「西園寺様は、睦月隊長の『番候補』の筆頭だったんですよ~」
「えっ!?そうだったんですか……朔夜は、特別な相手はいないって言っていましたけれど」
「睦月隊長は強すぎて、今まで番を必要とする場面が一度もなかったんです。他の隊員なら命を落とすような深手でも、隊長ならば自力で治癒が可能でしたし……」
……ということは。
あの時、私を庇って受けた傷と毒は、それほどまでに致命的なものだったのだ。
もし私が、あの時一瞬でも躊躇っていたら。
今頃、彼は——。
想像するだけで、背筋が凍るような戦慄が走った。
「鬼宿校には名家の令嬢も多く在籍していまして、西園寺様はその中でも中心的な存在でした。ずっと睦月隊長の番になることを望まれていたので……」
「そう、なんですね。……彼女からすれば、突然現れた私は、面白くない存在でしかないでしょうね」
朔夜自身が彼女を求めていなかったとしても。
完璧な彼を『穢した』原因として憎まれるのは、仕方のないことなのかもしれない。
けれど、仕方ないと理解することと、受け入れることは違う。
私は、朔夜が自分を化け物だと思わされるような言葉だけは、聞き流したくなかった。
屋敷に戻った後、畳の上に力なく寝転がる。
鬼省庁で渡された教材をパラパラと捲ってみるが、そこに記されているのは、現実とは到底思えないような異質な内容ばかり。
読み進めるたびに、知らない言葉と知らない理が増えていく。
まるで、昨日まで生きていた世界の外側に、もう一枚別の世界が隠されていたみたいに。
確かなことは、朔夜という男がいかに異次元の強さを持っているかということ。
十五歳で半人半鬼となり、すぐさま一番隊の隊長へ。
以来七年間、一度も番を必要とせず、ただ一人で戦い続けてきたのだ。
そして、番という存在は、生涯にわたって鬼狩りに血を捧げ続ける義務を負う。
もし番が死ねば、鬼狩りはまた新たな番を求める。
鬼狩りとなった時点で番を持つのが通例であるこの世界で、七年もの間、番を不要として在り続けた彼が、どれほど異端で、どれほど孤独だったか。
あの人は強い。
けれど、強かったからこそ、誰にも弱さを預けられなかったのかもしれない。
「生涯、か……」
朔夜が鬼を退治してくれる。
私はここで、彼の力となる。
その先に、いつかまた二人の柔らかな手を握れる日が来ると、私は信じたかった。
「えっ!?そうだったんですか……朔夜は、特別な相手はいないって言っていましたけれど」
「睦月隊長は強すぎて、今まで番を必要とする場面が一度もなかったんです。他の隊員なら命を落とすような深手でも、隊長ならば自力で治癒が可能でしたし……」
……ということは。
あの時、私を庇って受けた傷と毒は、それほどまでに致命的なものだったのだ。
もし私が、あの時一瞬でも躊躇っていたら。
今頃、彼は——。
想像するだけで、背筋が凍るような戦慄が走った。
「鬼宿校には名家の令嬢も多く在籍していまして、西園寺様はその中でも中心的な存在でした。ずっと睦月隊長の番になることを望まれていたので……」
「そう、なんですね。……彼女からすれば、突然現れた私は、面白くない存在でしかないでしょうね」
朔夜自身が彼女を求めていなかったとしても。
完璧な彼を『穢した』原因として憎まれるのは、仕方のないことなのかもしれない。
けれど、仕方ないと理解することと、受け入れることは違う。
私は、朔夜が自分を化け物だと思わされるような言葉だけは、聞き流したくなかった。
屋敷に戻った後、畳の上に力なく寝転がる。
鬼省庁で渡された教材をパラパラと捲ってみるが、そこに記されているのは、現実とは到底思えないような異質な内容ばかり。
読み進めるたびに、知らない言葉と知らない理が増えていく。
まるで、昨日まで生きていた世界の外側に、もう一枚別の世界が隠されていたみたいに。
確かなことは、朔夜という男がいかに異次元の強さを持っているかということ。
十五歳で半人半鬼となり、すぐさま一番隊の隊長へ。
以来七年間、一度も番を必要とせず、ただ一人で戦い続けてきたのだ。
そして、番という存在は、生涯にわたって鬼狩りに血を捧げ続ける義務を負う。
もし番が死ねば、鬼狩りはまた新たな番を求める。
鬼狩りとなった時点で番を持つのが通例であるこの世界で、七年もの間、番を不要として在り続けた彼が、どれほど異端で、どれほど孤独だったか。
あの人は強い。
けれど、強かったからこそ、誰にも弱さを預けられなかったのかもしれない。
「生涯、か……」
朔夜が鬼を退治してくれる。
私はここで、彼の力となる。
その先に、いつかまた二人の柔らかな手を握れる日が来ると、私は信じたかった。



