鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

来た時と同じ車へと乗り込む。

朔夜と並んで腰を下ろすと、軋む音とともに、車がゆっくりと動き出した。
村を囲っていた結界のしめ縄はすでに解かれており、窓の外に広がる朝の光の中には、焼け焦げた無惨な家並みだけが取り残されていた。

現実を切り離すように、そっと目を伏せる。

鬼は、人を喰らう。
そして鬼を増やし、戦力を増強するために、人を襲う。
それなのに——あの日、彼らは同胞を救い出すために、明確な意志を持って援軍まで寄越した。

あの戦場で見せつけられた、鬼たちの絆という名の歪な執着。
その光景を思い出すたび、鉛のような冷たさが胸の底に沈んでいく。

「……余計なことを考え込むな」
「えっ」
「すべて顔に出ている。眉間に皺が寄っているぞ」
「……そんなに、ですか?」

朔夜は答えず、流れていく車窓の外へと視線を向けたままだった。
けれど、その重苦しい沈黙は、私のためを思っての、彼なりの不器用な忠告のようにも思えた。

「朔夜は……」
「なんだ」
「鬼が、仲間を助けに来たこと……驚かなかったんですか?」

問いかけると、少しだけ呼吸を止めるような間があった。

「度々あったし、鬼にも群れはある。……そして、奴らなりの知性も倫理もある。そこまでは判明している」
「そうなんですね……」
「奴らは、ただの獣ではない。そう見誤った者から死ぬ」

低く落とされた声は、それ以上は聞くな、という明確な拒絶に聞こえた。

けれど私は、彼の端正な横顔に刻まれた、微かな翳りを見てしまった。
驚かなかったのではない。
驚くことを、遠い昔にやめてしまっている。
そんな、感情を削ぎ落とした顔。

車は険しい山道を下っていく。
車輪が石を踏むたびに、車体が小さく跳ねる。
規則的な揺れに身を任せているうちに、昨夜からの極限の疲労が、どろりとした眠りとなって瞼へ落ちてきた。

眠ってはいけないと思うのに、身体はもう限界だった。
ふと意識が浮上したとき、自分の肩が、こつりと隣に座る朔夜の肩にもたれていることに気が付く。

「……っ、すみません」
「……構わん」
「でも……」
「離れろとは言っていない。……寝ていろ」

朔夜はそれ以上、何も言わない。
ただ、押し戻すこともしない。

車内は静かだった。
他の者たちも疲れ切っているのか、低い車輪の音だけが、ゆっくりと耳に残る。
私は迷いながらも、もう一度そっと彼の肩へ身を預けた。

昨夜とは少しだけ違う。
けれど、そこには同じ体温があった。
確かに戻ってきた人の温もりだった。

結局、私は彼の体温を頼りに、半ば微睡むようにして屋敷までの道中を過ごした。