鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

そのまま、私たちは衝立を隔てて就寝の準備に入る。

明日は早朝から起きなければならないのに。
薄い布一枚の向こう側に感じる、朔夜の微かな気配。
胸がざわついて落ち着かず、布団に潜り込んでもなかなか寝付けない。

「あの……朔夜」
「なんだ」
「……待っていますからね」
「あぁ」
「本当に、分かっていますよね!?絶対に、約束ですよ!」

居ても立ってもいられなくなり、衝立の布を勢いよく捲り上げた。

『俺がお前の家族になる』

あの夜に彼がくれた言葉を、疑っているわけではない。
けれど、昨日と同じ明日が来ると信じて疑わなかった日常が、ある日突然、予告もなく奪い去られる。
それを私は、一度経験してしまった。

だから怖い。
この人まで、朝が来たら当たり前のように出て行って、そのまま帰ってこなかったら。
そんな想像をしてしまう自分が、どうしようもなく怖かった。

「心配するな。俺は、お前が思っている以上に強い」

そう言って、彼は困ったように眉を下げ、私の頭を優しく撫でた。
大きな掌の重みが、ざわつく胸を少しずつ鎮めていく。

待っていてくれる人がいることの幸せ。
私がそれを幸せだと感じるのと同じように、朔夜にとっても、私が待っているということを幸せだと思ってほしい。

番としての正しい在り方なんて、やっぱり今の私にはまだ分からない。
けれど、朔夜が「必ずあそこへ帰りたい」と思える場所を作ること。
戦場へ向かう背中に、帰る理由を渡すこと。
それなら、今の私にだってできるかもしれない。

「……明日、ちゃんと見ています」
「何をだ」
「朔夜が、どれほど強い人なのかを。だから……ちゃんと帰ってきてください」
「命令が多い番だな」
「心配性なだけです」
「そうか。お前が心配しないで済むような戦い方をしなければな」

低く笑うような気配が、戻した布の向こうでわずかに揺れた。
それだけで、少しだけ息がしやすくなる。

やがて衝立の向こうから聞こえてきたのは、穏やかな寝息だろうか。
それとも、眠ったふりをしているだけなのだろうか。

ただの布一枚。
手を伸ばせば一瞬で取り払えてしまうはずのそれが、今夜はとてつもなく高く、越えがたい壁のように感じられた。

けれど同時に、その布一枚の向こうに朔夜がいる。
そう思えるだけで、暗い戦地の夜は、ほんの少しだけ怖くなくなった。