鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

悲鳴のような私の問いに、ようやく父と継母の足が止まった。

「ま、まぁ、いいじゃないか。今日は大人同士の込み入った話もあるのだし」
「そうよ、梓。今日は再会のお祝いですもの、お食事も用意されているのでしょう?早く案内なさいな」

いいわけがない。
何かがおかしい。
胸の奥で、あの日置き去りにされた夜と同じ冷たい恐怖が蘇る。

私は、前を歩く朔夜のもとへ、縋るように駆け寄った。

「朔夜、永太と琴が……私の弟と妹が、まだ来ていないんです」
「何……?どういうことだ」
「私、今すぐ迎えに行きたいです。あの子たちの好物も用意してもらっているし、それに……」
「……十二番隊からの報告では、保護された親族は『三名』だったはずだが」
「三名……?」

その言葉を聞いた途端、心臓が嫌な音を立て始め、喉の奥がきゅっと細くなる。

父へと向き直る。
見るからに動揺した様子で泳がせていた視線を、父は不自然に逸らした。

「父さん……どういうことなの?二人はどこにいるの?」

どうか、私の最悪な予想が外れていてほしい。
どこか別の車で来るのだと。
避難所で熱を出して、今日は来られなかっただけなのだと。
そんな、都合のいい答えを必死に探す。

けれど祈るような思いとは裏腹に、握りしめた拳には指が食い込むほど力が籠っていた。

「だって、仕方ないじゃない!あんな状況だったんだから!」

沈黙を破ったのは、義妹の鈴だった。
開き直ったような、どこか苛立ちの混じった声。
その声だけで、背筋に冷たいものが走る。

「鈴……」
「二人が町の近くまで来た時、急にあんたと一緒じゃないと嫌だって泣き出したのよ。あんなに騒がれたら、目立ってしょうがないじゃない!」
「……え?」
「そうよ。いつ鬼が追いかけてくるかも分からない状況だったのよ?避難所に五人もまとめて受け入れてもらえる確証だってなかったし……」
「待って、そんなことはどうでもいい。それで、二人は……二人は今どこにいるの!?」

耳元で心臓の音がうるさいほどに鳴り響いている。
自分の体温が急激に上がっているのか、それとも凍りつくほど下がっているのかさえ、もう分からなかった。
息を吸っているはずなのに、肺の奥まで空気が届かない。

「……勝手に走って行って……そのまま人混みに紛れて、見失ったんだ」
「追いかけようとはしたわよ!でも、逃げる人でごった返していたし、私たちだって自分の身を守るのに必死だったんだから!」

頭の中から、すうっと血の気が引いていく。
一気に膝から力が抜け、私はその場に力なく崩れ落ちた。

「大丈夫か!?」

朔夜が、心配そうに私の顔を覗き込むようにして隣にしゃがみこむ。
その声が、どこか遠い。

嘘だ。
そんなの、嘘だ。

まだ誰か大人が、善意のある人が一緒にいてくれたなら……。
けれど、あのような混乱の中で、他人の子どもの面倒を命懸けで、見返りもなく見てくれる人が、果たしてどれだけいるだろうか。
実の親であるこの人たちですら、自分たちの保身のために、あんなに小さな子たちを見捨てたというのに。

「永太と琴は……まだ四歳と三歳よ。そんな、あの日からずっと、たった二人きりで……?」