夢中で空を見上げていたとき、後ろから、軽く肩を叩かれた。
振り返った先にいた彼に、私は目を見開く。紺色の襟付きのシャツに、黒のダメージデニム。シンプルな服装に、シルバーのアクセサリーがきらきらと光る。
「隣、ごめんね」
慌てて、横に置いていた巾着を膝の上に寄せた。すぐ隣に腰を下ろした彼の膝が、触れそうなほど近くて、思わず視線を落とす。
「おい!壱生遅いって!」
「悪い!飲み物混んでたんだよ!」
身を乗り出して大声で返す彼に、私は息を止めてその大きな声を聞いていた。
「はー、ギリ間に合わなかった!」
友達とのやりとりを終えた彼は足を投げ出して、両手を後ろについたまま空を見上げた。
光を反射する髪は少しだけ茶色く見えて、束ねられた毛先が、動くたびに光を掬うみたいに揺れている。
前髪が目元にかかる、そのわずかな影さえ、計算されたみたいに綺麗で。
――なんでだろう。
なんだか落ち着かなくて、私は巾着の紐に無意味に触れた。
少しして、みんながまた花火に集中し始めた頃、もう一度、肩を叩かれた。
振り向いた先、目の前に差し出されたのは、赤い宝石のようないちご飴。
「……え」
彼は、子どもみたいに無邪気な顔で、人差し指を唇に当てた。
目を瞬かせたその瞬間、すぐ耳元で声が落ちる。
「さっき、いちご飴、見てたでしょ」
顔をあげると、いたずらっぽく笑うその目と、ぶつかった。
その一瞬で、胸の奥に風が吹き抜けるみたいに、世界が変わっていく。
上がり続ける花火は変わらないのに、音も光も遠のいて、その笑顔だけがくっきりと残る不思議な感覚。
頬の奥が、じんわりと熱を持っていく。
二本あったいちご飴。そのうちの一本を、私の手に持たせると、彼はもう一本の先端をこつんと軽く当てた。
「乾杯」
声はなくて、口だけがそう動く。
花火を見上げながら頬張る横顔が眩しくて、目を逸らすことができなかった。
目が合って、視線から逃げるみたいに、やっと夜空の花火を見上げる。
そっとひと口かじると、飴の甘さと甘酸っぱいいちごがゆっくりと広がっていく。
ドン、と胸の奥まで揺れる振動が、さっきからうまく息ができない理由を自覚させていった。
中学三年生の夏。
すくえないものに、初めて手を伸ばしたいと思った、そんな夜だった。
振り返った先にいた彼に、私は目を見開く。紺色の襟付きのシャツに、黒のダメージデニム。シンプルな服装に、シルバーのアクセサリーがきらきらと光る。
「隣、ごめんね」
慌てて、横に置いていた巾着を膝の上に寄せた。すぐ隣に腰を下ろした彼の膝が、触れそうなほど近くて、思わず視線を落とす。
「おい!壱生遅いって!」
「悪い!飲み物混んでたんだよ!」
身を乗り出して大声で返す彼に、私は息を止めてその大きな声を聞いていた。
「はー、ギリ間に合わなかった!」
友達とのやりとりを終えた彼は足を投げ出して、両手を後ろについたまま空を見上げた。
光を反射する髪は少しだけ茶色く見えて、束ねられた毛先が、動くたびに光を掬うみたいに揺れている。
前髪が目元にかかる、そのわずかな影さえ、計算されたみたいに綺麗で。
――なんでだろう。
なんだか落ち着かなくて、私は巾着の紐に無意味に触れた。
少しして、みんながまた花火に集中し始めた頃、もう一度、肩を叩かれた。
振り向いた先、目の前に差し出されたのは、赤い宝石のようないちご飴。
「……え」
彼は、子どもみたいに無邪気な顔で、人差し指を唇に当てた。
目を瞬かせたその瞬間、すぐ耳元で声が落ちる。
「さっき、いちご飴、見てたでしょ」
顔をあげると、いたずらっぽく笑うその目と、ぶつかった。
その一瞬で、胸の奥に風が吹き抜けるみたいに、世界が変わっていく。
上がり続ける花火は変わらないのに、音も光も遠のいて、その笑顔だけがくっきりと残る不思議な感覚。
頬の奥が、じんわりと熱を持っていく。
二本あったいちご飴。そのうちの一本を、私の手に持たせると、彼はもう一本の先端をこつんと軽く当てた。
「乾杯」
声はなくて、口だけがそう動く。
花火を見上げながら頬張る横顔が眩しくて、目を逸らすことができなかった。
目が合って、視線から逃げるみたいに、やっと夜空の花火を見上げる。
そっとひと口かじると、飴の甘さと甘酸っぱいいちごがゆっくりと広がっていく。
ドン、と胸の奥まで揺れる振動が、さっきからうまく息ができない理由を自覚させていった。
中学三年生の夏。
すくえないものに、初めて手を伸ばしたいと思った、そんな夜だった。



