逸らしてしまえば、真白が言うことが本当にそうなってしまいそうで。
いくら本当のことを言えないと言っても、相手は陰陽師だ。何をしでかすか分からない。
油断ならないと気を引き締めつつも、震える手で筆を掴見直す。
力が入りすぎて、指先が白くなっていた。それでも構わず、和紙に文字を落とした。
┈┈┈┈┈┈┈┈
うそ
┈┈┈┈┈┈┈┈
短い一文。たったそれだけで、音羽の心の内を言い表すのには十分だった。
見せつけるように紙を左へずらすと、真白はそれを見てふっと笑う。まるで、それを待っていたかのように。
「そうですね」
音羽が差し出した紙を持ち上げ、たった一言だけのそれをまじまじと見つめる。
“うそ”という二文字を見る横顔が、やけに悲しげに音羽には見えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺は嘘つきです
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
サラサラと滑るように筆を動かして綴られるのは、声に出せない本当のこと。
肯定でも否定でもない、ただの事実のように冷えた文字が和紙の上に浮かんでいる。
音羽は思わず息を呑んだ。
嘘つきだと自称してしまうのかと。だが真白は、気にした様子もなく肩を竦める。
「別に困りませんがね」
そう言って、指先で和紙を軽く叩いた。
「何が本当で、何が嘘か。ちゃんと分かりますし」
くすり、と小さく笑う。その笑みは、何処か歪んでいた。
真白の言う通り、本当のことが言えないのだとしたら。今言ったことも嘘なのだろうか。
もし嘘だとしたら、本当に言いたいことは。
───何が本当で、何が嘘か。分からない。
音羽は思わず顔を上げ、真白の横顔にじっと見入った。
嘘つき。
自身をそう言い表す男なのに、真白が向ける微笑みは偽っていないように見える。
あの女中が向けていた笑みとは違う。心の底から溢れる想いを感情に乗せてそのまま出したような。
嘘偽りのない優しい笑みだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
うそをついたら どうなるの
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ほとんど無意識の内に、音羽は和紙にそう綴っていた。
わざわざ聞かなくても良いこと。けれど、一度気になると誤魔化せなくなること。
書いてしまってから、踏み込みすぎた問だと後悔が襲ってきた。
「………お待ちを」
けれど、その問いを読んだ真白は怒ることもせず、傍らに転がっていたもう一本の筆を拾う。
硯を引き寄せて墨を付けると、音羽に見えるようにして書いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈
死にます
┈┈┈┈┈┈┈┈┈
胸の奥が僅かに揺れ、ぎゅうっと締め付けられるような感覚が襲った。
それは、誰にも教わったことのない理解できない感情。
怖いのか。
違う。
では、何なのか答えは出ないまま。
「姫様は、何故呪われているのです」
何故呪われているのか。改めて問われると、案外すぐに答えは出なかった。
産まれた時から呪われていて声が出せない。それが当たり前で生きてきたから、どうして自分は呪われているのか分からないのだ。
筆を握ったまま、真っ黒になった和紙を見つめる。それから、音羽はもう一度筆を握り直した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
わたしはいみご
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ぽたり、ぽたり、と和紙の上に染みが生まれた。
紙の上に綴られた言葉は、音羽が一番信じたくないことであり、一番思い知っている事実。
いくら本当のことを言えないと言っても、相手は陰陽師だ。何をしでかすか分からない。
油断ならないと気を引き締めつつも、震える手で筆を掴見直す。
力が入りすぎて、指先が白くなっていた。それでも構わず、和紙に文字を落とした。
┈┈┈┈┈┈┈┈
うそ
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短い一文。たったそれだけで、音羽の心の内を言い表すのには十分だった。
見せつけるように紙を左へずらすと、真白はそれを見てふっと笑う。まるで、それを待っていたかのように。
「そうですね」
音羽が差し出した紙を持ち上げ、たった一言だけのそれをまじまじと見つめる。
“うそ”という二文字を見る横顔が、やけに悲しげに音羽には見えた。
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俺は嘘つきです
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サラサラと滑るように筆を動かして綴られるのは、声に出せない本当のこと。
肯定でも否定でもない、ただの事実のように冷えた文字が和紙の上に浮かんでいる。
音羽は思わず息を呑んだ。
嘘つきだと自称してしまうのかと。だが真白は、気にした様子もなく肩を竦める。
「別に困りませんがね」
そう言って、指先で和紙を軽く叩いた。
「何が本当で、何が嘘か。ちゃんと分かりますし」
くすり、と小さく笑う。その笑みは、何処か歪んでいた。
真白の言う通り、本当のことが言えないのだとしたら。今言ったことも嘘なのだろうか。
もし嘘だとしたら、本当に言いたいことは。
───何が本当で、何が嘘か。分からない。
音羽は思わず顔を上げ、真白の横顔にじっと見入った。
嘘つき。
自身をそう言い表す男なのに、真白が向ける微笑みは偽っていないように見える。
あの女中が向けていた笑みとは違う。心の底から溢れる想いを感情に乗せてそのまま出したような。
嘘偽りのない優しい笑みだった。
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うそをついたら どうなるの
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ほとんど無意識の内に、音羽は和紙にそう綴っていた。
わざわざ聞かなくても良いこと。けれど、一度気になると誤魔化せなくなること。
書いてしまってから、踏み込みすぎた問だと後悔が襲ってきた。
「………お待ちを」
けれど、その問いを読んだ真白は怒ることもせず、傍らに転がっていたもう一本の筆を拾う。
硯を引き寄せて墨を付けると、音羽に見えるようにして書いた。
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死にます
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胸の奥が僅かに揺れ、ぎゅうっと締め付けられるような感覚が襲った。
それは、誰にも教わったことのない理解できない感情。
怖いのか。
違う。
では、何なのか答えは出ないまま。
「姫様は、何故呪われているのです」
何故呪われているのか。改めて問われると、案外すぐに答えは出なかった。
産まれた時から呪われていて声が出せない。それが当たり前で生きてきたから、どうして自分は呪われているのか分からないのだ。
筆を握ったまま、真っ黒になった和紙を見つめる。それから、音羽はもう一度筆を握り直した。
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わたしはいみご
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ぽたり、ぽたり、と和紙の上に染みが生まれた。
紙の上に綴られた言葉は、音羽が一番信じたくないことであり、一番思い知っている事実。

