もしもあの時

 コンビニに味噌なんて売っているんだ。
 夜中、母に頼まれて、私は味噌を買いに来ていた。
 あった。
 手に取って、レジへ持っていく。

「袋、いりますか?」
「いえ、このままで」

 会計を済ませて、店を出た瞬間、声がした。

「志保! 久しぶり!」

 振り向くと、赤いスポーツカー、そして……貴矢くんがいた。
 服も髪も、全部おしゃれで、赤い車はピカピカで、そこには私の姿が映っている。
 でも私は……風呂上がり。髪は乾かしただけ。ノーメイク。
 上はTシャツ、下はジャージ。
 あんなに努力して、毎日あんなにおしゃれしてきたのに、 よりによって、こんな姿のときに貴矢くんと再会するなんて……

「た、た、貴矢くん……お久しぶり……」

 何か言おうとしている貴矢くんを、私は遮った。
 この姿、見られたくない。今すぐ消えたい。

「あの……私、急いでるから……」

 味噌を手に、泣きそうになりながら走った。
 今までの苦労は何だったの……


 家に帰り、味噌を台所に置くと、泣きながら部屋に駆け込んだ。
 そして、フォトスタンドから写真を取り出し、ビリビリに破いた。
 運命の神様は、私に微笑まなかった。
 机の上の本に手が当たって落ちた。
 偉人の名言集。
 開いたページにはジョセフ・マーフィーの言葉。

『最高のチャンスは最悪のタイミングでやってくる』

 あは……
 あははは……
 あははははは……