あの夏の私が、すくえなかったもの

 屋台の灯りに照らされた通りの端で、私たちは四人並んで立っていた。
 去年と同じように揃えた浴衣は、それぞれの色を映して揺れ、学校が変わってもこうして同じ時間を重ねられていることが、胸の奥にじんわりと染みていく。
 「まさか、紗夏が最初に抜けるとはね〜」
 野々が、からかうように肩をぶつけてきて、私は頬を赤くした。
 「やめてよ……」
 浴衣の袖を指先でいじると、薄いピンクの桜が夜の灯りを受けて柔らかく揺れる。

 「来た来た」
 莉子の声に顔をあげると懐かしい五人の顔ぶれが人混みの向こうからゆっくりと近づいてきていた。
 あの日は、すごく苦手に感じた彼ら。同じように華やかな空気をまとっているのに、その輪の中心にある笑顔を見て、安心してしまう自分がいる。
 一番に視線を奪うのは、深い緑の浴衣をさらりと着こなした彼だった。
 「——お待たせ」
 私の前で立ち止まった彼の声は、なぜか少しだけ低く響いて聞こえた。視線をそわそわと泳がせていると、彼はそんな様子を面白がるみたいに、ふっと笑う。それから、肩に軽く触れられて、そのまま身体ごとくるりと向きを変えられた。
 「それでは、紗夏さまはお借りいたします」
 調子のいい執事みたいな口ぶりに、笑い声が重なった。
 「はーい。大事にしてね〜」
 「二人じゃ物足りなくなったらいつでも戻っておいで、紗夏♡」
 茶化す声に「なんだよそれ」と笑いながら、彼はもう一度こちらを振り返った。
 自然に差し出された手に、少し迷ってからそっと指を重ねる。触れた瞬間、体温が指先からゆっくりと広がっていった。