あの夏の私が、すくえなかったもの

 「壱生(いつき)?」
 人の流れに押されるようにして、屋台の通りを歩いていたときだった。
 すぐ隣を歩いていた莉子(りこ)が、突然足を止めて振り返る。腕を組んでいた私は、引っ張られるように立ち止まって、視線の先を追った。
 「莉子!?え、まじ久しぶりじゃね!」
 弾けるような声が聞こえて、私は目を瞬かせる。
 振り向いた先には、男の子が五人いた。どことなく明るく見える髪色が、提灯の光を拾って、笑い声に合わせて揺れる。見慣れている同級生の男子とは少し違って、どこか空気がキラキラしていた。
 ……わ、なんかチャラい人たち。
 思わずぎゅっと莉子の腕をぎゅっと掴むと、彼女は明るく笑って紹介を始めた。
 「同じ小学校だったの!壱生と、大吾(だいご)と……」
 次々と名前が並んでいき「うっす」とか「よろしく」とか声が出てくるけれど、慣れない状況も相まって、うまく頭に残らなかった。
 莉子の影に隠れるようにしている私を置いて、後ろにいたもうふたりの友人は、笑いながら自己紹介を始めている。
 「悠里(ゆうり)です」
 「野々(のの)でーす。莉子とは中一から四人で仲良くしてます」
 楽しそうな声がすぐ近くで弾んでいるのに、そこにうまく混ざれないまま、私は一歩分後ろに下がって、その光景を眺めていた。

 毎年来ている地元の夏祭り。親友四人で来るのは中学に入学した年から今年で三回目。
 それなのに、なんだか落ち着かない心に、私は、前を歩く八人を見て、小さくため息を落とした。
 私たち四人と、男の子五人。
 別々だったはずなのに、会話は途切れることなく続いて、気付けば一緒に花火を見ることになっていた。
 本当なら、四人で楽しく過ごせるはずだったのに。
 胸の奥を小さく掠めていく気持ちを、私は小さく首を振って押さえ込んだ。
 焼きそばのソースが焦げる匂いが鼻を掠め、ぎゅっと拳を握りしめる。
 お祭りの空気は、いつもと変わらない大好きな空気。少し慣れれば、楽しめるはず。
 そう自分に言い聞かせて、私は、下駄の音を響かせながら、少し離れてしまったその集団を追いかけた。