もしもあの時

 信号が青に変わり、車は前へ滑り出す。
 私の妄想だけが取り残された。

「志保の家って、ここからどう行くんだっけ?」

「え? ええっと……」

 私はいったい、何を期待していたのだろう。
 期待っていうより、夢みたいな、ねじれた風船みたいな、触れたら割れてしまう何か。
 急に恥ずかしさがこみあげてきて、視線の置き場を失った。

 車は家の前で止まり、私は降りた。
 汚れた窓ガラスがギギッと下がり、貴矢くんが顔を見せる。

「じゃあ、またな」

「うん。送ってくれてありがとう」

 車はテールランプの赤い線となり、そして、私の視界から消えた。

 ひとつ、長い息を吐く。
 何を考えていたんだろう、ホント、私……。