鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

短く、冷徹な一言。
振り下ろされた刃から、眩い閃光が扇状に迸る。
視界を真っ白に焼き尽くすほどの輝き。
次いで、重なり合う絶望的な断末魔が山々に反響した。

風に煽られ、雷に焼かれた鬼たちが、まとめて地面へと叩き落とされる。
地を揺らす重い音が連なり、黒い血と土煙が一斉に跳ね上がった。

文字通り、一網打尽。
あとに残されたのは、鼻を突く焦げたような匂いと、黒い肉片の残骸だけ。

しん、と。
戦場の喧騒が、ほんの一瞬だけ、真空に包まれたかのように消え去った。
あまりの光景に、誰も声を発せない。
たった一人の男が現れただけで、死の気配に呑まれかけていた場の流れが、完全に変わっていた。

「負傷者を後方に下げろ!番は直ちに持ち場へ戻れ!」
「結界の外縁を再確認しろ、残党を一体たりとも逃がすな!」
「八番隊、破られた箇所の補修に回れ!」

我に返った隊士たちが、一斉に、怒涛の勢いで動き始める。
恐怖と安堵で今にも折れそうになる膝を必死にこらえながら、私はただ呆然と朔夜の背中を見つめていた。

朔夜は振り返らない。
呼吸ひとつ乱していないように見えるが、その背中からは、近づくことすら躊躇われるほどにぞっとするような、張り詰めた気配が漂う。

ただ鬼を斬ったからではない。
あの人は、たぶん——私たちが、番たちが、無防備な背後を襲われたことに、激しく憤っている。

私の視線に気づいたのか、朔夜がゆっくりとこちらへ向き直る。
鋭い双眸が、私の身体を上から下まで、傷がないか一瞬で確かめるように走った。
泥に汚れた番装束。擦りむいた掌。負傷した隊士の血が付いた袖。

それらを視認した後、彼ははっきりと顔をしかめた。

「なぜ、すぐに引かなかった」
「え……」
「言ったはずだ。俺の知らぬところで、傷つくことも、死ぬことも断じて許さん。と」

怒っているのが声からでも分かる。
それは、さっき鬼を屠った時よりも、ずっと怖く、重く響いた。

「だ、だって……目の前に、倒れている人がいて……放っておけなくて……っ」
「お前まで死んだらどうするつもりだ」
「……っ」

その一言に、喉の奥が詰まる。

死んだら。
朔夜に助けられる前の私なら、そんなこと、どうでもいいとさえ思っていたはずなのに。
けれど今は違う。
私が死ねば、朔夜を傷つける。
永太と琴を探し出す約束も、朔夜がくれた「家族になる」という言葉も、何もかも置き去りにしてしまう。

それを思い知らされて、胸が苦しくなった。
朔夜は一歩こちらへ近づくと、ふっと小さく、硬い吐息を漏らす。

ちょうどその時、村の内側で掃討完了を告げる法螺貝の音が、高らかに響き渡った。

「掃討、完了……!」
「村内の鬼、すべて討伐を確認しました!」

張り詰めていた隊士たちの顔つきに、ようやく安堵の色が戻り始める。
あちこちで、堰を切ったような安堵の声が漏れる。
ある者はその場に膝をつき、ある者は天を仰いで深く息を吐く。
少し離れた所にいた番の娘の一人は、緊張の糸が切れたようにへたり込み、嗚咽を漏らして泣き出していた。

私もその場に立ち尽くしたまま、ようやく、止まっていた肺を動かすように息を吐く。

終わった。
けれど、胸の奥には消えない別の震えが、澱のように残っていた。
鬼ですら、仲間を助けるために死地に現れる。
その歪な絆の存在が、妙に重く、冷たく、心の底へと沈んでいく。

元は人だったものが、人を喰らい、鬼となり、なお同胞を助けに来る。
そこにあるものを絆と呼んでいいのか、執着と呼ぶべきなのか、私には分からない。
ただ、恐ろしいだけでは片づけられない何かが、鬼という存在の奥に横たわっている気がした。

朔夜はそんな私の迷いに気づいていないのか、あるいは気づいていても敢えて何も言わないのか。
彼はただ、刀に付着した血を静かに払い、鞘に収めた。

その一連の動きは、荒れ狂う雷鳴の後に訪れる、一瞬の静寂に似ていた。
苛烈で、冷たくて、けれど目を逸らせないほど美しい。

雷が過ぎ去ったあとのような、焦げ付いた空気だけが、まだその場に色濃く停滞していた。