鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

「お、お待たせ……しました」

緊張のあまり、声が上ずってしまう。
この人の目に、着飾った私は、一体どんな風に映っているのだろう。
聞くのが怖くて、どうしても目線を上げることができない。

しばらく、何の声も返ってこなかった。
沈黙が長くなるほど、胸の奥で不安が膨らんでいく。
やっぱり似合わなかったのだろうか。
分不相応だと、思われているのだろうか。

ふわりと、耳元に大きな手が伸ばされる。
指先が優しく髪を掬い上げ、乱れた一筋を耳にかけられた。
触れるか触れないかの、その慎重な仕草に、息が止まりそうになる。

「——よく似合っている」

至近距離で囁かれたその声音と、慈しむような仕草。
心臓が激しく跳ね、顔に血が上るのが分かった。
たまらず、片腕で顔を覆って俯いた。

「そんな、こと……っ」
「事実を言っただけだ」
「……事実なわけが」
「何がだ」
「何でもありません……」

私の動揺など、あるいは自分の言動すら、何でもないことのように彼は小さく息を吐く。
けれど、その耳の先がほんのり赤いことに気づいてしまい、私の鼓動はますます落ち着かなくなる。

「昼もだいぶ過ぎたな。何か食べよう」

そう言って、朔夜は先に歩き出す。
私はその後ろ姿を、付いて歩く。

朔夜は、鬼を屠る冷徹な男とは思えないほど、整った顔立ちをしている。
身に纏う服も隙がなく、背が高く、凛とした立ち姿。
歩くだけで人目を引く。

……なるほど。
彼という存在を基準にするならば、あの候補生の子たちが「お前は相応しくない」と断じた気持ちも、少しだけ分かってしまう自分がいた。

けれど、朔夜が選んだ言葉は「似合っている」だった。
その一言だけは、誰にも取り上げられたくない。

「蕎麦は好きか?」
「蕎麦、ですか?」
「ここの店は天ぷらが美味い。もし好き嫌いがないのなら——」
「天ぷら!?そんな……かき揚げくらいしか食べたことがなくて……」
「なら決まりだ。行くぞ」

迷いのない声に、思わず笑ってしまう。
つい先ほどまで、何を言われるかと怖がっていたのが嘘みたいに。

「はい。楽しみです」

そう答えると、朔夜はわずかに歩調を緩めた。
私が隣に追いつくのを、待ってくれているのだと気づき、紅の袖の中で、そっと指先を握りしめた。