もしもあの時

 二人とも黙ったまま、車は夜道を進んでいく。

「ジュース買いたいから、ちょっとコンビニ寄ってもいいかな」

 貴矢くんの言葉が、車内の空気を指で弾いたみたいに揺らした。
 コンビニの駐車場は狭くて、残っているスペースも一台分のみ。それがちょうど貴矢くんのためにそこだけぽっかり空いていたみたいに見えた。
 貴矢くんは、何の迷いもなくハンドルを切り、一度で車をそのスペースに入れた。

「すご〜い! 貴矢くん、車庫入れ得意なんだね。私なんて、何回も切り返しちゃう」

「ははは。オレは車庫入れ、得意だぞ」

 彼は車を降りて、コンビニに入っていく。
 私は助手席で小さく背筋を伸ばした。
 そして、もう一度、車内を見渡した。
 タバコ臭いし、足元にはよく分からないお菓子のゴミがいくつもある。

 やがて、彼は戻ってきた。

「これ、志保の分」

 戻ってきた貴矢くんは、缶ジュースを指先で軽く揺らしながら差し出してきた。

「え? いいのに……」

「いいからいいから」

 エンジンは再び喉を鳴らし、車はゆっくり夜道へと流れ込んだ。
 隣でハンドルを握る貴矢くんの腕を見てみる。
 指の節、手の甲の血管、肘のわずかな角度──
 その全部が夜の光に淡く照らされて、私は横顔よりも、その腕の持つ静かな力みたいなものに急にどきどきしてしまった。
 車に乗った時は興ざめしたけど、やっぱり私は貴矢くんのことが好き。