「言わないで。絶対、余計なこと言わないでよ」
強くなった声に、彼は目を丸くする。
「そんな隠すこと?」
くすっと笑ったあと、彼は少しだけ表情を緩めてから、ふっと真面目な顔になった。
なんとなく、ふわふわとした人だと思っていたから、その変化に思わず目を丸くする。
「……あいつ、紗夏ちゃんのこと気に入ってると思うけど」
その言葉に顔を上げるけれど、すぐに我に返って首を振った。
「そんなわけないよ……」
言葉が少し詰まって、これまでのやりとりが、頭の中に浮かび上がる。
嬉しかったことも確かにたくさんあったけれど、その裏側には、ずっと小さな不安が残っていた。
言葉を交わすようになっても、彼は、誰にでも同じように笑っていて、その隣に自分だけが並べる気はしなかった。
「壱生くんは、誰にでもあんな感じだし」
ぽつりと続ける。
「……私が勝手に、振り回されてるだけなんだよ」
シャーペンの音が止まり、静かな教室に、雨の音だけが大きく響いた。
静けさに耐えきれず顔を上げると、まっすぐな視線がこちらに向けられていた。
友達を否定するようなことを言ってしまった自分に遅れて気付いたけれど、それでも今更取り消すこともできない。
ぎゅっと口を閉ざして俯くと、その沈黙を受け止めるように、彼は小さく息をついた。
「あいつ、結構一途だよ」
ペンを置いて、背もたれに思いっきり体を預ける。
「前付き合ってた子とも、二年くらい続いてたし」
天井を見上げるようにして、彼はそんなことを口にした。
「別れてからも、ずっと彼女いないみたいだし」
その言葉が静かに胸に落ち、波紋のような形になって広がっていく。
——意外だった。
勝手に、もっと軽く恋をしている人だと思っていたから。
「なんで……そんなこと、私に言うの?」
期待してしまいそうになる気持ちをぐっと押さえ込む。
間違えないように、傷つかないように。自分で、自分の心に蓋をするので精一杯だった。
彼は一瞬だけ視線を逸らして、それから含みのある笑みで笑った。
「なんでだと思う?」
「え……」
思わず言葉が止まり、戸惑いが、そのまま表情に出てしまう。彼は肩をすくめて、少しだけ声を落とした。
「壱生は……いいやつだよ。俺、中学でこの街に転校してきたんだけど、あいつのおかげで楽しかったし」
懐かしそうに笑う彼の表情に、嘘はないように思えた。
「だからさ、もし、あいつが真剣に何か言ってきたら、そのときは、信じてあげてよ」
あまりにも優しい微笑みが、夏祭りの夜、彼から向けられた言葉と重なって、私は思わず目を見開いた。
うまく言葉を返せないまま、ガラ、と扉が開く音が響いて、莉子の明るい声が教室の空気を変える。
「ごめーん!遅れた!」
暑そうに制服の首元を仰ぎながら入ってきた彼女は、私たちの雰囲気に首を傾げた。
「……ん?ごめん、なんか話してた?」
彼は、少しだけこちらを見て、静かに笑った。
「ううん、何も」
莉子に対して返したその言葉に、私は視線を落として、進んでいないノートを見つめた。
強くなった声に、彼は目を丸くする。
「そんな隠すこと?」
くすっと笑ったあと、彼は少しだけ表情を緩めてから、ふっと真面目な顔になった。
なんとなく、ふわふわとした人だと思っていたから、その変化に思わず目を丸くする。
「……あいつ、紗夏ちゃんのこと気に入ってると思うけど」
その言葉に顔を上げるけれど、すぐに我に返って首を振った。
「そんなわけないよ……」
言葉が少し詰まって、これまでのやりとりが、頭の中に浮かび上がる。
嬉しかったことも確かにたくさんあったけれど、その裏側には、ずっと小さな不安が残っていた。
言葉を交わすようになっても、彼は、誰にでも同じように笑っていて、その隣に自分だけが並べる気はしなかった。
「壱生くんは、誰にでもあんな感じだし」
ぽつりと続ける。
「……私が勝手に、振り回されてるだけなんだよ」
シャーペンの音が止まり、静かな教室に、雨の音だけが大きく響いた。
静けさに耐えきれず顔を上げると、まっすぐな視線がこちらに向けられていた。
友達を否定するようなことを言ってしまった自分に遅れて気付いたけれど、それでも今更取り消すこともできない。
ぎゅっと口を閉ざして俯くと、その沈黙を受け止めるように、彼は小さく息をついた。
「あいつ、結構一途だよ」
ペンを置いて、背もたれに思いっきり体を預ける。
「前付き合ってた子とも、二年くらい続いてたし」
天井を見上げるようにして、彼はそんなことを口にした。
「別れてからも、ずっと彼女いないみたいだし」
その言葉が静かに胸に落ち、波紋のような形になって広がっていく。
——意外だった。
勝手に、もっと軽く恋をしている人だと思っていたから。
「なんで……そんなこと、私に言うの?」
期待してしまいそうになる気持ちをぐっと押さえ込む。
間違えないように、傷つかないように。自分で、自分の心に蓋をするので精一杯だった。
彼は一瞬だけ視線を逸らして、それから含みのある笑みで笑った。
「なんでだと思う?」
「え……」
思わず言葉が止まり、戸惑いが、そのまま表情に出てしまう。彼は肩をすくめて、少しだけ声を落とした。
「壱生は……いいやつだよ。俺、中学でこの街に転校してきたんだけど、あいつのおかげで楽しかったし」
懐かしそうに笑う彼の表情に、嘘はないように思えた。
「だからさ、もし、あいつが真剣に何か言ってきたら、そのときは、信じてあげてよ」
あまりにも優しい微笑みが、夏祭りの夜、彼から向けられた言葉と重なって、私は思わず目を見開いた。
うまく言葉を返せないまま、ガラ、と扉が開く音が響いて、莉子の明るい声が教室の空気を変える。
「ごめーん!遅れた!」
暑そうに制服の首元を仰ぎながら入ってきた彼女は、私たちの雰囲気に首を傾げた。
「……ん?ごめん、なんか話してた?」
彼は、少しだけこちらを見て、静かに笑った。
「ううん、何も」
莉子に対して返したその言葉に、私は視線を落として、進んでいないノートを見つめた。



