「あの……。睦月隊長の、番様でしょうか?」
「はい……、そうですが」
声を掛けられ振り返ると、そこには見覚えのある装束を纏った少女が立っていた。
番候補の証である、鮮やかな朱色の衣装。
私よりも四、五歳は年下だろうか。
幼さの残る少女は、祈るように両手をぎゅっと握りしめている。
「ええと……、睦月隊長に、こちらへお呼びするようにと頼まれまして……」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「……どうぞ、こちらです」
言われるがまま、私は彼女の後を付いて歩き出した。
隊長の番というのは、これほどまでに若い子を緊張させる相手なのだろうか。
前を歩く彼女の細い肩は強張っている。
歩幅もどこかぎこちなく、その横顔は焦燥か、何かに怯えているようにも見えた。
「大丈夫ですか?」
「え……」
「顔色が、あまりよくないように見えたので」
「……っ」
少女は一瞬だけ唇を噛んだ。
けれど、すぐに作り笑いのようなものを浮かべ、視線を伏せる。
「……こちらのお部屋です」
案内された部屋の扉が、ガラッと重い音を立てて開かれる。
「……っ、ごめんなさいっ!」
「え?」
謝罪の言葉に耳を疑い、振り返ろうとしたその時、背後から無数の手が伸びるのが見え、抗う間もなく暗い部屋の中へと乱暴に押し込められる。
「っつ……!痛っ……」
無防備に前から倒れ込み、掌を擦りむく。
ジンジンと痛む膝を摩りながら、必死に体を起こして視線を上げる。
明かり一つ点いていない、澱んだ空気の漂う薄暗い一室。
扉の外から、慌ただしく人の気配が遠ざかっていく。
窓際に立つその人物は、逆光に照らされて表情を読み取ることができない。
「睦月様の隣に立つ覚悟もなく、こんな場所まで無防備に足を踏み入れるなんて」
けれど、その高く凛とした、冷え切った声音には聞き覚えがあった。
「警戒心の欠片もない。睦月様の番として、やはりあなたは相応しくない」
「あなたは……確か、西園寺さん、でしたよね?」
払うように膝を叩きながら、ゆっくりと立ち上がる。
擦りむいた掌が、じくじくと痛む。
けれど、その痛みのおかげで、逆に頭は少し冷えた。
一方的に見下されたままでは、何もかもを奪われてしまう。
そんな本能的な危機感が、私の背筋を正させた。
努めて冷静を装い、震える声を抑えながら言葉を選ぶ。
「……それを言いたいだけなら、もう戻ってもいいですか」
「いいえ。用件はまだ終わっていないわ」
「はい……、そうですが」
声を掛けられ振り返ると、そこには見覚えのある装束を纏った少女が立っていた。
番候補の証である、鮮やかな朱色の衣装。
私よりも四、五歳は年下だろうか。
幼さの残る少女は、祈るように両手をぎゅっと握りしめている。
「ええと……、睦月隊長に、こちらへお呼びするようにと頼まれまして……」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「……どうぞ、こちらです」
言われるがまま、私は彼女の後を付いて歩き出した。
隊長の番というのは、これほどまでに若い子を緊張させる相手なのだろうか。
前を歩く彼女の細い肩は強張っている。
歩幅もどこかぎこちなく、その横顔は焦燥か、何かに怯えているようにも見えた。
「大丈夫ですか?」
「え……」
「顔色が、あまりよくないように見えたので」
「……っ」
少女は一瞬だけ唇を噛んだ。
けれど、すぐに作り笑いのようなものを浮かべ、視線を伏せる。
「……こちらのお部屋です」
案内された部屋の扉が、ガラッと重い音を立てて開かれる。
「……っ、ごめんなさいっ!」
「え?」
謝罪の言葉に耳を疑い、振り返ろうとしたその時、背後から無数の手が伸びるのが見え、抗う間もなく暗い部屋の中へと乱暴に押し込められる。
「っつ……!痛っ……」
無防備に前から倒れ込み、掌を擦りむく。
ジンジンと痛む膝を摩りながら、必死に体を起こして視線を上げる。
明かり一つ点いていない、澱んだ空気の漂う薄暗い一室。
扉の外から、慌ただしく人の気配が遠ざかっていく。
窓際に立つその人物は、逆光に照らされて表情を読み取ることができない。
「睦月様の隣に立つ覚悟もなく、こんな場所まで無防備に足を踏み入れるなんて」
けれど、その高く凛とした、冷え切った声音には聞き覚えがあった。
「警戒心の欠片もない。睦月様の番として、やはりあなたは相応しくない」
「あなたは……確か、西園寺さん、でしたよね?」
払うように膝を叩きながら、ゆっくりと立ち上がる。
擦りむいた掌が、じくじくと痛む。
けれど、その痛みのおかげで、逆に頭は少し冷えた。
一方的に見下されたままでは、何もかもを奪われてしまう。
そんな本能的な危機感が、私の背筋を正させた。
努めて冷静を装い、震える声を抑えながら言葉を選ぶ。
「……それを言いたいだけなら、もう戻ってもいいですか」
「いいえ。用件はまだ終わっていないわ」



