鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

食事を終えると、用意されていた衣へと袖を通す。
純白の着物と羽織に、深く鮮やかな紅色の袴。
色調こそ簡潔だが、生地の至る所に繊細な刺繍が施され、白い羽織には所々に袴と同じ紅の装飾が散らされていた。
袖口の飾りは、光を受けるたびに細くきらめく。
一目見ただけで、それが庶民の到底手の届かない、高価な品であることが分かる。

「……まるで、巫女のよう」

姿見に映る自分に気圧されながら、恐る恐る袖を通していく。
昨日まで泥にまみれた着物で畑に立っていた私が、こんな衣を身にまとっている。
現実味がなくて、鏡の中の自分が知らない娘のように見えた。

「着替えは済んだか」

羽織の扱いに手間取っていると、御簾の向こうから低い声が掛けられた。

「あ、あの、着方が難しくて……」
「入るぞ」
「装飾が、想像以上に複雑で……上手くいかなくて」
「寄こせ。……不慣れなのだろう」

朔夜に羽織を渡すと、ふわりとした重みと共に肩にかけられる。
襟から胸元にかけて結ぶ飾り紐。袖を通る紅の装飾。
至近距離に彼の体温を感じて、心臓がわずかばかり跳ねる。

「なんだか、水引(みずびき)みたいですね」
「水引か……。これは下級の鬼程度なら、爪すら通さずに済む」

大きな手が、私の肩先や手元を手際よく、丁寧に紐を通し、結び、飾っていく。
それは確かに、祝いの席で見る水引の細工のようで、美しくもどこか厳かだった。
武骨な指先が触れるたび、布越しなのに、その熱が伝わってくる気がする。

「飾りもすべて、呪詛を込めた護符だ」

最後の紐が結ばれると、私とこの人との間に流れる目に見えない何かが、ぴたりと繋がったような錯覚に陥った。
もう、ただ守られるだけの村娘ではいられないのだと、身体のどこかで悟る。

「先ほども言った。お前は俺の番だ。今後は、鬼狩りの場に連れて行くこともあるだろう」
「鬼狩りの……」

初めて鬼に襲われ、彼に救われた夜の光景を思い出す。
隣の村が業火に包まれ、無数の人々が逃げ惑い、化け物に蹂躙されたあの地獄。
あのような場所に、また私が。
指先が、無意識に羽織の袖口を握りしめる。

「だが、俺が守る。お前には傷一つ、決してつけさせないと約束しよう」

それは、静かな誓いのように私の胸に響いた。
私への言葉なのか、それとも、自分自身へ言い聞かせているのか。
それはまだ解らないけれど。

私はそのまっすぐな瞳を見つめ返した。
感謝を伝えようと口を開きかけた、その時。
外の廊下から、激しい憤怒を孕んだ足音が近づいてきた。