鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

いつの間にか、彼は私の隣に座っていた。
不意に、ぐいっと強い力で肩を引き寄せられる。
数多の鬼を狩ってきた、刀を振るう腕。
その腕が、今は壊れ物を扱うように私を抱き寄せていた。

予想だにしなかった彼の温もりに、心臓が止まるかと思った。
けれど、この腕を手放すことはできない。
どうしようもなく、その熱に縋りついてしまいそうになる。

「だから……その……。これ以上、泣くな」

言い慣れていない慰めを、無理やり口にしたような声。
命令の形をしているのに、少しも冷たくない。
むしろ、どうすればいいのかわからず、困り果てているように聞こえた。

涙はまだ、溢れて止まらない。
けれど、この人の仄かに香る匂いに包まれると、心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
血と鉄の匂いではなく、かすかな沈香の残り香。

「っ……、……はい」

強くて、冷徹で、無表情で。
何を考えているか分からない、ひどく不器用な人。
出会ったばかりの私は、彼のことをそんな風に見ていた。

けれど、肩に感じる掌の熱は、そのどれとも違って、あまりにも切実で優しい。
私を守ると告げた時の声も。
必ず見つけ出すと言った今の言葉も。
どちらも不器用で、乱暴で、けれど嘘がない。

それが余計に、堪えていた感情を崩壊させる。

出会って、まだ数日。
交わした言葉も、それほど多くはない。
それなのに、私はこの力強い腕に、みっともないほど縋り付いて泣き続けた。

静かな部屋で、二人の鼓動だけが、重なり合うように響いていた。
まるで、誰にも見られず、ただ互いの呼吸だけを確かめているように。
その夜だけは、私は泣くことを、許された気がした。