当たり前じゃない、家族なんですもの!」