「うあああああぁあああぁっっ!!」
最も望まない顔を見た私は、半狂乱になって顔を引っ掻く。
「やめるんだ! 亜由美!」
――その名前で呼ばないで!
抵抗したくても、舌がないから話せない。
――どうすればいいの!? こんな人生望んでいない!
――よりによって、私をいじめた大ボスになってしまうなんて!
――この女なら、他にもあくどい事をやっているに決まっている。
――その罪をなすりつけられるなんて、まっぴら御免だ!
――また私は兄に嬲られて生きていくに違いない!
――きっと雅幸さんは、私に死んだ妹の顔を与えて復讐するつもりでいるんだ!
――兄は自分のもとから逃げ出した私を許していないに決まっている!
私は絶望の声を上げながら、必死に考えた。
今まで、雅幸さんには色んな物を食べさせられた。
最初の私は四肢も顔も毛髪もない状態だったから、多分自分の体を口に入れていたんだろう。
想像するだけで吐き気がするけれど、いま考えるべきはその事じゃない。
食べたものが私の体になるなら――。
私は兄の両頬に手を添え、キスをした。
「――――ん」
てっきり彼は抵抗するかと思ったけれど、思いの外あっさり私を受け入れた。
私は雅幸さんの唇をついばみ、ベッドの上に押し倒す。
「……亜由美」
彼は陶酔した表情で私に笑いかけ、抱き締めてまたキスをしてきた。
口内に兄の舌がヌルリと入り込んだ時――、私は思いきりそれに噛み付いた。
「ん”うぅうううぅううっ!!」
彼はくぐもった悲鳴を上げて、必死に私を振り払おうとする。
――あなたは全部持っているからいいじゃない!
――舌ぐらい、私にくれたっていいでしょう!
――ざまぁみろ! お前の舌、奪ってやる!
――私から奪っていくだけの、お前なんてこのまま死んじまえばいい!
私は全体重をかけ、すべての力を顎に込める。
やがて、ぶづん! という感触がして、口内に血まみれの舌先が入り込んだ。
「あぁああああぁああああぁっ!!」
雅幸さんは赤く染まった口元を両手で押さえ、もんどり打っている。
私はそれを見下ろしながら、生肉――兄のタンを丁寧に咀嚼し、噛み潰して嚥下した。
――これで舌が戻る。
そう思って舌が再生するのを待ったけれど、どれだけ経ってもその兆候はない。
――いや、その前にここから逃げたほうがいい。
結論づけた私は、兄のポケットをまさぐって鍵をとり、部屋から出ると施錠した。
――きっとそのうち、舌が生えてくるはず。
――真実を話せるようになれば、誰かが兄に罰を与えてくれるはず。
信じながら、私は階段を上がり、随分久しぶりに思える日差しを浴びた。
広い家の中を彷徨っていると洗面所があり、私は恐る恐る鏡を見る。
鏡の中には〝高崎亜由美〟がいた。
完璧な美貌を持つ、すべてに恵まれた女。
なのに、口を開けると舌だけがない。
――私は何なんだろう。
――私は高崎亜由美なの? ■■■■なの?
実家に帰って、両親がこの姿の私を受け入れてくれるとは思えない。
高崎家になんて行きたくもない。
会社に戻る事もできないし、これからどうすればいいんだろう。
――やっぱり、事情を説明するには舌を手に入れないと。
結論づけた私は、玄関にあったサンダルに足を入れ、ふらりと外に出た。
**
最も望まない顔を見た私は、半狂乱になって顔を引っ掻く。
「やめるんだ! 亜由美!」
――その名前で呼ばないで!
抵抗したくても、舌がないから話せない。
――どうすればいいの!? こんな人生望んでいない!
――よりによって、私をいじめた大ボスになってしまうなんて!
――この女なら、他にもあくどい事をやっているに決まっている。
――その罪をなすりつけられるなんて、まっぴら御免だ!
――また私は兄に嬲られて生きていくに違いない!
――きっと雅幸さんは、私に死んだ妹の顔を与えて復讐するつもりでいるんだ!
――兄は自分のもとから逃げ出した私を許していないに決まっている!
私は絶望の声を上げながら、必死に考えた。
今まで、雅幸さんには色んな物を食べさせられた。
最初の私は四肢も顔も毛髪もない状態だったから、多分自分の体を口に入れていたんだろう。
想像するだけで吐き気がするけれど、いま考えるべきはその事じゃない。
食べたものが私の体になるなら――。
私は兄の両頬に手を添え、キスをした。
「――――ん」
てっきり彼は抵抗するかと思ったけれど、思いの外あっさり私を受け入れた。
私は雅幸さんの唇をついばみ、ベッドの上に押し倒す。
「……亜由美」
彼は陶酔した表情で私に笑いかけ、抱き締めてまたキスをしてきた。
口内に兄の舌がヌルリと入り込んだ時――、私は思いきりそれに噛み付いた。
「ん”うぅうううぅううっ!!」
彼はくぐもった悲鳴を上げて、必死に私を振り払おうとする。
――あなたは全部持っているからいいじゃない!
――舌ぐらい、私にくれたっていいでしょう!
――ざまぁみろ! お前の舌、奪ってやる!
――私から奪っていくだけの、お前なんてこのまま死んじまえばいい!
私は全体重をかけ、すべての力を顎に込める。
やがて、ぶづん! という感触がして、口内に血まみれの舌先が入り込んだ。
「あぁああああぁああああぁっ!!」
雅幸さんは赤く染まった口元を両手で押さえ、もんどり打っている。
私はそれを見下ろしながら、生肉――兄のタンを丁寧に咀嚼し、噛み潰して嚥下した。
――これで舌が戻る。
そう思って舌が再生するのを待ったけれど、どれだけ経ってもその兆候はない。
――いや、その前にここから逃げたほうがいい。
結論づけた私は、兄のポケットをまさぐって鍵をとり、部屋から出ると施錠した。
――きっとそのうち、舌が生えてくるはず。
――真実を話せるようになれば、誰かが兄に罰を与えてくれるはず。
信じながら、私は階段を上がり、随分久しぶりに思える日差しを浴びた。
広い家の中を彷徨っていると洗面所があり、私は恐る恐る鏡を見る。
鏡の中には〝高崎亜由美〟がいた。
完璧な美貌を持つ、すべてに恵まれた女。
なのに、口を開けると舌だけがない。
――私は何なんだろう。
――私は高崎亜由美なの? ■■■■なの?
実家に帰って、両親がこの姿の私を受け入れてくれるとは思えない。
高崎家になんて行きたくもない。
会社に戻る事もできないし、これからどうすればいいんだろう。
――やっぱり、事情を説明するには舌を手に入れないと。
結論づけた私は、玄関にあったサンダルに足を入れ、ふらりと外に出た。
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